軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話 新スキルの取得

悠人の冒険 4日目

「火魔法の存在は忘れよう。そんなものは存在しなかった」

早朝、やさぐれながら、なんとなく毟った小枝を川へ放り込む。

死に物狂いで生き延び、やっとレベルアップして手に入れたスキルポイント。

それを失ったのは非常に大きい。

いや実際スキルは取得できているのだから失ったわけではないが、それでも今のこの環境を変えられないことは、悠人にとって失ったのと同義であった。

「どうせあれだろ? 何か決まった言葉や魔法名がこの世界にはあって、それを知らないと発動できないってやつなんだろ? そんなん分かるわけねーじゃん? この世界の人間じゃねーし?」

いじける悠人、昨夜からこの調子である。

幸いこの異世界は現在夏場に近い気候であり、夜に暖を取らないと寝られないということはない。

逆に仕事着であるスーツを着用すれば、湿気も強くやや暑いと感じるくらいだ。

しかし火が無ければ食事、というより肉をまともに食べられないということであり、『火魔法』については忘れようとしても、『火』の存在を捨て切れずに悩む悠人。

(川で食べられる物は見つけた。さっき罠にハマった魚も生だけど食べられた。寄生虫を気にしなけりゃとりあえずなんとかはなる。ただ川をこのまま下ったとして何日かかる? いつ人に会える? それがまったく分からないんじゃ、火を捨てるのは危険な気もする……)

悠人は原始的な火おこしの方法をなんとなくだが知っている。

木の棒を手で擦りながら回転させ、着火しやすい木くずなどに摩擦熱で火種を作り、間髪容れずに口で風を送り込みながら火に昇華させる。

しかし、この方法は小学生の頃に校外学習で試したことがあり、手に出来たマメを潰して後悔した記憶しかなかった。

今改めてやっても、時間と体力を浪費し、無駄に手に傷を作る未来しか見えてこない。

(木に紐を結んで動かし、それで着火させるやり方も確かあったな……弓きり式だっけ。紐、紐……革靴の紐があるにはあるか。なんとなくのイメージしか分からんが)

紐があれば材料は揃うわけだから、イメージを元になんとか火おこしを成功させ、身体を潰さない慎重策を取るか。

それとも火を諦め、このまま川で取れる食事を頼りに早期人里の発見を狙う強硬策を取るか。

悩ましいこの2択ではあるが、その答えを出すのは悠人の思考と目的を考えればそう難しくはない。

(俺はサバイバルがしたいわけじゃない。やりたいのは成長を楽しみ、そして極めるロールプレイングだろ)

結局はこれが全てである。

現実問題として火おこしの経験がなく、イメージでしか仕組みを理解できていない悠人にとって、どうしても自ら火を起こすという作業はハードルが高い。

素材がある分、試せばいつかは成功するかもしれないが、それがいつになるという話である。

そして悠人は毎日川を下って移動するつもりだ。

目的が狩りではなく、まずは人里への到達なのだから当然だろう。

拠点を決めての探索であれば、一度起こした火を絶やさなければ効率的に活用できるが、毎日移動すれば毎日火を起こすことになる。

いや、起こさなくてもいいが、食事のたびに肉を食べたければ、安全に魚や川の生き物を食べたければ火が欲しいということになってしまう。

おまけにその都度靴紐を解く必要があるため、ただでさえ身体が小さくなってブカブカの靴が余計に酷いことになる。

火起こしに手慣れた人間ならばともかく、悠人にとってはまったく現実的ではない作業だ。

ならば。

(決めた。火魔法がダメなら火を捨て、川の食事をメインに可能な限り早く森を抜けよう。こんな原始人のような生活はもうたくさんだ)

そして悠人は川を下り始める。

川辺は小石のみの普通に歩ける場所もあれば、大きな岩が重なったり、やや崖のような状態になっている場所もある。

なので川辺を歩けるなら川辺を。

どうしても難しい時のみ、川に沿って山中を歩いていく。

モグラ対策が万全ではないため、さすがに石の下からモグラは出ないだろうという、可能な限り安全策を取った歩行ルートだ。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

進むこと2時間ほど。

俺は既に2体のゴブリンと遭遇していた。

当然しっかり倒しており、以前考えていた懐中電灯で目眩まし作戦は効果覿面だ。

1匹は木の棒を握り締めていたので警戒を強めたが、武器を持っていようがいまいがゴブリンは俺を視認すると真っ直ぐに走ってくる。

なのでそれなりに近づいたらポケットに忍ばせている懐中電灯を向け、目を瞑って怯んでいるうちにマイナスドライバーでドン。

これで安定して倒せるので、効率的なゴブリン用ルーティーンを確立できた気がする。

そして昼時、丁度良さそうな川辺で食料探索兼休憩をしようとしていると、1匹の角ウサギを発見。

例の上着作戦で倒すと予想外の出来事が起こった。

『レベルが3に上昇しました』

まぁ分かる。

『【突進】スキルレベル1を取得しました』

……はい?

突進?

レベルはモグラの経験値がウマかったので、もうそろそろ上がるだろうとは思っていた。

が、突進スキルとはなんだ?

そんなの戦闘スキルにあったか?

そもそも俺は闘牛士になって待ち構えていただけで、自分から突進なんてしていない。

思い当たる節のまったくないスキルというわけである。

しかし、取得できた以上は兎にも角にも確認だ。

辺りを見回し、敵がいないと分かったところでステータス画面をオープンする。

「ん~無いな……戦闘スキルには載ってない、と……」

そのままスキル欄を下部へスクロールさせていくと、最後の最後。

今まで空欄であった≪その他≫のところに、なぜか上に2マス分くらいの隙間があるものの、突進スキルが追加されていることを知る。

「おぉ……ここかよ!」

思わず声に出してしまうも、当然の流れでスキル詳細を確認。

すると

『【突進】Lv1 前方に向かって能力値130%の速度で突進する 移動範囲は任意指定 最大距離5メートル 消費魔力5』

はははっ……

「これだよこれ! こんな説明を求めてたんだよ!!」

感動で叫びたくなる。

【火魔法】で理解不能な説明を受けたんだから尚更だ。

おっと興奮する前に、ステータスも確認しておかないとな……

名前:間宮 悠人 <営業マン>

レベル:3

魔力量:22/22

筋力:14

知力:15(+1)

防御力:13

魔法防御力:13

敏捷:13(+1)

技術:12

幸運:18

加護:無し

称号:無し

現在がこれだ。

知力と敏捷値の(+1)というのが気になるが、そこら辺の検証は夜にやる作業。

視界が塞がっている今悩むことじゃない。

ステータスの上昇と、新しく「スキルポイント」が3になっていることが確認できれば十分だ。

それじゃあ早速試すとしますか!

ステータス画面を消し、前方に向かって歩く。

「突進!」

すると視界が急に流れ、まるでバネで弾き飛ばされたような、自分の意志とは別の力を借り受けたような慣れない加速を感じる。

そして気付けば約5メートルほど距離が進んでいることに気付いた。

「凄い……これがスキルか!」

自分が全力疾走した時よりも、一時的にだが明らかに速く移動したと分かる。

ステータス画面を見れば、魔力量が「17/22」となっているので、しっかり発動していることは間違いない。

となると、あとはパターンか。

次に軽く走りながらの発動。

すると発動するも、突進速度は歩いた時の発動時と変わらず。

ということは突進の最大移動速度は固定ということが分かった。

敏捷値基準、あとはスキルレベルが上がればさらに速くなるのだろう。

また、無理やり発動中に方向を変えようとしてもできないことから、直進限定ということも分かる。

まぁ突進なんだから当たり前だ。猪を想像すれば納得もいく。

ただ歩きよりも走りながらの方が、発動中の攻撃に移行しやすい気はするな。加速度の減少とモーション的にだ。

となるとあまり意味はなさそうだが……

立ち止まったままスキル名を唱える。

「突進!」

ふむ……これは発動しない。

あとはこいつか。

走りながらも頭の中で念じてみる。

(突進!)

「おっ!これはいけるのか」

将来、「斬鉄けぇーーーん!!」とか叫ばないといけない可能性もあったので少し不安だった。

多くの勇者達が背負っているであろう、『スキルは口に出さないとダメ』という酷い縛りがなくて助かる。

うーむ、初の使用できるスキル! 初の魔力消費!

なんだか感慨深いものがあるなぁ。

このスキルがあれば、極力そんな状況に持っていきたくはないが、モグラに不意を突かれた時にかなり有効だ。

気付きさえすれば、魔法を撃たれる前に急接近することができるのだから。

ただし――――…………靴は脱げるがな。

できれば発動前に靴を脱いでおいた方が良いのかもしれない。

これから死にゆく人を連想してしまってなんか嫌だけど。

さて、靴を拾ったら早いとこ食料を探すか。

海老ちゃん、蟹ちゃん、いい子にして待っててくださいよ。