軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

299.派遣と遭遇

「メール着いてた、珍しい」

迷宮の転移部屋でデザートを食べながら休憩中、メールが届いていることに気づく。

「メールが珍しいってボッチかよ」

「野良行かないからな」

野良は臨時パーティーに入ること。クランメンツがログインしてなければ、ソロかガラハドたちとどこかへ行くかなので、このゲームでプレイヤーの募集する臨時のパーティーに入ることはほぼない。

「このチーズケーキ美味しいでし。グラン・マルニエ入ってるでしか?」

「酒の名前の気配。菊姫イコール酒」

「グラン・マニエ? オレンジ・リキュールだっけ?」

マルニエじゃなくてマニエなら聞いたことある気がする。お茶漬とペテロの話の流れでようやく思い当たった。

「オレンジ・リキュールとオレンジの皮をすりおろしたのが入ってる」

本日は世の中の流行りに乗って、表面をこんがり焼いて中身はとろっとしたバスクチーズケーキ。それにオレンジの風味づけをしてみた。

会話しつつメールを確認すると、扶桑にいるルバからだった。

「ちょっとほろ苦くていいねこれ」

「チーズ濃厚だけど、オレンジの香りで爽やか」

「いい匂いでし」

「菊姫のそれはオレンジより酒の香り」

「俺固い方が好きだけど、これいけるわ」

「うまいよな!」

チーズケーキが好評なことに喜びながらメールをする。音声入力もできるけど、こっちで会話してるから手入力。

「何か誘われたでし?」

「いや、住人の友人からちょっと。どうも戦闘とか急ぎではないっぽいし、とりあえず雑貨屋の友人に様子見を頼んだから大丈夫」

菊姫の問いに答える。

ガラハドたちに扶桑に様子を見に行ってくれないかとメールして返事をもらったところだ。ルバとも友人だし、戦闘力もあるし何があっても大丈夫だと思う。空飛ぶ騎獣を持ってることも分かってるしな。

「NPCがクエスト拾ってくるまで好感度上がってるんだ」

「拾ってくるやつ儲かるの多くていいよね。僕も上げなきゃ」

「クエストなのかこれ?」

ペテロとお茶漬の会話に違和感がこう……。

「メニュー見たら? 誰を派遣するかも画面で選べますね」

お茶漬の説明にメニューのクエストの項目を見たら、『鍛冶屋の聖なる火』とか出てますね。うん、『芙蓉の大天狗』はあれだ、白峯迎えに行けってことか。『酒販売』とか常設って出てるし。

クエストの項目見たのは 火華果山(かかかざん) 以来な気がする。しかもなんかクエストに派遣できるNPCの一覧がですね……。ラピスとノエルは店番中で灰色なのはわかるんだが、カルがクエスト中の表示なのは何故だ。いやまあ、ガラハドたち以外の指定が『自由』になってるから好きなことやってるんだろうなこれ。

レーノは護衛中、リデルとクズノハは生産中。バハムートと黒は休憩中で灰色。

「ペットもね、クエストはできないけど種類によっては生産も戦闘もできるから。うちのA.L.I.C.E.なんてログアウト中は迷宮で放し飼いですよ? 」

「好感度低いと酒場でサボってたり、持ち出すだけ持ち出してダンジョンいっても戦利品無しですね。ペットは召喚時間食うだけで持ち出しないんだっけ?」

「そう。でも結局回復とかアイテム持たせないと実入りが少ない。下手すると戦闘不能だし」

お茶漬と笑顔で話してるけど、A.L.I.C.E.にスパルタ過ぎるペテロ。

「おう! 俺もカジノのねーちゃんが勝ったり負けたりして金が貯まんねぇぜ!」

「いや、待って。それ親しくなっちゃダメなNPC」

シンはカジノのねーちゃんとパートナーカードの交換をしていた模様、まあ入り浸ってるしな。

「わはははは! 俺のアルファ・ロメオも素材とって来たりするぜ?」

「レオの狸はよく暴走してるの見るでし。あれ素材集めてるでしか?」

レオは私と同じくペットは自由な放し飼いの気配。

因みに菊姫は酒場で飲み比べで勝って何人か下僕がいるらしい。NPCとの交流場所に個性が丸出しです。

「……もしかしてバハムートの散歩は、戦闘派遣だったんだろうか」

「ちょっ! あれを放し飼いって」

お茶漬から非難めいた声が上がったけど気にしない。ちょっとどこかの黄色いドラゴンがすでに被害にあってるけど、気にしたら負けだ。

「ひどい。大物とって来そう」

うん、確かに大物とって来てるね! 小次郎とか! ペテロは前半と後半の文脈が繋がってないぞ!

「まあ、気にしないことにしよう」

メニュー画面を閉じて見なかったことにする。

食事が終わったら睡眠という名のログアウト休憩の準備だ。

「ベッド」

「快適でし」

菊姫がとうとう迷宮にベッドを投入した。

「くっ! 俺の寝袋が過去のものに!」

シンは隠蔽陣の布団を改造して寝袋にしたようだ。もこもこしたそれを握りしめて悔しそうにしている。

「欲しいなら売るでしよ」

どん、どん、どんっと菊姫のアイテムポーチから人数分のベッドが現れる。

私の収納にもベッドはあるのだが、せっかくなのでお揃いのベッドにしよう。フレームは菊姫の銘ではないが、布団の類は菊姫のものだ。前回融通してもらったものよりランクが上がって肌触りがいい。

「わはははは! 気持ちいい!!」

さっそくベッドにダイブして平泳ぎのような動きをするレオ。

「ちょっと、この残念な美女誰かおとなしくさせて」

お茶漬が嫌そうな顔を向けている。手足がすらりと長く、太ももと尻の張ったグラマラス美女が台無しだ。

「レオだと思えば特に何も感じない私がここに」

どんな姿をしていてもレオの雰囲気がにじみ出ているというか、隠しきれていない。私の中ではレオだしな、で済んでしまうのだった。

「慣れすぎ」

ぽんと私の肩を叩いて笑顔を向けてくるペテロ。

「それにしても菊姫は生産、戦闘装備じゃないんだ?」

「 戦闘装備(そっち) はスキルとか器用さとか色々求められるでし。日用品はスキル少なくって済む上、行動で上がりやすいでしから」

戦闘装備を作るのは生産職に敵わないのだが、シーツや枕、防御力がない街着等の生産は着心地とデザインさえよければいいので菊姫はそれをメインに作っているようだ。クランハウスのクッションとかカバー類はみんな菊姫作だ。

「……」

「迷宮にベッド?」

ごそごそと布団に潜り込んで寝る準備をしていたら、なんか知った顔が入って来た。

「やあやあ、久しぶり」

「こんばんはでし。――人が来るとは思ってなかったでし、壁側に寄せるでしよ」

お茶漬が入って来たロイたちに挨拶をして、菊姫がベッドを動かすために一旦収納する。

「おう、久しぶり。ああ、サキュバス対策か?」

「そそ。もう終わって普通に迷宮攻略してるけど、効果はまだ切れないね」

ベッドを壁際に出しながらお茶漬が説明する。サキュバス攻略は最近掲示板で話題になったばかりの方法らしいので、ロイも知っていたようだ。

「お茶漬は変わらないですー」

「シンは、変わらないです〜」

モミジとカエデが言い合う。カエデがシンを見た時に若干の動揺があったのは気のせいだろうか?

「ペテロさんは面影がありますね」

クラウが戸惑いながらペテロに声をかける。一番無難だったんですね、わかります。

「髪の色からして、こちらがレオでこちらがホムラですか〜?」

シラユリが相変わらずほわほわした雰囲気で聞いてくる。

「おう! ボンキュッボンの美女だぜ!」

「その格好であぐらはやめろ、あぐらは。見えるだろうが!」

自慢げに言うレオを見てロイが動揺している。

「記念にさわっとくか!?」

己がぼいんを持ち上げるレオ。

はっ! 今の私ならばカエデとモミジの尻尾を握ることが可能!?

「そういえば、大規模戦の後に差し入れありがとな、助かったぜ!」

話をそらした、隠れ巨乳好きの男ロイ。

「特にホムラは罠ダンジョンの素材、大量に譲ってくれたけど、良かったのか?」

「ああ、自分では使い切れないしな」

まだ大量にあります。

「それにしてもシンは男のままか? 口紅だけ?」

「一応ステータス上は女になってるぞ」

唇の前で小指を立ててウインクするシン。

「うぇっ」

ぶるっと震えて一歩飛びのくロイ。

「怖いですー」

「怖いです〜」

手を合わせて頬を寄せ合うカエデ、モミジ。鏡に映したようにシンメトリーなポーズをとるそっくりな二人。プルプル震える尻尾が可愛い。

「こんな美女を捕まえて失礼な!」

ぷりぷりするシン。

「転移開けたら進むのか? 休憩?」

「いえ。ズーの素材手に入れたから加工に一旦戻って、準備したらフェル・ファーシですね」

「【烈火】に水をあけられてるからな。素材が無事ならとっとと追いついてたんだが……」

クラウと暁の答えに、そういえば炎王たちと競ってたことを思い出す。

「それにしても随分可愛らしくなったな」

「ええ、本当に」

やめろ、こっちを見るな!

「サキュバスやるならオススメですよ」

ペテロが笑顔で言うのに顔をしかめる暁たち。

「サキュバスは避けるからいい!」

「パンツ欲しいです~」

「黒布欲しいですー」

「魔力の指輪+5があると嬉しいですね〜」

言い切った暁にカエデとモミジとシラユリの言葉が次々と。

「わはははは! 美女か? 美女になるのか!?」

遠慮なく好奇の目をロイたちに向けるレオ。

「え〜。先に進んで良い素材を集めて交換しましょう」

「お、おう! フェル・ファーシさっさとやっちまおうぜ!」

ちょっと声の抑揚が変になっているクラウとロイ。額に特大の汗が見える気がする。

「よし! 邪魔したな!」

さっさと外への転移に入る暁とそれにいそいそと続く男二人。

「あ、逃げたー!」

「逃げました〜」

「ふふふ」

それを追うカエデとモミジにゆっくりついてゆくシラユリ。

「騒がしかったでしねぇ〜」

「私らに言われたくない気がするけどね」

薄く笑いながら言うペテロ。

毎度騒がしいのはうちもそうだしな、と思いながら寝に入る私。

おやすみなさい。