軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

頼れる男

この世の真実とは、不都合だから隠されていること。

真実が残酷なのは、残酷ではないことをいちいち隠さないからだ。

さて、今回の事件である。

ガイカクの需要がありすぎて、彼の手を煩わせないように、多くの事件を別の者が勝手に解決してしまったわけだが。

動機はともかく、やっていることに違法性はまあない。

よって彼らは、正々堂々自分がやったことを口にしていた。

ガイカクは臍を噛む思いであったが、騎士団としては我慢するしかなかったのである。

騎士団総本部。

ガイカクへ依頼をしてから一か月後に、ティストリアはガイカクを呼び出した。

総騎士団長から呼び出されただけなのだから、ガイカクは普通に来ればよかった。

しかし訪れたガイカクは、ティストリアに見せたことがないほど苛立っていた。

「すでにご存じの様ですね。先の違法薬物に関する捜査ですが、依頼が取り消されました。我が国を含めて周辺諸国で大規模な薬物密造組織の摘発が行われ、その結果としてアオテングを密売していた組織もつぶされた結果です」

「……部下が酒場で、私を暇にさせるために各組織が勝手に動き、任務が私に届かぬようにしていると聞きました」

「それについては私も聞いています」

悪い話ではないが、面白い話でもなかった。

ガイカクのように感情が動いているわけではないが、ティストリアも現状を憂いている。

この状況を放置していると、騎士団全体が不要という流れになりかねない。

総騎士団長としては動かざるを得なかった。

「この状況は、私が解決するべき問題です。現在正騎士と協議をしていますが、可能な限り貴方の要望に沿わせていただきます」

「具体的には、どうなさるのですか」

「前回、貴方は閉鎖病棟へ協力をしましたね。これに異論を唱える気はありません。ですが私は異論を唱えられる立場です。私が正式に協力をするなと忠告すれば、誰も否定できません」

ガイカクは医者と自称していないが、法的にも正規の医師免許を持っていない。

ティストリアから「無免で医療にかかわるなや」と言われればそうですねと従うしかない立場だ。

変な話だが、彼が違法行為をしているのは変わらないのである。

「それで相手は納得してくれますかね」

「しないでしょうね。それにあの病棟の理念そのものは、私も否定していません。貴方も不服はないでしょう。よって、あの閉鎖病棟の警備任務を、奇術騎士団が定期的に担う、という形式にします。その警備任務中に、貴方が医療行為を手伝う。それ以外は拒否、という方向で考えています」

なあなあで協力するのではなく、期限を決めて協力するという体制にする。

もちろん非公式だし軍務などを優先するが、相手側もある程度は許容せざるを得ないだろう。

「これで抑えられるのは病院への医療協力だけですが、他の依頼については断るなり無視すれば問題ないでしょう。問題に発展するほどならば、また我らで対応させていただきます」

「ゲヒヒヒ! さすが総騎士団長閣下、頼らせていただきます」

寄らば大樹の陰。

問題が整理されたことにより、ガイカクも一安心であった。

ひとまず依頼料は満額支払われることになっているらしい。

おそらくこれも、ガイカクから不興を買いたくない者たちからの出資であろう。

しばらくの間はおとなしくするようにと言われたガイカクは、ある程度不満を抜かれた顔で奇術騎士団本部に戻った。

上機嫌と言い切れない顔のガイカクを迎えたのは、砲兵隊であった。

やや不安そうな顔で、どうなったのかを聞く。

「先生。総騎士団長様は、なんとおっしゃっていましたか?」

「やっぱり依頼は取り消しだとよ。夜間偵察兵隊が言っていたのは本当だったらしい。せっかくの新戦術、新兵器がお蔵入りだぜ」

「……結構頑張って作ったのに」

「結構じゃ困るんだけどな」

「でも! あの病院で指導をしたりするんですよね!? また私たち、他のお偉いエルフサマ方から羨望と嫉妬のまなざしで見られちゃう~~!」

「気持ちはわからんでもないが、ちゃんと勉強してお医者様になったエルフを見下すなよ」

「先生はいつも、医者様に甘いですね」

「甘いんじゃない、尊敬しているんだよ。はぁ……」

砲兵隊は外科手術に適応した、希少なエルフである。

グロ耐性があるともいうが、それを抜きにしてもガイカクの手術についていけるのはさすがであろう。

細かい魔導的知識はないが、ガイカクの言う通りに動くことはできている。

自慢してもいいが、さすがに本職をバカにするのはガイカクの意思に反していた。

「任務に使う予定だったガスの調合はもういい。人工エルフ肉や人工エルフ皮膚の培養をしておいてくれ。医療じゃなくて切開や縫合の練習に使ってもらうから、いつもより多めにな」

「は~~い!」

砲兵隊への指示を終えたガイカクは、敷地内の『アスレチック場』に向かった。

今度の任務で使う予定だった『登山用ライヴス』の試験をしている場所である。

もちろんいきなり山を登らせるのではない。

土木工事で、公園にあるような小山を作成。

ある程度の勾配だけではなく、岩などの障害物を設置して限界を試すつもりであった。

今回は無駄になってしまった、開発を中止しよう……と思っていたが考え直していた。

「悪路用と思えば、登山仕様の開発も無駄じゃないんだよな。今までも上り坂では乗組員に降りてもらって、後ろから押させたりしていたし……そういう手間も省きたい。戦闘用の車両も、重い装甲を取り外しできるようにして、走行中は装甲を薄く、戦闘中は装甲を追加……いやその場合、装甲が外れやすくなるな。簡単に着脱できるだけじゃなくて、戦闘中に固定できるように……装甲だけじゃなくて、フレームから改良した方がいいか? いやしかし、そうなると肝心の悪路を走破する能力が……」

ライヴスの強みは、動力が有機物であるため軽いという事である。

仮に、動力部が金属製でめちゃくちゃ重かったとしよう。

その場合、動力部が出す馬力が相応に必要となり、フレームやシャフトに馬力や重量を支えるだけの強度が必要になる。

そうなれば当然、燃費や走破性が悪くなってしまう。

そうなれば燃料タンクがまた重くなり……と、鼬ごっこだ。

その点ライヴスは動力源が軽いので馬力が低くとも車体を動かすことができ、フレームの強度もそこまで必要ない。よって燃料(に相当する栄養剤)も少なくて済む。

とはいえ何事にも限度はある。

モノが戦闘車両である以上、装甲や乗っている人間や装備の重量が加算されるため、どうしても馬力不足になってしまうのだ。

悩ましいことだが、新兵器の宿命である。

欠点や短所を作戦でどう補うかが戦術の見せ所。

如何に改良するかが魔導士の見せ所であった。

「よし、面白くなってきたな。もうこの際だ、空いた時間はそっちの改良に……?」

動力騎兵隊が実験の準備をしているはずの場所で、騒ぎが起きていた。

遠目に見る限り、そこにはドワーフしかいないようだったが?

「ちと勘弁してくれ! これはウチの秘密兵器なんだ! 勝手に触らないでくれ!」

「アタシたちが必死こいて試験している最中なんだよ。完成品じゃないんだ、だから文句をつけるのは……」

「試験品だから骨組みやらなんやらがむき出しなんだよ! だから機密部も観えちまうんだ! どっか行ってくれ!」

「ケチケチすんな! それよりもこの木……勇猛杉だな! 昔は戦艦に使われていた材木だ! しかも若い! これの苗木も持ってるのか!? さすが奇術騎士団だ! ちょっと分けてもらえないか? この杉がありゃ、島一つ落とせる船が作れる! 大砲をたんまり積めるぞ!」

「それもいいが、この動力付き車両の改良がしたい! 坂を上ったり、岩を乗り越えたりしたいんだろ? そのためのバネ細工なら、ウチの若い衆が得意だ! あと全体のバランスの調整も任せてくれ!」

「動力付き気球の後部ハッチの開放なんだが、省スペースのからくりが思いついた! 図案を持ってきたから、あの団長さんに見てほしい! 絶対作りたくなるぞ!」

「動力付き車両なんだが、二輪車にしないか!? 思いついたら作りたくなったんだ、簡単だが図面も引いたから見てほしい!」

「遠くの親戚が蒸気機関を小型化して車両に積みたいらしいんだよ! もしも完成すりゃあ、物流に革命が起こせる! それにドワーフの雇用にもつながるんだ! 意見が欲しいから、その実験場にあのに兄ちゃんをだな……」

動力騎兵隊が、大勢のドワーフ……親方衆を押しとどめていた。

それぞれが猛烈な勢いでアピールしている。

よくよく見れば、遠くからティストリアの直属騎士が慌てて止めようと集まってきている。

機密に部外者が触れそうになっているので、なんとか追い返そうとしていた。

ガイカクはそれを見て頭を抱えていた。

「おかしいなあ、店を広げすぎたかなあ……」

――工業の世界において、挑戦と失敗はセットである。

もちろん事前に可能な限りミニチュア試験を行うべきだが、実際に作ってみれば上手く行かないのはザラだ。

それは仕方のないことである。原因を解明し、成功につなげれば失敗ではない。

それが楽しいのだ。

トライアンドエラーを繰り返し、成功に近づいていくことこそ製造の楽しみ。

できるだけ無駄を省き、最短ルートで成功に至るもよし。ミリ単位で調節していって、最高効率を探るもよし。

その喜びを、ガイカクや動力騎兵隊は享受している。

そして親方衆を含めた他のドワーフは、それを楽しめていない。

ガイカクが声をかけない限り、トライもエラーもできない。

手慰みにゼンマイ動力の小型模型を作るぐらいで、肝心の本物を作れないのだ。

なまじ画期的で発展途上の完成品に触れたからこそ、時がたつごとにうっ憤が溜まっていく。

そして自分でも新しい発明品を作ろうとする者が現れる。

それはそれで楽しいだろうが、奇術騎士団のように潤沢な予算があるわけではないし、何よりガイカクのように優秀な魔導士がいるわけではない。

大味な設計はできても、どうしても細かい計算ができないのだ。それが欠けていると、無駄に失敗を重ねることになってしまう。

切迫する予算や時間に追われ、先人であるガイカクに意見を求めたくなる。

それが現在の状況であった。

「奇術騎士団も壁作って閉鎖するか……今まで閉鎖してなかったのがおかしいんだしな」

いろいろ検討した結果、物理的に壁を作ることにしたガイカクであった。