軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

640話 フェリンの本領

その日の夜。

自由都市ネラスで調達してきたご飯を差し入れに持っていくと、アリシアが一人で崖の淵に立ち、月明りに照らされる下台地を眺めていた。

「こんな所にいたんだ」

「あ、ロキ君……」

「どう、調子は?」

「日中、魔力に余力があるタイミングで数度作業に取り掛かってみましたが、やはりフェリンのようにはいきませんね……まだ川に水は引けていませんし、周囲の石壁も100メートル程度しか延ばすことができませんでした」

「いやいや、十分だよありがとね。これ、自由都市ネラスのお土産だからみんなで食べて。だいぶ魔力も回復してきたし、夜は俺が引き継ぐから」

言いながら砂糖がふんだんに使われた、お菓子のような棒状の食べ物を大量に渡す。

あまり長々と時間を掛けられないため、今は女神様達も分担して作業に取り掛かってくれていた。

フェリンは他の人じゃ手に負えないからという理由もあって、ほぼ専属でギムレーの町作りを。

アリシアはリステやフィーリルと共にウートガルズの町作りを手伝ってもらっているが、フェリンと違って【地形変動】のレベルが低く、かと言って【精霊魔法】では広域に影響を与えられるものの緻密な結果など求められないからな……

コツコツと【土魔法】や【土操術】でも使って石壁を作ってくれていたんだろうと、そんなことを考えながら味のしないパンを齧っていると、あからさまに不安そうな声色でアリシアが尋ねてくる。

「あの……そちらはどうでしたか?」

「あー……リステからは聞いてる?」

「ええ、また異世界人が奴隷にされていると」

「うん。そういう話みたいだけど、まだ詳しいことがほとんど分からなくてね」

リステも意図を悟ってくれて、俺が奴隷落ちした転生者について館長に確認したことを、本人が分からないと答えても一通り記憶から探ってくれていた。

しかし割り出せた情報は非常に少なく、どうやら別の奴隷商館から依頼があり、あくまで仲介として裏オークションに出品しようとしていること。

そのため館長はその奴隷転生者と面識がなく、推定トリプルのスキル所持者であることくらいしか把握していなかったらしい。

そのことを俺から改めて伝えると、アリシアはなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。

「では救出も難しい状況なわけですか……」

「居場所も分からないからね。でもまあ、奴隷としての価値が高ければ高いほど厳重に守られるわけだし、殺されることもない。だったら出品された時に落とすよ、俺が」

本気で探し出そうと思えば、どこにあるかも分からない別の奴隷商館を見つけ、そこから居所を割り出すという方法も取れなくはないが、時間を掛けたところで結果に結び付く保証はなく、また成功しても俺に疑いの目を向けられ、最悪は裏オークションへの参加権を失う可能性も出てきてしまう。

それなら人材だけが目的ではないのだし、待った方が無難だろうと。

いつになるのか分からないもどかしさを感じつつ、まだ未読の本をリコさんから数冊借りて、俺もウートガルズの予定地へと飛んだ。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

魔力があるうちは新しい町作りに勤しみ、なくなれば狩りに出て、与えただけ食い続けるジェネとウィグのためにも素材をひたすら回収していく。

そんな日々を過ごして5日ほど。

「おし、それじゃあベザートの大工事に入ろうか」

「うん! 任せて!」

ギムレーの基礎作りが終わったフェリンを連れて、ベザートの入り口から脇に逸れ、馬車の停留所を横目に見ながら森の中へと入っていく。

一応ここも、ラグリースまでの3㎞くらいはパルメラの森が続いているため魔物が湧き、手身近な狩場として活用している住民がいることも知っていたが……

「とりあえず幅はこんなもんかな。誰も人はいないし、伐採した所だけ凹ましてもらえる?」

「りょうかーい!」

町の防衛力を強化するため。

本日限りでその大部分は潰させてもらうことにする。

ズズズズズズズズズズ……

周囲に響く不気味な地鳴り。

両手を地面につけたままのフェリンと共に地面が下がり、そのままどこまでも沈んでいく。

そしてフェリンの姿が豆粒よりも小さくなったところで、上空からその光景を眺めていた俺が声を張り上げながら手を振った。

「オッケー! そのまま東に進みながら同じような感じで! ズレたら誘導するから!」

すると目測で幅500メートル近くはあろう巨大な穴が、横へ横へと伸びていく。

その速度は人が歩く速度よりも遥かに速く、森の一部が吸い込まれるように地下深くへと沈んでいく姿は圧巻としか言いようがない。

参考にしたのはラグリースと旧ヴァルツ領を遮る、大地を割ったようなあの亀裂。

だが、それよりもさらに巨大で深い穴が、ベザートの町を隔離するように広がっていった。

そうしてフェリンの【分体】の魔力が数度尽きたところで一旦ストップが入り、バトンを受け取る。

と言っても俺の仕事は穴掘りではないが。

あんな速度と精度であの規模の穴なんて掘れないので、出来上がった溝よりベザート側の大地に生えた木々を伐採し、回収しながら一旦整地。

そこへ実験のために予め作っておいた石塊を配置して、フェリンとともにラグリース側から眺める。

「おお~これは想像以上に厳つい」

「落ちたら絶対に上がってこれないよね……」

「だろうね。この幅なら傭兵であろうとほぼほぼ飛び越えられる人なんていないだろうし、魔法で橋を架けようとしたって相当な時間が掛かる。なのに巨大な溝の先は高さ40メートルくらいある石壁が存在しているんだから、飛行手段を持つ者以外はこの光景を見ただけで横からの侵入を諦めるでしょ」

「そうなんだろうけど、あそこまで石の壁を厚くする必要があったの?」

フェリンが疑問に感じるのも当然だろう。

石壁は高さだけでなく幅も100メートルくらいあり、かなりの厚みをもたせていた。

なので石壁の上部は通路などではなく、十分に戦えるフィールドのような状態になっている。

「幾重にも城壁を重ねて町を囲っていたアルバートの旧王都も、結局異世界人の魔法でボロボロにされていたからね。それならもっと厚く頑丈にしたっていいだろうし、あれだけ幅があったら空からの攻撃にも対応しやすくなるかなって」

幅があれば、俺が撃たれて死にかけたような超威力の巨大な設置型魔道具を置くこともできるのだ。

それに1つ1つ石材を積み上げているわけではないので、労力自体は薄くしようとそこまで大きくは変わらない。

石が豊富な山場で限界ぎりぎりまで石塊を切り出し、ここに運んだら【土操術】を使用し形成していくだけなので、厚くすればするだけ進行が遅くなるというくらい。

それならいざという場面で町の住民を守り、隠すためにもこの幅が特に重要なのだから、時間を掛ける価値は十二分にある。

「基礎さえ作っちゃえば町の住人にも手伝ってもらえるし、昨日皆に見せた図の形になるくらいまではうちらで頑張ろう」

「うん!」

こうして大地を割るような溝はフェリンが担当し、他の女神様達は魔力に余力があるタイミングで次々と石材を調達。

俺は届いて放置された石材を、魔力が続く限りひたすら成形という流れを繰り返していった。