軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まあ善意

水晶騎士団正騎士、エリートオーガ、ポイペー。

豪傑騎士団団長であるヘーラと並ぶ、若きトップエリートオーガである彼女だが、性格はきわめて対照的だ。

ヘーラはライナガンマ育ちの『人間社会で育ったオーガ』であるが、性格は典型的なオーガである。

オーガらしいオーガといえば彼女だろう。

一方でポイペーは、オーガ社会で育ったオーガであるが、性格はオーガ離れしている。

というよりも、一般オーガ社会になじめなかった結果、人間の国に来たオーガと言った方がいいかもしれない。

協調性が高く温厚な彼女だが、それよりも変とされているのが甘党なところだ。

オーガは生物として基本的に甘い物があんまり好きではない。そのうえで『甘い物を食べるのは軟弱ものだ』という文化的な思想があるため、オーガは甘い物が 嫌い(・・) である。

一方でポイペーは甘い物が好きで、しかもそれを公言してはばからない。

もちろん彼女もオーガなので、人間やゴブリンが好む『甘い物』は少し甘すぎると感じる。

人間やゴブリンからすれば物足りない『甘い物』を好むのが彼女ではある。

それでも奇異の目で見られているのが現状だ。

実力面ではヘーラもポイペーを認めているので、余計にどうかと思っている。

しかし彼女はそんなことを気にしない。

友人でもある水晶騎士団の面々という理解者がいるため、世間からどう思われても『変なオーガ』であることを隠そうともせずに過ごしているのだ。

そのような彼女は任務から戻った休日に、水晶騎士団のスポンサーでもある菓子店を訪れていた。

持ち帰りも店内での飲食もできるその店で、彼女は専用の大きな椅子と机でクッキーを食べている。

周囲からすれば『あれが噂の甘いもの好きなオーガか!』と注目の的であった。

菓子店にくるのだから富裕層の人間(女性)がほとんどなのだが、その全員がらしからぬことに下品にもガン見である。

いったい何をどれぐらい食べているのだろうか、と凝視する。

「おいし~~」

意外なほど量が少なかった。

大食漢で有名なオーガであるが、甘味だと少量で十分なのかもしれない。

人間用の小さな皿の上にはクッキーが何枚かおかれており、彼女はそれを 紅茶(ストレート) と一緒に楽しんでいる。

実に上品な食べっぷりであり、ガン見している自分が恥ずかしくなるほどであった。

「いかがですか、ポイペー卿。極秘メニューの『ハットクッキー』のお味は」

「最高ですよ。ありがとうございます」

「いえいえ……お礼を申し上げるのはこちらの方です。この極秘メニューは製造できることが稀ですが、当店の株を大幅に上げておりますので」

スポンサーである菓子店の店長(人間の男性)はずずずっとポイペーに近づいて耳打ちした。

「それで、原材料の次の入荷なのですが……」

「あ~~ん~~……頼んどくよ」

「お願いします」

この店の極秘メニューに奇術騎士団の『違法食材』が使用されていることは公然の秘密となっている。

健康被害が出るようなものは卸していないそうなので、そこまで後ろめたくはないが、一応内緒話という形式にしていた。

「先日の一件以降、奇術騎士団のヒクメ卿もいろいろと融通を利かせてくれてありがたいよ。でもそんなには作れないらしいから期待しすぎないでね」

「それはもちろん。ですが……しかし、やはり、騎士団を辞めて農家に専念していただけないのでしょうか……」

「それは無理じゃないかなあ」

奇術騎士団、というかガイカクの持つ違法食材は安心安全な品質のうえで、普通のルートでは絶対に手に入らない食材ばかりである(違法だから)。

普通では使えない食材を使える、というのは料理の幅を大いに広げる。

この菓子店にとってもありがたい話だが、何分余ったのを分けてもらう程度なのでたくさん作れない。

たくさん売れる『味』なので、もっと卸してほしいと思う菓子店であった。

ちなみにこれを言うと『ウチは農家じゃねえよ』と怒鳴られてしまうのであった。

「そ、それじゃあそろそろ失礼するね」

甘味を楽しんだポイペーは、ずしんずしんと菓子店の外に出る。

オーガが来ることを想定していないため店のドアは小さいのだが、気を使ってゆっくりと出る。

そうして店の外で体を伸ばしたところで……自分の目の前に、自分が見上げる大きなオーガが立っていた。

「やあ、久しぶり。元気にしているかい、ポイペー」

「……シェルハー!?」

ポイペーはトップエリートオーガであるため、とにかく背が高い。

騎士団でも彼女より大きいのは大蛇種のラミアぐらいだろう。

その彼女をして見上げる相手、それも女性となれば本当に希少だ。

トップエリートオーガ、シェルハー。

体の分厚さはポイペーやヘーラに劣るが、背の高さは一つ分抜けている女傑である。

「本当に久しぶりだねえ、シェルハー! 昔は何度か戦場で会ったけど、少し前に引退したって聞いたよ。わざわざ会いに来てくれたのかい?」

「……ああ」

「それで、 お嫁さん(・・・・) と 娘(・) さん(・・) はどこに? 一緒なんだろ?」

「それなんだよ」

中性的でかつ凛とした雰囲気の麗人……オーガらしからぬ美貌の女傑は顔を曇らせながらポイペーにすがっていた。

「君たち水晶騎士団にお願いがある……どうか、ヒクメ卿に会わせてほしい!」

水晶騎士団の団長と正騎士の面々(アルテミスを除く)は、水晶騎士団の本部を離れて奇術騎士団の本部に向かっていた。

彼女らに続くのは、シェルハー……だけではない。

彼女の『妻』であるトップエリート獣人のハンガーレと、『娘』に当たる人間のレオレイである。

複雑に見える家族であるが、その絆は本物であった。

レオレイは毛布で厚くくるまれ、シェルハーが抱いている。

ハンガーレはそんな娘を気遣いながら並走していた。

「二人が引退して、レオレイちゃんを引き取ったことは聞いてたけど……レオレイちゃんが病気になってたなんて知らなかったよ」

「喧伝するような話じゃなかったもの。知らないのは無理もないわ……」

ルナの言う通り、シェルハーとハンガーレは以前は軍属であったが、結婚や子供を引き取る際に引退している。

二人とも種族の枠の中ではかなり計画性があり、多くの蓄えがあったため日常生活に支障はなかった。

このまま幸せな家庭で過ごしていくかと思われた矢先に、レオレイが病魔に蝕まれてしまった。

もちろん二人は病院に連れて行き、名医と名高い人物に治療を依頼したのだが……。

『この病気の治療法はありますが、法律で禁じられています』

『代替手段はまだ未発見。申し訳ありませんが……我らでは手の打ちようがない』

『一つだけ可能性があります。奇術騎士団団長、ガイカク・ヒクメ。彼ならば……』

一つのか細い希望を与えられるだけにとどまった。

この『希望』が唯一の可能性であると知らされれば、普通は絶望するしかない。

しかしシェルハーとハンガーレにとってはルートが構築できることだった。

彼女ら二人は水晶騎士団と肩を並べて戦った経験があり、親交を深めていたのだ。

一縷の望みをかけて、水晶騎士団に接触したのである。

「病気の前に、どんな強さも無力……歯がゆかったわ。どんどんこの子が弱っていく姿を見るだけで、なんにもできなかったのだから」

「君たちにも迷惑をかけることになってしまった。申し訳ない……」

「気にしないでよ!」

先頭を行くルナ。

エリートであるとはいえゴブリンである彼女は、とても背が小さい。

しかし天真爛漫に笑う姿にはリーダーシップが確かにあった。

「ルナ……何と言っていいのかわからない」

「そう思うんなら、私たち水晶騎士団に入ってね!」

「私たちが、か?」

「ヒクメ卿は凄腕だけど、騎士以外は診てくれないの! だから二人が騎士になってくれないと、たぶんダメだと思う。もちろんしっかり働いてもらうけどね!」

名医に診せることや病気の子供を連れて移動するために大金を支払った二人からすれば、その程度で済むのはありがたいことであった。

シェルハーは力強く頷く。

「お安い御用だ! この子が助かるのなら、何度でも修羅場に身を投じよう!」

一方でハンガーレは少しだけ不安そうだった。

「……それで、ヒクメ卿というのは本当に凄腕のお医者様なの?」

ガイカク・ヒクメの噂はとても多い。

一つだけでも信ぴょう性が薄いのに、たくさんあるので何が何やら、であった。

引退している二人からすれば、いまいち信じ切れないだろう。

「ものすごくふざけた態度をしているけど、腕は確かよ。噂通りに気球を作るし、医療の腕も超一級。私たちも、後輩の蠍騎士団もすごくお世話になってるわ」

「ちょっと! いきなりはやめてよ!」

エリートリザードマンのイラルキが、ポイペーの着ている服をまくった。

オーガ特有の分厚い肌には、しっかりと大きな傷が残っている。

戦場を知るシェルハーとハンガーレは、それが槍による刺し傷だと看破した。

おそらく相当深く刺さったのだろう。臓器も傷ついていると思われる。

エリートオークならともかく、オーガでは二度と戦線復帰できないであろう大けがであった。

しかし彼女は平然と歩いており健康そのものである。

「なんで医者をやってないのかわからないくらいには凄腕よ。私たちは最初の処置をされた後は病院に移るんだけど、その時もお医者様から『すごい、こんなことができるなんて』って驚かれてばかりよ」

エリート獣人のセレネが、ポイペーの服を直しながら補足する。

裏表のない彼女らが全幅の信頼を置いている姿を見て、シェルハーとハンガーレは緊張していた顔を緩ませた。

自然と涙がこぼれる。

そんな二人をあえて見ずに歩く一行だが、途中でばったりと他の騎士団に合流していた。

もちろん豪傑騎士団であり、その先頭を歩くのはクレス家のヘーラであった。

「お、ルナじゃねえか。もしかしてお前たちもガイカクに用事か?」

「うん。シェルハーとハンガーレから、子供を診てほしいって言われたの」

「! へえ、シェルハーとハンガーレか。戦場で出会ったことはねえが、凄腕らしいじゃねえか」

「うん、二人とも騎士になれるぐらい強いんだよ。だから二人を騎士にして、その子供の面倒を見てもらおうかなって」

「こっちも似たようなもんさ」

ヘーラはくいっと自分の後ろを指さした。

精悍な青年軍人たちが並んで歩いている。

だが彼らの体には痛々しい傷が刻まれており、包帯は赤く血でにじんでいた。

「前の戦争で苦戦してな。見どころのある若いのが何人も大けがで引退する羽目になっちまった。まだまだ戦う気があるのに引退するなんてかわいそうだろ? うちの騎士団に入れて、ガイカクに治してもらおうと思ってな」

ーーー水晶騎士団も豪傑騎士団も、『ガイカクは騎士が相手なら無条件で治してくれる』と思い込んでいた。

騎士団に属していなくても、騎士団に入れれば治してくれると思い込んでいた。

果たしてガイカクは治療してくれるのだろうか?