軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

150.闇を纏うモノ

ペテロとは別の道を来ている現在、木のウロの中の曲がりくねった道だ。

白ウサギを追いながら、狭い穴を私が通り抜けてギミックを操作したり、小さいままではどうにも動かすことができない歯車をペテロが動かしたりと、ほとんど交互に何かしながら障害物を越えてゆく。

そうして敵を倒しつつ白ウサギを追っていると、チェシャ猫が白ウサギの懐中時計をかっさらい、白ウサギはトランプの兵隊が連れて行ってしまった。

チェシャ猫が入り込んだ先は私が進んでいる木のウロ、白ウサギの方はペテロが追っている。

このダンジョンの敵は、石を投げてくるトカゲや、魔法と物理を使う太った双子、フォスでボスだったグリフィン。ウロの中の敵にさすがにグリフィンは出ないが、全てアリスの物語の登場人物だ。戦い方がトリッキーな敵が多い、そして落とすものはスパイスやら砂糖やら……。

「なので、本当は狩り尽くす勢いでいきたいんだが、小さくなったこの身では移動もままならず……」

「建前はいいのじゃ!」

「白の毛皮は至福です」

あれです、白に乗せてもらったらもうドロップアイテムも戦闘もどうでもよくなりました。人をダメにするもふもふです。白の毛に埋もれて、全身もふもふ。これを手放すのは冬の寒い日、暖房のない部屋で布団から出るより難しい。

「ほれ、いたぞチェシャ猫じゃ」

「白、まだペテロ着いてないだろうし回り道をしよう」

「阿呆なことを言い出すでない! さっさと倒すのじゃ!」

ううう、私の至福の時間ががががが。

木のウロの中だというのに、開けた森の中。

相手は『アリス』の物語で有名になった、耳から耳まで届くようなニヤニヤ笑いの猫。

黄色い目とニヤニヤ笑い、立派な縞を持ったドラ焼きみたいな潰れた顔した大きな猫。猫は好きなのだが猫というだけではもふもふ補正はかからない。というか、にゃ〜〜〜オゥと鳴く野太い声が絶対猫じゃない。猫だと思わなければ、ことあるごとに、おっさんがワァ〜〜〜オゥと言っているようで嫌な感じである。

それでも猫であるからには、と様子を見ていると「にゃ〜〜オゥ」と鳴いて、いっそ狸のようなふっさふっさな尻尾を振って、針の毛を飛ばしてくる。

剣で払い落して距離を【縮地】で詰めるが、届く前に 縞(・) を残して消え、背後に現れる。

「ってっ!」

しっぽの縞がバネのように伸びてドリルのような先が刺さる。

振り向きざまに振り払えば、今度は三日月型の 口(・) を残して消える。そしてまた別の方にニヤニヤ笑いを浮かべて現れ……。

空中に香箱を組んで、ニヤニヤしながら尻尾で多彩な攻撃を加えてくる。魔法も届く寸前に移動してしまう。

「これはスピードの問題ではないの」

白の速さでさえも攻撃をいれられていない。

針の毛を避けながら、周囲を調べるが、特にギミックの様なものはない。

「口だけ残る時と、縞だけ残る時とで出現場所が決まってるとかかな?」

攻撃もそこそこ痛いのだが、何よりこっちが当てられないのにニヤニヤ笑いながら尻尾だけで攻撃されるのがいただけない、ストレスの溜まる敵だ。

でかい図体で立ち上がりもしないで攻撃を加えてくる。――でかいのは私が小さくなっているせいだが――とりあえず観察してパターンを見つけよう。こういうのはペテロとお茶漬が得意なんだが。

《チェシャ猫のヒゲ×5を手に入れました》

《チェシャーチーズ×5を手に入れました》

《チェシャ猫の塩瓶×5を手に入れました》

《チェシャ猫の魔石を手に入れました》

《『スキル石ねこぱんち☆』を手に入れました》

《『キノコ・大』を手に入れました》

《『白ウサギの懐中時計』を手に入れました》

待て、なんだ『ねこぱんち☆』って。

ネコの肉球付きグローブの幻影がつくが、その実態は百烈拳?

……ペテロ案件発生中! ネタにしているが、本人は実はそんなに幼女好きでもない。ただただ何故か幼女に好かれるだけで。たぶん真正ロリコンではない、たぶん。たぶんね?

一瞬ラピスにやろうかと思ったが、彼女は狼だった。他に幼女の知り合いは居らんのだが、これは成人女性でも可なのか不可なのか。いっそもうシンにやるか。

チェシャ猫は、縞を残して消えた次は遠距離物理しか当たらず、口を残して消えた次に出現した時は魔法しか当たらず、全部消えた時は近接物理しか当たらんかった。気づいてしまえば何て事のない敵だったが、気づくまでがイライラした。

――【投擲】も少し真面目に上げておいたほうがいいだろうか。

原作通り三日月型の笑いを残して消えていったので、倒したとは思えない。すでにどこかの木の梢でニヤニヤ笑いを浮かべている気がしてならない。

「どうやらようやく戻れるらしい」

『キノコ・大』を手に取り【鑑定】すると、思った通り体を大きくする効果。なんかずんぐりむっくりな形状に黄色い傘に赤の水玉、古くから続いて今でもVRで低年齢から人気のある某ゲームのアイテムを思い出し、版権的な何かは大丈夫なのだろうかとちょっとだけ心配になる。

「ふむ、では我はお役御免じゃの」

「え、いやいや! 気のせいです、まだしばらく小さいままです!」

白の胸毛にしがみつく私。すばらしきかな白の胸毛、ふっくらさらさら絹の手触りですよ!

ぷりぷりしながらも、出口までじゃと短い距離を乗せてくれた白が帰ってしまい、おとなしくキノコを食べる。……何故にチョコレート味。

元に戻って外に出る前に振り返る。やたら広いと思っていたフィールドは他のボスフィールドよりも狭かった。

出口を出たらペテロが戦闘中でした。

「参加!」

「そっち終わるの早すぎ」

「道中の敵、ほとんど無視した」

ペテロに『回復』と『ハイヘイスト』。

「私も敵釣らないように移動したんだけどね」

「指輪の能力解放するか?」

「いや、これ数が多いけど、避けられるからいい。多分ハートのカードだけ先に全部倒さないとダメっぽい。他のカードは倒すと増殖する」

「それにしても毒ってるのが多い気が……」

「つい、最初に全部【猛毒】を」

「流石です」

ダイヤは回復を使用、クラブは棍棒を持って殴りかかってくる、スペードはハサミを持って追いかけてくる。ハートは魔法。回復から倒すのがセオリーだが、今回は魔法を使うハートから。確か原作アリスのラスボスらしきモノはハートの女王だ。

ハートを狙うと他のカードが庇ってくる上、ハートよりも他のカードがHPが低い。魔法は控えて確実に倒して行くことにする。

ペテロとは他のゲームでも二人旅が多いので気心が知れている。だいたい私が近接物理でペテロが弓や銃の飛び道具。今回使っているのは弓でも銃でもないけれど、正面が私の担当なことは変わらない。

《加工紙×5を手に入れました》

《トランプの砂糖壺×5を手に入れました》

《ダイヤ×5を手に入れました》

《クラブの棍棒を手に入れました》

《トランプ・ダイヤの魔石を手に入れました》

《『スペードの鋏』を手に入れました》

「数は多いが攻撃は軽いしなんとかなる範囲だな」

「いや、普通のパーティーは大半を避けたりしないから」

そういえばペテロも【ヴァルの加護】持ちだったか。それにしても速いし、弱点を突くのが的確だ。正面からは苦手なようだが、職を考えると仕方がない。範囲スキル、広範囲な魔法も苦手なようだが、単体魔法は弾いている。斬るのではなく、弾くことしかしていないので私の持つ【月影の刀剣】の『魔法を斬る』や【魔法相殺】とは別のアイテム効果かスキルなのだろう。

「ペテロも十分規格外だと思うがな」

「私は一点集中特化だから」

隅に居たらしい白ウサギが逃げてゆく。

それを追ってウサギ穴に落ちると最初は土壁だった穴が、ガラスに変わる。

落ちた先は球形のドームの中だ。落ちたはずなのに外には星が見える。

『ここは少女が生まれる地』

『ここはフラスコの中』

『ここは始まりの少女が在る地』

『ここは永遠の少女が封じられた地』

『ここを見つけた貴方は誰?』

「ヴェルナか」

闇に溶けた黒髪に、闇に浮かぶ白い 絖肌(ぬめはだ) 。

「私の寵愛を持つ貴方はホムラ。もう一人は誰?」

「ペテロだ」

「貴方は私の力の欠片をその身に宿しているのね?」

「今はヒトの息する地に私の霊蔵はないはず」

「貴方は闇を纏うモノの王?」

「いいわ、貴方に祝福をあげる」

過去に聞いた事のあるセリフ。

だがしかし、ペテロがいい笑顔である。怒ってる怒ってる。【隠蔽】していたことを言い当てられたのか。……『闇を纏うモノの王』ってなんだ?

「いかにも私は闇を纏うモノの王、だが人前で人の隠し事を暴くのは感心しない」

「私は闇の中、見るのではなく聞く」

「言葉にしてはじめて知る」

「貴方はホムラの僕」

「無関係な者なら時を止める沈黙を」

「【剥奪】のアナウンスも無かったし」

ペテロが肩をすくめてそれ以上の苦情の申し立てを止める。

「ペテロさんや、暗殺者にもマスターリングあるんですかもしかして?」

「ありますよ? バラすと普通は暗殺者のスキルごと【剥奪】されますが。どうやら指輪の契約のおかげでホムラは話しても大丈夫みたい? 職業柄かなんなのかドラゴンリングは無いけどね。代わりに『暗殺者の 矜恃(きょうじ) 』があるのかな?」

『封印の獣』といい、【暗殺者】といい、ワールドアナウンスには流れない伏せられたクエストは一体幾つあるのか。まだ知らない謎がたくさんある気がする。

というか、一点集中特化って暗殺者に特化したってことなのか。

「『白の錬金術士』が造った最初にして永遠の少女」

「彼はそれを『アリス』と名付けた」

錬金術、フラスコ、造った、とくればホムンクルスか。ペテロも気づいたらしく、ドーム型のガラスの壁を眺めている。まさかこの大きさの少女じゃないだろうな。

「『白の錬金術士』が寿命を終えて」

「『アリス』は錬金術士を造ろうとした」

「でもこのフラスコから生まれるのは少女だけ」

「『アリス』の望みがある限り」

「フラスコの中のモノは少女にも」

「錬金術士にも」

「何者にもなれない」

「境界が曖昧なモノは境界の綻びを作る」

「それがフラスコと『アリス』が封印された理由」

「『アリス』を止められる?」

「『アリス』の望みを止められる?」

「止められるなら連れて行っていいわ」

「『アリス』は封じた獣の中では弱いけれど」

「とても厄介」

「貴方たちは二人だけ」

「なんとかなるかもしれない」

「話だけ聞いているとまともなんだけど……」

「何だ?」

話が終わったタイミングで黙って聞いていたペテロが疑問を投げかける。

「何でプリン出してるんだ?」

「いやまあ、約束してたし。イベント的に話を終えたらヴェルナが消えそうだったし」

ヴェルナがむぐむぐと出したプリンを食べている。カラメルソースはヴェルナの好みに合わせて、ちょっとほろ苦くしてある。

「前回と違うのは材料のせい?」

「ああ、さすがにドゥルの素材には敵わん」

「ん、こっちも素朴で好き。何を使う?」

「卵と牛乳、砂糖が基本だな」

ランクが高かったので、ここで出た『トランプの砂糖壺』を使って作り直したのだが遥か及ばず。迷宮で卵はともかく乳はドロップするのだろうか。オーレ・ルゲイエがそういえば落としたか。床磨き用のミルクなのか食用なのか調べようとして忘れてた。

「ボス前にプリンで和まれても反応に困る」

なんかプリンを食べながら暗殺忍者が言ってます。

説得力無いな!!!