作品タイトル不明
253.ごはん!
炭を組んで火を入れる、火は『アシャの火』。ミノタウロスが落とした『白牛のロース肉』に串を刺し、『神饌の塩』で軽く撫で付けるように覆う。炭火で焼いているとパチパチと音を立てて余分な塩がはじけて落ちる。なお道具類は安心のルシャ印。
「お肉!」
そわそわしているファルの視線が突き刺さりそうなんだが、おとなしく前菜を食っててくれんかな? と思いながら枝を投入。
「その枝はなんじゃえ?」
そわそわしているファルと食前酒を飲みながら興味深そうにこちらを覗き込み突いてくるヴァル。こう、座ってられないんですか?
「葡萄の枝だな。ほんのり薪の香りがつく」
匂いに癖がなくって重宝する――そうだ。当たり前だが現実世界の一般住宅でこんなことはやったことがございません。
「僕が見せてもらってるんだから遠慮して?」
氷の笑顔のルシャ。
「大変そうだな、手伝い呼ぶか」
ドゥルが手を叩くと現れたのはメイドさん。
いや、料理は別に大変じゃないのだ。邪魔が入るから時間がかかっているというか、出来ていないのにつまみ食い極意なヴァルがですね……。ああ、そっちに料理運ぶのに呼んだのね。
ヴィクトリアンで午後仕様なメイド服を着た白い髪をまとめ上げキャップをかぶったメガネ女子。いやまあ、男だったら困るが。ヴィクトリアな感じのメイドさんは午前中は掃除を主にしていたので安くて丈夫な服を着ていたこともしばしばだったそうだが、午後は貴族が起き出す社交の時間なので人目にとまるメイドはお馴染みの黒いドレスに白いエプロンに着替えたそうだ。しかも接客するときだけ白いカラーとカフスをつけたようです。まあ、袖口汚れるのにあの白はつけてられないだろうがちょっと夢が壊れる。――そのフル装備をしたメイドさんが私に黙礼してドゥルとついでに神々のために次々料理を運んで行く。
キビキビ動くたび少しだけ翻る長いドレス。いいですね! ストッキングも黒です、白履いたら最悪解雇もあり得るほどあの時代の英国は脚にうるさい。
「食わんのかの?」
「いや、どうもホムラ一人に料理をさせてというのが落ち着かんのだ」
タシャが杯を傾けるだけで料理に手をつけないアシャに聞くと返った答えがこれ。本当になんで初対面パンツだったんだろうなこの神、残念すぎる。
「そうだね、そろそろ僕たちも食べようか。色々見せてもらって面白かった、ありがとう」
「楽しんでもらったなら何よりだ」
料理はストレージ内でも作れるのだが、ルシャの工程を見たいという希望で幾つか作っていた次第。なお、酒類は一番最初に仕込んで時を司るタシャにお出まし願った。ほとんどの野菜はドゥル提供。
『庭』への扉を開けたらやっぱりというかなんというか、神々が勢ぞろいしていました。そして神々しい中始まる宴会の流れだった。予想はできたのでメニューはある程度考えてあったのでセーフ。
筍ご飯に牛のしぐれ煮を乗せたもの、各種おにぎりとヴェルス用に口を開けたままイクラや木の芽をとりどりに飾ったお稲荷さん。パンは逆に料理の味を邪魔しない食感と香りのものを幾つか。酒のつまみという名の前菜の数々と先ほどの肉料理。
そして蟹しゃぶ。
「おおお?」
すでに殻をむいて下ごしらえを終えた蟹の脚をこれも蟹と昆布で出汁をとった湯につける。白い蟹の身が花が咲いたように縮れるとヴァルが嬉しそうに声を上げる。そのままポン酢で食うもよし、甲羅焼きの味噌にちょいとつけて食うもよし。蟹しゃぶの隣で焼き蟹も香ばしく焼けて食欲をそそる匂いを立てている。
「茹ですぎも焼きすぎも味が落ちるからどんどんどうぞ」
一度やって見せたらあとは見よう見まねではしゃぎながらしゃぶしゃぶしている女神陣。
「ん、おもしろい……」
一人ヴェルナのテンポが違うがたぶんはしゃいでいるはず……。
「おお、美しき夜の女神ヴェルナ、我が妹よ! このヴェルスが蟹をほぐしてやったぞ! この兄が!」
ああうん、修飾語が短くなって何よりです。というか言葉を捧げられているヴェルナが猫耳幼女なままなのでだいぶ変た……変ですよ。
ほのかな甘みの蟹しゃぶには癖のない上品で優しい味わいの日本酒。香ばしく旨みの増した焼き蟹には、力強い味の日本酒。どっちも純米大吟醸と呼ばれるものに仕上がっている。
「おう、おう。旨いな」
「うむ、いいものじゃ」
ドゥルとタシャは酒を楽しみ落ち着いて料理を食べている。大皿や鍋から取り分けた料理を綺麗に盛り付け
神々に給仕するメイドさんは食べていないようなのであとでお弁当でも包むか。すみません、盛り付け適当で。色味くらいしか考えてません!
青米を衣にパリッと揚げた有頭海老の唐揚げにハーブを混ぜたレモン汁をつけてサクッとね。ああ、美味しい! 食材ルート万歳だ。
姿に似合わずスパイシーなものや辛いもの好きなルシャはエビのコリアンダー煮込みを食べている。唐辛子も早く拾いたい食材のひとつだ。
ドゥルの野菜が相変わらず美味しすぎて今日の私のメインはサラダ状態。神々はランクが随分落ちるのに肉や蟹の方がいいらしい。
あとは思い思いに酒を飲み食べゆっくりとした時間が流れる。
「ホムラ様、ご挨拶が遅れました」
給仕をしていたメイドさんも手が空いたようで挨拶をされる。ドレスの裾をつまんで膝を落とす、カッテージじゃないカーテシーきたこれ。
「 私(わたくし) ウル・ロロと申します。兄がお世話になっております」
「ああ、よろしく。……兄?」
ん?
「そこの情けなくも引きこもっている男です」
「引きこもり……」
と、言われると心当たりが一つしかないわけだが。
袖口に目をやるとクルルカンがちょろりと顔を出す。
「失礼いたします」
出したところをウル・ロロがむんずと掴んでひきずり出す。
「何をするか!」
抗議の声を上げるクルルカン、お前そんなにはっきり話せたのか。そして絶対人型に成れるだろう?
「ロロ! この私になんという態度だ!」
「兄様が漆黒の鱗と四対の翼を持って王となったは昔の話。今は私もドゥル様にお仕えしております」
「くっ! それが兄に対する態度か!」
「我が兄は偉大なる翼ある蛇。空の鳥を落とし竜を凌駕す……、なっ!?」
ウル・ロロにぶら下げられていたクルルカンが黒い物体に攫われていった。空になった手元に驚愕の顔を向け固まっている姿にちょっと戦闘メイドの予感が湧いてくる。
「あー。――バハムート!」
「ぴぎょ!」
呼べば狭い庭のことすぐにクルルカンを咥えたまま戻ってきた。
「はいはい、ペッしなさい。代わりにこれあげるから」
腕に飛び込んできたバハムートに固めに作った『白牛のロース肉』のジャーキーを見せる。
「ぴぎゃ!」
口からポロリとクルルカンを落としてジャーキーにかじりつく。ジャーキーを咥えた姿はクルルカンを咥えた姿と大して変わっていないな、などと変な感想が浮かぶ。クルルカン、ジャーキー説。
「不用意に竜より強いとか言わないように」
ウル・ロロに注意しながらクルルカンを拾う私。歯型がついてる。
「私の速さを超えて!? 速さだけならば今は全盛期の兄にも引けは取らないというのに」
ワナワナしてますワナワナ。ショックを受けているらしいウル・ロロを見ながらバハムートを片手に抱き、クルルカンの治療とよだれを綺麗にする。雑貨屋にいくとラピスとノエルから抱きつかれることが多いので片手作業も慣れてきた。
「えーと、ドゥルの畑の番人か?」
二対の羽が生えた白蛇が野菜泥棒狩りをしていたはず。
「……お見苦しいところを。はい、普段はドゥル様の畑の番を任されております。ところでその竜はいったい?」
「竜王バハムートだ。私の知る限り最強だぞ」
「ぴぎゃっ!」
ご機嫌な鳴き声を上げるバハムートにぐったりしていたクルルカンが袖口に逃げ込む。
「バハムート……」
信じられないようなものを見る目でウル・ロロが腕の中のバハムートを見る。
「ガガッ!」
グァともガァ! ともつかない低い威嚇。
「……ひっ!」
白い小さな蛇となってクルルカンと同じ袖口に逃げ込むウル・ロロ。
「いや待て、なんで袖口。バハムートも強いのは分かっているから無駄な威嚇はしない、しない」
小さいのに圧がすごい、のだろう多分。初めて対面した時には前に立つだけで私も汗まみれになったのを思い出す。おかしいな、カルとレーノがあてられた神々の気配も無風状態だし。私、鈍くなってるのか?
「おう、うちの番人がすまんな。そいつらは暗くて湿った穴が落ち着くらしい。あと棒状のものに巻きつくのが好きなんだよ」
「定員オーバーなのでなんとかしてくれ」
翼ある蛇の生態の解説をしてくれるドゥルに訴える。
ご機嫌のバハムートの喉をコリコリと指先でくすぐりつつ出てくるのを待ったが、逃げ込んだ先で二匹が場所取りを始めて出てくる気配が一向にない。
「あら、あらあら。なかなかいい具合ですわ」
「ウル・ロロ、これは私が先に巻き付いた場所だ!」
「硬さといい太さといい理想的」
なんか私の腕がウル・ロロに猥褻物みたいに言われている気がする。
「ほれ、お前たち。迷惑をかけるでない」
ドゥルの一言で抵抗なく外に出される二匹。
「ああ……。ドゥル様申し訳ございません」
白い蛇から元のメイド姿に戻るウル・ロロ。
「何だ、私はもともとそこに住んでいたのだぞ!?」
「いや、居住は却下だ」
「ええええっ! 主人……っ!」
打ちひしがれ涙を流すクルルカン。同情したら負けだ。
デザートは以前ドゥルが白にくれた苺の種から育った『神饌の苺』のシャーベットとハルさんのミルクアイス。スパークリング白ワインで作ったフルーツパンチ。グラスに入れられた苺やオレンジ、パインが泡で包まれているのが透けて見えカラフル。――私用はサイダーで。
タシャ用にわらび餅。甘いものが苦手なルシャにはチリパウダーをまぶしたポテトチップス。
神々にそれぞれ料理を運び給仕をしているのはメイドのウル・ロロと、妹の教育的指導で手伝いをすることになったクルルカン。黒髪白面のメガネ属性の執事、家令? 男の服装はどっちだか見分けがつかんが、やっぱり人型になれたじゃないか! あと引きこもりが嘘のように手際がいいのだが。袖口はあれだ、アームガードつけて入れないようにするか。メガネは運営の趣味だろうか。
「ぷりん」
「はいはい、用意してあるぞ」
瓶詰めにしたクリーミーでゆるゆるでとろけるプリン。しっかりとした卵の風味、甘くてほろ苦い絶妙なカラメルの皿に移しても型崩れしない固めのプリン。
幸せそうにプリンをほおばるヴェルナを見ると、どうやら固いほうがお好みの模様。あれか、やっぱり甘い中にもほろ苦さがいいのか。
美味しそうに食べる姿に癒される。
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ちょっとご要望があった&位置関係がわかったほうがいいかとやっつけ地図作成。
邪魔な方もいるかとおもうのでアドレスぺたりしておきます。
クランハウスはファガットとジアースの間の小島がたくさんあるあたり。
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