軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

664話 勇者タクヤとの対談

ニローさん経由で二重間者からの情報も入ってきているため、エルグラント王国の情勢はある程度把握しているつもりだ。

数で勝る帝国が北上しながら多方面に攻撃を繰り返しており、もうそろそろエルグラントの領土に踏み入るのではないかと言われていた。

誰から情報を抜いても、劣勢は帝国ではなくエルグラント王国。

だから慌ただしく同盟や共闘の話を持ち掛けられるのかと思ったが、意外や意外。

自称勇者から出てくるのは、世間話に近い転生者談義だった。

「まさかロキが俺と同じ日本人だったとはなぁ……となると、やっぱりラノベの知識が活きたのか?」

「いや、どちらかというと僕は、MMOの知識の方が役立ったと思いますけど……」

「へ~MMOって高性能なパソコン使って、みんなで戦ったりするやつだろ? それならこんなに上手く……【空間魔法】まで取得しているし、今のロキが羨ましくて仕方がないよ」

「ここにも転移ではなく、竜に乗って来ていましたもんね。相当スキルは厳選されていると思っていましたけど、【空間魔法】は選ばなかったんですか?」

「女神様からこの世界にはスキルの代用となる魔道具が広く存在しているって言われてね。転移や物の収納を可能にする魔道具もあるはずだって言われたから、じゃあ道具では補えない自己強化型スキルを選ぼうってなったんだけど、どうやらそれらが多く存在していたのはかなり古い時代の話だったみたいでさ」

「ああ、なるほど……」

容易に想像できる光景だ。

アリシアがこの時代の魔道具状況を正確に把握しているわけがなく、善意で知っていることを伝えたら勇者タクヤが綺麗にハマった。

そう考えると、スキルや出生まで理想の形で転生したと思っていたこの男も実は被害者だったわけか。

……まあそれでも、こうして対面しただけで肌を突き刺すような緊張感に襲われ、嫌な汗が背中を伝うのだ。

身体が自然と反応してしまって警戒がまったく解けないのだから、他の予備知識なく呼び寄せられた転生者達とは比較にもならない。

「でも不思議だよ」

「?」

そんなことを考えていると、先ほどまでの笑顔から一転して、怖いくらいに真面目な表情で勇者タクヤはこちらを見つめる。

「戦場に駆り出されるまで、俺も最速を目指す勢いで強くなるための努力はしたつもりだけど、それでもロキのその歳ぐらいでマリー相手に喧嘩を売ろうとは思わなかったし、まともにやり合えるほどの実力もなかったと思う」

「……」

「君がどうしてそこまで強くなれたのか……明かせないことも多いだろうし、この手のご法度を無理に聞き出そうという気もない。ただ一つだけ、これだけは教えてほしい。君はそれほどの強さを得て、この世界で何を成し遂げようとしているんだ?」

俺がマリーと争ったことくらいは把握済みか……

まあ隠そうと思っているわけではないので別に構わないが、だからこそ余計に気になるのだろう。

何が何でも聞き出そうというくらいの真剣な眼差し。

しかし俺には、その覚悟に見合うほどの答えがない。

「何も成そうとは思っていませんよ」

「え?」

「ただ平和に、楽しく過ごせたらいいなっていう、在り来たりな考えを持っているだけですから」

「い、いや、待ってくれ。こっちは真剣なんだ。各国の地図を作っているのだってロキなんだろう? いずれそれらの地図を使って何か大きなことを考えていたりするんじゃないのか?」

「地図は――まあ今更ですし、作っているのは僕で間違いありませんけど、そんな企みがあるならそもそも公開なんてしていませんよ。ただ閉塞感漂うこの世界のモノや情報の巡りが良くなったらいいなと思っているだけです」

「じゃあ、なぜそこまでの強さを……?」

「その程度の願いも叶えられないほど、他人の生活を踏み躙り、害する連中が多いからです。綺麗に排除できればそれが理想ですが、それこそ害虫のように湧いて出る……だったらそんな連中が近寄ろうとも思わないほど強くなってしまえば一番手っ取り早いでしょう?」

「……それで、悪を……? 許容を越えた悪であれば、動くと……」

すると口元に手を当て、ブツブツと呟きながら自問自答を繰り返す勇者タクヤ。

だからと言って声を掛ける理由もなく、その光景を黙って見つめていると、納得できる答えでも導き出せたのか。

はっきりとした眼差しで勇者タクヤはこちらを見つめた。

「最初はその見た目に引き摺られたけど、きっと君と俺は本質的な部分では同じ考えを持っているんだと思う」

「同じ?」

「この世界にも――、いや、この世界だからこそ、他人を傷付け、自分勝手に振る舞うような連中がごまんといて、そんなやつらから手の届く人達を守りたい……君もそうなんだろう?」

「……僕はまず何よりも自分の命を最優先に考えますし、誰も彼も救いたいなんて考えはもっていませんが?」

勝手に俺を理解したような顔をされ、軽く苛立ちながら答えるも、勇者タクヤはその表情を崩さない。

「それは俺だって同じさ。最初は自分のことで精いっぱいだったし、ある程度の強さを得てから初めて外にも目を向けられるようになって、次第にその範囲が広がっていった。こんな見たこともない城壁を建造してでも町の住民を守ろうしているのがいい証拠だよ」

「……」

「だから……お願いだロキ。君のその力で、西に住む多くの人達も救ってくれないか?」

やっぱりそうだよな。

結局のところ、訪ねてきた目的はこれしかないと思っていた。

「以前にレグナートさんでしたっけ? エルグラント王国の特使として来られた方にも、しっかりとその手の話はお断りしたはずですが?」

「もちろん、彼からその報告は受けている。でもそう簡単に諦めきれるほど事態は軽いものじゃないんだ。ロキがどういう人間か分かってきたなら尚更だよ」

「……ちなみになぜ、エルグラント王国は帝国と争っているんですか? 方々からの話を聞く限り、目の敵にされているような雰囲気すらあるでしょう?」

問うと、勇者タクヤはその当時を思い浮かべたのか。

苦々しい表情を浮かべて眉をひそめる。

「……大した理由じゃないさ。もう10年近く前、それまで大人しかったヴェルフレア帝国が、急に近隣諸国を侵攻し始めてね。さすがに目に余る動きだったから、お灸を据えるという意味で俺が直接救援に向かって追い払ったんだ。そうしたら相手も火が付いたみたいで……」

「なるほど、それで帝国にとって邪魔な存在と認識されたわけですか」

「ああ。だからロキ、帝国がもしうちを潰すことがあれば、その次は迷わず東に目を向けるよ。そうなればまともに抵抗できる勢力などないのだから、大陸中央まではあっという間だ。アースガルドや君が庇護下に置いたラグリース王国だってすぐに戦場となる」

たぶん、この予想は本当だ。

勇者タクヤがどこまで本当のことを言っているのかは分からない。

だが少なくともこれまでに集めた情報から、ある時を境に帝国側が周辺国に対し、手当たり次第に侵略戦争を起こし始めたことはまず間違いのない事実だった。

つまり、帝国はエルグラント王国を落とせばそれで満足というわけではなく、次は進路を変えて大陸の東へ侵攻する可能性が極めて高いということ。

それでも黙っていると、勇者タクヤが煽るように言葉を続ける。

「だったら今のうちにその動きを止めた方がロキにとってもプラスだろう? 当然俺だって動くし、今ならまだ耐え残っているいくつかの近隣国もこちらの支援に回ってくれる! だけどこの機を逃したら、今うちが置かれている状況と同じだ。多方面から攻め込まれ、守りたくても守り切れずに穴を開けられていくんだぞ!」

「それは……帝国が転移能力を得ている以外にも理由があるんですか?」

だから確認の意味でこちらから切り込んだ。

敢えて伏せようとしているのかは分からないが、女神様達が太鼓判を押すほど個体戦力の高い人物が押し込まれている。

その理由は数だけでなく、機動力で大きく劣っているからとしか思えないし、それ以外の理由もあるのなら知っておきたい。

そう思っての問いに勇者タクヤは一瞬驚きの表情を浮かべ、あからさまに動揺した素振りを見せた。

交渉事は専門外なのか、先ほどから随分と顔に出やすい勇者様だな。

「あ、いや、それは……何か知っているのか?」

「……帝国に所属しているであろう褐色肌の黒髪女が転移能力を所持していることは分かっています。ただ能力者がその女一人なのか、それとも取得方法が共有され複数人の使い手がいるのかまでは不明ですけどね」

「褐色肌の、黒髪女……」

「それとも機動力の差以前に、あなたじゃ手に負えない相手でも帝国にいるんですか?」

「そ、それはない! いや、全員に出会ったわけではないだろうけど、戦場で負けたことはないんだからその可能性はかなり低いと思う……ただ、機動力で劣っているのは事実だ。こちらも転移可能な人物が何人いるかまでは把握できていないが、少なくとも一人はいなければ説明のつかない事態が何度も続いている……」

「なるほど。だから僕を引き入れ、対抗したいわけですか」

「今更取り繕っても仕方がない……君の転移能力と、相対しただけでも感じるその強さが今のエルグラントにはどうしても欲しい。それだけで戦況を――大陸の未来を大きく変えられるはずなんだ」

「……」

一旦今までの考えを捨て、現実的に起こり得る最も可能性の高そうな展開を頭の中で思い浮かべる。

たぶんこのまま傍観すれば、エルグラントと帝国の戦いは帝国が勝利するのだろう。

そして西部を支配した帝国は東に侵攻し、大した障害もないわけだから1年か2年か。

まだ全容を把握できていないためおおよその想像でしかないが、そう時間も掛からずジュロイやラグリースまで手が伸びるに違いない。

その時、仮に勇者タクヤだけは殺されずに生き残っていたとしても、二度に渡って援軍や共闘の求めを断っているのだ。

いくら帝国に遺恨があったとしても都合良くこちらに手を貸すとは考えにくく、かといってハンスさんも自国に被害が出て初めて動くタイプだろうから期待は持てず……

逆に恨みを買っているマリーがそれまでに国内情勢を整え、ここぞとばかりに帝国とセットで攻め込んでくる可能性もあるわけだから、今のうちに共闘して帝国を叩くという勇者タクヤの提案はある意味合理的であり魅力的であるようにも思えてくる。

相手の望むタイミングで手を貸すわけだから今後の関係性も優位に立ちやすく、いずれマリーと本格的な争いが発生した際には勇者タクヤの力を借りやすくもなるだろう。

冷静に考えれば利点は多い。

多いが、それでも……

「申し訳ありませんけど、やっぱり協力はできませんよ」

どうしてもすぐには解決できない、致命的な問題が2つある。

そのため改めて断ると、勇者タクヤは髪をかき上げるように頭を抱え、苦悶の表情を浮かべた。