軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78話 生命の女神

拠点近くの川辺に立ち、俺は目の前で渦巻く濃密な青紫の霧を見つめていた。

その霧を見ると鳥肌が立ってしまい、自然と手は腕を摩る。

(リアの【分体】が消える時も思ったけど、とんでもない魔力量だってことがなんとなく分かるな……)

魔法が使えなかったら特に何も思わなかっただろう。

だが今まで自身で放った魔法や、先ほど発動させた【風魔法】レベル4のせいもあって、霧の濃さを見ればそれがどの程度の魔力なのか。

なんとなくではあるが、経験則として分かってくるようになってきた。

そして、今目の前にある霧はまったくの未知数。

あまりにも濃過ぎて、触れただけで俺は消失してしまうんじゃないかという恐怖に駆られる。

た(・) だ(・) た(・) だ(・) 、 怖(・) い(・) 。

これが一番しっくり来る言葉だ。

そしてそんな霧が一点に収束したかと思えば、次の瞬間にはふわふわした茶色い髪をしたフィーリル様が、以前と同じく白いワンピースを着てその場に立っていた。

「お、お久し振りですフィーリル様」

「えぇお久しぶりです~お会いしたかったですよぉ~」

そう言って、なぜかハグしようとしてくるフィーリル様を咄嗟に止める。

本心は大喜びだが今はマズい。

「ちょー! ちょっと待ってくださいフィーリル様! 見ての通り直前まで狩りをしていたので血だらけなんです!」

「見れば分かりますけど、私は気にしませんよ~?」

「いやいやいや! 女神様達の服は非常に高価だと、リア、様から聞きましたので!」

「……【分体】の衣類なんて気にする必要ありませんのにぃ~」

リアと呼び捨てにしようとした瞬間、温厚そうなフィーリル様の眼が怪しく光ったような気がして冷や汗が出る。

だがとりあえず留まってくれたので、今更になって思った素朴な疑問を問いかけた。

「ちなみにですが、なぜ夜に? もしかして神界だとこちらの時間って分からないんですか?」

「分かりますよ~? 夜の方がロキ君といっぱいお話しできると思いまして~」

「な、なるほど……」

確かに昼間なら俺は狩りに没頭している。

リアの時も多少は話していたが、それでも狩りや魔物に関することが大半だった。

移動中はまったく別だったけど……ここじゃ狩場までの移動時間なんてほぼ無いようなものだしな。

「それにお風呂に入るなら、夜の方が良いと思いまして~。昼間だと……見えちゃうでしょう~?」

「おっ、おっ、おぉっ、おっしゃる通りでございます……」

うん。全力で納得した。

俺のスケベ対策って言われたら、もう何も言えない。

そんなこんなで立ち話もなんだからと、とりあえずフィーリル様を俺の拠点へ連れていく。

後ろに立つと石柱パンチラ事件がまた勃発してしまうので、見本とばかりに俺が先に登って先導し、手を引きながらフィーリル様を案内した。

なるほど、凄くぷにぷにしている。

この手は当分洗いたくない。

「ほえ~これは人種らしくない生活ですね~」

「ははは……まぁ効率良く狩るための一時的なものですからね。ある程度安全に寝られればそれで良いんですよ」

「地球の人種は知識に優れる反面、か弱そうな印象を持っていましたけど……ロキ君は逞しいですねぇ~」

俺の拠点を見て目を丸くするフィーリル様だが、たぶん誰が見てもそう思うだろうな。

多少棚を作ったり人間っぽい手の加え方はしているけど、床なんてただ葉っぱを敷き詰めているだけだ。

パルメラにいたフーリーモールと大差無い住処と言える。

おっと、そういえば。

「フィーリル様、引き継ぎはされてきました? リア様にお金渡してるんですけど」

「ん~? 何も聞いてませんよ~?」

「えーっ! そ、それはマズいです! リア様はもう帰っちゃってます?」

「うーんどうでしょう。まだ私がいる時は【分体】を戻していなかったようですが、お金ですか~?」

「お金もそうですし、あとは宿もそうですね。フィーリル様も明日からは転移者探しをされるのでしょう?」

「そうなのですけど、私はパルメラ大森林の内部を確認しに行く予定ですよ~?」

「あれ? ベザートの町の中じゃないんですか?」

「どうもロキ君が拠点にされていた町には転移者がいないようですからね~。とりあえずパルメラ大森林の内部を見て回ろうかな~と、その方が出会う可能性も高いとリステは言ってましたよ~」

ここにきてまたリステ様か。

言っていることは納得できるからいいんだけど、まさに女神様達の司令塔と言った感じだな。

ん?

そういえばそんな感じのポジションにいながら、可哀想な子になっていた人もいた気がする……

あの人はいったいなんなのだろうか。

「ちなみに【分体】は俺をポイントにしなくても出せるんですよね?」

「そうですね~【神通】や【神託】を使ってロキ君の横に出すのが一番楽ですけど~、一度降りたことのある場所や、そこから行ったことのある場所にも出すことはできますよ~」

「リア様の【分体】をポイントに出すことは? もしくはリア様の靴とか?」

「ん~? リアの【分体】なら【念話】でも使えばすぐ場所を割り出せますけど~………………靴?」

……あれ?

なんか妙な間があったような?

それになぜか『 靴(・) 』だけ間延びしないのは不思議ダナー。

今更だけど、フィーリル様もよく見たら裸足だし。暗くて気付かなかったし!

これは、やらかしてしまったか……?

「え、えーと、リア様に靴を買ってあげましてですね。ただ神界に持っていけないということで、宿屋で脱いでから【分体】を戻しているはずなんですよ。ははっ」

「なるほど~。……ちなみに私も 裸(・) 足(・) なんですよね~」

やっべぇ。

あの子に買ったんだから私にもってパターンだ。

そして買わないとご機嫌が斜めになることはすぐに予想できる。

だが……俺はまだベザートに戻る予定が無いんだ……

さすがにわざわざ靴を買いに行くためだけの用で戻るわけにもいかない。

だって俺一人の問題じゃないんだもの!

30人以上の命がかかってるんだもの!!

不思議と、また自然に身体が流れた。

まさかこんなハイペースで土下座をするとは思っていなかったが、どちらも女神様なんだからしょうがないだろう。

「申し訳ありませんが、まだ町に戻る予定が無いので、フィーリル様に靴を買ってあげることができません。なのでこういった時のためにリア様へお金を渡してあります。

どうやら食事も摂ろうと思えば摂れるようですし、無くならない程度に上手く使ってなんとかしていただければ幸いです。

ただしっ!……リア様は僕の特製お風呂に入っておりません。なのでフィーリル様だけがっ! 俺の特製お風呂に入ることができます!!」

そう言って穴倉の入り口、その先に見えるお風呂へ視線を向ける。

まだ石焼き用の火が灯っており、肉眼でもはっきりと風呂の全容を見ることができた。

「なるほど~! 私も 特(・) 別(・) なのですね~?」

「当然でありましょうとも!……早速入られますか?」

そう言うと、満面の笑みでフィーリル様は頷いた。