軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

重要ミッション、開始

非常に高い魔力を持つ代わりに、肉体が貧弱な種族、エルフ。

弱点が非常にわかりやすいこの種族なのだが、天敵とされるのが『リザードマン』である。

ワニ人間、トカゲ人間、ともいうべき姿の、二足歩行の爬虫類。

この生物はオーガや獣人、ドワーフと同じく肉体的に優れているのだが……。

特に顕著なのが、鱗の強度である。

靭性が高く、硬度も高い。雑に言えば防御力が高いのである。

この上でちゃんと防具も着れるのだから、大抵の攻撃には強い。

もちろんオーガの怪力で首を折られることもあるので過信は禁物だが、それでも種族全体のタフさは有名である。

つまり……エルフの魔力攻撃にもある程度は耐えられるため、その間に殴り殺せる……ということである。

これはあくまでも俗説だが、実際相性が悪かった、という話もよく聞く。

そして……とあるリザードマンの若き男たちが、この話を聞いて実行しようとしたのである。

自分たちでチームを作って、エルフの森を襲撃してみようとしたのだ。

噂が本当なら、自分たちはやりたい放題に暴れられる。そういう、ものすごく浅慮な暴挙であった。

ただのあさはかな襲撃は、最初こそそれなりに成功した。

十人ほどの若きリザードマンたちは、うぬぼれる程度には優れた資質を持ち、その結果平凡なエルフの魔術もある程度は弾けていた。

彼らはそれに気をよくして、大いに暴れていた。

だがしかし、本格的な守備隊が現れると、状況は一変した。

ガイカクたちが倒した、エリートエルフのアヴィオール。常人の四十倍強の魔力を誇った、彼ほどの実力者はそういない。

だが二十倍ぐらいの魔力を持ったエルフなら三十人はいたし、十倍ぐらいの魔力をもつエルフなら百を軽く超える。

そんなのが全力で殺しにくれば、少々の相性差など問題にならない。

まあそもそも、エルフたち自身もリザードマンに普通の魔術が効きにくいことは知っているので、対リザードマンの魔術を編み出している。

騎士団に入れるレベルのエリート中のエリートが大挙してきたならともかく、ちょっと強い程度のエリートが十人ぐらいなら問題にならない。

というかそんな簡単にエルフの拠点が陥落するのなら、とっくにエルフは絶滅している。

よって今回の騒動も、バカが暴れたが殲滅された、で終わるはずだった。

だがここで不幸だったのが、リザードマンがある程度ばらけたことだった。

暴れ始めた当初の彼らは、気をよくしすぎてバラバラになってしまったのである。

これは各個撃破されやすいが、逆に一網打尽にされにくい、ということでもある。

一か所にまとまっていれば、それこそ全員まとめて始末できた。だがばらけていたため、殲滅が遅れた。

その結果残っていたリザードマンたちは『あれ、コレヤバくね?』と気付いてしまい、暴れるのをやめて街に潜んでしまった。

それでも、見つけ次第殲滅できるはずだった。

そのはずだったが、リザードマンたちは半端に悪知恵が働いた。

半数に減った彼らは、エルフの森で一番大きな建物『森長の館』へ襲撃をかけ、そこを占拠。しかも森長の娘とその侍女たちを人質にして立てこもってしまったのである。

エルフの住まう森、その一つ。

その森を治める長の済む家、『森長の館』。

そこを占拠しているリザードマン五人は、傷だらけの体に包帯を巻きつつ、大声で喧嘩をしていた。

「どうするんだよ! 館の外には殺気立ったエルフがわんさかいるぞ?!」

「この館に来るのは間違いだった……やっぱ外に逃げるべきだった!」

「バカ言うな! 外は包囲されていたんだぞ? もしも逃げようとすれば、俺たちは殺されてた!」

「とりあえず、ここにいれば、奴らも下手な真似はできねえ……エルフ向けだが、食糧も備蓄されてる。兵糧攻めの心配はねえだろう」

「で、その後どうするんだよ! 結局逃げられねえじゃねえか!」

元々軽い気持ちで攻め込んできたバカどもである。

窮地に追いやられれば、結束もへったくれもない。

誰が悪い、相手が悪い、俺は悪くないと言いあうばかり。

ただでさえ多くの民間人を殺害した馬鹿どもは、さらなる凶悪事件を引き起こしている。

もはやこうなっては、彼ら自身でさえこの状況を改善できない。

なぜなら、なんの計画性もないのだから。

「もうこうなっちまった以上は、仕方ねえだろう。じたばたしても始まらねえ」

そう言ったのは、残ったリザードマンたちの中で一番強い『ギャウサル』だった。

「とりあえず、ケンカはヤメだ。傷が治るまで、腰を据えようじゃねえか」

「まあ……それはそうだけどよ……」

ギャウサルの言葉は、それなりに正しかった。

ギャウサル自身も含めて、全員が血だらけ。これでは何もできたものではない。

「傷が治ったなら、こいつらを人質にしたまま脱出しようじゃねえか。なに、俺らの体に縛り付けて走れば、奴らも手を出せねえよ」

「……なるほど、なんとかなりそうだな」

「それまで死なないように、面倒見てやらないとな」

「エルフは簡単に死ぬもんなあ、それだけは噂通りだったぜ……!」

現在彼らは血まみれだが、その半分は返り血だった。

彼らは決して哀れな弱者ではない、窮しているだけの殺人鬼である。

その殺人鬼と同じ部屋にいるのが、哀れなるエルフの娘たち。

中でも特別美しいのが森長の娘『アスピ』であった。

エルフの中でも特別な階級のものしか身につけられない、銀のごとき布の服をまとう彼女は、数人の侍女から庇われるように抱きしめられていた。

だがその侍女たちも震えることしかできず、またいざこのリザードマンたちが暴れだせば、何もできずに殺されるだろう。

およそ五人ほどの人質たちは、全員が口枷を嚙まされている。

単なる布をまとめて縄状にしているだけだが、魔術の詠唱を妨げるには十分なものだった。

これさえなければ、リザードマンを倒すことこそできなくとも、脱出することはできるだろうに。

魔術の封じられたエルフは、それこそ赤子同然だった。

「あ、アスピお嬢様……ご安心ください、何があっても、私どもがお守りいたします……!」

「あ、ああ……」

「必ず、お父様が、御助けにいらっしゃいます。それまで信じて、お待ちください……!」

彼女たちは励まし合うことしかできず、震えていた。

その怯える姿を見て、リザードマンはほくそ笑むばかりであった。

そんな、館内の凄惨な状況を、外の者たちも想像していた。

想像していた通りだと確認する術はなく、ただ焦燥に駆られるばかりだった。

中でも震えているのが、エルフの森長、ディケスであった。

自分の館が占拠され、娘が人質になっている。

野蛮で考えなしで大阿呆で虐殺者であるリザードマンと、一つ屋根の下にいる。

その現状に、彼は今にも大魔術を発射しそうであった。

彼の口からは、そのための詠唱が時折漏れている。

だがしかし、それを出さない理性が、彼の中に有った。

「……騎士団へ、出動要請を出せ」

「……森長、それは」

「我らに問題解決能力がないと明かすようなもの、大きな借りを作るもの、であろう? 今、そんなことを言っている場合ではない!」

彼は側近へ、大きな声を出して指示をした。

「私の館が占拠されているのだぞ? 私の娘がとらわれているのだぞ? 私に解決能力がないことは、もはや明らかだろうが!」

「森長……申し訳ありません、これは私どもの失態にございます……」

「お前たちに非はない! 屋敷に隠れているよう命じた一方で、屋敷の守りをおろそかにした私に責任がある! それよりも……救援だ!」

もはや、恥も外聞もない。

エルフの長ディケスは、大声で救援を出すよう指示した。

「私個人の借りという形にしていい、とにかく騎士団を呼べ!」

さて、騎士団総本部である。

ティストリアにしては珍しく、とても緊迫した雰囲気でガイカクを呼んでいた。

それを感じ取ったガイカクも、さすがに道化の振る舞いを控えている。

「ティストリア様、どのようなご用件で」

「ディケスという長の治めるエルフの森へ、リザードマンが襲撃を仕掛けました。ディケスは配下を率いてこれを迎撃しましたが、半数が生存しディケスの館を襲撃。そのまま娘や侍女を捕らえ、占拠しているそうです」

短い説明を聞いたガイカクは、しばらく黙った。

そして、はっきり言った。

「手に余ります」

今までになく、はっきりと言った。

「大変申し上げにくいのですが、私どもでは人質の無事を保証できません。ティストリア様、申し訳ないのですが貴方様にお願いしたいのですが……」

「私にも別の任務が……戦地から救援要請が出ており、向かうことが決定しています」

「……」

総騎士団長のティストリアにも、側近の正騎士がおり従騎士もそろっている。

いざという時にはこれを率いて最後の騎士団として働くことも役目なのだが、それはもう手がついている様子だった。

「しかしながら……私が出向いても、先方が納得するかどうか。新参者であり出自のしれぬ私どもでは、要らぬ衝突を招くだけでは」

ガイカクにしては、言い訳が多かった。

いやさ、それだけ心配が多いということだろう。

「その心配は無用です。その森は、アヴィオールの出身地……彼を討った貴方たちを、軽く見ることはありません」

「……わかりました、最善を尽くします」

ガイカクは、そう答えた。

行けるところまでは行く。

ならば、最善を尽くすほかない。

ガイカクは、最大の難問にぶつかろうとしていた。

騎士団本部を出たガイカクは、かつてティストリアに初めて会ったときと同じような緊迫感をもって、騎士団を招集していた。

その彼の緊張を嗅ぎ取って、ゴブリン以外の面々は神妙な面持ちとなる。

「ディケスの治めるエルフの森で、リザードマンによる襲撃事件が起きた! 現在ディケスの娘を人質にして立てこもっており、その救助が我らの任務となっている!」

エルフがリザードマンに捕まっているから、救助しよう。

簡単すぎる文章から、その難易度が全員へ伝わった。

「……さすがは騎士団、とんでもない命令が来たな」

歩兵隊長が、そうつぶやいた。

何が難しいのかと言えば、エルフを救助する、というのが難しいのである。

エルフは外傷に弱く、普通の人間たちからすれば『こんなんで死ぬの?』とびっくりするぐらい簡単に死ぬ。

それを助けろというのは、繊細なガラス細工を敵から奪ってこい、という命令より無茶だ。

だがそれぐらい難しい用件でもなければ、エルフの森から要請が来るわけもない。

騎士団に難しい仕事が来るのは、それこそ当たり前だ。

「これで成功すれば、エルフの森では私たちは英雄だね……」

「まあそうだな、それだけ難しい仕事というわけだ。実際俺自身も、ティストリア様に投げようとしたほどだしな」

今まで、どんな仕事でも『手品のように解決してみせましょう』と言っていたガイカクをして、成功する保証のない任務だった。

それを知って、誰もがさらに身震いをする。

そう、それが騎士団になるということなのだ。

「ことは急を要する。よって今回はオーガとゴブリンが残れ、他は全員連れていく。ただドワーフとエルフは、俺と一緒にライヴスに乗って先行する。人間とダークエルフ、獣人は馬を乗り継いでついてきてくれ」

オーガとフレッシュ・ゴーレムは、運搬や移動に時間を要する。

そのため置いていくが、他の面々は可能な限り連れていく。

ガイカクの判断に、誰も文句を挟まない……。

「あ、あの……」

かと思いきや、数人のエルフが手を上げていた。

「なんだ」

「私……ディケスの治める森の生まれでして……」

「私も、そこで生まれて、売られてきました……」

「あんまりいい思い出が無くて……それに、その……変に足を引っ張っちゃうかもしれないし……」

底辺奴隷であるエルフたちは、家族に売られて来た身である。

よって、そもそも家にいた時点で、かなり冷遇されていた。

その森を助ける、というのは気が進まなかった。

「……」

ガイカクは、それを聞いてしばらく黙った。

黙ったうえで、振り払った。

「はっきり言うぞ」

ガイカクは見下した目で、彼女たちを見る。

「自分の娘を奴隷商人に売ることは、『違法行為』ではない」

彼女たちも知っている、残酷な真実だった。

善悪の是非ではなく、法律上の事実であった。

「お前たちが家族に売られたとしても、それを咎めることはできない。少なくとも、騎士団としてはな」

「はい……」

「だからあえて……きれいごとを抜きに話してやる」

ガイカクは、はっきり言った。

「助けてから陥れろ!」

職業意識が、高いのか低いのかわからない言葉だった。

「お前たち、ちょっと想像しろ。この国の王様がパレードをしていていたら、いきなり民間人に殴りかかってぶちのめしだした。なんでそんなことをしたんですかと聞いてみたら……」

想像するだに、間抜けな光景だった。

「俺は子供のころ、こいつにいじめられていたんだ! とか言い出したらどう思う」

返事に困る、たとえ話だった。

「……なんかこう、王様なんだから、別のやり方で復讐しろよ、って思います」

「そうだろう、俺やティストリア様が同じことを言っても、同じように思うだろう」

「思います……」

「お前らも似たようなもんだ、一応騎士団所属なんだからな」

だがしかし、言われてみればその通りだった。

彼女たちも今は騎士団所属という、とんでもなくご立派な身分である。

復讐するなり見返すなりするとしても、やり方はいろいろあるだろう。

「まず、今回の仕事を成功させろ。それが終わった後なら、お前たちの復讐なりマウントなりに付き合ってやる」

「先生が、ですか?」

「ああ、俺が協力する。約束する」

このガイカクが約束すると、ものすごく信頼感がわいてきた。

「だいたい、ディケス本人やその娘がお前らに何かしたわけじゃあるまい。むしろ助けて恩を売った後で『あの家族を村八分にしてください』とか言えばそれで終わるだろ! そのために頑張れ! 前向きになれ!」

なんか前向きの定義がおかしいが、方向性はあっていた。

とにかく任務を達成することが、彼女たちのためにもなる。

「返事!」

「……はい、先生! 助けて恩を売ります!」

「その意気だ……全員、気合を入れろ!」

ガイカク・ヒクメ率いる奇術騎士団、創設以来もっとも困難な任務が始まろうとしていた。