軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

659話 依頼していたモノ

ユマ先輩がベザートに滞在し始めて数日後。

その日も行く先々で買い漁った地産品をクアド商会に卸していると、値踏みするクアドを横で眺めていた元魔石屋店主のミザールさんが、思い出したように声をあげる。

「あ、そういえばアマンダさんが、ロキ君を見かけたら新奇開発所まで寄るように伝えて~って言ってたよ」

「おっ、じゃあアレができたのかな?」

「なんすかなんすか。もしかしてあの水着ってやつがさらに進化するんすか!? だったら俺っちもっふぉぉぉぉうッッ!?」

「?」

突然踏んづけられたような奇声をあげるクアド。

ビックリして目を向けると、ミザールさんが腰を落とし、クアドの短い尻尾を掬い上げるように鷲掴みにしていた。

やだ、何それ、なんか怖い。

「そんな暇あるわけないでしょうが~! うちの王様が持ってくるモノは食材も多いんだから、店長がとっとと値付けして表に出さないと悪くなっちゃうわよ!」

「それはそうっすけど、ミザっちだってそろそろ値付けできてもおかしくなヒィィン!?」

「何よ、ビックリするくらい鼻の下伸ばしちゃって! あたしは店長のスケベ心のために値付けの勉強してんじゃないんだからね! 本気で世界一の商会目指す気あるわけ~!?」

「はううっ! 本気で目指します! 目指してますからー!」

「……」

耳を隠すように頭を抱えたクアドはなぜかちょっと嬉しそうだし、相変わらずこの二人は独特の世界観の中で生きてるんだな。

そう思って邪魔をしないよう、二人の前から静かに立ち去る。

クアドではなくミザールさんに声が掛かったということは、たぶんアマンダさんは纏まった量の魔石を買い求めに来たということ。

となると、何がどこまで進んだのか……

期待に胸を膨らませながら新奇開発所へ向かうと、広い庭先にはアマンダさんと魔道具技師のクレイブさん。

それに転移者のリーさんなど見覚えのある技術屋が集まり、何かの作業をしていた。

「こんにちは~」

「あら、ロキ君。待ってたわよ」

「さっきミザールさんに声を掛けてもらって……頼んでいたモノができたんですか?」

そう問うと、台の下に潜っていたクレイブさんが地面を転がりながら出てくる。

「そうなんです。ロキ王に確認してもらいたくて、まずはこちらを」

言われて案内されたのは彼の作業場。

その建物の裏に、3M近くはありそうな金属板の魔法陣が台座付きで置かれていた。

「こちらがご依頼いただいた、最大級の暴風を吐き出す魔道具の試作型です」

「お~いいじゃないですか。希望通り動くようにもしてくれたんですね」

「ええ。リーさんがロキ王の意をすぐに汲み取ってくれまして、この魔道具の設計を担当してくれたのですが……どうですか?」

「バッチリですよ。これなら狙った方向に向けられますし、あとはこいつ自体が動かないようにしっかり足元を固定させておけば、十分活用できると思います」

「となると、あとは肝心の威力ですよね……最大限ロキ王のご意向に添えられるよう魔法陣を組んだつもりですので、私に以前伝えられたイメージのままに、こちらへ【風魔法】のレベル10を宿してみてください」

目の前にある魔道具は、形だけでいえば卓上の鏡を巨大化させたモノに近い。

魔法陣の裏に金属の支柱が通っており、そう力を加えることなく上下に角度調整できるようになっている上、台座部分も反転して自滅しない程度には回るようになっていた。

これなら望む方向に放てるので、固定砲台としての機能は十分。

あとはクレイブさんの言う通り、満足できるほどの威力が出るかどうかだ。

余計な効果は捨て、風の威力だけに特化させた【風魔法】のレベル10を唱えると、魔法はそのまま吸い込まれるように魔法陣の中へ消えていく。

そうして固定砲台型の魔道具が空に向けられた時、アマンダさんやリーさんなど別の作業に取り掛かっていた人達も周囲に集まり、威力を直接確かめるために魔法陣の正面で滞空する俺を見つめていた。

「では1発分の魔石を設置しましたので、発動させますよ」

「オッケーです。お願いします」

その言葉と共に魔法陣が一瞬だけほんのりと光り、その後すぐに目も開けていられないほどの突風に襲われる。

単純な【飛行】の能力だけでは抗うことが難しく、自由を奪われた身体は瞬く間に上空へ。

気付くと数秒で、クレイブさん達がはっきりと視認できないほどの高さにまで舞い上げられていた。

【遠視】のスキルがあってこれなのだから、この僅かな時間で軽く1㎞以上は吹っ飛ばされたのか?

それなら誰でも扱える魔道具としての威力は十分過ぎるほどだろう。

そう判断し、降下してすぐクレイブさんに感想を伝える。

「さすが効果を特化させただけであって、術者なしでもかなりの威力ですね。これでさらに連射も可能なんでしょう?」

「……魔道具本体や周辺環境にも影響は出ていませんし、撃とうと思えば毎秒1発くらいの速度で断続的に放つことは可能です。ただその一発で我が家が1週間は過ごせるほどの魔石を消費するわけですから、連発なんてしようものなら相当量の魔石と、その魔石を収納するための空間を台座内に用意する必要はありますが」

「だとしても、誰でも扱えるという利点はかなり大きいですからね。台座の加工なら僕がどうとでもできるので、とりあえず8基かな……こちらは急がなくても大丈夫ですから、そのくらいの数を用意してもらえると助かります」

「承知しました。となると、優先的に進めるべきはもう1つの方ですか」

「ですね。かなり難しい要求をしていることは理解していますが、それでもあれに近いモノを再現し、防衛設備として活用できれば、この国の安全性はより高まると思いますので」

求めているのは、かつてアルバート王国の旧王都で食らったあの超威力の砲撃だ。

向こうだって優秀な人材が相応の年月を掛けて生み出したのだろうし、願ったからといってあっさり出来上がるような代物ではないことくらい分かっているが……

それでもこの目で見て、直接味わった俺だからこそ伝えられる情報もあったわけで。

これまでと違い、険しい表情を浮かべるクレイブさんに淡い期待を込めつつ継続的な開発を依頼し、マッピング作業に戻ろうとすると。

「まだ製作途中ではありますが……そうですね。良い機会ですし、一度ロキ王に直接味わっていただきましょうか」

そう言って、クレイブさんは眼鏡を手で押し上げると背を向け、先ほど皆が作業をしていた場所へと向かった。