作品タイトル不明
258.お宅訪問
交友関係つながりで思い立ち現在私は『結界符』を配り歩いている。
正しくは防御結界符で一枚で使うと一間四方の防御結界を張り、数枚まとめて使えばその枚数分結界は広くなる。そして建物や物にペタッと貼ればその形に結界ができるので留守の時も安心だ。アイルで作ったような宝石に魔法陣を閉じ込めたようなやつはもっと強力で基本効果を放ちっぱなしになるようだが、素材が高いし今回は壊される前提だから符でいいだろう。破られそうになったら新しい符をペタッと貼ることになっている。なお雑貨屋の符は『防御結界符』の他に【スキル倍返し】を込めて『反射結界符』も混ぜてみた。
雑貨屋のカウンターに貼るようにラピスとノエルに預け、酒屋の店員にも届けに行けば商業ギルドにも卸して欲しいと言う。このイベント期間中に稼いでもポイントにはなるけれど素材とシルが減ったままなのだが……。まあ防犯グッズと考えれば住人に渡さないのはどうなのかと思わないでもないので知り合いを回って余裕が出たら、ということで。そして商業ギルドのギルド長に預けるのかと思っていたら、ベイク・ロール・ショートの三人にもコアを渡された。
仮面をつけたまま神殿に転移し、カイル猊下に会う。いや、その辺の神官に符を渡して猊下にもエカテリーナにも会う気はなかったんだが、符を渡した神官に引き止められ捕獲されました。
「あらあら、久しぶりですね。ラピスとノエルは元気にしていますか?」
「ああ、二人とも元気だ。よくやってくれている」
雑貨屋の接客をほぼ丸投げしています。
二人を引き取る前は神殿を利用すると遭遇することが多かったのだが、引き取ってからは滅多に遭遇しなくなった。まあ、エカテリーナが待ち伏せを止めたからだろうけれど。基本彼女は子供にしか興味がないらしく、孤児院側にいることが多いのだそうだ。
「久しぶりです。とりあえずこれを」
相変わらず無表情な猊下が何か渡してくる仕草をする。カイル猊下は無表情、声が平坦、容貌は冷たい印象のメガネキャラだがお茶目というか突飛というか。
「なんだ?」
手の中は空なのでアイテムポーチから直接の受け渡しか。
《一名のコアを受け取りました》
《付随する百三十一名分のコアを引き受けました》
「は?」
何ですか?
「これで我らも安心して復活できます。復活させる儀式をするのも疲れますし、『蘇生薬』は高いですからな。ハッハッハッ」
「あらあらまあまあ、相変わらず疑いませんのね。ランスロット殿がガックリする姿が見える気がして……」
無表情棒読みで笑うカイル猊下の隣でエカテリーナの顔が慈愛の微笑みからニンマリに変わる。
「完璧な方の喜怒哀楽ほど面白いものはなしですか」
「あらあらまあまあ。私はそこまで言っていませんわ。ホホホ」
あんたらいい性格してるな! その完璧超人は苺入りエクレア片手になんか作戦立ててましたよ。これはあれか、カイル猊下に預けられたコアの数が私に流れてきてるのか。
「いや、まて。おかしいだろう、何故私に?」
「この国で私の知る限り一番安全な場所ですよ。冒険者ギルドのギルド長はどうも馴染まないですし」
「できれば騎士殿に守られて外に出て欲しくはないんですけど、出かけても安全地帯に変わりはなさそうですものねぇ」
微妙に自分たちが死ぬ前提なのも気になるし色々ツッコミたいのだが。
「これで用事は済みました。どうも 不埒(ふらち) なことを計画する輩がいるようなのですが、我ら神職は神殿から離れるつもりはありませんので。――戦える者も抱えていますのでご心配なく」
「孤児たちの分も入っているのですから死んではなりませんよ。ふふふ」
どうも二人とも対策協議などで忙しいらしい。まあ平常時でも忙しいのが普通な気もしないでもないが。
「ああ、神殿では料理を絶賛募集中です」
「そうですねぇ、籠城するかもしれませんし」
毒気を抜かれて料理と高ランクを手に入れたため使わなくなった食材を置いて、神殿を後にした。レオとシンが同じ系統でランク違いも普通にハウスの倉庫に突っ込んでいて特に魚が豊富だ。生臭いだろうが頑張れ!
さて、古本屋に行って、薬師ギルドに寄る、ルバは留守だからユリウス少年の工房に行こうか。いや、逆だな。古本屋はこの時間まだ開いていない。『シャドウ』を、いや【うつろう心】を使って周囲の関心をそらし、装備を替える。スキルが効かなかったら怖いので人気がないのを確認して隠れてだが。
馬車に乗って工匠区に訪れるとなんだかやたら活気がある。少年の工房に着くまでに稼ぎどきだ野郎どもー!! とか聞こえたので私が思っていたより住人はたくましいようだ。今回のイベントは人の住むこのサウロイェル大陸全土が舞台だ。国同士の戦争も起こり得るそうで、領主が武器を集めているらしい。
「あ、ホムラさん!」
「世間が騒がしいからな、様子を見に来た」
ユリウス少年の工房も騒がしくはないが忙しそうだ。相変わらず線の細い美少年がこちらを見てうれしそうに笑っている。私の周囲に素直な美形がいないので会うとほのぼのと安心して目の保養に出来る。なにせラピスとノエルは目があった途端に嗅ぎに来るからな。
「ありがとうございます。工匠区は比較的騎士様の住むエリアに近いので他の区よりは落ち着いているんですよ。僕は少々不安なんですが……。いざとなったら騎士区に逃げ込んで道の扉を閉めながら領主館に避難することになってるんです」
「なるほど」
「あの、これ……」
《一名のコアを受け取りました》
「みんなは騎士様に預けてるんですけど僕はホムラさんに預けたくって」
照れながらコアを預けて来た! カイル猊下に渡されたのが腑に落ちなくって疑っていたのだが、好感度が高いと預けてくるというのはどうやら間違いないらしい。
「ホムラさんが死なないお守りにしてください」
「ありがとう。ユリウスのコアも移ってしまうからな、死なないようにしよう」
ユリウス少年にも『結界符』を渡して別れる。店の前を走る道は兎も角、客の歩かない裏道が沢山あってそっちは細い上に建物が迫っているので、騎士区に逃げこむ時に追いつかれそうになったら使えば道塞ぎになるだろう。
住人のコアが他人に移ればコアの持ち主のイベント期間中復活はない。
次は薬師ギルド、こちらはほとんど訪れていないのだがピエグ老師には講座でお世話になったし、しばらく基礎を習いにノエルが通っていたので困ったことがないかの確認だ。訪れた薬師ギルドは領主館の中に臨時の工房を設置する作業中で、ここでも符を渡してお暇する。
大抵のギルドはギルド員がギルマスにコアを預け、戦闘能力のない生産系のギルドなどはさらに領主や冒険者ギルドなどにコアを預ける形をとるらしい。ここファストは冒険者ギルドのギルマスが現役の高ランク冒険者で依頼に飛び回っているらしく滅多に顔を見せないため、預ける人は常駐する副マスにコアを預けとるらしいが。
なにせ戦闘不能から復活するのはコアを預けた相手所有、もしくは所属のハウスや店舗だ。強さに加えて広い屋敷や城を持つ者でないと困ったことになる。――カルを通して預かったコア分ってどこで復活するんだろう。カルの部屋に全員詰まってたらやだな……。やっぱり酒屋を一階分増やして部屋の広さと風呂をなんとかするべきか。
薬師ギルドにはプレイヤーの姿もちらほらあって、薬の買い付けや護衛の約束なんかをしている様子。ちょっと安心した。
どこもかしこも忙しそうな雰囲気だなと思いながら路地を歩く。そろそろ古本屋も開く頃だ、扱うものが戦闘に使用するものではないので、もしかしたら本と一緒にどこかへ疎開していることもあり得る、と思ったが、普通に開店していた。
相変わらずなんの店だか外からはわからない店に入り、外の様子など気にかけていない様子の店主に挨拶すると、本につく虫除けにもなる種類の煙草をパイプに詰めながら仏頂面のまま挨拶を返される。
「カディス、カディスはこの時期もここに居るのか?」
「ああ。どこへ行こうとかわらん」
カディスはイベント的な意味で言ったのではないだろうけれど、イベントが終わったら元どおりとはいえ、知り合いが死ぬのは嫌だ。
「まあ、死ぬのもごめんだからな。受け取ってもらうか」
《一名のコアを受け取りました》
どうやら思ったより仲良しだったらしい。店内に居てもお互い会話しているよりそれぞれ本を読んでいる時間のほうがはるかに長かったのだが。ちょっと嬉しい。ファガットで新しく手に入れた本を数冊カディスに売って、逆に数冊売ってもらう。篭る用意は読みたい本と煙草、食料で完了しているそうだが新たに保存の効く食べ物と『結界符』、雷魔法を取得した場所なので『白雷符』など数種類を渡して古本屋を後にする。
次はアイルでレストランと卸屋に行かねば。できればクリスティーナとも会いたいのだが、まあ無理かな。
《付随する六百七十三名分のコアを引き受けました》
おい。
何があった。
慌ててメニューから確認するとカルに付随だそうだ。ちょっとアナタ、誰からもらったのそのコア? 軍隊作る気なのか? 一度に増えたってことは誰かがコアを集めていてその人から貰ったのか? などと思いながら名前に触れるとツリーが開いて渡した人物の名前が表示される。
ファイラル=アスターク
誰やねん。
職業:領主
ぶはっ!!!!
カル!!!!!!!
何やってるんですか!!!!!!!
しかも見てる間にもアナウンスがあって増えるんですが!!!!!!