軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

256.イベント前

「さて、何かやりたい人~」

クランハウスに全員集まったところでお茶漬が聞いてくる。部屋にはお茶漬か菊姫あたりがアルムとシズル分に増やしたのか長椅子が三つに。

それでも十分足りるのだが、シンはカッシーナ風のどうやらヤグヤックルの皮を使った椅子を、私はチェスターフィールド風のウィングバックチェアを自分で持ち込み収まっている。ゲームの中には企業がタイアップしてアイテムを配布販売しているものもあるが、このゲームではない。シンの方はプレイヤー作、私の方は住人作だ。

「一応、イベント回っとくでし?」

菊姫の提案。イベントが始まっているというのにまったりした雰囲気なままなのは、内容が第二陣用にジアースのボスを倒して回るものだったからだ。先走ってすでに一周回った後だ。

「わはははは! 行こう、行こう!」

いつでも前向きというか前のめりで楽しそうなのはレオのいいところだ。

「あたしらのあの苦労はいったい……」

アルムがジト目をしているが気にしない。

「来週が本番だぜ、本番! 新しいの覚えるレベルまであと二! スキル上げしたいんだぜ!」

今回はレオにもちゃんと理由があって積極的だった様子。

「来週の大規模戦控えて第二陣もクランに入れたいんだろうけどね。このイベント中はジアース内でレベルもスキルも経験値多めだって、特にボスは上がりやすいって言うし行こうか」

「うーし! 行こうぜ!」

ペテロの言葉にシンが椅子から立ち上がる。

「混んでるんですが」

最近ソロで人のこない場所に行っていたのでなかなか衝撃的。セカンのボス、ヤグヤックルの出現ポイントにプレイヤーがわらわらと。

「さすがにここまで混んでると出現待ちという名の処理待ちが少しあるね」

「うーん。白いマント、未だに人気だから他より混んでるのかもに。クリアしたらすぐには再戦できないけど、他のボスやりに行く移動が面倒で留まる人も多いみたい」

ペテロとお茶漬が言い合う。

「ああ、よく見たら生産を始めている方も居ますね」

「真面目に移動するのはあたしらみたいな第二陣でまだクリアしていない組かね」

相変わらずツナギ着用のシズルとアルムが周囲を見回しながら言う。

「この分だとファイナはもっと凄そうだな」

「でしね〜」

私の言葉に菊姫が同意してくる。『ウォータ・ポリプの卵』は『建築玉』『意匠玉』の素材、大規模戦に向けて拠点としてハウスを取得しようとするクランが多い。すでに取得しているクランも第二陣で増えたクランメンバーの部屋用に欲しがっている。アルムとシズルの二人分、大規模戦発表前にさっさと部屋となる 箱(・) だけでも用意しておいてよかった。

「ハウスの材料も家具も絶賛値上がり中だぜ! わはははは」

「あそこも混んじゃったけどね。ボス素材も売り抜けられたしまあまあかな」

しばらく前、やはりハウス素材の『 定着貝(ていちゃくがい) 』をお茶漬がレオを連れて釣りにいっていたので、レオの懐も暖かいらしい。そしてお茶漬はジアースのボスドロップをこのイベントで大量に出回って値下がる前に売り払ったようだ。私も【大工】のレベル上げ方々、ちょっとハウスの板とかの素材売ってみようかな。

「おっとお先!」

そう言ってシンが、菊姫、シズル、お茶漬も消える。私・ペテロ・レオ・アルムも間を置かずにボス戦に突入した。

お久しぶりのでかい山羊、ヤグヤックル。

「とりあえず【火】『エンチャント』」

回復系はタゲがくるがエンチャントは特に 敵視(ヘイト) を上げないので最初にかける。敵によっては補助かけるととりあえず一撃飛んでくるのもいるので絶対ではないが、ジアースのボスはフォスのデイドリザードを除いて大丈夫。

盾の菊姫がいないのでこちらは速さ重視の密偵二人編成。防御の上がるエンチャントをかけたいところだがまだ覚えていない。【 黒耀(こくよう) 】召喚は後半にする所存、ペテロが止めてくれると思うが全体攻撃はヤグヤックルのHPが減ってからの方が多いのだ。――って【仕手】の練習希望もレオだった。

「【闇】『シャドウ』」

「わはははは! 待ってたぜ! 【不意打ち】!!!」

若干タゲを取らずに回復しきれるか不安を覚えつつシャドウをかけると、何も考えずにレオがヤグヤックルにスキルを発動させる。

「騒がしい不意打ちだね、まったく」

「あれで忍者目指してるはずなんだけどな」

呆れた声を出すアルムに要らない情報を教える私。

「外人がやる忍者キャラみたいになりそう。まああれでボスの攻撃レオにいくから」

すがすがしく言うペテロは未だ密偵のはずだが、頭巾を被れば完全に忍者ルックだ。浅葱色の髪と目、肌だけが目立つ、と言いたいところだが草原ではむしろ黒装束が目立ってます。

いつもならレオと一緒に敵の背後を取るべく走るペテロが一瞬なんで隣にいるのか不思議に思ったが、所定の位置についたレオが目標になってボスがこちらに背を向けたのを見て納得した。

「レオの攻撃力実は結構高いから、菊姫いなくてもアルムは全力でやっても大丈夫かな。全体だけ気をつけてね」

ペテロが笑顔でアルムに簡単なアドバイスをする。

「ふがおっ!!!!」

「あ、ああ?」

アドバイスに返事をするものの、合間にレオの悲鳴が響くのでアルムが動揺している。お茶漬たちと違ってアルムとシズルはまだ色々不慣れというか初々しい反応である。

気を取り直したらしいアルムが斧を投擲する。手斧を持ち物から取り出してはクルリと回し、左右の手交代で次々に投げうつ姿はなかなかかっこいい。そして大きく前を開けたオレンジのツナギからぽろりしそう。

「銭投げですね」

「生産で出来たNPCにしか売れないやつだよ。ちょっとは貢献しないとね」

ペテロの言葉にアルムが答える、けっこう戦闘で役に立たないのを気にするタイプだ。投擲はもちろんスキルもあるが高いアイテムほどダメージが大きい。

「戦闘中くらいジッパー上げればいいのに」

「ツナギの意味ないだろ!」

アルムの言うツナギの存在意義とは一体……。

「さて、じゃあ私も」

そう言ってペテロが消えたかと思うとヤグヤックルの腹の下から現れ足を切り裂き、思わぬダメージにたたらを踏むヤグヤックルを残しまた影に沈み込んで行った。

そして怒った敵の攻撃がレオに行く。

「【木】『蔦』」

蔦で絡め取ってヤグヤックルを拘束し、攻撃を阻害する。

マントでステータスが下がっているとはいえ、パーティーのなかで私のVITが一番高い気がしなくもないが敵がくるくる方向を変えるとアタッカーが戦いにくいしレオに任せよう、そうしよう。今回はスキル上げ目的不得意スキルの練習を兼ねている。私は自分に 敵視(タゲ) を移さず味方のHPを維持する練習なので諦めてもらおう。

減ったHPより回復量が上回ると敵視が急上昇するので、ポーションを投げてレオを回復――ちょっと狙いにくい。

「うん?」

レオを狙いやすい位置に移動をしてポーションをぶつけるとアルムが不審そうな声を漏らす。

「ん?」

「いや、移動するんだと思って。杖を持っている時は移動できないんじゃないのかい?」

「いいえ?」

「あー? ゴメン、レンガードさ……は、白は魔法使いで固定砲台、黒は神速の剣士だったけど、ホムラは違うか。付与士かな?」

「いいえ?」

闘技会情報だろうか? 動かなかったのはサボってただけです。どうして私の職がレンガードと違うという思考結果になるのか謎だが。転職したから闘技会の時とは実際違うけど。

「アルムが混乱している」

戻ってきたペテロが笑いを含んだ声を出す。語尾にwが見えるぞ。

「エンチャント使って移動速度もそこそこあると普通は付与士思い浮かぶよね。魔術士始まりの剣士経由だし」

そう言い残して再びヤグヤックルに一撃入れに消えるペテロ。ペテロはスキルを組み合わせて使用しているのだが、組み合わせた時のラグを計りたいらしい。

「ダメだね。同一人物だってわかってはいるんだけど納得できない」

軽く頭を振りながら斧を投げるアルム。

「ふおおおおおおっ」

「何でだ」

けっこうそのまんまだと思うのだが。まだポーションのリキャスト時間が来ていないので、変な悲鳴を上げているレオがもう一発食らうのをまって『回復』をかける。攻撃魔法は慌てて連打してしまっても被害は少ないが、回復連打はタゲ取って攻撃くらって回復が死ぬとパーティーが崩壊するので被害甚大。まあ、攻撃が来たら避けるなり返り討ちにするなりすればいいのだが。

「冷静に見ればホムラも美形だしカッコイイよ? だけどねぇ……」

視線をそらしてため息をつくアルム。だけどなんだというのだ!

「ホムラだから」

戻ってきたと思ったら一言残してまた消えるペテロ。

「まあ、白の時は極力しゃべらずに黒の時は無言で頼むよ!」

そう言って斧を投げるペースを速めるアルム。喋るなと複数から言われるのはなぜだ!

途中、パーティーを入れ替えてレオが眠くなったところで終了、クランハウスに帰還。

「けっこう上がったねぇ。レベルも上げなくちゃだけど」

「今、ボス素材安いから上げやすいんじゃない? がんば!」

生産職に就いているアルムは生産でしかキャラクターレベルは上がらない。お茶漬のいう通りランクの高めなボス素材が多く出回っている今ならば上げやすいはず。

「はい、これから少しレベルの方も上げます」

「あたしも頑張るよ」

真面目に返すシズルと気だるげなアルム。

「裁縫に使う素材は買い取るでしよ」

「私も魔石、買い取るぞ。あとクラン倉庫に突っ込んであるものは自由に使っていいから」

菊姫と共にアルムとシズルから少し色をつけた価格で素材を買い取る。ついでにレオとシンからも。クラン倉庫には私だけではなくお茶漬もいらない素材を突っ込んでいるので始めたばかりの二人には丁度いいだろう。油断をするとレオの魚でいっぱいなので私もこまめに覗いては引き取って、別なものを詰め込んでいる。

「なあ、次のイベントってどうする? 積極的に行く?」

シンがビールを飲みながら言う。だがつまみはチーズメンチカツ。

「あちい!」

レオがかぶりついて順調に火傷している模様。

「うち小さいからどこかと共闘するか迷宮こもるかじゃない? 幸いクランハウスは島選んだから積極的には攻めてこられないと思うけど。あとは国がどうなるかかな?」

「あ。私、欲しいスキルあるから稼業に勤しみます」

お茶漬の意見に不穏な予定を笑いながら告げるペテロ。稼業と爽やかに言うけれど、全員がペテロの言う稼業が暗殺の事だとわかっているし、ペテロもそのことは承知だろう。

「ホムラはスキル狙いのプレイヤーに狙われるんじゃねぇの? 雑貨屋襲撃とか言って」

「えええええっ!」

シンが不穏なことを言う!

「ああ、ここにも暗殺しに行きそうな男がいるしねぇ」

ブラッディマリーを飲みながらちらりとペテロを見るアルム。

「確かに欲しいスキル山と持ってそうだし、隙も多そうだけど」

笑顔で私を見るペテロ。怖いんだが!

ペテロ:いやw 指輪あるでしょw 襲えないからwwww

本気で怖がってたら対話が来た。そういえば主従関係っぽい何かだった。

「雑貨屋襲撃怖いから何か対策考えよう……」

ラピスとノエルもいるし対帝国の備えで逃走経路はバッチリなのだが、万が一ということもある。

「ホムラが立てる対策って不穏な気がするでし」

「わははははは!」

大規模戦は住人の記憶に残らないらしいので、今カルたちに相談するわけにもいかない。イベント開始時に戦闘が始まるまでゲーム時間で三日の猶予があるそうなので相談するならそこだ。装備はイベント中壊れたり 鹵獲(ろかく) されても終了すれば戻るそうだが消耗品は戻らない。

とりあえず必要になりそうな消耗品を用意して、念のためにチャージ系のスキルをフルにしておくことにする。