軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

281.街の解放

アイルの神殿へ転移。

「ひゃあっ!!」

転移したら神殿にいた先客に飛び退かれた。同じ座標には出ないように設定されていて、ぶつかるなどということはなく適度な距離で離れているのだが……。

「なんでここに?」

「アイルで何かある?」

「イベント?」

「麗しい」

「レーノ君は!?」

「掲示板!」

「とうとうジアースからアイルにストーリー進むの?」

「あああ! カイン様と並んで欲しい〜」

カインって誰だ? ここの冒険者ギルドのマスターがカインで、確かエルフで美形だった記憶。冒険者ギルドのマスターはあちこち出歩いていて、滅多に会う機会がないのだがどうやら他にも会ったことがある人がいるようだ。

どんなクエストで会うことになったのか聞いてみたい気もするが、殺気立っていて怖いので目を合わせず真っ直ぐ出口を見て進む。狐面装備で来た方が良かったか。【うつろう心】はこの大人数にも効果があるかな?

「レンガード様、ランスロット様」

【うつろう心】を使おうか考えていたら呼ばれた。ひそひそ漏れ聞こえるような呼ばれ方ではなく、進路を遮るように頭を下げた神官からはっきりと。カルの名前が大公開なんだが、もう今更だな。

「こちらをお受け取りください」

紫巾に乗せられた石を差し出された。展開が謎だが取り敢えず【鑑定】、結果は転移石『タタシャ』。行ったことがない街なのだが、これは神殿の転移門登録用だよな? 何故……。

「他の神殿にも神託が出ている様子、お連れの方にも。各神殿にお寄りいただければ対応する町の転移門の解放がございますでしょう」

「頂く覚えがないのだが?」

あれば便利だがどうしてもらえるのか謎だ。

「別に何か対価を求めることはございません。我らは神託に従うのみですゆえ……。アシャの神殿ではアルバルへの転移解放に、少なくない人数へのお告げが有ったとのこと。ここ木神タシャの神殿では、お二方のみです」

このタイミングで少なくない人数に解放ということは、イベントでアイルに協力したからか。転移門の解放に街中のクエストをコツコツこなすのは結構面倒と聞いているが、やった覚えがないし。

なお、アイルの騎士団やら商業ギルドに所属しているとわざわざ街中のクエストを探さなくても、依頼を受けられるので楽とのこと。

「あら? 私たちにもあるのね」

「アシャの神殿に後で確認してみよう」

「もらえるものはもらおうぜ?」

「木神タシャには馴染みがありませんが……」

カルは何かの褒賞で魔法国家アイルからアルバルの転移を、水神ファルの神託によりヴァルノールへの転移を許可されているそうだ。もちろん為政者である王にも報告は行くが、転移に関しては実際に結界を張り、外敵を防ぐ神殿の権限は大きい。

アルバルは帝国に近い方にある街、次にヴァルノール、どちらも確かアイルで最初に異邦人のクランハウス建設が許可された土地だ。私が全部解放ということはアイルへの貢献ポイント順とかだろうか。

ゲーム的には需要の多いところから順に解放、異世界的には帝国に近い場所から順に解放というところか。大規模戦の褒賞の一部なのだろうが、戦いの神でもある火神アシャの街からの解放というのもなんとも言えない。

「おお? アシャの神殿行ってみる!」

「どっちにあるんだっけ?」

「隣だ隣、馬車乗れば連れてってくれるだろ?」

「そういえばファガットで航路の解放あったみたいなこと掲示板に書き込みあったね。大規模戦のご褒美?」

「俺、帝国だったんだけど帝国もなんかあるかな」

「ありがとう」

ざわつく中、礼を言って石を受け取る。うん、私もつい新しいところばかり進めて全部回っていない。全部回ったとしても二回目を行くかどうか……。クエストをマメに受けていれば、お使い先が各神殿だったりして隈なく回ることになるのかな?

「混雑しそうですし、神殿は後で回りますか? 回るのであれば少し遅れる旨、連絡いたしますが……」

「いや、こちらから頼んだのだし遅れず行こう」

今日はサディラスなのだ。

……ところでサディラスまでどうやっていこうか。アシャの門、ヴァルの門方面は今回の件で混雑しそうだ、まあ方向的に一旦アルバルかヴァルノールの街を目指すしかないのだが。

「主……」

「もふもふ希望です」

カルから微妙に恨みがましい視線を向けられるが、その派手な天馬は却下です。この姿で白虎を喚ぶのもなんだし、ガラハドのタイルに乗せてもらった。

「走ってる最中にもふるのはほどほどにしとけよ」

「ウルクが二人乗りだったら誘うのに」

カミラのウルクとイーグルのハガルは狼型の騎獣でこちらももふもふ。ただガラハドの虎型のタイルより小さく、長距離の二人乗りに耐えられるほどの体力はない。

しゅっとしたタイルの尻尾もいいが、ウルクとハガルの尻尾も素晴らしい。

「もふるなというのに!」

タイルのスピードが落ちてガラハドに叱られました。

アルバルの名物は肉の網焼きだった。ヴァルノールの名物はなんだろう? 結局タシャの門から出て、街はヴァルノールを目指している。街道は森の中を通っており似たような風景が続く中、結構な速さで通り抜けてゆく。

フソウへ行く時はもう少しゆっくりした旅だった。思えば右近のためにのんびり進んでいたのだろう。そう前のことではないのだが、何だか懐かしい。

「主、休憩にしましょう。この時期ならば少し入った場所に水場があるはずです」

「了解」

カルの先導で速度を落とし、森に分け入る。白い天馬の名前はヴァイセ、当然ながら何も障害物のない空を飛ぶ動物なのだが、こぶし二つ分ほど浮いた状態でタイルたちに合わせて器用に走る。

「ヴァイセは優雅だな」

お口の下をびしょびしょにしているタイルも可愛いが、金髪の騎士が白馬に水を飲ませているというのは絵になる。

「はい、この世で最も美しい生き物です」

愛しそうにヴァイセの首をなでてやるカルに馬愛を知る。

少々地面が湿っぽいので草を刈って敷き詰め、その上に敷布を置いた。雨の時期はもう少々前だったのだが、降った雨が一旦地面に吸い込まれ、時差でこの近辺に集まって湧き出すらしい。

お昼は星型のピザ。丸いピザ生地を切って折ってその尖った先にはリコッタチーズをたっぷり。端を折ってあるおかげで真ん中にもたっぷりチーズと具を乗せられる。バジルとトマト、ベーコン、チーズはモッツァレラの中でも鮮度が命のブッファラというフレッシュチーズ。

牛乳で作るモッツァレラはよくスーパーでも売っているが、少しもちもちした感じ、水牛の乳で作るとホロリと解け後味にミルキーさが残る。ハルさんの乳で作ったモッツァレラは水牛のほうに近いかもしれない。

「相変わらずうめぇな」

「トマトの酸味とチーズとベーコンの塩味がたまらないわ〜」

美味しそうに食べてくれるので嬉しい。私も切れ目を入れたピザを尖った端から引っ張って一切れ口に運ぶ。一切れ引き離す時にもチーズが伸びて見た目も食欲を刺激する。

「ホムラはサディラスのモザイクはともかく、何故宰相に会いたいんだい?」

最近気づいたが猫舌気味の男、イーグルが聞いてくる。今も手に取ったピザを話しかけることで冷ましているのだろう。

「ちょっと友人から漏れ聞いてな、ガラハドたちとも関係があるようだし会ってみたくなった」

それに猫の可能性が高いんですよ、今。

「帝国の問題に巻き込んで申し訳ない……」

「前にも言ったが、玉藻と 鵺(ぬえ) には興味があるんだ。首を突っ込んだら帝国が出てくるのはしょうがないし、むしろちょうどいい」

どう考えてもどっちも中枢のほうに潜んでいそうなのだ。塔に閉じこもり気味というマーリンは、クズノハの前に侍っていた白峯の行動に似ている。鵺は皇太子として城に、玉藻は森の塔にいるんではないかというのが私の予想だ。

ああ、白峯ゲットしにいかねば。病みまくっているイメージであれに付き合うのかと思うと、微妙に後回しにしている私です。

「サディラス行ったら、帝国と絡む前に一度みんなで扶桑の温泉に行こうか」

「温泉っていうと泳ぎに行くの?」

カミラの言葉がちょっと理解できない私。

「扶桑の温泉はどちらかというと湯船のイメージに近い」

困惑した私に代わってカルが説明してくれる。

「へえ?」

「水着は着ないのかしら……?」

「男女別な場所が多く、水着の着用は無用だ」

カミラとカルの会話に、そういえば海外の温泉はどちらかというと温水プールっぽい扱いが多かった気がすると思い出す。

「しがらみから離れて、美味しいものを食べて一泊二泊のんびりしようという話だ。ファガットの時は急すぎてゆっくりできなかったし、今回はちゃんと予定を組もう」

「今ルバもあっちにいるんだよな? 酒が楽しみだ」

ガラハドの言葉に、日程が決まったらルバにも連絡を入れようと心にメモする。

「また飲み比べで負けるんだろう?」

イーグルがガラハドを茶化す。

「次回は負けねぇ! しかしあの爺さんなんであんな酒強いんだ」

ルバは扶桑の刀鍛冶、天津の家に居候して新しい技術を学んでいる。天津のほうもルバの知識と技術が珍しかったようで職人同士意気投合していたことを思い出す。

「しかし騎獣に分乗して行っても結構かかりますね」

「長い間店閉めるのもなんだし、半分づつ行くか?」

「その前に、海を渡るのは海竜の機嫌次第とも聞くよ?」

私だけなら転移で行けるのだが、他が無理だ。微妙にカルは扶桑に転移できるのでは疑惑が湧き上がるが。

ラピスとノエルもガラハドたちの手伝いもあってか、いつの間にか国間移動の許可を取っていたが、扶桑はアルバルからも遠い。スーンには水の樽を用意するとして、それでもなかなか時間がかかりそうだ。

「旅程も楽しいものだが、けっこう日数がかかりそうだな。まあ、潔く」

「留守居承ります」

閉めようという前に割り込む声。

声の方を見るとメイド服のスカートを片手で軽くつまんで頭を垂れているウル・ロロ。もう一方の片手にはアスパラガスやトウモロコシなどの野菜の入った籠。

妹の声に反応してか、袖口からちょろりと顔を見せるクルルカン。

とてもデジャブ。