軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

少年漫画でよくある展開の別視点

騎士団長が全員集まる、という機会は稀である。

全員忙しいし、箒騎士団は負い目があったし、そもそも仲良し集団というわけでもないので集まる理由自体ない。

しかし今回は事情が事情であったため、全員が集合している。

騎士団総本部にて、憲兵に監視された状態ながら、一同に会し会議を行っていた。

「皆さん、窮屈な思いをさせて申し訳ありません。未だに周囲の調整が済んでおらず、騎士団の再始動をどのように行うのか決定していない状態です」

まったく平常運転のティストリアが、まったく申し訳なくなさそうな顔で全員に対してそう告げていた。

「具体的には奇術騎士団についてですね。今後は 公式(おおやけ) に憲兵を監視につけるという案もありましたが、人数不足という名目で却下されています」

(隊長め、臆病風に吹かれたか。人数不足というのも間違ってはいないか)

今回の騒動への騎士団の対応を、上層部は強く咎めなかった。

ティストリアがガイカクを強く監視していたことが証明されたし、その後の行動も手順を踏んでいる。

奇術騎士団が生還したことによって行動の正当性も裏打ちされている。

よって、今回の件に罰則などはない。

しかし今後もこの体制でいいのか、という疑問もある。

再発防止策を講じるべきではないか、という意見が上層部で多くあるのだ。

まあそもそも、ガイカクをどっかに拘束して、魔導士としてこき使うのが一番ではある。

それはそれで、ガイカクの行動に責任を取る人物が必要になる。誰だってそんなのは御免だろう。

そこで憲兵を同行させ、監視下にあることをアピールする、という案もあった。

憲兵隊長は血相を変えて『そんなに人員はいません!』と強く抵抗した。

実際のところ、新任務に派遣できるほど、憲兵に人的余裕はない。

かといって急に増やせば、それこそ不正が発生しかねない。

憲兵隊長の本心はともかく、実情としても断るのは正しかった。

監視している憲兵たちは、彼の心情を想像し呆れつつも認めている。

「そういうことなので、奇術騎士団を咎めるのは止めてください」

「そ~いうけどよお。コイツが俺たちの足を引っ張ってるってことじゃねえか。なあ?」

「ひ、ひぃいいい! ティストリア様! お助けください! 豪傑騎士団の団長が、このひ弱な私めを脅しておりまする~~! お助けを~~!」

イライラしながら、ふざけたことをいうヘーラ。

もっとふざけた振る舞いをするガイカク。

イオンとルナはどうしたらいいのか迷っており、オリオンとセフェウは『憲兵の前でこんなことすんなよ』と恥じ入っていた。

「ヘーラ卿。私は今、彼を咎めるな、と明言したはずです。ヒクメ卿に謝ってください」

「……さーせん」

ティストリアは表情一つ変えずに注意する。

ヘーラは一応謝っているので、ティストリアはそれでよしとした。

異常な杓子定規ぶりであるが、こういう女性だからこそ総騎士団長が勤まっている、と言える。

「さて……今も説明したように、我らは大きな任務以外では動くことができません。少なくとも、予定されている気球の発表会が終わるまでは。ある意味では、現状こそ正しいと言えるでしょう」

(欺瞞だな……)

騎士団は各地、各種族から有能なエリートを集めている。

各地の戦力が手薄になってしまうため、その補償として騎士団を各地に派遣している、という実情もある。

騎士団の本分ではないと言えばそこまでだが、細かい依頼を処理できていない現状を不満に思う者も多いだろう。

今は良くとも、将来的に人員の募集ができなくなる可能性もあった。

もちろん、ティストリアもそんなことはわかっている。

「しかし救援を求める声が多いことも事実です。各騎士の故郷やスポンサーからの依頼を後回しにし続けることは好ましくありません。そこで、いささか性急ではありますが……近々卒業予定だった、騎士養成校の候補生たちを現場に派遣することとなりました」

「え?」

「え~~~」

騎士養成校の卒業生であるルナとイオンは、びっくりした顔でセフェウやオリオンを見る。

どうやらこの二人も承知していたようで、特に驚いてはいなかった。

「 豪傑騎士団(ウチ) や奇術騎士団みたいな現場からのたたき上げならまだしも、騎士養成校のお坊ちゃんたちがいきなり騎士の現場仕事かよ。大丈夫なのか?」

ここでもヘーラの軽口が出た。

騎士養成校をバカにしているかのような言葉であるが、そこまで的外れでもない。

(まあたしかになあ……)

ガイカクもそうだが、他の面々も強硬に反論できずにいる。

卒業間近とはいえ生徒たちがいきなり現場で実力を発揮できるかと言えば微妙なところであった。

「引退している騎士を仮の騎士団長として据えつつ、比較的安全であろう任務から処理してもらうつもりですが、問題も発生するでしょう。しかしそれを越えてこそ騎士団というもの、違いますか?」

「それもそうか……」

「それに今年度の卒業生は特に優秀と聞いています。彼らならば、過酷な任務であっても達成してくださるでしょう」

ティストリアの声に応じて入ってきたのは、精悍な表情の若者たちだった。

リザードマン、オーク、オーガ、エルフ、ダークエルフ、ラミア、ヒューマン。

正騎士にふさわしい実力を持つトップエリートぞろいであり、すでに一騎当千の風格を備えている。

しかし目立つのは、その頬のタトゥーだ。エルフの少女だけは頬にその『画』が描かれたマスクのようなものを張り付けているが、全員が揃ってサソリの針が張り付いている。

「えっとあのティストリア様お伺いしてもよろしいでしょうかなぜみなさんがサソリの針のようなものがほほにあるのですか結束の証のようなものでしょうかだとしたら騎士団にふさわしくないと思いますでもそうじゃないのだとしたら噂で聞いていた攻撃性生体魔法陣の被害者の子たちでしょうか?」

「ええ、その通りです。そこにいらっしゃるヒクメ卿が救命した、騎士候補生たちですね」

軍人のように、直立不動で動かない騎士候補生たち。

しかし彼らの視線は、少しだけ動く。ガイカクに対して注目してしまうのだ。

「ああ、あん時の。そうか、もう卒業か~。たしかセフェウ卿のご息女もいらっしゃるのでしたよね?」

「末の娘だ、だが気にする必要はない。貴殿に感謝しているが、それは私人としてのもの。騎士になるということは、死んでも文句を言わないということだ。私は引退間近まで活躍できたが、娘が初任務で死んでも名誉の戦死としか思わん。無論、娘にもその覚悟はあるはずだ」

あえて突き放すことをいうセフェウ。

しかし酷薄というよりも、真剣な眼をしている。

「いや……全員にその覚悟がある」

そうだろう? と、あえて問うことすらない。

丁寧なコミュニケーションとは言えないが、それが通じないほど彼らは無能ではない。

「はい! 我らはかつての屈辱を忘れぬよう、あえて『蠍騎士団』を旗印として戦わせていただきます! 騎士団の先輩方に劣らぬ働きを約束いたします!」

「けっこうです。それでは下がってください」

「はっ!」

下がっていく若き志士たち。

彼らが出ていったところで、オリオン卿は軽くため息をついた。

「聞いての通り、彼らの意気込みは本物です。ただその、力が入りすぎている感はありますね。その分精力的に修行をしていましたので、実力は申し分ないのですが……現場で下がる決断に迷いが生まれる可能性もあります」

「逃げ腰よりはいいんじゃないですか? 私たちは結構逃げ腰だったので、その点を注意されることもありましたけど……え、えへへへへへ」

「その君たちも、一時は三ツ星騎士団や貝紫騎士団と一緒だった。だが、彼らにそれはない。我らの状況も含めて大きな試練と言えるだろう。教師として申し訳ない……」

蠍騎士団の 烙印(・・) は、オリオンも苦しめている。

しかしそれから逃げずに立ち向かう姿は若くたくましい。

「まあ、若いのですから問題も起こすでしょう。私どもも今回は騎士団全体に助けていただいたのですから、蠍騎士団に苦難が訪れた時には尽力させていただきますよ」

げひゃひゃひゃ、と下品に笑うガイカク。

騎士団そのものへの帰属意識が高まっている言葉を聞いて、オリオンは安堵しており、セフェウも平静を装っているが安心しているようだった。

憲兵隊もそれを見ていろいろと察する。

(何か問題が起きた時、この男が力になるというのなら確かに心強いからな……)

ガイカクの助力を得なければならない事態。

それが起きないのが一番ではあるが、事件は起こってしまう。

蠍騎士団は以前の箒騎士団のように、騎士団総本部に戻ることなく、いくつかの任務をこなしながら移動していた。

経験が少なくとも、そこは優秀なトップエリートぞろい。彼らは多くの任務を難なく処理していく。

自信もつき、心にも余裕が出てきた時……。トラブルが発生した。

とある領地で頻発していた山賊行為。

オーガのエリートが少数のエルフと、多くの人間を従えて悪事を働いているという。

蠍騎士団はこれを打倒するために山へ入った。

彼らは万全の体調、万全の装備、万全の編成で立ち向かった。

相手のオーガがエリートでも、負けるはずがなかった。

しかし敵は思った以上に狡猾だった。

地の利を生かした罠や、伏兵の獣人の投入、軍から横流しされた魔導兵器などで蠍騎士団を大いに苦しめた。

結果として勝利こそしたものの、正騎士、従騎士の多くが再起不能のケガを負うことになってしまう。

彼らは付近の病院で処置を受けた後、大急ぎで騎士団本部へ移動したが……助かる見込みは薄かった。

ただし、ガイカクがいなければ、の話であったが。

奇術騎士団の本部に運び込まれた負傷者たちを、ガイカクは万全の医療体制で迎えていた。

騎士たちの生命力によってなんとか生き残っていたからこそ、彼は 砲兵隊(エルフ) や 重歩兵隊(オーガ) と共に治療を開始する。

憲兵監視のもと手術が始まっていたのだが(なお、多くの医師が見学を希望したが却下された)、負傷の軽い騎士たちは奇術騎士団の本部近くで仲間の無事を祈っていた。

特に、セフェウ卿の娘であるエリートエルフ、アンドロメダはとくに取り乱していた。

当然ながら待機していたセフェウに縋りつき、涙ながらに訴えている。

「お父様……いえ、セフェウ卿……ほ、報告、いたします。我ら、我ら蠍騎士団は、山賊討伐任務を、た、たっせい、達成しました。敵の山賊は殲滅し、現地の領主に死体を引き渡して……した、した、死体、死体……死ぬ……死んじゃう……す、すみません。任務完了、です」

「そうか」

「み、みんな……私を、私をかばって……あの時、守れなかったからって、身を挺して……私、魔術を使って戦ったんです。私は私の役割を果たしました……みんなも、役割を、果たしました」

「そうか」

「ちゃんと、準備したんです。気が緩みかけていたかもしれません、でも、準備したんです。でも、敵が強くて、早期に撤退しようとしたんですけど、逃げ道も塞がれて、塞がれて、それで……それで!」

「そうか……」

私人としてのセフェウは、娘に対して申し訳なく思っていた。

自分が貝紫騎士団を率いて参加していれば、彼女らに同行していれば、と思わずにいられない。

しかしそれは目の前の彼女に対する侮辱であり、現在も生きようとしている負傷騎士たちへの侮辱でもある。

彼はあえて、彼女を慰めようとしなかった。

「よくやった。お前たちは何も間違ったことをしていない。騎士団として恥じることは何もない、名誉は確かに守られた。今回の作戦は騎士団にとって誇りだ」

「はい……はい……お父様、お父様。もしも、もしもみんなが死んだら、どうしよう……!」

「彼らの強さを信じよう。そう簡単に死ぬような、やわな鍛え方はしていないはずだ」

「はい……!」

アンドロメダの体に傷はない。

蠍騎士団はエルフを抱える編成のセオリーをまっとうした。

それは甘えのない、確かな仕事だった。

彼らは不意の接敵にも対応しきれず、罠に陥ってしまったのだが、それでもなお 騎士団(せいえい) を貫いたのだ。

(どうなっても恨み言は言えぬが、我らが全力で助けた価値があると証明してくれ……ヒクメ卿)

人数が多かったこと、魔導兵器による汚染があったこと、運び込まれるまで日数が経過していたこと。

それらもあって、手術は一週間にわたって行われた。

ガイカク率いる奇術騎士団の尽力により全員が死の淵を脱し、再起可能となった。

手術から一週間後。

治療をひと段落させていたガイカクは、自室で違法なカルテを検めていた。

彼の傍にはオリオンがおり、今回の件について話をしている。

「ヒクメ卿、今回も大いに助けられました。貴殿がいなければ、全員命を落としていたでしょう。彼らの覚悟の上でしたが、あれほどの人材が失われることは騎士団全体にとって損失です」

「現場での従騎士による応急処置や、現地での治療が適切だったからですよ。そうでなければ、さすがにどうにもなりませんでした」

同盟相手であり幾度となく助け合った二人は、近い関係で対話をしていた。

「彼らは一時外部の病院に移し、ある程度の外出も許可なさったそうですね」

「術後の経過も良好ですからね。それに適度な運動をしたほうがケガの治りもよくなりますから」

「……外部の病院では『なんでもう歩けるんだ』と驚愕の声が出ているそうです」

「違法な施術をしていますからねえ、げひゃひゃひゃ!」

茶化すように笑うガイカクだが、やがて真顔になる。

「本当のお医者様なら、違法な医療行為はしませんよ」

「……おっしゃる通りです」

ガイカクが自分を医者ではないと 卑下(・・) することに、オリオンは心底から同意する。

ガイカクの技量がどうであれ、やはり彼は医者ではないのだ。

「医者は、医療従事者は、本当に大変な仕事です。俺は結局挫折してしまった。そんな俺ごときが本職の方に失礼なことをしているので、心苦しく思ってしまうのですよ」

珍しく過去を臭わせる言葉であり、地の見える誠実な言葉だった。

しかしオリオンにとって、あるいはほかの誰かにとっても驚くような内容ではない。

(やはりそういう過去もあるのか。そうでもなければ手術できるわけもないから、当然と言えば当然だが)

強ければ騎士が勤まるというわけではないように、医療技術があるからと言って医者が勤まるわけではない。

静かに共鳴している彼らのもとに、急報を持った憲兵が到来する。

「ほ、報告します! 現在入院中の蠍騎士団の正騎士たちが、その……治療が必要な状態になりました!」

「容体が急変したのか!?」

ガイカク以上に、オリオンが反応する。

しかし急報をもたらした憲兵は、気まずそうに報告を続けた。

「あの、それが、その……まず、オーガの正騎士は、飲酒を禁じられていたのに外出時に、その、大いに飲酒し、酔いつぶれたそうで……」

ここでガイカクの顔が、露骨にひきつった。オリオンの顔から力が抜けていた。

「ラミアの正騎士は、その、恋人に会って、その、盛り上がって……絡み合って、その、傷口が……」

ガイカクは無言で頭を抑えている。オリオンは顔を隠している。

「オークとリザードマンの正騎士は、互いに自分に責任があると主張し、その、口論の末、ケンカに……」

さらにガイカクの顔が赤くなった。オリオンの顔も赤くなった。

「人間の正騎士は、その、外出中に町でトラブルに巻き込まれ……その、市民を守るために、生体魔法陣が刻まれている状態で魔術を使用し……特に危険な状態に……」

報告している憲兵が申し訳なさそうにしている。

実に若い、若い騎士たちの失敗であった。

それの尻ぬぐいをするのが、立派な大人というものである。

「ほ、本当にねえ……医療従事者ってねえ、大変ですよねえ……!」

「おっしゃる通りです……申し訳ありません……本当に……よろしくお願いします」

この後ガイカクは激怒しながら現場へ向かい、副長も同行することになる。

迅速な処置によって全員一命をとりとめたが、そのせいで医療技術がさらに評価されたこともあり、ガイカクの精神的な安定は大いに乱されることとなった。

今回のことについてはセフェウとオリオンは平謝りし、生徒達に対して尋常ではない量の説教をすることになる。

『お前たち全員! 騎士団の恥だ! 死ね! すぐ死ね!』

『周囲に迷惑をかけおってからに! 騎士養成校に入学しなおせ~~!』

『すみませんでした~~!』

少年の失敗談やエピソードの裏側とは、こういうものなのであろう。

本当に迷惑なのである。