軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ティストリアが止めていた者たち

ティストリアは全騎士団へ非常招集をかけ、同時に自分たちだけでケリをつけるので手を出すなと各方面へ連絡していた。その中には当然、各騎士団のスポンサーも含まれている。

騎士団へ出資できるのだから、各々が有力者であり富裕層だった。奇術騎士団が壊滅したという公式の発表を受け取ることもでき、一つの事件に対して相反する内容の手紙を同時に受け取ることとなったのである。

その中には奇術騎士団のスポンサー、ラサル・ハグェ前公爵も含まれていた。

年配のメイドと二人きりで、自室で二通の手紙を読んでいるラサルは、メイドへ短く報告をした。

「奇術騎士団が全員死んだという公式発表と、奇術騎士団が不当に監禁されたので救助に向かうという騎士団からの連絡。その二つが手元にある」

「あらまあ、どちらが本物なのですか?」

「間違いなく後者だろう。公式発表にしては内容が簡潔過ぎる。おそらく発表している側も、まるで信じていないな」

「信じていないのに、政府は公式発表をしたのですか?」

「領主から正式な文書が送られてくれば、政府は公式発表するしかない。あとで修正する羽目になっても、その領主が悪いのだしな」

「公式発表すら一々裏を読まねばならぬのなら、公爵という地位はやはり窮屈ですね」

メイドと前公爵とは思えぬ距離感だった。

二人が私的な関係であり、プライベートの力関係もうかがえる。

「まったく窮屈なことさ。私が『君の息子』に可能性を残さなかったことも理解できるだろう?」

「その点に関しては、私だけではなく『私の息子』も最初からそのつもりでしたよ。貴方はちっとも楽しそうではありませんでしたからね」

「その理屈だと、楽しそうならねだっていたのかな?」

「言葉の綾です、聞き逃しなさい」

「わかっているさ」

リラックスしている様子の公爵に、メイドはいささか不機嫌そうであった。

「それで、『私の息子』の恩人である彼が監禁されていることに、何もしないのですか?」

「ティストリア閣下が、自分達だけでケリをつけると言っている。いくらスポンサーとはいえそこに口を挟む気はないよ。事が終わったあとでフォローするほうが喜ばれる」

「窮屈ですね。それにしても……」

前公爵の自室、その机に置いてある手紙。

本来ならメイドが読んでいいものではないが、彼女は広がっているものを眼だけで追った。

「蛮行を働いたのは前伯爵であるにもかかわらず、責任を取るのは現伯爵なのですね」

「地位を継ぐとはそういうことだ。大体、父親の暴走を止められない領主など、地位に就く資格もない」

「いいことをおっしゃいますね。以前の事件では『貴方の息子』が貴方の暴走の責任を取ったのですか?」

「『私の息子』も合意の上でやったことだ、暴走ではないよ。それとも、止めてほしかったのかい?」

「……失言でした。それで、貴方なら実父の暴走をどう止めるのです? 領地を継いだばかりではろくなこともできないでしょう」

「君は今でも賢いが、この手のことには素人だな。簡単な方法がある」

かつて生意気な少年だった前公爵は、その雰囲気を取り戻しつつ得意気に正解を明かした。

「勝利であれ敗北であれ、結果が出た瞬間に騎士団本部へ伝令を送るのだ。そうしておけば、父親が暴走しようとしても、制する形でこう言える」

「なんと?」

「今回の結果は、既に早馬で騎士団へ報告させています、とな。そうなれば前伯爵も、何もできなかっただろうよ」

いくら前伯爵が傲慢で独善的でも、奇術騎士団を監禁していたことが露見すれば身の破滅だ、とは理解しているはず。

情報封鎖が不可能な状態なら凶行に及ぶことはできまい。ほぞを嚙んで諦めるだろう。

「得意げに言うことでもないと思いますがね」

「そうか? 私が父親の立場なら、くそう、と悔しがりつつ、息子の成長を喜ぶがな」

「やはり政治は魔窟ですね、人がいるところとは思えません」

「むむぅ……まあとにかく、現伯爵がなんとかするべきことであり、同時になんとかできたことだ。責任は彼にあるよ」

てっきり感心してもらえるものだと思っていた前公爵は、少し拗ねた顔をする。

「ところで、騎士団が敗れた場合はどうなさるので?」

「私もそれなりの手を打つ。君に言えないようなことをしたと、君と君の息子に報告するよ」

「頼もしいことです」

メイドがこの距離を許されているのは、弁えているからである。

私的な関係を越えた提案や要請をすれば、この妖怪は速やかに動くだろう。

彼女はそれをしっかりとわかったうえで、彼に一礼をして去っていった。

「そうだとも。『君と私の息子』の恩人が不当に監禁されたのならば、私は誠意を持って行動するさ」

ティストリアが止めているからこそ、彼は動いていなかった。

もしも救援要請を出されていたのなら、もうすでに動いていただろう。

リラックスを装っていた彼は、ご婦人に見せられない凶暴な面を顕にしていた。

大都市、ライナガンマ。

先日マルセロ軍に包囲され、危機的な状況に陥っていた。

騎士団の電撃的な作戦によって解放されたことにより、大都市全体が騎士団のファンになっていた。

講談師は彼らがいかに勇敢で精強だったのかを語り、吟遊詩人は騎士団の歌の新作を作り続け、劇団では空の旅を面白おかしく演じていた。

奇術騎士団御用達の看板を立てた店には毎日客が並び、奇術騎士団(と同盟関係にある三ツ星騎士団)のスポンサーになった富豪たちは名士としての格を上げていた。

ガイカクの笑い方をマネする子供、ガイカクの服装をマネする若者、ガイカクのようになれるよう勉強しろと叱る大人。

猫も杓子も騎士団、奇術騎士団、ガイカク・ヒクメ。

そのように戦後とは思えぬ好景気を迎えていたライナガンマであったが、奇術騎士団が壊滅したという公式発表と、不当に監禁されているので救援に向かうという連絡が届いた時……。

大都市は混乱と熱狂に包まれてしまった。

市民は公式発表をした政府に怒り、ティストリアが自分達だけで解決するという判断を下したことに悔し涙を流した。

いまこそ恩を返す時だというのに、何もできないのである。

ああ、我らにも気球があったなら、身一つでも助けに向かったというのに。

市民らは怒っていたが、有力者たちも大いに怒っていた。

とある大商人は番頭へ『若いのに武器を持たせろ!』と叫んでいた。

とある老貴族は『馬を出せ、儂も出るぞ!』と武装する。

とある豪農は『ありったけの塩を用意しろ、奴らの土地にばらまいてやる!』と恐るべき計画の準備を始めていた。

そしてライナガンマを統べる領主、ライナガンマ公爵など憤死する勢いで血圧を上げていた。

「ティストリア閣下には申し訳ないが! 我らライナガンマは動くぞ! 誰が止めようが、内戦になろうが、戦国時代になろうが知ったことか!」

「おっしゃる通りです! 公爵閣下! 既に近隣の領主も同調しております!」

「騎士団へ救援要請を出し、疲弊したところを叩くなど鬼畜外道の所業! かかる国賊を放置しては、他国、他種族からも笑われましょう! 否! 我らもまた同類扱いされかねない!」

「騎士団の手を煩わせるまでもない! 我らが先行し、そのまま決着をつけましょう!」

先代カーリーストス伯爵は、一声をかけるだけで六千もの兵を動員できた。それはそれで彼の実力であり人徳である。

如何にガイカクを確保しているとしても彼が本当に無能なら、爵位を継がせた後でそこまで人を動かすことはできなかっただろう。

彼は彼の領地に置いて、名君ではあったのだ。

しかし、奇術騎士団の人徳は比較にもならない。

助けに来なくていいと言っているのに、大都市一つ、その周辺一帯が決起していたのである。

止めようとする者さえ敵認定する、一触即発の貴人たち。

だがそれでも、諫められる者がいた。

先日の防衛線で、騎士団と共に戦った騎兵隊の長、クレス家の若き当主である。

「ごほん。ここはティストリア閣下にお任せするのがよろしいでしょう」

彼もまた英雄であったため、その発言を無下にすることはできなかった。

「そもそも、もう手遅れでしょう。今頃は既にティストリア閣下はカーリーストス伯爵領に達し、奇術騎士団を救助しているはず。我らが手紙を受け取った後で動いても、迷惑になるだけでしょう」

「それはそうかもしれぬが! 貴殿は平気なのか!? いかに騎士団が精強といえど、一つの領地を攻め落とすなど容易ならざること!」

「左様! 恩人の窮地に何もせず、ただ報せを待つなど、武人として耐えられるのか!?」

ここでクレス家の当主は、鼻高々で答えた。

「私の妹、クレス家のヘーラが! 豪傑騎士団を率いて参戦していますので! 我がクレス家は、そのようなうしろめたさなどありませぬな!」

物凄くマウントを取ってくる彼に非難が殺到してくる。

「狡いぞ! ずる過ぎるぞ! そのポジションをよこせ!」

「ああくそ、ウチからも従騎士の一人でも出しておくんだった!」

「おのれ、クレス家! なんという、なんということだ!」

「はっはっは! とにかく、ここはティストリア閣下にお任せしましょう! 彼女からの、たっての願いなのですから!」

色々な意味で発言権が強いクレス家当主が、暴走しそうになる者たちのヘイトを集めて、なんとか抑え込んでいたのだった。

なお、ヘイトを集める彼の顔は、優越感でびちゃびちゃになるほど浸っていた。

注意

砲兵隊は彼らに救援を要請するつもりでした。