作品タイトル不明
83話 手探りの考察
取得スキルが増えてくると、何を追加で取得し、どのレベルが上がったのか分かりづらい。
だから新しく何かを得られたら『New』でも付けば良いなという――ただただステータス画面に向かって口走っただけの勝手な願望。
出来るとは思っていなかったし、どんぐりがしてくれるとも思っていなかった。
だが、実際俺の視界には
【棒術】Lv5『New』
このように表示されている。
数日前、冗談半分で望んだ仕様がそのままに適用されていた。
(なぜ、追加されたのだろう……?)
これを見て真っ先に感じたのは、喜びよりも疑問だった。
あれだけ俺にスキルを与えるのは渋っていたどんぐりが、ポロッと出た願望を簡単に実現してくれるとは考えにくい。
だが現実にはその願望が反映されている。
そして原因がさっぱり分からない。
(なんだ……何か条件を満たした……?)
どんぐりが表面上俺に与えたのは『若返り』と『ステータス画面を見られること』。
だがこれらとは別に、『魔物を倒せば所持しているスキル経験値を得られる』という、隠れた何かも俺に与えている。
当然どんぐりには何かしらの目的があって、この謎のスキルかも分からないモノを俺に与えたはずだが――……
今までラッキー程度で然程気にしなかった、俺だけ、もしくは転移者限定のこの現象も、冷静に考えれば見えてくるものがある。
(魔物を倒せばスキル経験値が得られる――となると、当然俺のようなタイプは喜んで魔物を倒すようになる。現に今がその状態なわけだ。ということは、どんぐりは俺に大量の魔物を倒してほしかったってことなのか? そう仮定すれば、倒した成果をすぐに確認できるという意味で、『ステータス画面を見られること』というのは上手く繋がっているような気もする。つまり、魔物を大量に倒したから、ご褒美的な何かで願いを叶えてくれた……?)
考察したのは自分自身なのに、それでも「ほんとかよ?」と首を傾げてしまう内容だ。
どうしても最初に出会ったケチ臭いどんぐりのイメージが強いため、俺のプラスになるようなことはしないだろうという先入観が邪魔をしていた。
ん――……
もう一度ステータス画面を開き、一通りのスキルを確認していく。
【棒術】、【夜目】、【粘糸】、【噛みつき】、【突進】……
このあたりのルルブで狩っていれば勝手にレベルが上がっていくスキルの他に、【短剣術】、【魔力自動回復量増加】、【魔力最大量増加】など。
既に取得していた複数のスキルに『New』が付いているので、スキルレベルが上がれば横に表示されるということがこれで分かる。
あとは【料理】【剛力】【鋼の心】なんかは新しく取得したスキルだな。
【料理】だけは取得時にアナウンスで気付いたが、他は乱戦中だったためか気付かなかった。
だがスキル名の横には『New』と表示されているので、最近取得したことがこれで分かる。
……うん、でもそれだけだ。
あくまで新しく取得した、もしくはレベルが上がったスキルに『New』とついて分かりやすくなっただけで、『New』を付けるための努力は今までと変わらず俺自身が積み重ねていかないといけない。
この追加要素があったからといって、 俺(・) 自(・) 身(・) が(・) 強(・) く(・) な(・) る(・) こ(・) と(・) はまったく無い。
なら、どんぐりが 設定(コンフィング) として機能を追加してくれたというのも、なんとなく納得できてしまう。
(となると、その基準が何か……試してみるか)
そう思った俺は小声で呟いた。
「俺の所持金を表示してほしい」
ゲームなら必ずと言っていいほどある仕様だろう。
そして強さには直接関係の無い、ただの便利機能だ。
今の手持ちが0ビーケだったとしても、0と表示されれば進展があったことになる。
これならどんぐりでも納得してくれやすいはずだ。
だが――
(何も変化無し、と)
数度ステータス画面を閉じたり開いたりしてみたものの、画面が変化した様子は無い。
ダメ元だったため大した落胆も無いが、何を基準に条件を満たせたのかは依然として不明のままだ。
(魔物をいっぱい倒してほしくて、それを俺は実行して、そのご褒美だったとして……ん? ってか、これってスキルだよな?)
思わず表示されているスキルを上から手当たり次第に確認していく。
(うん、うん……やっぱりだな。表示されているスキルも魔物スキルも、スキルレベルが存在しないものは今のところ無い。全て『10』までのスキルレベルが必ず存在している……ということは、 隠(・) さ(・) れ(・) た(・) こ(・) の(・) ス(・) キ(・) ル(・) に(・) も(・) レ(・) ベ(・) ル(・) が(・) 存(・) 在(・) す(・) る(・) ? そしてそのレベルが上がったのか?)
これが一番シックリ来る気がする。
『ステータス画面を見られるスキル』が、いつレベル上昇したかは分からない。
戦闘中に気付かずという可能性もあるにはあるが、他のスキルの上がり方を考えれば、スキルに関連する行動を取れば経験値が貯まり、そしていずれレベルが上がるんだ。
ということは、今見ているようにステータス画面を開いている時や、何かしらの操作をしている時に経験値が貯まると考えた方が自然だろう。
そして、今もこのスキルは『 空(・) 白(・) 』のままで表示されていない。
つまり、見えないスキルのレベルが上がってもアナウンスはされず、もしくはされても見えず、俺自身もいつスキルレベルが上がったのか分からない可能性が高いんじゃないか?
この考察に対して検証が出来るのはまだまだ先の話だろうけど……
いつの間にか所持金が表示されるようになっていれば、『ステータス画面を見られるスキル』のレベルが上がったということだし、所持金表示が無理だったとしても、不定期に色々な願望を呟いていればそれが突如反映される可能性もある。
そしていつまで経っても何も追加されない場合。
その時はどんぐりがたまたまの気まぐれで、この『New』という機能を追加してくれたと思うしかないだろう。
それは言い換えれば、頻度は分からないにしてもどんぐりが俺を見守っている、悪く言えば監視している可能性があるということになる。
ここまでの仮説を終え、大きく深呼吸をした直後――
「 」
――俺は背筋がゾクリとし、思わず呼吸が止まる。
問題は、 こ(・) っ(・) ち(・) じゃない……
これはただの便利機能なのだから、スキルレベルという存在があってもなくても、便利か不便かという違いだけで済む。
だが――もう一つの空白スキルは『 若(・) 返(・) り(・) 』だろう……?
「おーい、ロキくーん!」
こちらにももし、仮説通りスキルレベルがあったとしたらどうなるんだ?
さすがに幼児へ逆行なんてことは無いだろうけど、普通に考えればスキルレベルが上がるほど、自身の身体的な成長が遅くなるというものじゃないのか?
そしてその行きつく先は……?
まさか、女神様達と同じで【 不(・) 老(・) 】になってしまうんじゃないだろうか……?
「おーい!」
俺は女神様の側に立って、【不老】がどういうものかを想像してしまった。
中には望む人間もいるんだろうが、俺にとって感情のある【不老】とはまさに地獄だったんだ。
それは神界ではなく、下界であるこの世界だったとしてもそう大差は無いだろう。
そんなことになってしまったら……あぁあああ……
でもどうやって【若返り】なんてスキルを 使(・) 用(・) することができるんだ……?
こんなもの、常時発動しているタイプに決まってるんじゃないか?
ということはなんだ?
もしかして、 止(・) め(・) る(・) 術(・) が(・) 無(・) い(・) ってこと!?
やっべぇえええええ!!
「こらー!!」
「なに!?」
「「「「「…………」」」」」
「ふ、不可抗力です……」
「石入れるとブクブクしてるけどなんでー?」
咄嗟に肩を掴まれたので、思わず振り返っただけなのです。
俺が悪いわけじゃない気がするのです。
怒るなら、くだらない質問をしたメイちゃんを―――
バチーーンッ!!
「ヘブホッ!?」
さすがハンター……
なんだかんだと凝視していたところにロイズさんのビンタを食らった俺は、痛くはないけど衝撃はやっぱり殺せず、川へとズリ落ちていった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「それでは皆さん、お疲れ様でした!」
皆が口々に感謝の言葉を投げかけてくれる中、俺は顔に紅葉のような手形を付けつつも、今日の参加者に向けて挨拶をする。
俺を見て鼻の穴膨らませながら笑っているミズルさんには、そのうちどんな天罰を食らわせてやろうか。
「ロキ、本当に今後もこの風呂を使って構わないのか?」
「一時期的な滞在のために作ったものですから大丈夫ですよ。ただし――」
「自己責任、だろ?」
「えぇ。僕が魔物を間引くとか護衛をするとかはできませんから、今回のように団体さんで来るなり、継続してこの場を新しい狩場にされるなり、その辺りはハンターの皆さんで話し合ってください。消耗品になりそうな栓の作り方は先ほどご説明した通りですので」
結局1日限りと思ったお風呂イベントは予想以上の反響があり、今後も空いている時は使わせてほしいという要望が殺到した。
だから俺は自己責任の下なら好きにして構わないと、水の温め方、そのうち間違いなく壊れる栓の作り方を説明しておいた。
さすがに石材なら風呂自体が壊れることは早々無いだろう。
もし彼らがここも新たな狩場として使っていくなら、川で釣りという娯楽以外の選択も楽しむことができるんじゃないかと思う。
長いこと放置しちゃうと、風呂の場所まで辿り着くのは結構大変な気がするけどね。
「あとちょっとでベザートに戻ってくるんだろ? 戻ったら声掛けろよー!」
「またね~!」
「それじゃ!」
ジンク君達含め、皆が去っていく姿を眺める。
ベザートの町へ戻る、か。
確かにそうなのだが、戻ったら俺は拠点を移動することになるんだけどなぁ。
この周辺で狩れる適正狩場が無くなるんだ。
こればかりは強さを求める俺にとってはどうしようもないこと。
つまりジンク君達や、話すことも多かったハンターギルドの人達ともお別れだ。
(まぁ……今生の別れというわけでもないしな……)
別に顔を見たくなれば戻ってくればいい。
それだけの話だろう。
それに転移系スキルはある。
それは女神様達との会話で確信している。
いつだったか、超長距離転移は人種にはできないとリガル様が言っていたんだ。
つまり超じゃない、普通の転移系スキルや魔法ならあるということ。
それにヤーゴフさんが言っていた東の国に住む大金持ちの転生者は、間違いなくこの転移系を所持しているはずだ。
大量の物資を東から西へ、一気に運んで荒稼ぎしているわけだからな。
詳しい方法までは分からないけど、物が運べるなら人も運べる可能性だって高いだろう。
だから今考えるべきは、ビンタで止まってしまっていた若返りスキル。
こいつのレベルが上がってしまった場合だが――……
(まぁ、考えたところでどうなるものでもないわな)
勝手にレベルが上がってしまうのであれば、俺にはそれを止めようがない。
ただ上がりきるまでには相当な時間がある。
なんせ仮説通りならレベル10まであるんだ。
10が若返り能力のマックス、不老だったとしても、自然上昇でスキルレベル10まで持っていくとなれば何十年かかるんだって話になる。
そしてそれまでは若い身体を維持できるかもしれないというメリットもあるんだ。
その間に何か打開策を見つけられるならそれで良いし、よくよく考えれば不老になっても不死じゃない。
不死と若返りになんの繋がりも無いからね。
なら、万が一不老になってしまったとしても、長く生き過ぎて人生に疲れたとなれば自ら命を断つという選択肢があるのだから、そう考えれば十分な救いになる。
一気に若返ったことから、若返りの能力を俺が根本的に勘違いしている可能性だってあるわけだし、今アレコレ考えてもしょうがないことだろう。
なら……うん、いつも通り。
直近の目標をコツコツとクリアしていく。
その結果やれること、できること、行動の幅が広がっていくわけだから、今は目先の目標。
レベル17を目指して頑張ろう。
そう気合を入れて振り返る。
「ただ……まずは一度洗おっかな」
なんだか使用感溢れる姿になってしまった風呂を見て、俺は思わずそう呟くのだった。