軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

268.バスケットの中身

ホムラ送信:

ユニちゃん門前に着いた、狐面の三人だ。

ユ ニ送信:

はい、見えました。今行きますね。

リアルが男だと知る私に送るメールの文面も丁寧。なぜなら対価を求めて女性を演じているわけでなく、ゲーム世界で自分のために理想の女性を演じているから。――「ネカマは日常会話こそ殺るか殺られるかの死闘!」とか意味不明なことを言ってリアルで無表情にスキンケアを試しているのを見たときはちょっとどうしようかと思った。

紋章のついた白いマント、形は違えど同じ銀色の鎧、胸プレートや盾にも同じ紋章をつけた四人の騎士に囲まれたユニちゃん。頭二つ分は低いユニちゃんがさらに華奢に見える。騎士たちと同じ紋章の入ったローブは腰で締まり足首まで、正面だけ開いていて白いミニスカにニーハイの絶対領域。

すごく帰りたい。

「聖女?」

「星座の騎士が四人も!」

「冒険者ギルドじゃなくって、神殿から 身分保障(カード) 貰った人?」

「やっぱり統一された装備のクランかっこいいな〜」

周囲がざわつく。かっこいいのは認めよう、だが関わり合いたくない。あとマントさん、対抗してそっと広がらなくっていいから。マントは只今、コートと同じ色の真ん中で二つに分かれてなびく姿をしている。装備に合わせて器用に形を変えるマント、扶桑で和装したら長羽織とか陣羽織とかになるのだろうか……。

「来てもらってありがとう」

ニッコリ微笑むユニちゃん。

「お久しぶりです」

「ああ、久しぶり」

四人の中の一人、射手座の騎士に挨拶される。クランの中でも強い発言権を持つ十二人に、星座が当てはめられ手甲か手袋に十二星座の何れかが描かれている、十二人には入れなかったメンバーは紋章だけ。これも前のゲームでやっていたことを踏襲しているようだ。

ユニちゃんと一緒にクエストをしなくとも、同じゲームを何度かやっていると自然と何人かとは顔見知りになる。射手座の騎士はユニちゃんと私がリアル友人であることを知る数少ない人物だ。

いろいろ面倒で初めてやったネトゲで親切にしてくれた人物として他に言うようになったことも知っている。まあ、シューティングと戦略シミュレーションが専門だったユニちゃんにRPGを教えたのは私なので嘘は言っていない。

『主の女性の好みは黒髪でしたか……』

『!?』

『ジジイ、そこなのかよ。――この間側にいた 扶桑(ふそう) の鬼は 紅葉(もみじ) だっけ? まあカミラに教えてやっかな』

『いや、待て。これは範囲外! 黒髪が落ち着くことは否定しないが、これは無理! できれば近づきたくない!』

ちょっとカルさん、この状況で変な調査しないで下さい! あとガラハド、顔が見えないけど絶対ニヤニヤしてるだろう!?

「ごめんなさい、今回ちょっと取り巻く状況……が嫌がるかも」

私の名前を呼ぼうとしてごにょごにょと小声になるユニちゃん、こちらがわざわざ隠蔽をかけてきたのを思い出したのだろう。門から少し離れ、大声を出さない限り遠巻きにするプレイヤーたちには聞こえない距離だとは思うのだが気を使ってくれたのだろう。

「でも、周囲にも絶対誰だかわからないし巻き込まれることはないと思うわ」

そう言いながら、ユニちゃんが控えている騎士の一人を見ると私にピクニック用のバスケットが差し出される。

「なんだ?」

手を伸ばす前に横からガラハドが受け取ってくれた。

「中を見てみて」

にこにこと微笑むユニちゃんを前に、バスケットの蓋を持ち上げてそっと中を覗くとふかふかの敷布の上に猫が一匹。チラリと薄目でこちらを見て、すぐに顔を足に埋めて興味がなさそうに目を瞑る、耳と尻尾、手足の先が青灰色の白い猫。にゃん!

猫を見ているといきなりビクッとして腰を落とす騎士四人とほんの少し後ろに身を引くユニちゃん。

「ジジイ、殺気飛ばすんじゃねぇよ」

「主に面倒ごとを押し付けるのは止めていただきたい」

少し後ろの斜め隣でにこやかに殺気を放つ狐面と、ドン引きしつつそれを止める狐面。ロブスターの時だって、ここまでの反応はなかったと思うのだが……。あれか、私がさっきユニちゃんを強く否定しすぎたせいか? いつもはユニちゃんの取り巻きに威嚇されるのは私の方なのだが、今回は逆だった。

「いきなり何だ?」

「主、その猫はサディラスの宰相です。どうしてそのような姿をしているのかはわかりませんが……。それを告げずにいるのはフェアではない」

ああ、皇帝と同じ病に倒れてたとかいう……。アイル対帝国の戦に巻き込まれるフラグだが、イベント期間中だからどうだろう? 積極的にゆかんと参加する前に終わってしまう気がする。住人であるカルやガラハドにはイベントの期間だとか期限だとかは考慮できないはずなので、本格的に帝国のゴタゴタに巻き込まれることを心配してくれているのだろう。

「……! 何故おわかりに? この猫は確かにサディラスの宰相アローン様、死に向かう呪いの解呪が難しかったので他の呪いと入れ替える形で命を留めたのです」

ユニちゃんの言葉におっかなびっくりバスケットを覗いて顔をしかめるガラハド。そういえば直接の知り合いだったな、面影ありますか? おのれ! また無心にもふもふできない対象を!!

「短慮でした。高位の神官が鑑定を行っても猫である結果しか出なかったので隠しおおせると。知らない方がより危険がないかと思っていました」

素直に頭をさげるユニちゃん。さすがここに連れてくるだけあって四人の騎士もおとなしくしている。

ユニちゃんと騎士たちが抑えて品行方正な集団にはなっているのだが、ごく稀にユニちゃんに謝らせるなんて……っ! 的態度をとる取り巻きもいるので厄介だ。

カルの眼は【暴キ視ル眼】だったか。私の【ヴェルスの眼】は欺瞞・隠蔽・偽りなどを見抜くが悪意や危険がないものには発動しないんだよな、その分強力なのだが。

「まあ、猫で相殺ってことで」

「お前、動物に甘すぎるぞ……」

ガラハドにじと目で見られる。

「今は帝国と交戦状態ですが、サディラスは綺麗なところです。 こちら(・・・) では壊されてしまったけれど、石畳の神の祝福を受けた異邦人が神殿の床に施したモザイクは特に」

「石畳……」

属神の祝福一人目!

「その異邦人はまだサディラスに?」

「こちらには来ていませんけれど、確かまだ滞在していたはずです」

この場合のこちらは、ここアイルのことではなくイベントのことだろう。イベント終えたらサディラスに行ってみよう、モザイクも見てみたい。

「では、確かにお預かりした」

「お店の場所は聞かないでおきますね。なんて、実はファストにあまり居たことがなくってレンガード様の雑貨屋くらいしか知らないので聞いても分かる自信がないし……地図読むの苦手です」

ユニちゃんが方向音痴のドジっ子設定をさらっと入れてきたが、ピンポイントでその店です。

「雑貨屋は鉄壁ですからね、我々もあの騎士殿には憧れる。隠れ家の準備が出来次第、連絡差し上げます」

などと挨拶してきた射手座、その騎士なら私の隣にいるぞ。

そして転移で雑貨屋に帰る。

「付き合ってくれてありがとう」

狐面を外しながらガラハドとカルに礼を言う。

「おう! それにしても俺が言うのもなんだがいいのか? 戦に巻き込まれるかもしんねぇぞ」

「主、ご迷惑を……」

「まあ、 鵺(ぬえ) に興味があるし。玉藻はなんとかしておきたいしな、どのみち戦うことになるだろう」

イベント中ならバハムートのブレスで更地にしてもいいが、通常状態だとどうだろう? ガラハドたちにとって思い出の土地やら建物やらがありそうだしこの手が使えるのは期間中だけだな。

「主」

「ん? 起きてたのか」

ノエルが顔をのぞかせる酒屋のリビングへと続く扉に向かい、抱きついてきたノエルをなでる。髪はしっとりさらさらで耳が柔らかい。

「帰ってくるとおっしゃってましたから。ラピスも待っていたんですけど……」

ノエルの視線の先にはソファですうすうと寝息を立て寝落ちているラピス。ノエルも少し眠そうだ。目があったイーグルが肩をすくめる、その仕草にどうやら寝ろと勧めても起きていたことを察する。

「待っていてくれてありがとう、ラピスを部屋に運ぶからノエルももう休め」

ラピスをベッドに運び、ついてきたノエルを抱き上げて隣の部屋のベッドに寝かす。

「おやすみ」

「おやすみなさい、主」

布団に入ったノエルの額をなでておやすみの挨拶をして部屋を出る。

「で、ホムラは黒髪が好みらしいぜ?」

戻ったらガラハドがカミラに話している声が飛び込んできた。

「ホムラ、おかえりなさい」

嬉しそうに笑顔で迎えてくれるカミラ。

「ああ、ただいま」

ソファに座るとカルから紅茶が差し出される。

「ありがとう、猫は?」

「そこ。蓋開けてあるけどピクリともしねぇな」

ガラハドが視線でバスケットの場所を指し、告げる。

「病み上がりだからかな?」

「まだ影響が抜けないのかもしれないわね」

バスケットを覗き込んでいるとカミラが隣から覗き込み告げる。近い、近いぞ。

「宰相アローン様だと聞いたけど。言ったのがランスロット様でなければ信じないところだよ。【鑑定】しても結果は普通の猫と変わらない」

イーグルが言う。

「思考も猫なのかな?」

「さあ?」

思考も猫ならばもふもふしてもいいだろうと抱き上げてみる。

迷惑そうな顔をされました。

微妙な反応に構わず、膝に抱き上げてなでる。この白ちゃんをもふり倒した指の威力を知るがいい!

「あら、喉を鳴らしているわ」

「主が嬉しそうですし、思考があろうがなかろうが猫ということで」

ちょっとカルさん、微妙に不穏なことを言うのはやめろ、と思ったのは私だけではないらしく猫が鳴く。

宰相のアローンという人は、聖職も兼ねた背筋の伸びた老人だそうだ。古くから続くサディラスの王族でもあるらしく、特徴的な青みがかったグレイの髪だそうでどうやら猫の耳や手足の色がそれらしい。

こうしてちょっとの間だけ雑貨屋に猫が来た。