軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

373.偽アナト

「あででででで!」

「わはははは! すまん!」

レオの攻撃が『替わり鳶』に対象をすり替えられて、シンに当たる。

『替わり鳶』はこちらの攻撃の対象をすり替える。魔物を狙ったはずが、パーティーメンバーに攻撃が当たる。

他の魔物もいるが、クセがあるのは『替わり鳶』で、他は比較的対処しやすい。

私たちのパーティーは全体的に生命が低いので、盾役の菊姫以外に避けられないダメージや、大きめのダメージが来ると途端に阿鼻叫喚になる。その点、ここの魔物は全体攻撃をしてくることもなく、スキルを使って敵視を集めている菊姫に素直に攻撃を集中させている。

「替わるのシンとレオに固定なんだよね。何か条件があるんだと思うんだけど」

そう言いながら【回復】をかけるお茶漬。

『替わり鳶』のすり替えの対象が、ずっとシンとレオなのだ。

「新しい『替わり鳶』との遭遇でも、層を移動しても変わらない。職や能力で狙われるにしては、 密偵系(レオ) と 格闘系(シン) だしね。層の移動に関してはまだ3層分だし、偶然もあり得るけど」

お茶漬と同じく、ペテロもまだ選ばれる条件が理由がわからないようで、首を傾げている。

「完全ランダムでずっと選ばれてるのなら笑う」

「この二人だとありそうでし」

あまり深く考えずにいる私と、その意見に同意する菊姫。

「ぶあああああっ!!!」

今度はレオにシンの攻撃が当たる。

殴っているのは確かに魔物の方なのだが、攻撃のエフェクトがレオに出て、ダメージが入るのもレオにだ。

「別にいいじゃん、わかんなくても」

シンが言う。

「このメンツなら不都合はないけど、他人と来るとき困る。【回復】〜」

そう言ってお茶漬がまた【回復】をかける。

「分かるに越したことはない。条件がわかったら任意で誰が受けるか選べるからな」

誰が攻撃を受けるか相談して、決まった者がその条件をクリアすればいい。

私はほぼ野良パーティーには入らんので、問題ないんだが。いや、白たちと来た場合、困るな。

「回復役が対象になるのは避けたいね」

ペテロの言うように、回復役のお茶漬に行くのは防御力も回避も低いので困る。このダメージの肩代わりについては回避はあまり関係なさそうだが。

「僕の安全確保は絶対ですね」

真面目な顔で頷くお茶漬。

本人はそつがないのに、レオとシンに巻き込まれてひどい目にあっているイメージしかない。

「他人と来る時は攻撃を控える方向かな」

笑顔のままで攻撃をするペテロ。

ダメージを受ける対象がなんの条件で固定されるかはわからないが、『替わり鳶』が対象を替えるスキルを使うのは、一段下を飛んでいる時とわかっている。

ただ、『替わり鳶』が下に来るタイミングが、上で二度大きく羽ばたいたものの中から、ランダム。二度羽ばたいたところで、下に来るか警戒して攻撃の手を止める――のは、時間がかかるため、ガン無視で攻撃をしている。

結果、レオとシンがダメージを食らい、お茶漬がまめまめしく【回復】をすることに。なかなかひどいが、進行速度は早い。

お茶漬がシンとレオの生命量をきっちり把握しているので、【回復】しすぎで魔物が攻撃のターゲットをお茶漬に移すこともなく平和な道中だ。

レオとシンの叫び声はこだましてるが。本人たちも、もたもたやるよりやってしまえ! とのことなので。

結局、『替わり鳶』の条件がわからないままボス前。EP回復のための食事は、痛い目にあっていたレオとシンのリクエストで唐揚げとアイスクリーム。

「揚げたてあち〜っ!」

「わははは! やけどにはアイス! アイス! アイス!」

なお、唐揚げとアイスは一緒に出すよう要求があった。

「美味しい、美味しいけど落ち着かない! 溶ける!」

お茶漬。

「アイス好きでしけど、唐揚げに合う冷たいものはビールでし!」

「激しく同意」

菊姫とペテロ。

「おっと! 危ねぇ!」

シンが傾いたアイスを齧ってずり落ちないようバランスを取る。

アイスはミルク、チョコレート、キャラメル、チョコミント、ストロベリー、ナッツ、抹茶。ラムレーズンと酒につけたアメリカンチェリーのアイス、綺麗なピンク色に黒に近い赤の果肉の入った酒の味が濃いもの。

この中から選んで3段である。カップではなくコーンを要求されているので、バランスがですね?

「唐揚げ食べてると落ちる! 落ちる! なんでこんなチャレンジしながら食べなきゃいけないの? 僕もっと落ち着いて食べたい!」

お茶漬は苦戦中。

「わはははは!」

「レオの陰謀でし」

「揚げたての唐揚げを取るか、アイスを取るか――本当になんでこの指定?」

困惑しているペテロ。

「せめてアイスにカップが許されていれば……。レオは何故、食事にエンタメ性を求めるのか」

私のせいではない。

主導はレオ、シンはそれにノリノリで後押し。リクエストを聞くと言ってしまった手前、用意したのは私だが。せめてもと、コーンはへたり難いワッフルにしてみた。ゆっくり食べたいです先生。

騒がしい休憩を終え、ボスへ。

乾いた大地に通り雨が降る。どこからか猛禽の上げる声が聞こえたかと思うと、足元に刺さる一本の矢。

「矢?」

「人型の敵かな?」

ペテロが予測する。

そして現れる、ライオンに乗った少女。猛禽の鳴き声は何の演出だったのか。

「ヤーヤー!」

弓を番え、引き絞り、駆け抜けざまに放ってくる。

「矢だけに?」

シンが少女の掛け声にツッコむ。

「きゃーでし! 攻撃も運も引き寄せる【幸運の的】でし!」

慌てて菊姫がスキルを使う。

「新スキル? 【回復】!」

付与をかけながらお茶漬が聞く。

「そうでし、飛び道具なら確実にあてちに引っ張れるでし。代わりにダメージは1.1倍、受けるたび幸運が少しだけ上がるでし」

菊姫が答える。

「……なかなか痛そうな。【黒耀】――」

ボスの少女が放ってくる矢は当たるとドスドスと嫌な音を立てるので、なおさら。

「幸運上がると、攻撃を逸らせる確率が上がるんで便利って聞いたでし。実体がある飛び道具にしか効かないでしが」

どうやら魔法やスキルで飛んでくるものは除外らしい。

「使い所が限られそうね。でも僕、物理防御高くないからありがたい」

お茶漬が言いながら、飛び出していったレオ、シン、ペテロの3人の背に付与を飛ばす。

遠距離攻撃な弓矢や魔法は、大抵盾役を通り越して後衛の回復役や魔法使いを狙ってくるのである。

「ヤーヤー!」

「やー! やー!」

少女の真似をしながら攻撃を仕掛けるレオ。

「ところで、これがアナトじゃない?」

毒を入れながらペテロが言う。

「え!? アナトって鳥じゃねぇの!?」

クエストが出ているはずのシンが、驚きながらも攻撃を入れ……損ねた。

「どう言うクエストなのよ?」

「迷宮のアナトが持ってる羽持ってこいって」

シンがお茶漬に答えながら、ライオンを追いかけ、今度は攻撃を入れた。

「乗ってるライオン、割と早いな。アナト『の』ならばともかく、『持っている』ならばアナトは鳥ではないだろう。というか、バアルの妹か」

カナンの嵐と慈雨の神にして、 崇高なるバアル(バアル・ゼブル) 。のちに 蝿のバアル(バアル・ゼブブ) と呼ばれた古い神様。――その妹。

「あ、違うかも?」

「違うのか」

よかった蘊蓄語らなくて。

「偽物が盗んだ羽を取り返して、本物のアナトに捧げるとかなんとか。なんで、ここのは偽物のアナト?」

シン本人がよくわかっていない感じで説明してくれる。

私的には聞いた断片だけで、高レベルなクエスト、しかもさらに先のあるクエストの気がしてしょうがないのだが。

「一体、どこでそんなクエスト受けて来るの?」

ペテロも同じ感想を持ったのか、少し呆れた声で。

「 賭場(とば) で一緒になった爺さんから!」

シンがコンボを叩き込みながら言う。

「ちょっと! またカジノよりリスクが大きい賭け事してるんじゃ……!」

「やっぱ、ゲームなんだからちょっとくらい危ない橋を渡んねぇと!」

お茶漬の問いを否定しないシン。

「本人の命くらいならいいでしけど、巻き込まないで欲しいでしねぇ。保証人には絶対ならないでし」

菊姫がしみじみ言う。

「わはははは! ……俺、なんか賭場でシンから頼まれたのにサインした!」

笑いながらレオ。

借金の保証人にされてる疑惑発生。

「というか、一緒に賭場に行ってるのか……」

「時々! いい釣りポイントとかも教えてくれる!」

どう言う交友を結んでいるんだろうか。もしかしたら、ハイリスクハイリターンは、金銭だけではなく、この世界の情報も、か?

ペテロとはまた違った裏の世界に片足突っ込んでる二人に見えてきた。本人たちにも自覚はなさそうだが。

「まあ、獣人二人ならいいんじゃない?」

「新しいパーティーメンバー探さないと」

ペテロとお茶漬。

「え! ひどい!」

「え〜ッ!?」

まあうん。日頃の行いだな。

「遊んでる間にあちらさんがやる気だぞ」

掛け合っている間に、アナトにダメージが蓄積されたか、それとも時間でそうなるのか。

すでにライオンの姿はなく、少女がひとり花を散らしながら、空中に浮かんでいる。一見可憐に見えるが、気配は不穏。

「うわっ! なんかおっかない!」

レオが引くくらいには不穏。

「とりあえず防御あげとこっか」

付与を施しながらのお茶漬の提案に、私も【黒耀】を喚び出し『闇の翼』、【ドルイド】『エオロー』と、思いつく防御スキルを使う。