軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

228.観光地

「香辛料きついなぁ」

「僕、好き」

ボス討伐を終えて、サーでお茶を飲んでいる。香辛料を煮出した濃いミルクティーで、マサーラー・チャイに似たものだ。シンには不評でお茶漬には好評、私もシンと同じく好んでは飲まない味だが、ご当地ものは押さえておきたい。

持ち手がまっすぐ伸びて、柄のようになっている丸い木製のカップ。他の街の露店では、中身がなくなると消える使い捨ての素焼きのものが多いのでちょっと物珍しい。

外は寒いが、ログハウス風の軽食屋の中は暑いくらいだ。さすが林業と木工の街なだけあって、薪が惜しげもなく暖炉に投げ込まれている。

「あー、生きててよかった!」

アルムが伸びをしながら笑顔で言う。

「本当に……。あの横Gは本当にきつかったです」

「いや、あたしゃボス戦のこと言ったんだけど」

両手でカップを包み込むように持ち、しみじみと言うシズルに引き気味なアルム。アルファ・ロメオの高速ドリフトはシズルの心に傷跡を残した模様。 埃の尾(ダストテール) を延ばして走るアルファ・ロメオはカッコイイといえばカッコイイ気はするが絶対乗りたくない。

「来週、第二陣のウェルカムキャンペーンでイベントあるし、ゾンビのほうにも行くならちょっと頑張っておかないと乗り遅れるからね」

「ううう……スパルタ」

「この後はゆっくりできるんじゃないかな? 明日までにレベル20は余裕でしょ?」

お茶漬とペテロに説得される二人。

生産をメインに据えている場合、戦闘ではキャラレベルが上がらないのだ。サブにつけた戦闘系スキルは20までは余裕で上がるが、ステータスが上がらんのは厳しい。HPが一撃死余裕なまま、全体やランダム攻撃が痛いフォスやファイナのボスへは連れて行けない。

アルムとシズルは、土日の昼間はこちらに来て、夜と平日はゾンビがメインという予定なので、イベントに合わせて一般的な第二陣の進行具合と揃えるにはスパルタになってしまう。

「ぐう。クランハウスに早く行きたいとは希望したけど、ここまでキツいとは」

「がんばります。本物の炎王さんに会ってみたいですし」

ゲーム外の掲示板でも炎王やロイの名前は結構出るらしく、アルムとシズルは興味津々らしい。南の島のクランハウスに惹かれているところに、シンが炎王たちがハウスに来たことを話し、今に至る。

ハウスでなくとも呼んだら来てくれるような気もするが、盛り上がってるので口を噤んでおく。他にも結構有名人がいるようだが、聞いたことがない名前も多かった。私が知らんだけで、ペテロやお茶漬、シンは知っていたので、私が疎いだけだろう。

「シズルに使わなくなった生産道具譲るでしよ。観光案内もするでしか?」

「ふはははは! アルムには俺のお下がりをやろう!」

私が始めた時は、自分で採ってきた素材を使ってシルを節約していた気がするが、シズルとアルムは使い放題だ。初期の生産で使う素材は少し前までだぶついており、捨値で売っていたものをお茶漬がせっせと購入したものを二人に回している。なお、購入したものの大半は本日より高値で売りだしている模様。

ファストやセカン、ここサーの周辺では第二陣のレベル上げと、何故か以前からいる生産職が戦闘を行っている姿を良く見かける。素材が高値で売れるから戦闘スキルのレベル上げがてら収集しているのかな?

「観光……。『雑貨屋』連れてって〜」

「パジャマとか日用品なら広場から薬師ギルドのある方への通りにたくさんあるぞ」

アルムの希望を聞いてフォスと扶桑に食器を買いに行きたくなった。どちらも二人はまだ開けていない場所なので連れて行けないが。

「違う、違う。このサーバ、もう『表裏の賢者』でてるんだろ?」

「はい?」

「ああ……」

ペテロが納得したような雰囲気、掲示板、掲示板なのか? 掲示板主体の話はついて行けないので、黙ってサーの名物の菓子をちぎる。菓子というか、菓子パンかな。クリームをはさむ生地はもちもちとしたシュークリームの皮のような食感、そこに化粧砂糖に混ぜられたカルダモンがほんのり香る。みっちりクリームのつまった丸い甘いパン、正直本日の甘いものの許容量を突破しました。フライドポテトが食いたい……。

「各サーバに一人、条件を満たせば『封印の獣』を従えたNPCが出るってシルエットだけでてたヤツ。出るキャラがサーバごとに違うとか悩ましい。他のサーバの少女とシルクハット被ってるっぽいのとかも気になったね」

公式の情報の気配。

「……このサーバは竜と長髪ローブだったかな」

ペテロが微妙な表情だ。

「ヒール履いた美女の可能性がワンチャンあるぜ?」

シンがそういうからには、このサーバは長髪の男のシルエットなのだろう。

「もふもふと幼女もありましたし、好みでここからサーバを移動する方もいるんじゃないでしょうか?」

「へえ? あとで公式見に行ってみよう」

幼女はアリスかな? もふもふはミスティフだろうか九尾だろうか。いいな、もふもふの賢者。

「やってる人が知らないとか」

アルムに呆れられたが、ゲーム外でリサーチするよりゲームにログインしたいのだからしょうがない。

「あの公式見た時、運営開き直ったなあという感想しか持てなかった僕です」

「教えられて見に行って、二度見したでしよ」

「わはははは」

「一応このサーバにもいるんだろうね『表裏の賢者』」

「影が薄くてかわいそうだなおい」

どうやら公式を見ていないのは今回私だけのようだ。仕事中は見られないし、いっそ風呂の中で端末見られるようにしようかな。異世界の雰囲気にどっぷり浸かりたくて、ゲーム的情報は外部で一切見ない派も結構いるらしいのだが。

「賢者って影薄いのか?」

五人が一斉にこちらを見る。なんだいったい。

「早くクラン会話できるようになりたいというか、クランハウスで話せるようになりたいです、どうぞ」

「同感です、どうぞ」

何故かお茶漬とシンが通信風な会話。パーティーは最大六名なので、現在周囲の人にも聞こえるオープン会話で話している。どうやら人の耳目を気にしている模様。ログハウス内には、第二陣を連れたパーティーが幾つか。もともと稼働していたサーバは、定員の関係でサーバにいるプレイヤーからの招待がない限り新規では選べないため、ソロの第二陣は少ない。

「話すだけだと混乱して終わるからね。かといってここで見せてもらうわけにもいかないしね。しょうがないね」

ペテロの言っていることもよく分からない。私が合流していない時間帯に何か前振りの話題があったのだろうか。

「わはははは! とりあえず店だけ案内すっか?」

レオの発言。

「やばい、私今の会話レオの言うことしかわからんかった! 普段逆なのに!」

「安心しろ、あたしも話の繋がりが謎でついてけてないよ」

「同じくです」

そして案内された件の店。

「私の店じゃないか!」

「はい?」

「ちょっと言ってることがわからないですね」

二人から否定が入る。

ペテロ:はいはい、騒ぐと迷惑になるからね。今、夜だしw

レ オ:わはははは!

お茶漬:完全にこのサーバ、賢者のシルエット、レンガードだったからね

菊 姫:本物の賢者は出ないまま終わるでしね

シ ン:出現条件がプレイヤーがバハムートを出さないこととかだったら笑う

ホムラ:ええええっ!

レ オ:ホムラが一番おどろいてんな!

お茶漬:まあ、二人には早くクラン会話できるようになってもらって、それから驚いてもらう方向で。

菊 姫:気をつけるでし。いろんな人がドリームもってるでしよ?

ペテロ:公式を見たときのあの微妙な気持ちが忘れられませんwww

シ ン:嘘は言ってないよな、嘘は。

「ちょっと、急に黙らないでくれる?」

「どうかされましたか?」

クラン会話が聞こえない二人が心配そうにこちらを見ている。どうかされましたが、ちょっとどう折り合いをつけていいかわからない。私がバハムートを取得したせいで、賢者が現れなくなってしまったんだろうか……。ばれたら怒られそう(吐血)

「店も閉まってることだし、ログイン時間的にも宿に行こうか。明るくなったら並びたい人は並ぶということで。ここ始まるの昼すぎだけど」

見るだけで買い物しないなら、開店作業で従業員は出てくるよ、とお茶漬が。本当に観光名所、観光名所なの? イマイチ納得のいかないまま、久しぶりに初日に泊まった大きな宿屋へ。混み合ってはいるが、今回は全員が押し寄せているわけではないので、少々お高い部屋にはなったが無事チェックインできた。

「二人を生産施設に突っ込んだら、僕たちはどうしようか? 流行りは魔石あさりだけど狩場混んでるしね」

今回はお茶漬とペテロと一緒の部屋だ。ベッドでゴロゴロしながら話す。

「魔石?」

「そそ。今笑っちゃうほど初期で出る魔石が値上がってる」

「ウェルカムイベントがどんなのかは分からないけど、第二陣も参加できるもののはずだからね。誰かが魔石を大量に買ったら、イベントに使うかも! ってなってみんなが買うもんだから今相場がひどい」

お茶漬の説明をペテロが補足する。

「生産はすぐ20になるだろうし、待つ間それぞれうろうろしてて、観光かな? ボスまたやるのはさすがにキツイだろうし」

「ですね。ホムラは迷宮行かないでね? 時間短いしあそこボス終わらないとメール届かないから」

「はいはい。生産でもしてる」

「いっそ、雑貨屋で奥から顔だして観光スポットやっててくれてもいいのよ?」

おやすみを言い合って、ログアウト。異世界で寝て、現実世界では起きていて別れた相手と十五分、二十分後くらいにはまた会うので始めた当初は違和感があったが、今ではそれも薄れている。始めた頃を思い出しながら、顔を洗って紅茶を用意。バイザーを外した後、顔を洗うのもすっかり習慣になったな、と思いながら伸びをする。

さて、今日はだいぶ詰め込みすぎな気がするが、あの二人は楽しんでくれるだろうか。ゾンビの世界から逃げてのんびりするのが目的だと言っていたので、クランハウスはオススメだ。【釣り】もとったそうなので、釣り糸を垂れてのんびり……、いかん、レオのせいで釣りに騒がしいイメージしかない。