軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

馬賊討伐任務

一か月ほど余暇をもらっていたガイカクは、ティストリアに呼び出されていた。

総騎士団長の部屋に入った彼は、いつものように恭しく挨拶をする。

「おお、ティストリア様! 貴方の忠実なる部下、奇術騎士団団長、ガイカク・ヒクメ、参上仕りました!」

「ええ、よく来てくれました」

恭しいというか、もう逆に白々しい挨拶だった。

とはいえ、ガイカクは確かに彼女の部下だし、忠実に仕事はこなしているので何もおかしくない。

よって彼女は、表情一つ変えずに、彼の態度を流した。

「今回来てもらったのは、他でもありません。貴方に仕事の依頼をするためです」

「はい、何でございましょうか!!」

「酪農が盛んな地域で、ケンタウロスの盗賊団が現れました。およそ二十人ほどであり、またエリートらしい頭目の姿も確認されています」

「……戦法は?」

「家畜や食料などを奪い、そのまま逃走。それを週に一度ほどのペースで繰り返しています」

「定石ですな、厄介な手合いと見ます」

ケンタウロスは草原のような、なだらかな地形での機動力に秀でている。

それは普通に戦うだけでも強いが、逃げに徹されるとまず追いかけることができない。

「すでに多大な被害が出ています、コレへの対応が貴方の任務です」

「……」

ここでガイカクは、一旦道化めいた振る舞いをやめていた。

しばらく黙り込み、フードの中で手を動かしている。

「ティストリア様、少々ご相談が」

「なんでしょうか」

ガイカクはごく普通の口調で、話を始めた。

「……という作戦を考えているのですが、少々のお力を貸していただければ」

「なるほど、多少の手配はしましょう。ですが……」

「ええ、借りたからにはお返ししますし、使い潰せば報酬から差し引いても構いません」

「それならば構いません」

ティストリアはそれを特に気にした風もなく、淡々と話を進める。

「ですが、徴用については認めませんので、そこは領主と相談を」

「はっ、そのように」

お互い仕事については実利優先であるため、余計な問答は起きなかった。

だがここで、ガイカクは思い出したように決まり文句を口にする。

「奇術騎士団の名に恥じぬよう、手品のように解決いたします」

今回襲撃されている地域を治めるルクバト子爵は、騎士団から返ってきた手紙を読んで不安そうにしていた。

出動要請は請け負った、そちらへ『奇術騎士団』を送り込むと。

父親から領主を引き継いで数年が経過しただけの、まだ年季の浅い領主。

彼は正直に言って、不安でしかなかった。

(奇術騎士団ってなんだ?!)

最近売り出し中だという、ティストリア肝入りの騎士団長、ガイカク・ヒクメ。

なんでも手品のように現れて、手品のように解決するという。

ボリック伯爵の下で仕事をしていたが、彼女に引き抜かれて、そのまま騎士団長になったとか。

(普通のが良かった……)

自分たちは騎士を呼んだのだから、騎士のように現れて、騎士のように戦ってほしかった。

手品的な要素は、まったく期待していなかった。というか、こっちは真面目なのに、なんで色物をよこすのか。

とまあ、ごもっともなことを考えていた。

そのあたり、茶番であることを自覚していたアルヘナ伯爵や、ワサト伯爵とは切実さが違うのである。

とはいえ、返答の文章には『他のは出払ってます』と書いてあるため……。

仮に奇術騎士団がいなければ『ちょっと待ってね』と言われていた可能性が高い。

その理解もあるので、帰れ、とは言えなかった。

「すでに三件、被害が報告されている……このままでは税収に差し障る上に、私の支持率も……!」

彼は政治家らしく危機感を覚えていた。

もうこの際仕方がないので、奇術でも色物でも騎士団に頼るほかない。

そう思っている彼の部屋へ、ガイカク・ヒクメが現れた。

「いひひひひ! ルクバト子爵様、お初にお目にかかります! わたくし、ガイカク・ヒクメと申します!」

(なんてうさんくさい男だ……!)

全身を布で隠した、素肌一つ見せない、うさん臭さの見本。

ガイカク・ヒクメの登場に、彼は思わず言葉を失った。

失いはしたが、しばらくすれば言葉を取り戻す。

藁にもすがる思いで、ガイカクへ依頼を始めた。

「ようこそいらっしゃいました、ガイカク卿! この度は我が領地へ救援に来てくださり、感謝の言葉もありませぬ!」

「げひひひ! ティストリア様からの命令とあらば、どこへも向かうのがこの私……ガイカク・ヒクメにございます!」

(色物が来たな……!)

名前通りの奇術騎士団だった。

いっそ違っていてほしかったが、そうもいかないらしい。

「ご連絡したとおり、現在我が領地はケンタウロスの賊に襲われております。なんとか襲撃を防ぎたいのですが、相手は神出鬼没なるケンタウロス……我らが救援に向かう頃には、もはや行先は知れず……己の非力が呪わしい」

「ヒヒヒヒ……そう落ち込まないことです、ルクバト子爵。相手がケンタウロスの群れならば、我らがいたとしても、いえ、他の騎士団でも難しいことでしょう」

(……なんか普通だな)

怪しい振る舞いをする割りに、割と普通な感じの対応だった。

「また、申し訳ないのですが……ティストリア様から救援として参上した身として心苦しいのですが、私どもだけでは今回の事態に対応しきれませぬ。領主様の兵と、協力体制をとりたいのですが……」

「も、もちろんです! 今兵を動かさずして、いつ動かすというのか!」

「ご理解くださり、ありがとうございます……ひひひひ……!」

(怪しい男の演技と、仕事を進める実務が混雑している……)

色物でも騎士団であるらしく、話の内容はまともであった。

これにはルクバト子爵も安心である。

「では……ご報告のあった、襲撃されうる村へ、兵力を派遣いたしましょう。私の兵はお世辞にも正騎士、従騎士の水準にありませんが、それでも並の兵士程度の働きは致します。それが百ほど……」

「いえ、十分心強いです!」

「それから、オーガも二十ほど……これも並のオーガほどの実力がありますので……」

「そ、それは頼もしい! 私の手勢と合わせれば、十分各村を守れまする!」

思ったほど強大ではないが、十分な『人数』だった。

子爵の顔が、一気に興奮する。

「また、ティストリア様に嘆願し、備蓄されていたクロスボウと長槍をお借りしてきました。かなりの数がございますので、これを民へ配れば彼らも戦力として数えられるでしょう。ただ……徴用は許可されておりませぬ。その判断は、子爵様に……」

「民でも扱える武装を? 既にここへ?」

「はい、ティストリア様からのご配慮にございます」

「そうですか……村民に力を借りねばならぬ、というのは心苦しいですが……彼らもまた、己の財産を守るために立ち上がるでしょう。徴用を発令する必要はないかと」

「げひひひひ……!」

(準備のいい男だ、ありがたい……)

ケンタウロスとはいえ、雑に言えば騎兵である。

こちらが長槍やクロスボウを装備していれば、面倒がって逃げる可能性もある。

民兵というのはいささか不安もあるが、現場へ本職の兵も派遣できるのなら安心できるだろう。

「普通のケンタウロスだけなら、これでも十分。とはいえ、相手にはエリートのケンタウロスもいるとか……」

「実際に戦ったことはないそうですが、目撃証言があります」

「それならば、いると考えるべきでしょうなあ。そして賊に身を落とすようなエリートは、自分の万能さを疑わぬもの。強硬策に出て、こちらへ被害を出す可能性もある」

「……おっしゃる通りです」

「そこで私の策が」

十分な防衛戦への備えを説明されたうえで、さらに『策がある』と言われ、思わず『さすが騎士団!』と叫びかけた。

それを言うと信じてなかったのか、という話になるので飲み込むことにした。

「まず、いくつかの望遠鏡を用意いたしました。周囲が草原ならば、少々の高い所からこれを使えば、接近を早期に察知できるはず」

「お、おお! 高級品ですな、ありがたい。物見台は各村にもありますので、そこに置きましょう!」

「それからもう一つ、私特製の発煙筒……狼煙を用意しました。賊が接近次第、これをもって合図を送っていただきたい。私が本隊を率いて、そこへ救援へ参ります」

「おお、歩兵百人とオーガ二十人さえ、本隊ではないと。それは頼もしいですな!」

望遠鏡で早期発見、狼煙で早期の救援要請。

非常にわかりやすく、なおかつ効果がてきめんな対策だった。

もしも自分が敵側なら、相手が狼煙を上げた時点で逃げ出すだろう。

そう思いかけたところで、ルクバト子爵は少し不安になった。

「しかし、相手はケンタウロス。この周辺一帯の地形においては、無類の強さを誇りまする。果たして騎士団でも、救援が間に合うかどうか……」

兵力を各地へ配置して、待ち構える。

これについては、機動力を持った敵に対する適切な対応だろう。

だが救援部隊が到着するまで、相手が残っているか、となると怪しい。

「ゲヒヒヒヒ!」

だがその懸念を、ガイカクは笑い飛ばす。

「子爵様……いくら相手が強いとはいえ、たったの二十人、単独の編成! そんなものを怖がる必要がどこにあるのですか?」

草原地帯でのケンタウロスは、たしかに強いだろう。

適性の高い地形で、適切な運用がされているのだろう。

だがそれでも、準備を終えていれば対応は可能だ。

「その懸念よりも先に、まずは兵の配置をいたしましょう。さすればむざむざ家畜や食料を奪われることはないはず……」

「おっしゃる通り! 流石に配備せねば、何もできませぬからな!」

ガイカクの提案に、子爵は乗っていた。

このままでは一揆が起きかねないので、早急な対応が必要となる。

(定石を打つ戦力を保持したうえで、奇策へ兵を割ける……羨ましい話だが、一体どうやって解決するのだろう)

子爵はやはり、心中で疑問を消せなかった。

各地に戦力を送り、襲撃の際には防衛に徹する。

そうして時間を稼いでいる間に、救援部隊で挟み撃ちにする。

なんとも普通だが、だからこそケンタウロス相手に成功させるイメージが浮かばない。

いっそ荒唐無稽な作戦の方が『そうなるかな、なるかも』と思えただろう。

(奇術騎士団……尋常の騎士ではないというが、一体どんな手品を使うのだ……)

その疑問を嗅ぎ取ったのか、ガイカクは笑う。

そう、これがたまらない。

(不思議そうにしているなあ……俺の新兵器を投入するには十分な空気だ! さあ、違法でなければ歴史を変える大発明、そのお披露目だ!)

彼は今、歓喜を味わっていた。

現在領内の酪農家たちは、厳戒態勢を敷いていた。

領主から……正しくは国の備蓄から貸し出された武器を、いつでも取り出せる場所に置いてある。

普段は温厚な農民たちも、ケンタウロスが襲撃してくれば、自分だけでも突っ込む気概を持っていた。

平時は惰性でやっているような物見台の見張り達も、今は血眼で周囲を警戒していた。

ガイカクが貸し出してきた望遠鏡によってテンションも上がっており、自分たちが騎士になったかのような気分にもなっている。

領主の兵、ガイカクの兵が主力として配備されていることもあって、酪農家たちの村はもはや軍事拠点のような殺気を放っている。

自分たちの財産を、生存のための糧を奪おうとしてくる者が相手なのだから、当然の士気の高さだった。

しかしながらその士気の高さに、ルクバト子爵の兵たちはやや不安そうだった。

「農民たちが怖がっていないのは結構ですが……城のような壁のない防衛戦においては、これは良くないかもしれませぬ」

そう口にしている兵たちは、およそ三十人ほど。もちろん正規の訓練を経た兵士だが、それでも少々不安のある数だった。

「そうですね、防衛戦には我慢強さ、うかつに前へ出ない規律が必要になります。士気の高さが、暴走を招く危険もある」

そしてガイカクの派遣した兵は、人間もオーガも全員女だった。

またオーガは武装が少々変わっていて、何ゆえか高級そうな爬虫類の皮による鎧を着ている。

正直それも不安要素だったが、彼女たちはまともに状況を見ていた。

「しかし、我らに最も期待されている効果は、抑止力。士気の高さなくして、それはかないますまい。その点は我らが敵よりも恐ろしくふるまうことによって、なんとか繋ぎ止めねばなりません」

「……そうですな」

「何よりも問題なのは、早期発見……いかに敵を早く見つけ、それを伝えるか。それに尽きます。見張りが張り詰めていることを、よく思うべきでしょう」

「……その通りです」

元傭兵である彼女たちは、上官の作戦が成功することを前提に話している。それは、とてもいいことだった。

作戦自体に変なところはないし、何なら他にどんな作戦が思いつくのかという話でもある。

問題は敵が強い、速いということだ。

(あてにできる戦力は、オーガが五人、人間の歩兵が合わせて五十人。エリート交じりのケンタウロスたちを相手にしても、死ぬまで戦えばこちらが勝つだろうが……そんなことが起きてはたまらない!)

ガイカクも言っていたが、兵が死んだら損失は大きいのだ。

木っ端貴族であればあるほど、兵一人の重要さが増してくる。

もちろん今回の迎撃で殉職しても、無駄死にではない。だが……やはり子爵には、この領地にとっては負担だ。

もちろん領民も、その家畜も同じである。

(我らもそうだが、民兵への犠牲もなんとか小さく収めたい……そのためには、本隊の到着が早くなければならないが……)

今ここに敵が来るとは限らない、別の所に来ている可能性もある。

むしろ警戒していることを悟って、さっさと逃げているかもしれない。

いやいっそ、そうであれば、これ以上傷つかずに済む。

現実を知るが故の弱気さが、兵の中に有った。

だがしかし、それは今この場で裏切られる。

「け、ケンタウロスだ!!」

「警鐘を鳴らせ!」

「の、狼煙だ! 狼煙を上げろ~~!!」

物見台から望遠鏡で警戒していた農民が、のどが裂けるような絶叫を上げた。

警鐘を上げる前から、村全体へ響くような大声であった。

それを聞いて民兵たちは大いに慌てだし、逆に正規の兵たちは慌てずに動き出す。

「あわてるな! 我らがいる! 救援部隊も到着する! 腰を据えろ!」

「いくらケンタウロスとはいえ、望遠鏡で見つけた距離から、一気に飛んでくることはない! 奴らも生き物、近づくまでは全速力を控えて、足を溜めている!」

「こっちにはオーガもいる! 近づいてくれば、なぎ倒してくれるとも!」

領主の兵たちは、安心材料を並べた。

あながち、間違いでもない。勝てないほどではないし、なんなら有利だ。

だが、犠牲を覚悟しなければならない。それが恐ろしい。

「……子爵殿の兵よ、私たちは騎士団に属するが、お世辞にも騎士を名乗れる強さはない。奇術騎士団はしょせん色物、実態はそんなものだ」

「な、何を……それでも心強い」

「ですが、我らが主は……騎士団長だけは……我ら全員の非力を補って余りある!」

ガイカクの配下たちは、当然作戦の全容を把握している。

つまり、ガイカク率いる本隊がどこにいるのかを把握している。

この村の住人、あるいは領地全体にとって幸運なことに。

そして盗賊たちにとって不運なことに。

「騎士団長殿はほどなく到着なさる、もう誰も死なずに済むぞ……!」

襲撃された ここ(・・) は、本隊が待機している地点から一番近い村なのだ。

発煙筒による、狼煙。遠くから見えるように煙を上げて、それを見せることで合図を伝える。

大昔からある『通信手段』の一つであり、銅鑼の音などが届かない遠くまで伝達ができる。

もちろんひどくシンプルな合図しかできないが、それでも救援要請には十分だった。

ガイカク特製の、色のついたまっすぐな煙が空へ登っていく。

その様を、当然ながらケンタウロスたちも見ていた。

「おい、サジッタ。なんかいつもと村の様子が違うぞ。いや、いつも別の村を襲っているけどよ、そういうのじゃなくて……」

「狼煙を上げているし、中には兵も見えるぞ。どうする、面倒だし引き返すか?」

「……そうだな、行っても何も手に入りそうにない」

若きケンタウロスの男たちは、軽快に走りながら相談をする。

迎撃態勢を整えられているのは厄介だが、極論逃げればいいと思っている。

高い機動力があるとはそういうことだ、いつでも逃げられるから余裕を持てるのである。

「だが、怖いから逃げ出した、と思われるのはシャクだ。必死に武器を持っている人間どもをいじって遊んで、悠々と帰ってやろう」

「ははは! そうだな、飯はもう十分奪ったしな!」

「御大層に構えたって、俺たちには何もできないって教えてやろうぜ!」

たとえるのなら、イルカがダイバーをからかうような、そんな心境であろう。

絶対的に有利な地形にいるとき、生物はどこまでも傲慢になる。

この環境における絶対強者だ、という自覚があればこそ、全体がリラックスするのである。

「それじゃあ一丁矢をあびせてやるか」

「なんかほとんど使わなかったもんな、盗むのが簡単すぎて!」

「そうだな……楽しませてもらおう!」

ケンタウロスの若きエリート、サジッタ。

彼は若さに任せて、手勢とともにやんちゃを楽しんでいる。

もしも彼が大成すれば、若いころはワルだった、などと歴史に記されるだろう。

今日という日を、乗り越えられればの話だが。

「は、はははは! はははは!」

村へ接近するケンタウロスたち、それとは別方向から『土煙』を上げて別の一団が接近している。

その速度はケンタウロスに劣るものの、常人や普通の馬車を大きく超えている。

「いいぞ、いいぞ! 最高だ! このままなら、村に到着する前に接触できる! そうすれば味方に被害が出ないまま、作戦を進めることができる!」

爆走するのは、四台の車両。

この世界で初めて生まれた、自らの動力で走る、自動車。

六個の後輪と二個の前輪で草原を快走する、有機的な装甲に守られた軍用車。

一台につき九個の心臓を内蔵し、その血圧によって後輪を回転させて前進する、画期的にして革命的にして悪魔的な兵器。

「棟梁、ちょっと声小さくしてくんな! ただでさえ心臓がうるさいってのに、やかましくてかなわないよ!」

「血圧正常! 血流正常! 巡航速度を維持!」

「他の車両も、今のところはすべての心臓が快調なようです!」

それら一台に五人ずつ、整備兵を兼ねるドワーフたちが搭乗している。

そして先頭を行く車両の 舵輪(ハンドル) を握るのは、この兵器の開発者だった。

「見てろ、ケンタウロス! 『 強化心臓動力車両(ナイン・ライヴス) 』のお披露目だああ!」