軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

359.面倒な敵

起床。

「主、おはようございます」

カルがにこやかに温めの紅茶を差し出してくる。その後ろでげんなりしているガラハド。

「ありがとう」

寝ていないな、さては?

ここは完全な安全地帯――どう考えてもログアウトするための場所なので、たとえイベントが起こるとしても部屋に入ってすぐか、 ログインし(もどっ) てすぐだ。それ以外で魔物が出たら運営に非難轟々だろう――だと伝えたのだが。

不寝番をすると言うカルの説得を諦めて、ガラハドは途中で「寝る!」と宣言して、隣で早々に布団にくるまっていたはずだが、結局落ち着かなくて起きた感じか。

それにしても、私だけベッドの中というのも落ち着かない。

「朝食にしよう」

お茶を飲み終え、起き出す。

『清潔』をかけて、ベッドをしまい、代わりにテーブルを出す。ボス前のエリアと、転移のためのこの部屋はマルチエリアといって、他のプレイヤーと一緒になることがあるが、ここは他のプレイヤーが来るような深さではないのでやりたい放題だ。

本日のメニューは、バゲッドのフレンチトースト、コーンスープ、ベーコンエッグ、チーズの入ったサラダ、ヨーグルト、牛乳と紅茶、ガラハドにコーヒー。

カルのフレンチトーストに粉砂糖追加、起きていた二人にスペアリブ追加。

「時間はあるが、上がるぞ。寝てないみたいだしな」

少し水切りしてあるヨーグルトに蜂蜜を落としながら二人に告げる。

「2、3日寝ずともさしたる影響はありません」

微笑むカル。

「寝ていないみたいだしな」

微笑み返す私。

「……」

「……」

笑顔のまま落ちる沈黙。

「あー。ジジイの歳を元にもどさねぇとあれだし、次で上がるってのはどうだ?」

コーヒーを飲みながらガラハド。

カルの年齢は、攻撃で一番力を発揮できる年齢まで戻っているのだそうだ。守り系のスキルを使うと、防御で一番力を発揮する年齢――いつものカルに戻る。どっちもファルからの武器固有スキルと称号が影響しているそうで、あの残念女神ならば、さもありなんというへんな納得をした。

エカテリーナのあの凶悪な武器も使った者が若返ったな。あれもファルの武器固有スキルなのか? ファルにはそういった司るものがあるのかもしれない。「若返り」というより、「全盛期にする」の方かもしれんが。

なお、攻撃はヴェルスのほうが、防御はドゥルのほうがスキル的には強いそうです。そこに持っている称号が混じるとまた変わる、とのこと。

「次は交代で休みます――」

カルが珍しく視線を逸らして言う。

番自体がいらんのだが。それに、そっとガラハドが「次に」巻き込まれておるような気がするが、とりあえずよしとしよう。

「では次のボスで戻ろうか」

あとでガラハドにはラーメン餃子を作ろう。ラーメンの存在、レオにばれんようにせねば。

称号【隠れたる織姫】これは、各属性のバランスを整える効果があるようだ。

木の属性のスキルや魔法は、火の属性の魔法やスキルを強化する。水の属性は逆に火の属性の勢いを削ぐ。スキルでなくとも、誕生日や神々の祝福で左右される個人の属性の影響などを、調整する働きがあるようだ。

戦闘については、味方同士の属性強化は結び付け、勢いを削ぐ属性の間には自身の持つ他の属性を置く、敵に対してはその逆。生産では、複数の属性をつけた時の効果のつき方に影響するようだ。

『白鶴の織り機と 杼(ひ) 』は、そのまんま機織り機セット。もらっても困るのだが……。しかもソロ討伐の装備やアイテムは譲渡不可――いや、パートナーカードを登録したガラハドや、ペットや召喚獣には所有権はそのままで貸し出せるようになったんだったか。

クズノハあたりに使うか聞いてみよう。

白鶴大夫の横笛。これは楽器の素材か使い捨てアイテムのようだ。楽器の素材といっても、武器としての楽器だが。アイテムとして使う場合は、使い捨てになるが、ボスを含め音が聞こえる範囲の敵をごく短い間行動不能にする。

で。『男の娘の心』。

これは闘技場で得られる『性転換薬』やらオーブの一種で、その名の通りのキャラの見た目に変えられるらしい。いらん。

オークションに出すか、お茶漬に頼んでおけば高く売れそうな気はするので、その方向で。

私のキャラは自作で気に入っているが、キャラクリエイトが思うようにならなかった人も多いらしく、闘技場の恒久的にキャラの見た目――性別に限らず――を変えるアイテムの類は、需要は多くはないものの高値がつくのだそうだ。

キャラクリエイトは一から作ったり、リアルの自分を読み込んだものに手を加えて作ったり、人が作った素体を買ったり。すでにゲームに用意されている素体を元に作る人が一番多いが、それでも器用不器用は出てしまう。

それを金で解決する人もいれば、リアルマネーは断固拒否! という人もいる。後者の中の、ゲーム内マネーでなら! という人に売れる感じ、とお茶漬が言っていた。

よし、 迷宮(ここ) を切り上げて余った時間はオークションを覗いてみよう。確か、一般的なアイテムや素材系はフォス、少し変わったアイテムや特殊効果がついた装備はファガットの島、聖法や魔法系の装備はアイルの都市ルルシャに持ち込まれることが多いんだったか。

アイルでの戦勝会が終わったタイミングで、おそらくエルフ大陸への港と船が解禁となる。異邦人で乗船の条件を満たしている者は多くないが、できればあれこれ情報が出回る前に、新天地には行ってみたい。

それまでに色々人間の大陸で済ませておきたいことは済ませておかないと。まだ行っていない場所がたくさんあるので、とてもではないが回りきれないが。あとはクランの手伝いか。

『蓄魂の香炉』と鵺については、むしろ私が手伝うと難易度が跳ね上がりそうなので、不参加なせいでこうしてぶらついておるのだが。他に帝国とアイルの住人の好感度が一定以上必要らしく、そちらは手伝う予定でいる。

おそらくアイルで細々としたイベントをこなし、帝国戦に参戦、鵺戦後は帝国でしばらく細々としたイベントをこなして、という手順なのだろう。

なのだが、鵺戦への貢献度で上がったのか、私はどちらも余裕でクリアしている。

朝食を食べ終え、出発。

まずは一匹。

迷宮は最初、敵の数が少ない親切設計。

敵はカツオノエボシのようなクラゲ、薄く光って空中に浮いている。名前も『カツオノオオエボシ』なのでそのまんまだ。半透明の体にほんのり青や紫、赤の色がついており、下側が濃い。うねうねとうねるちぢれ麺のような色の濃い触手。

おそらくこの触手は胞刺を持ち、毒やら麻痺やらを引き起こすのだろう。カツオノエボシは割と綺麗だが、危ない生き物だ。

「ぎゃっ! 痛ッ!」

様子見で踏み込んだガラハドが、腕を触手に巻かれ悲鳴をあげる。

ガラハドの体の表面に一瞬エフェクトが現れる。何か状態異常が入ったか?

ガラハドはそれに構わず、踏み込み本体に剣を叩き込む。ふわりとというか、むにゅりと剣が受け止められ、攻撃が殺される。

「うぇっ! えげつねぇ!」

えげつないのは、与えるはずのダメージが大幅に軽減されたことではなく、ガラハドに入ったスリップダメージ。ごっそり減った。

「【流水の隔たり】」

ガラハドと『カツオノオオエボシ』の間に盾のような水が現れ、その流れにガラハドを追った攻撃が流され、あらぬ方へ弾かれる。

これ、一匹じゃなかったら他の敵に攻撃返りそうだな。そしてカルの歳が戻った。プレートメール姿がどっしりさんに。いや、もちろん大盾を使うガウェインほどではないが。当社比というやつだ。

「【神聖魔法】『異常回復』、『回復』」

「ありがとさん! スリップ入る時、一瞬硬直するぞ」

この世界のスリップダメージ――一定時間、ダメージが継続する――には、絶え間なく徐々にHPが減少していくものと、十秒に一度などの頻度で一定量のダメージがくるものがある。後者は時々他の何らかの効果付きということもあり、ガラハドの硬直もそのせいだろう。

「触れるあたわず、【水明の剣】!」

暗い迷宮の中、透明な水はいっそ黒く見える。

そしてまた若カルに!? 鎧がシュッとした!

「うわ!?」

カルの鎧は置いておいて、『カツオノオオエボシ』がむちむちになった!

「失礼」

私が驚いている間に、踏み込み通常攻撃でさっさと倒すカル。

「どうやら属性かスキルか――強化をしてしまうようです」

剣を納めながらカルが言う。

「ん? ここは流石に初めてか?」

「通ったことはあるのですが……。残念ながら、討伐知識的な意味ではお役に立てそうもありません」

微笑むカル。

そういえば六十層で迷宮討伐の記録としては最深部か。シーフ系の職が、戦わないまま次のボス前までは行っているので、到達層は六十四層と聞くが。

「ガラハド、替えの剣は? お前のその剣は打撃属性の方が強い、どうやら斬撃属性ならば弾かれずにゆく」

討伐知識では役に立たないといいつつ、ガラハドに伝えるカル。

「うえ、大剣以外使うの、すげぇ久しぶりなんだが」

ぼやきながら剣を替えるガラハド。

ラーメンから変更して、斬撃属性よりの大剣を見つけて贈ろう。私も杖メインから刀剣メインに変えて五十一、五十二は問題なく。

五十三層からは少々歩みが遅くなった。一度に現れる敵の数が増え、数匹がかりで触手を張り巡らせるため、避けるのは困難。もう少し回復をこまめに入れたいのだが、そうすると敵のターゲットは私に移る。

移るのは構わないのだが、ターゲットを移す時に他の個体の触手同士が絡むと状態異常が強化されるというオマケがついてくる。進むにつれ、同じ敵だがレベルが上がるため、一匹を倒すまで手数もかかるようになってきた。

「眺めるだけならばそれなりに綺麗な造形ですが、なかなか面倒な敵ですね」

カルが言って伸びてきた触手を払う。

属性でなく、スキル攻撃を受けると『カツオノオオエボシ』が強化されるとがわかった。盾のスキルもダメというか、スキルのエフェクトに触手が絡んで明らかに力を吸う。

数分は持つはずのスキルが崩れ、攻撃スキルと同じく、エボシが強化される。強化されたエボシくんは本体も触手もぱんぱんに膨らんで、見た目的にやばい。どういう方向にやばいかはムッツリ的に言わないでおく。

まさか残念女神の趣味じゃないだろうな? カミラがいなくてよかった。

「ああもう、うぜぇ! 【 一身抱火(いっしんほうか) 】」

ガラハドが自分の身体ごと触手を焼き、焼け落ちる触手を追って本体に剣を叩き込む。

「なるほど、直接食らわなければ強化されないのか。間接はOKと。――治すか?」

使った者にもダメージがくるスキルのようで、ガラハド本人にも【燃焼】の状態異常がついている。

ただ、『カツオノオオエボシ』からくらった状態異常のようなHPの減り方はしておらず、燃えているガラハドを触手が避けるような仕草を見せるので、治さないほうがいいかもしれない。

「いや、このまんまの方が都合がよさそうだ。俺に【火属性】のダメージはそうきかねぇしな。今日は、さらにダメージが少ない気がすっけど、ホムラ、またなんか称号とったのか?」

ガラハドも同じ結論に至ったらしく、治療を断ってきた。

称号は、取り立てほやほやのあれですね。

「とっ、赤いヤツ以外か」

赤い色をした『カツオノオオエボシ』の触手は遠慮なくガラハドに伸び、そして【燃焼】によるダメージを受けている様子はない。ありがちだが、色は属性か。赤は【火属性】で火に耐性があるのだろう。

「【結界】『反射結界』、【火魔法】『クリムゾンノート』!」

自分とカルとガラハドに『反射結界』。浮いたクルルカンの杖を離れた『クリムゾンノート』が真上に上がり、3人に降り注ぐ。『反射結界』の薄い光に弾かれた紅蓮の炎は、勢いを増し『カツオノオオエボシ』に渦を巻いて向かう。

うむ。すっきり、すっきり。