軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

237.クルルカン

黒い壁に空いた穴の前に立つ。

手には『迷宮の鍵』。以前タシャからもらった木製の地味な見た目で戦うための能力のない杖。

「ズボッとね」

「妙な掛け声をかけるでないわ」

白に突っ込まれながら掛け声と共に穴に杖を突っ込む。杖は半分くらい収まったところで止まったが壁に変化は見られず、これより先は進みそうにない。

「あれ違ったかな?」

穴に刺された杖から手を離すと硬く乾いた杖の表皮がパラパラと落ち、杖の先端から光る若芽が顔を出した。その瞬間ボッと音を立てて私の両脇に掲げられていた松明に火が灯り、歩いてきた回廊を遡るように次々火が灯ってゆく。

ただの平らな面だと思っていた行き止まりの壁に、翼ある蛇の姿が現れる。松明の光に下から照らされる浮き彫りは石窟寺院のような回廊と相まって探究心をくすぐる。

「なかなか壮観だな」

「こっちも変化が続いているのじゃ」

白の言葉にレリーフから杖に視線を戻す。

杖は所々強く光る細い根を壁に這わし始め若芽は柔らかな枝へと姿を変えて行く。光る根は見る間に壁を侵食し、翼ある蛇のレリーフに届くと枝枝に一斉に輝く葉を茂らせ目がくらむような光を放ち、壁と一緒に消え失せた。

壁があった場所を越え、中に入れば崩れた石積みとそれを飲み込む木々の根、大小さまざまな割れた黒曜石のような鋭利なものが広がる。

「あたっ」

自分の二倍くらいの高さの石に触れてみたら予想外のダメージ。しかも毒状態。

「何をしておるんじゃ、何を」

「いや、これは何かなと。触れるだけでダメージもらうということは床の細かいのも踏まないほうがいいのだろうな」

いわゆるダメージ床というやつですね! 浮いてるから私には関係ないが。

さっさと回復して乱立する鋭い石に触れぬように今度は注意深く進む。私の辿った後に【光魔法】『ライト』の道が出来た。途中で杖に灯して進むのが本来の使い方だと気付いたのだが、まあ、『ライト』程度なら消費するMPは使う側から回復するし。

白の召喚中もMPを消費しているはずなのだがMPを示すバーはミリとも減らん。――本職の召喚さんになると呼び出す時にMPを使うが召喚中の消費はない上、一体はパーティー人数にカウント無しになるスキルが付くらしい。もっとも召喚獣と一心同体、喚べないと召喚士単体は弱い。

「ボス部屋かと思っていたんだが……。敵もでんな」

「雰囲気はたっぷりじゃがな」

湿気って少し肌寒い中を行くと再び壁。溶岩が解けて固まったかのようなゴツゴツとした黒い岩壁の中に最初大きくてピンとこなかったが羽根が埋もれている。溶岩なら焼けてしまう気がするのでこの石は別な何かなのか、それともこの羽根は 溶岩の熱程度(・・・・・・) では焼けない(・・・・・・) のかと考えながら、羽根を辿って本体があるだろう場所に視線を移す。

石に埋もれているのは翼ある蛇、今度はレリーフではない本物だ。出した『ライト』が 十(とお) を数えても全体像が見えない。これがクルルカンなのだろう、上の方まで照らす量の『ライト』を出したが、少し離れねば全体像が見えないくらいには大きい。視界に入る蛇の躰は半分岩に埋もれ木々の根に絡め取られている。根は今もまた成長しクルルカンの躰を締め上げているらしく、時々パラパラと黒い鱗が割れ落ちる。

「石かと思ったがクルルカンの鱗か」

「面倒そうな相手じゃの」

この部屋の黒い石はクルルカンの鱗の破片であったらしい。どう考えても毒持ちですね!

「痛そうだな」

バハムートの楔も痛そうだったが、ゆるゆると締め上げられているのもかなり痛そうだ。この状態を見るにバハムートと同じく、封印される際に境界の穴を封じるために力を送ることに同意しなかったのだろう。同意したのなら封印の中でならある程度自由のはずだ。

『蛇は知識持ち、さらなる知識を求めた』

『求めた知識はこの地にとどまらず、境界を超えた』

『 理(ことわり) を知る蛇は理を壊した結果を知りたがった』

『賢き蛇であったのに』

『偉大な蛇であったのに』

『今ではこの通り』

どこからか声が聞こえてきた、多分タシャだろう。天井が見えないほど高いのによく響く、割れた鱗がそこかしこで震える。震えはクルルカンが封じられた壁にも及び、パラパラと小さな礫が落ちてきたかと思うとすぐにガラガラと大きな岩と波打った刃のような鱗の欠片が降ってきた。それを避けるために高く宙に飛ぶ。

『楽園に行くことができるのは聖職者、生贄、戦死者、お産で死んだ女性、そして首を吊って死んだ者……』

今度は低く割れた男の声。状況的にクルルカンの声だろう。

『お前が扉を開けた、眠りを覚ます者よ』

『導きの手はないが我が生贄となりて世界樹の木陰で永遠の安息を享受するがいい』

などと供述しており、楽園に行けるラインナップがヒドイがマヤでは尊ばれていたハズ。こんなセリフを言わせておいてククルカンじゃなく何故クルルなんですか? と思いつつ【黒耀】を喚び出し『闇の翼』、【ドルイド】『エオロー』で防御、【時魔法】『ハイヘイスト』を自分と白に。その間にも壁が震え、ザラザラと黒い粒が落ちたかと思うと蠍の大群。木の根の拘束から自由になった時に引きちぎられた翼からは禿鷲が生まれた。

「白、危なくなったら帰還しろ」

「ふん。我より速い者は早々おらんのじゃ。じゃが、あれに状態異常が効くかどうかは怪しいところじゃの」

蠍と禿鷲がばらける前に【雷魔法】レベル40『伏雷』。瞬く間に密集した蠍の大群を渡って行き、地面に雷の絨毯が出来上がる。禿鷲の方は蠍より耐性があるらしく、一度下に落ちたものもあったがすぐ持ち直して向かってきた。

【氷魔法】レベル40『スノーストリーム』。結晶が見えるような大きな雪が吹き荒れ、禿鷲にダメージを与えつつ羽根に雪玉を作って動きを阻害してゆく。『伏雷』である程度ダメージを受けていた禿鷲は次々と落ちてゆき地面に届く前に光となって四散した。

その間もクルルカンは自身を傷つけながら木の根の拘束から逃れ自由を得ようと蠢いている。

「これは完全に自由になる前に倒せということかな?」

「相手が自由になるを待つ理由はないのじゃ」

【能力貸与】『素早さ』

【能力貸与】『知力』

【能力貸与】『精神』

【能力貸与】『器用』

「 蠍と禿鷲(こまかいの) を潰して回っても、さして助けにはなるまい。ほれ、行くのじゃ」

クルルカンが身を震わす度蠍が湧き、禿鷲が群れをなし飛ぶ。

空を蹴ってクルルカンの元へ。【運び】【跳躍】【空中移動】【空中行動】今では特に意識をしなくとも、使い分け組み合わせ最適化している。歩く時にどうバランスをとってどの筋肉を動かすか普段意識しないのと同じだ。

狙うのは見た目的に機動力たる羽根、なるべく木の根は避けて【一閃】。

『……奪うか ……奪うか! 新たなる界を。知る機会を。私から奪うか!』

どうやら逆効果だったらしく、食い込む根が鱗を割り剥がし血が流れるのも構わず引きちぎる。岩がガラガラと崩れ粉塵が視界を遮る中、細かい鱗の破片が広範囲に飛び散る。避ける場所もない攻撃に慌てて次々に飛んでくる鱗を剣で叩き落す。幾つかはかすった程度だが、横腹と肋の上、太ももと膝の上に比較的大きな破片が食い込んでいる。弾幕厚いです、やめてください。

「……痛い」

「我をかばうからじゃ阿呆!」

「いや、まあほら、私の頭もあるわけだし」

ごにょごにょと言い訳をする。【堅固なる地の盾】は回数制限があるため、このような連続攻撃を防ぐには向かない。低レベルの魔法だが『土壁』や『ファイアウォール』を出しておけばよかっただろうか。胸より上、白に近い破片を逃さないようそればかりを考えて弾き飛ばしたのだが、意識が向きすぎて防げたはずのものを幾つか受けている。

普段なら自力で避けるなり私の背にさっさと戻るなりするだろうから白の心配をすることは少ない。だが【能力貸与】中、白は貸した能力は著しく低下している。

黒耀の防御のおかげで細かな欠片被弾時のダメージはほとんどないのだが、刺さった欠片から【裂傷】と【毒】の継続ダメージ。しかも下で触れた鱗と違い、この破片は【毒】ではなく【劇毒】、クルルカンの血が付いているとかそんな設定だろうかとか考えている間にもHPがぐんぐん減ってゆく。薬も魔法も効かないのは【裂傷】と【毒】の元たる破片が刺さったままだからだろう。

抜こうとしても抜けない欠片ごと 抉(えぐ) り取って回復かけようかとも一瞬よぎったが、継続回復効果のある薬を飲むにとどめる。【痛み耐性】があるとはいえ自分で自分の肉をえぐるのは流石に面白くない状態だ。【神聖魔法】レベル40『聖歌』も継続回復なのだが、音痴という壁が立ちはだかっているため使えない。いや、ゲームの補正で普通になってるかもしれんが試すのはせめて一人の時にしたい。

視界が効く程度に粉塵が収まると、自由になったクルルカンが姿を現わす。破片は魔法を壊す作用でもあるのか、浮かべておいた『ライト』の大部分が消え去っている。クルルカンの鱗は魔法を弾くかもしれない――そう考えながら巨大な蛇を観察する。自由になったとはいえ、満身創痍で開放感に溢れるとは言い難い痛々しい姿だ。

『お前を 贄(にえ) にし、ここを出よう』

セリフと共に地面から石の円盤が幾つか浮き上がってくる。

「さて、これは倒せるのかな」

【木魔法】レベル35『冬虫夏草』効果は敵から枯れるまでの一定時間HPとMPを少量奪って自分のものに。対象はクルルカンではなく蠍、虫系の敵には良く効く魔法だ。芽を出し蘭のような花を咲かせるのだが寄生した根の部分を見ると結構エグいので普段は余り使用しない。数が多いので薬で不足していたダメージ分を補って余るほど。幸い暗いので下は気にならない。

HPの減少はこれで暫く問題はないが時々痛みが走る。動けないほどではないが無視できるほど些細な痛みでもないので早く効果が切れて欲しいところ。

地面すれすれに浮き上がった円盤はその場にとどまっている。敵の攻撃のための何かかと思ったがそうではないらしい。あれか、クルルカンと戦うための飛べない人用足場か。思い至るが試してみる暇はない。突っ込んでくる禿鷲を斬り落とし再び空を蹴って自由になったクルルカンに迫る。

最初に入れた一撃は左の羽根を落とすに至らなかったものの機能を削いだらしく、少し 傾(かし) いで飛んでいる。形状から見て現実的な理屈で飛んでいるわけではなさそうだが翼に飛行能力があるのは間違いなさそうだ。もっとも翼は一対ではないので地に落とすことよりも機動力を奪う程度に考えた方がいいだろう。

禿鷲を薙ぎ払い、鱗が傷つきなるべく薄い部分を狙い一撃を入れると傷口から噴き出す血がサメのような形をとって襲いかかってくる。慌てて『ファイアウォール』を出した直後に欠片による痛みが襲って動きが止まる。サメは幸い『ファイアウォール』に阻まれ届かなかったが、攻撃が迫る中動けなかったことにヒヤリとする。

「反射神経が求められるときに痛みが被るのはさすがに不味い」

痛みに慣れるためにはいい機会だろうか? いや普通ボス戦のために備えて痛みに慣れとくものだろうとセルフツッコミ。

「って、白! よしなさい!」

何か引っ張られる感じがして自分の腹をみれば、白が破片を咥えて引っ張っている。毒のある破片は白の口を焼く。

『動けぬ間の外は新しきものに溢れていよう』

『お前を食らってお前の知識を私のものにしよう』

ゆっくりと私の周りを飛び始めたクルルカンがスピードを増して軌道を詰めてくる。

言っても聞かずに破片を抜き取ろうと悪戦苦闘する白と、迫ってくるクルルカンに慌てて【グランドクロス・刀剣】を放つ。

「【降臨】! 『タシャ』『アシャ』『ドゥル』『ルシャ』『ファル』『ヴァル』『ヴェルナ』『ヴェルス』!」

慌てて唱える早口言葉。困ったときの神頼み!

「おぬし……」

マント鑑定結果【これはひどい、という気配がする】

手甲鑑定結果【……うむ】