軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

340.鵺というモノ

「主、おかえりなさい」

「おかえりなさい、主」

ラピスとノエルが早足で部屋に。

「お疲れ様」

笑顔で寄って来た二人の頭をなでる。

ラピスはなでろとばかりに頭を突き出してくるので、遠慮なくもふもふと。ノエルも遠慮がちになでやすい角度に首を傾げる。ノエルはもふっというよりさらさらしっとりだな。どさくさに紛れて耳の付け根や耳の後ろをふにふにして良いものだろうか?

「おう、終わった、終わった。――げっ」

後ろからのんびりついてきたガラハドが、部屋の中を見て嫌そうな顔をする。

「?」

なんだろうと思い、その視線の先をたどる。

微動だにしないカルとマーリンが笑顔で対面している。背景にゴゴゴゴゴとかつきそうだ。

カルは紅梅とも微妙な緊張感なのだが、主導権争いだろうか? 騎士生活というか、城生活が長いと上下を決めないと落ち着かないものなのだろうか。面倒なのでつい放って、『天地魂魄の刀剣』に何の効果をつけるか考えていたら、結構な時間が経っていた。もしや、ずっと睨み合っていたのか?

「仲がいいのか悪いのかわからんな」

マーリンの私への態度が 大仰(おおぎょう) なのも、特に私に敬意を払っているわけではない。芝居がかった大袈裟な仕草を好むということもあるのだろうが、半分以上はカルの反応を見て楽しんでいるようだ。

「もうちょっと気にしろ!」

小声で私に抗議してくるガラハド。

「いや、二人は私より長い付き合いなのだろうし」

古い友の間に私が割って入るのは 烏滸(おこ) がましい気がする。

「おやつはベイクドチーズケーキだが、食うか?」

「食う」

短く答えるガラハドと、花を飛ばしそうな顔のラピスとノエル。ガラハドも二人のことは早々に諦めたらしく、放っておくことにしたようだ。

もう一つホールを出す。さすがに4分の一ずつは多いか? とりあえず6分の一ずつに切り分け、生クリームとベリーのソースも追加。

「主、お茶のお代わりはいかがですか?」

何事もなかったかのような顔で微笑むカル。

「ああ、頼む」

睨み合っていると思っていたのだが、切り替えが早いな。

カルが参加なら、先ほどとは他のケーキにしておけばよかったかと思いつつ、お代わりは絶対するだろうという信頼の元、カルの皿に余ったチーズケーキを載せる。

マーリンが何か異様なモノを見る目でカルを見ている。甘味が好きなことを知らなかった、というか、隠されていたようだが、雑貨屋では日常的な光景なので早く慣れた方がいいぞ。

「幸運を必要とするようなスキルを持っておったか……?」

眉間に皺を寄せて考え込む様子のマーリン。眉間に皺を寄せるのは老人だった時の癖なのか、今の子供の姿でも結構縦に深い皺。もう少しはつらつとしてもいいのではないだろうか。

肉料理は 力(STR) 、穀物は 耐久(VIT) 、お茶は 知力(INT) 、野菜は 精神(MID) 、卵は 器用さ(DEX) 、魚は 素早さ(AGI) 、甘味は 幸運(LUK) 。カルは何か幸運が高い状態で使えるスキルを使っている? ――ニンジンを食わないことで使えるスキルもありますか?

マーリンの話の断片から妙なことを考えつつ、みんなが食べるのを眺める。マーリンはまだ眉間に皺、目を細めて探るようにカルを眺めている。

「主、おいしい!」

ベイクドチーズケーキを飲み下し、嬉しそうにラピスが言う。

「またつけてるぞ」

ラピスの頬についたクリームをぬぐう。

口の端にクリームをつけて、むぐむぐと食べる姿は可愛らしいのだが、ご家庭の躾的にはどうなのだろう? その辺わからん。ラピスはクリームたっぷり、ソースは少なめ。頬につくのは載せる量の加減がまだ上手くいっていないからなのだろう。

「美味しいです。レモンですよね?」

ノエルはクリームもソースも少なめ、レモンの風味が好きなのかな?

「毎度、美味いな」

ガラハドは甘い物に対しては適当。

私は淹れてもらった紅茶を飲む。紅の強い綺麗な色の、クセがなく香りの良い紅茶だ。白と飲む時は、ベリー系に偏るので有難い。

座り心地の良いソファ、フォスで選んだ消えない食器、中庭の窓から差し込む夕暮れのオレンジの光。ここにカミラとイーグルが帰ってくれば完璧なのだが。

「湖の騎士の養い子、儂の傍でくつろぐとはそなたも剛毅なものだな。 幼児(おさなご) 二人はおくとして、そなたは儂がどのようなモノか知っておろうに」

ガラハドに視線だけを向けてマーリンが言う。

ぴこんと耳を動かすラピスとノエル。そして、あー……という感じで面倒そうに口を開くガラハド。

「大魔道士、大賢者、森の賢者……、ほとんど姿を見せることもなく、得体が知れなかった時は無駄にびくついてたことは認めるけどよ」

森の賢者はやめろ、ガラハド! ゴリラを思い出すだろうが! フォークを皿に置いて答えるガラハドに心の中でツッコむ。

「今はホムラの『封印の獣』だろ」

なんとも言えない顔でマーリンに告げるガラハド。

「ふん、古き友の養い子に良いことを教えてやろう。『封印の獣』をなんらかの方法で手に入れたとして、そのままその者に仕え続けるとは限らぬ。特に我が性となりし 鵺(ぬえ) は、終わりの蛇クルルカンと並び、裏切りの代名詞じゃ」

悪い顔でくつくつと笑うマーリン。私の袖口から顔を覗かせるクルルカン。

「呼んでないが、食うか?」

呼んだ? みたいな顔でこちらを見るクルルカンに、小声でささやき、小さなクッキーを出してやる。

違ったのか? みたいな顔をして周囲を見回し、知らない顔――マーリンと目があって、慌てて袖の中に戻る。戻ってすぐに顔を出し直して、クッキーを回収、また中に戻る。

「服の中で食うのは控えて欲しいのだが」

『清潔』はあるが、気分的にこう……。

などと思っていたら、胸元からズボッと黒が出て来て、そのまま停止。

「……」

あ、はい、クッキーですね? 口元に持ってゆくとバクっと咥えて、服の中に戻る。

「服の中で食うのは控えて欲しいのだが」

2回目。

甘やかしすぎたろうか。ああ、バハムートを呼び出して、磨かないと。

「――なんじゃ今のは」

先ほどまでの悪い顔を、不審な顔に変えてマーリン。

「あんたが名前を出したクルルカンと、サディラスの神殿にいたアルドヴァーンが融合したミスティフ。アルドヴァーンのことは、どうせ知っているんだろ?」

ニヤっと笑いながらガラハド。

「意味がわからぬ」

私の袖口を眺めて表情を変えぬまま呟くマーリン。

「とぼけんなって。どうせサディラスの……」

「そちらではない、それは儂の仕込みじゃ。知っていて当然であろう。――クルルカンだと?」

ガラハドの言葉を遮って、マーリンが言う。

過去の悪事の告白がさらっとあった気がするのだが。追及すると現在の飼い主の私の責任になるのだろうか……。

「対戦中に自分でクルルカンの姿をとっていなかったか?」

見ているはずだが、と思い問う。

「己自身で他人の中の幻影を見ることは叶わぬ」

袖口に視線を固定したまま短く答えるマーリン。使った本人には見えない仕様か。

あと、視線ばかりであまり体を動かさないのはおじいちゃんだからか、倉庫属性だからかどっちだ。

「クルルカンを倒し、支配している、と。知識を求めた終わりの蛇、魔法の真髄、叡智……。ば、馬鹿な……」

驚いた顔で呟くマーリン。

呟きの後半私も驚くわ! にょろに対して、どういう認識だ! あとクルルカン、顔だけ出して羽根を膨らますのやめろ! 手首がくすぐったい!

「『白き獣ハスファーン』『傾国九尾クズノハ』『終わりの蛇クルルカン』『かつての竜王バハムート』『永遠の少女アリス』、そしてこのほどの『雷獣 鵺(ぬえ) 』。『毒の鳥シレーネ』はエルフの住む森にいることは確定しておりますし、もう少しですね主」

にこやかに告げるカル。

「はっ?!」

凝固を解いて、ばっとカルを見るマーリン。

「ジジイ、畳みかけるのやめてやれ」

ガラハドが言う。

「待て、何がもう少しだと言うのだ!?」

「当面の目標として、『封印の獣』のコンプリートを目指している」

何か慌てたようなマーリンに私の方向性の提示。

「な……?」

「ああ、マーリンは 雑貨屋(ここ) にいてくれるだけでいいぞ」

倉庫だし。

外にも喚び出せるようなのだが、私には【ストレージ】があるので不要。だが、雑貨屋にいて貰えば、開店すぐに売り切れるということもなくなるし、何より雑貨屋の倉庫がほぼいらなくなるので、その分部屋が広く取れる。

開店直後に売り切れということは少なくなって来たのだが、新しいダンジョンが見つかった時や、イベント時には時々起こる。帝国戦中は特に売り切れが酷かった。

私がふらついているので、補充ができないのが原因だが、それは諦めていただこう。頑張って生産してマーリンに詰めていけば今よりはなんとか。素材はカルやガラハドたちが倉庫に詰めておいてくれるし、助かっている。ノエルも薬の生産レベルは大分上がっているし。

詰めてくれた物は私が確認するまで凍結状態らしく、倉庫使用の許可を出している人物でも出し入れできない。ノエルの作ってくれた薬をダイレクトに販売に回せれば――ああ、鵺と連携させた倉庫の中身はメニューから見られる!

「待て、外に喚び出さぬだと? 鵺の機能の半分を否定しておるではないか」

「いや、ものすごく助かるぞ」

お外から補充が可能に。

「そこは喚び出すがいい! 魔物を倒して得たアイテムが荷物 溢(こぼ) れ、また必要な物が不足することもあろうが!」

「私は【ストレージ】持ちなのでな」

いくらでも入るので重宝している。中身がカオスだが。

「な……っ」

ぐぬぐぬしているマーリン。

「ああ――。鵺は裏切る……、無条件に喚び出し、使えるとは思えんな。喚び出す度に私との 好感度(えにし) が薄くなるのか?」

精霊の逃げられ経験があるので、一度手に入れても安心できないことは学習済みだ。

水かけ祭りも落ち着いたし、先日精霊に手土産持って謝って来たばかりだったりする。小さい精霊が異邦人に頑張って精霊を授けているのかと少々申し訳なかったのだが、結構楽しんでいるようで安心した。

「……っ」

「絶句か。ぽーっとして見えるかもしれねぇが、ホムラは勘がいいし、頭もいいぞ」

ガラハドが言う。

褒められた気配に少しもぞもぞする。

「結んだ縁が切れる条件はわかったが、逆は何だ?」

「逆じゃと?」

「切れることがあるなら、より強くすることもあるのだろう? マーリンの居心地が良くなるなら、そちらはなるべく叶えたい」

好感度が下がる行動があるのなら、上がる行動もあるだろう。

NPCは戦闘に連れ出すと好戦的な性格な者は別として、基本下がる。ただ、戦闘に勝てばそれを上回って、好感度が上がるのは有名だ。あとは、キャラによって個別に設定されたアイテムを贈るとか。

「ふん。望むのは価値高き清らかな水、次いで枝じゃ」

不貞腐れたように視線を外して言うマーリン。

「『庭の水』かよ」

ガラハドが半眼で言う。

「ガラハド、字面がひどい」

「誰のせいだ、誰の!」

私のせいですね!