作品タイトル不明
247.食材狩り
目覚める(ログインする) と大変柔らかい感触が。だがしかし、一番いい位置にいるのはクルルカンなのではないだろうか? まあクルルカンの性別謎だし人型には――なれるのかもしれない疑惑。白い顔の男性とも考えられたからこそククルカンの復活の予言の時に現れた 征服者(コルテス) を同一視してアステカやマヤの負ける要因になったんじゃなかったか? ついでに『 ククルカン(コルテス) は生贄を廃止した優しい神』とか神話を上書きしたんだったか。
「……」
腕をそっと引き抜いて起きる。
「ん……。おはよう」
カミラを起こしてしまったらしい。
「あら、まだ早いわ……」
寝足りないのか、そのまま私に身を寄せて再び寝息を立て始めた。今度は太ももに大変柔らかい感触がですね。
休憩ログアウトはこちらの時間で三時間ほどなのでカミラが寝足りないのは当然だろう。次回からは少し長めにとることにしようと思いつつ、今現在をどうするか考える。隣の体温は考えている間くらい役得ということでひとつ。
考えた結果。
自分の周囲に消音と気配消しの結界を発動させます。
部屋から出たクルルカンのボス部屋に衝立を立てます。
バスタブ&風呂用の魔道具を設置します。
入ります。
習慣とは恐ろしいもので必要がないと分かっていても風呂に入らんとなんとなく気持ちが悪い。衝立は【木工】を上げるために自作したものだが住人が作った物の方がまだまだ出来がいいレベルだ。今は目隠しになればいいので気にしない。
「……ホムラ。何をしているのかな?」
「風呂上がり読書?」
『ライト』を浮かべた衝立の陰にバスタブ、その隣に長椅子、現在はその上でゴロゴロしながら読書だ。
「いや、見てわかるけどね?」
呆れと困惑がないまぜになった顔でこちらを見ているイーグル。気にしたら負けだ!
「イーグルが起きたってことはそろそろ二人も?」
「いや、まだ寝てる」
「すまん、明るかったか?」
「夢見が悪くて早く起きただけだ、明るくもうるさくもなかったから大丈夫だよ。音が衝立の向こうに漏れないのは【結界魔法】かな?」
衝立をコツコツと叩きながら確認してくるイーグル。
「扶桑の道中で覚えた【結界】だな。使うか?」
「いや、いい。コーヒーをくれるか?」
風呂を見るイーグルに勧めてみたが断られた。入りたそうなんだが、あれか、私と違いタオルの外れる生装備だからやはり衝立では心もとないのか。
イーグルは早く起きてしまったが、住人の冒険者は安全地帯では七時間半ほど眠ることが基本らしい。そろそろ二人を起こしてもよい時間なので部屋に戻ると、二日酔いでもしてるみたいな顔をしてガラハドが起き出し、次いでカミラも起き出した。
「……おう、おはよう。身体強化魔法でゴリラになる夢見ちまったぜ」
「おはよう、起きてたのね」
起き抜けの二人にコーヒーを渡し、『ライト』を幾つか浮かべる間にイーグルが 熾火(おきび) を掻き立てて夜の間弱めていた焚き火の勢いを強くする。
朝食は 鯖(さば) の塩焼きとピリ辛こんにゃく、白菜の浅漬け、ご飯と味噌汁。三人が日本食も難なく受け入れてくれているのが 僥倖(ぎょうこう) だ。大根おろしにレモンをちょっとかけて醤油を垂らし、鯖の皮をパリッと割って白飯と食べる幸せよ。
二、三十分(きゅうけい) のログアウトならばスキルで封じても問題がない。就寝前のログアウトは人の来ない場所――個室や庭に『符』で【結界】を張って対応しているが、保険で『兵糧丸』も食べている。風邪などで数日ログインできなくなる場合もないとは言えないし、ログアウト中にEPもMPもゼロになりHPまで削られて神殿行きになるのは怖い。
『符』の効果時間はレベルと製作時に込めたMP量で決まることがわかった。破られたりすると効果時間に関係なく切れるので戦闘に使う分にはあまり長く設定する必要はないが、私には重要なのでレベル上げ案件である。
だが、早急に解決したいのは『兵糧丸』の味だ。もち米 ・うるち米 ・ソバ粉・蓮肉 ・胡麻・山薬 ・桂心 ・松の甘皮 ・人参 ・氷砂糖・蜂蜜……地方によって様々なのは調べて確認済みなのだが、美味しそうな組み合わせを試しても頑なに酷い味になるという……。
用材、 松明(たいまつ) 、食べられる! な籠城戦の時に重宝したという松。その甘皮で作った松皮餅は美味しかったが普通の料理だった。名前か? 名前に餅がつくから『兵糧丸』から外れたのか? 黄な粉団子も同様だし。などと考える元になった顔をしかめている三人の男女。
「うええええっ! 苦(にげ) ぇ」
「……ちょっとこれは……」
「だから言ったろう」
水を三人に差し出し落ち着くのを待つ。
「ありがとう。不味いと言われてもホムラの作ったものだからそこそこの味かと油断してたわ」
朝食後、クズノハの話から『兵糧丸』の話になり興味を持った三人が試した結果である。ちなみにランクの高いものを作れるようになり、その分EPの減りがさらに緩やかになったが味も酷くなった。
「けっこうな味だったんだ、対価はいかにってヤツだ。さっそく効果を試しにいこうぜ」
「ああ、そうだな」
まだ眉をしかめているガラハドの言葉に安全圏を出て食材ルートに足を踏み入れる。
「あぶねぇ! 再生早っ!」
刈り取ったはずの 青鞭野蒜(あおむちのびる) の攻撃から逃れるガラハド。
「『食材No.1』って……。食材になる魔物が多いルートじゃなくって本当に『食材ルート』なのね」
鞭のような葉を唸らせている青鞭野蒜、ここでの正式名称『食材No.1』を鑑定したらしいカミラが呆れたような声で呟く。
「本体は地下茎だぞ」
初見の魔物の洗礼を受けたところで解説をば。ボスなら兎も角、三人が道中の敵でおくれをとるとは思えないのであえてどんな敵が出るのか伝えていない。初見の敵って楽しいよな? 住人は異邦人と違ってそこまで楽しめないのかもしれないが、カジノの景品の『蘇生薬』があるのでいざとなったら責任を持って蘇生する所存。
「なるほどなッ! 【メガバーン・サークル】」
ガラハドが青鞭野蒜の群生に向かって踏み込んで行き、豪快なモーションで放ったスキルの衝撃波でガラハドに届く寸前だった葉が大風に潰されたように地面に倒れ張りつく。その中心に振り下ろされた炎を 纏(まと) った大剣はインパクトの瞬間地面を揺らし、剣の火が大地に移ると円形に燃えて消えた。暫く地面に高温によるひび割れのエフェクトを残したスキルは地下茎にもダメージを与えたらしく、葉が復活する様子はない。
「豪快だな」
「おうよ。ちまちまやるのは性に合わねぇ」
私の言葉にニヤリと笑うガラハド。
「【ボア・セヴァーン】」
「【レッドレインアロー】」
イーグルが剣を振るった同じ方向に濁流が現れ葉を千切り押し流す、間髪入れずカミラの弓のスキル。弓のスキルは貫通が多い。実際カミラの放った【レッドレインアロー】も地面に吸い込まれて地下茎にダメージを与えた。
「うん、苦い思いをしただけはあるかな?」
「これなら多少スキル押ししても平気ね」
「ま、腹が減ったら食えばいいんだがよ」
味は別として三人とも『兵糧丸』の効果は気に入ったようだ。
「で? ホムラはこれどうやって倒したんだ?」
「ガラハドみたいな衝撃波が伝わるパワー系スキルは持っていなかったはずだな」
「魔法かしら?」
三人の視線が私に集まる。私はクルルカンの杖を装備し、レベル上げを兼ねてエンチャントなどの補助魔法をかけている。
「こんな感じだな」
右に剣、杖を左の補助に替える。【風魔法】『ウィンドエッジ』【縮地】、そしてプスっと。
「……」
「…………」
「…………ホムラ」
ガラハドがぽかんと口を開き、カミラがゆっくり視線をそらす。イーグルが眉間をもみながら私の名前を呼ぶ。
「何だ?」
「君は 魔術士(・・・) 始まりの 魔法剣士(・・・・) だよね?」
「ちょっと前までは」
「何でそんなに速い――ちょっと前まで?」
言いかけた言葉を止めて聞き返してくるイーグル。
「待て待て待て、これは今聞くとパニクるパターンだ。後にしよう」
イーグルの疑問を途中で 遮(さえぎ) るガラハド。
「速いというか【縮地】使っているからな」
「【縮地】は距離を縮めているだけだろうがよ。手が速いんだよ、手が!」
「人を色魔みたいに言うな!」
「おかしいわ……? ファストのボスを倒して回った時は普通だったのに。そんなに前の話じゃないと思うんだけれど」
カミラが頬に手を当て困惑したようにつぶやく。
「異邦人はスキルの取得も多いしレベルの上がりも早いと聞くけど。――違うよね?」
「異邦人が全部 こう(・・) ならとっくに迷宮は六十五層の深部まで到達してるわよ」
ガラハドと言い合っている間にカミラとイーグルが何かしみじみと話し始めた。
「どうしてこうなったのかしら?」
「どうしてこうなったんだ?」
二人が同じことをそれぞれの言葉で同時に口に出し、こっちを見てくる。
「主にガラハドのせい?」
「何で俺!?」
神々に 遭(あ) ったのが運なら、その後引き寄せたのは料理の力。
「この世界に来て初めて話したのがガラハドでよかったってことだ」
ガラハドが目を見開いてぽかんとした後、顔をそらした。
「ふふ。私もホムラに会えてよかったわ」
カミラが笑顔で私に腕を回し頬を寄せてきたので頬を当てて軽く抱き返す。女性相手ならここで口で音を立てて男性相手なら無音らしいが、音を立てるのはなんだか恥ずかしいので勘弁してもらおう。
「があああああああああっ! 本当にフェル・ファーシだ!」
ボス部屋に入ってすぐ叫びながら頭をかかえるガラハド。
「青い! これがフェル・ファーシ」
タコやイカの血液中で酸素を運ぶ役目を担っているのはヘモグロビンならぬヘモシアニン。銅が含まれていて酸素と結びついて青い血になるそうな。酸素と結びついていない時は透明だそうで、ご家庭のまな板に上がる時にはもう呼吸をしていないので青い血にお目にかかるのは稀だ。ついでに吸盤が同じ大きさで綺麗に並んでいるのはメス、大きさがまちまちなのがオスである。あくまでタコの話だが。
「いや、普通はこっちを見慣れて……」
「見慣れるまで通うのはキツいわよ。トリスタン卿とラモラック卿は雫は出たのかしら……?」
イーグルの言葉をカミラが遮る。そういえば倒して終わりではなくドロップしなかったら再戦するしかないんだった、出たのかな?
「蟹がでかい!」
などと考えていたら視界に入った湧き出てきた蟹が前回よりもでかかった。どう考えても今回の方が強そうなので、フェル・ファーシを鑑定すると『食材No.11』。ファル・ファーシがNo.10だったのでこちらではフェル・ファーシの方がレア個体のようだ。
「あ"あ"あ"ああ〜! 棒鱈(ぼうだら) とかふざけた魔物と一緒に苦労した相手が『食材No.』なんか付けられて!」
ガラハドがまだ叫んでいる。
「二人とも落ち着け!」
イーグルにたしなめられました。
蟹も湧いてそろそろボスの登場ムービー(?)終わるし真面目にやらねば。