軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76話 男・ワイルド風呂

「ふふふ……やっとだ! やっと完成だっ!!」

川のど真ん中に置かれた謎の石。

それを見つめながら、俺は森の中で一人吼えた。

ルルブの森に引き籠って6日目。

すでに辺りは真っ暗で、今日も含め風呂作りは狩りが終わった後の作業なので、毎日【夜目】を使いながら黙々と作業をしていた。

そして魔物は、そんなこちらの状況など関係無く襲ってくるので地味に辛かった……

だが、しかし!

目の前には自作の風呂がある。

この感動を誰かに伝えたい! だが周りに人がいない!!

……だから一人で語ることにする。

引き籠り生活2日目の夜。

俺は風呂作りの方法を模索しながらも明確な答えに辿り着けず、何か良い案はないかと、思考を巡らせながら焚火用の枝を回収していた。

そして穴倉へ戻る時、ふと1.5メートルほどある石柱に足を掛ける取っ掛かりを作れないか?と、何気なく魔法を使った。

単純に自分の背丈ほどある石柱をよじ登るのは、狩りでクタクタになった後だとツラいという、ただそれだけの理由だった。

「窪みを、作れ」

石を消すことができないのはロッカー平原で経験済みだ。

だから窪みを作るくらいならできるかも? できたらいいな?

その程度の願望が混じった実験だったが――

結果は見事に窪んだ。

削れたのか、圧縮されたのかは定かでは無い。

土と同じ理屈であればたぶん後者な気がする。

使用したのは【土魔法】レベル1。

しかもなんとなく使ったため、魔力はほとんど込められていない。

だがそれでも、石柱の一部には1センチ程度の凹みができ、数回繰り返すことによって足を引っかけることくらいはできるようになった。

これが風呂作りの構想を決める第一歩だったと言える。

引き籠り生活3日目の夜。

俺はまず巨大な石を作った。

巨大と言っても、あくまで魔法を唱える時にそう言っただけだが。

『巨大で、四角い、石を、生成』

このワードが精霊にもしっかり伝わり、俺が使える【土魔法】レベル3の限界。

魔力『29』を使用して出来上がったのが、1辺2メートルほどの立方体っぽい石の塊だった。

それが川のど真ん中に突如出現した。

そしてその日のうちに【土魔法】で石の塊を川底に沈め、1メートルほど石塊の高さを 下(・) げ(・) た(・) 。

つまり川底に半分埋めたということになる。

これで水深50センチ程度の川に高さ1メートル、長さ、横幅共に2メートル程度の石塊が鎮座することになった。

このサイズなら雨で川の流れが早くなっても流されることはないだろう。

あとなんだか拠点周りの川辺がスッキリしたような気もするが、それは気のせいかもしれない。

引き籠り生活4日目の夜。

石塊の上に座り込み、ひたすら掘った。

もちろん剣やナイフでどうにかなるものではない。

そんなことをすれば狩りで使用出来なくなるので、ひたすら魔法で掘り進めた。

正確には圧縮されていたのだろうが、土と違って触っても違いが分からないので、ここではあくまで掘るという表現を使うことにする。

当然だが土と違って一度に掘れる量は多くない。硬さが違うのだからしょうがない。

遅々とした進行具合の中、だからこそともいうべきだが、その作業の間に色々なことを試した。

『穴を、空けろ』

これでも魔力量に応じて石を掘ることができた。

しかし

『石を、削り取れ』

『石を、抉り取れ』

このような、石の消失や分離を匂わすワードだと精霊は応えてくれなかった。

判断の基準が曖昧で難しいところだが、圧縮はできても消失は別の魔法の分野。

それこそ俺が求めている【空間魔法】とかになるのだろうと予想し、黙々と魔力効率の良い掘り方を模索しながら作業を進めた。

結局フィーリル様から呼び出しを受け、【神通】を使うことになってしまったので作業は中断したが。

引き籠り生活5日目の夜。

昨夜の挽回とばかりに石の塊を掘り進める作業は続く。

それこそ朝に回復した魔力も、狩りに行く前ちょっと使って掘ったりしていた。

5日目になれば魔物狩りもだいぶ安定し、自身がレベルアップしたこともあって、夕方に残る魔力量が日増しに増えていった。

風呂作りの作業を進めたくて、意図的に魔力を抑えたというのもある。

そして5日目から造形の最終着地点。

つまり風呂をどの形に持っていくか思案するようになる。

幅が2メートル四方の大きな石だ。

リゾート地にありそうな円形の風呂だって作ることができるし、日本の一般家庭にあるような長方形型の風呂を作ることもできる。

それこそ高さも2メートルあるのだから、やろうと思えば立湯だって作ることができるだろう。

だがそんな中で、俺はもっともポピュラーで慣れ親しんだ長方形型の風呂を選んだ。

一番安心できるというのもあるけど、最大の理由はそこではない。

作りながら、どう引き入れた水を温めるか。

その方法も考えていた。

この石塊と設置場所では、下から温めるなんてことはどうやっても無理だ。

となると考えられる方法は一つで、 焼(・) い(・) た(・) 石(・) を(・) 投(・) 入(・) す(・) る(・) しかない。

その時どこで石を焼くか。

拠点や川辺で焼けば、今度はその石をどうやって風呂まで運ぶのかという問題があり、そしてそこを上手く解決できる自信が無かったので、それなら風呂場の横で焼いてしまえばいいという結論になった。

これなら焼けた石を何かで突ついて、そのまま風呂の中へ落とすだけ。

つまり2メートル四方の石は半分が風呂、半分が火を起こして石を焼くスペースということになった。

そして今日、6日目。

朝のうちにある程度風呂の形を作り終え、先ほどまで最終調整を行なっていた。

まず試したのは、風呂に穴を開けた場合にはめ込む栓。

ここでしくじると今までの作業が水の泡になる可能性もあるため、かなり慎重に、そこら辺に転がっていた皿のような形状をした石でまず実験をした。

用意した栓の素材は、今日回収してきたスモールウルフの皮と、リグスパイダーに放出させた粘糸。

粘糸はぷにぷにネバネバした不思議な素材なので、多めに覆えば隙間を塞いでくれると思って採用してみた。

小さめに切ったスモールウルフの皮を丸め、それをネバネバした粘糸で覆い、事前に作った穴の開いた石に詰め込んで上から水をかける。

すると上部では水が溜まっているのに、栓の隙間からは水が垂れてこないことが確認できた。

粘糸が水で溶けだす様子も無い。

水を適温と呼べる程度のお湯に変えても粘糸に変化は見られなかった。

これなら成功、いや、大成功だ。

ちょっと強く押せば簡単に取ることもできるので、栓の機能としてはかなり良い感じに仕上がったと思う。

多少ネバネバが残るけどそこはしょうがない。

そしてこの実験が成功すれば、風呂本体に穴を開けても問題無いということ。

川の上流方面に向かって1ヵ所、逆側の底の方にも1ヵ所風呂の内部に穴を開け、これで水の出入り口を確保する。

すぐさま水が風呂に入っていく光景に打ち震える。

ここまで進めたならば、あとやることは一つだけだ。

急いで枝を搔き集め、風呂の横のスペースに置いたら【火魔法】で点火し、そこに石を投入していく。

どの程度石が必要かなんて分からないので、多めに焼いておけば問題無いだろう。

水面より50センチほど上の場所にあるし、川の流れは穏やかなので水を被る心配も無い。

あとは待つだけ、石が焼けるのを待つだけだ……

逸る気持ちを抑えつつ、俺はおもむろに服を脱ぎ始めた。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

剣だけを握り締め、俺は素っ裸で風呂を見つめていた。

長い。

こんなに石が焼けるまで長いとは思わなかった。

約1時間以上、俺は飯も食わずにひたすら全裸待機をしている。

その間、魔物も風呂を見にきたので当然倒した。

オークはなぜか俺を見てビビっていたが、今更服を着直すわけにもいかない。

あとちょっとなんだ。

だから剣を握り締め、俺は静かに待機する。

先ほどやっと赤くなった石を3つほど風呂に投入したら、水が勢い良くボコボコいっているが……

大丈夫だろうか?

いきなり3つは多過ぎただろうか?

どれどれ……ふむ。

温いか。だがまったく入れない温度じゃない。

それなら追加の石を投入して様子を見つつ、まずはぬるま湯を楽しもうじゃないか。

あまり熱いとすぐにのぼせてしまうしな。

しかしサイズを大きめに作って良かった。

この風呂は俺の身長くらいある。石は隅に投入しておけば触れて火傷することもないだろう。

ポチョン……ピチョン…………ジュゥウウウウウウ…………

さて、それではいかせてもらおうか。

超久しぶりのお風呂――――頂きますっ!!

ジャポン!

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………………」

ヤベぇ。ヤバすぎる……

風呂とはここまでいいものだったのか。

思わず空を見上げれば、川の真ん中ということもあって、草木に遮られることなく満天の星が輝いていた。

前を向けば石を焼く焚火が。

そして俺は川の中にいるかの如く、周囲360度を水が流れているこの光景。

海の見える露天風呂なんて目じゃない絶景だと感じる。

普通は川に露天風呂があったって川辺だろう。

川のど真ん中に風呂を作るアホなんてまずいない。

あぁ……あぁ……あぁ~~~~~~~……

「そこっ!」

「キャン!?」

となると、次の一手を打とうじゃないか。

俺は丁度良い湯加減になった風呂から半身を出すと、焚火の横においてあるお手製まな板。

その上に乗っているオーク肉(特上)を眺めながら、まな板ごと焚火の上に乗せる。

肉は全裸待機している時に襲ってきたやつなので取れたてホヤホヤ。

間違いなく素材判定「A」の肉だろう。

それを先ほど少し焼いておいたので、ここぞとばかりに仕上げに入る。

最高の環境で食べる最高の肉。

こんな贅沢をしているやつなんて、絶対俺くらいだろうな。

ふはっ……ふはははははーっ!!!

素晴らしきかな異世界。

魔法があれば素人だってこんなことができてしまうのだ。

さぞチートスキルを貰ったやつらも人生楽しんでいることだろう。

だが俺はもっと楽しんでるぞ?

よく分からないこの能力は確かにチートかもしれないが、それだって努力しなければまったく伸びない代物だ。

だから俺は努力し続けてやる。

努力も苦労も味わった方が、その後の楽しみも喜びもより一層味わい深くなるからな。

最初から強く、城で女を侍らせながら豪華な風呂に入っているだろう勇者タクヤ君には、剣を持ってスリリングに入る風呂なんて楽しみ方を味わったことは無いだろう?

「フンッ!!」

「グガッ……」

さて、そろそろ焼けたかな?

うんうん、良い感じだ。

あとは塩をかけてと――

あぁ……マジうめぇ……

ここにビールでもあれば最高だったが、それはそれ。

今後の楽しみにとっておこうじゃないか。

さすがにこの身体で飲んだらどうなるか分からないからな。

はぁ……あとは背もたれの傾斜をちょっと強めにして、お尻の部分の凹凸をもう少し滑らかにしておくか。

ついでに風呂の両サイドは肘置きなんかを作ってもいいな。

ここら辺は明日以降、風呂に入りながら余っている魔力で調整していくことにしよう。

……フィーリル様も、このお風呂を気に入ってくれるといいんだけどなぁ。