軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

633話 転移陣

スキルを【夜目】に切り替えたリアを背に乗せ案内されたのは、拠点から南西の森を少し進んだ先に広がる山間部だった。

そこまで標高が高いわけではないが、切り立った崖が目立ち、岩肌が剥き出しの所も多い。

とはいえ似たような光景はそこかしこで見ているため、何か思うこともなく指示の通りに向かうと、周囲を崖に囲まれ、普通に考えたら上空からしか来られないような窪地に、焚火の跡や人工物だと分かる何かが大量に散乱した場所を発見する。

どうやらこの場所がリアの言う目的地らしい。

「へ~凄いね。秘密基地って感じじゃん」

「そう、私だけの作業場」

「散乱しているのは全部魔法陣か……切り崩した岩に直接書いたり刻んだりして試していたわけね」

既に割れているモノを含め、何百枚と存在している大小様々な魔法陣に目を向けていると、リアはその隙間を縫うように反り立つ壁面の方へ。

すると周囲の石は綺麗にどけられ、しっかりと接地しているように見える魔法陣を発見する。

「魔石ある?」

「うん? あるけど」

「じゃあその上にいくつか置いて」

言われた通りに魔石を魔法陣の上に転がすも、特に魔法陣が反応を示すことはない。

だが……

「もういいよ、乗って」

「……」

ストレージルームを切っ掛けに、本気で魔法陣の研究を進めると言い出してからもう1年以上。

どんなことをやっているのか、リアが話すことはなかったし俺も聞きはしなかったが、リアとリステだけは夜間であろうと上台地でふらふらしている姿を見かけることはなく、呼ばなきゃ食事を摂りに来ることさえなかった。

進捗を聞きたい。

その程度の心持ちだったのに、この雰囲気、もしかして完成しているのか……?

期待が高まり、ゴクリと喉を鳴らしながら魔方陣に足を掛けると――

「うおっ……マジかよ」

――景色は変わり、森の中へ。

木々の隙間から灯りが漏れ、その先に食事を続けるアリシアやフェリンの姿が僅かに見えるのだから、間違いない。

「拠点に戻ってきたのか……」

「そう」

突然背後から聞こえる声に少々驚くも、誰だか分かり切っているし、もはやそんなことはどうだっていい。

身体中に走る激痛を解すように、ゆっくり息を吐きながら賛辞の言葉を贈る。

「凄いね……ほんとに。まさかもう形になっているなんて思わなかったよ。マジでさすが女神様だわ」

「……あのストレージルームを解析できれば、ここまでならそんなに難しくない。でも、問題はここから」

「え? まだ問題なんてあるの?」

疑問に感じて問うと、リアは頷きながら足元を指差す。

すると土が被さっていて気付きにくいが、足元にも似たような魔法陣が見え隠れしていた。

「魔石を必要としない魔力の自然吸気を、どう魔法陣に表現すればいいのかが分からない。それに転移先も、こうして2つの魔法陣を紐付ける形でしか指定できていない」

「あーダンジョンにある転移陣の形にまではまだ持っていけてないわけか」

転移陣を作ってほしいとお願いした時、神が作ったとされる実在の転移陣がどういったモノなのかそれなりに詳しく話したからなぁ……

確かにあっちは魔石などなくとも常に魔法陣が青く輝いていたし、転移先にこのような着地場所を示すような魔法陣も存在していないが、それでもだ。

「俺が旅してきた中で、誰かが似たようなモノを生み出したなんて話、一度も聞いたことはないし見たこともない。課題はあるにしても、ここまで形にできただけで相当凄いことだよ」

「そう……」

「だから――」

目を逸らして下を向いてしまったのでどうしようか少し困るも、町の防衛力を高めるためには必要不可欠なのだ。

意を決して続きの言葉を告げると、リアが僅かに見上げながら俺の瞳を見つめる。

「リア、この転移陣、町のために使わせてくれないかな」

「……どんな用途で?」

「今思いついているのは大まかに2つ。1つは俺が発見した《夢幻の穴》に転移陣を繋げて、町に出入りするハンターや狩りで生計を立てる町民の能力を底上げしたい。そしてもう1つは何かあった時のために、移動の手段は確保しつつも町を分散させておきたいんだ。いくらベザートが大きく豊かになっても、一部の転生者がその気になれば王都クラスの規模であろうと消し飛ばされるっていうのが十分に分かったからさ」

断られても、他の方法を用いればなんとかなるという内容ではないのだ。

祈るような気持ちで返答を待っていると、あまり悩む素振りも見せずに答えが返ってくる。

「じゃあ、いいよ。元々ロキから頼まれて作ったものだし」

「ほん、っとに!?」

「どこまでが干渉に当たるのかは分からない。けど、こんな状況にした私達だけが安全な場所から傍観するのはもう止めようって、皆で決めたから」

「そっか……」

俺がこんな鎖で自分を抑えつけるようになってしまったから、というのも皮肉な話だが、どういう事情であれ女神様達がこうして踏み込んだ協力をしてくれるようになったのならばありがたい。

どこまでならセーフで、どこまでいけばアウトなのか。

お互い探り探りにはなるだろうし、過度の干渉はこちらも何が起きるか分からないのだから望んでいないけど……

(転移陣が扱えるようになるなら、どうしてもクリアしなきゃいけない問題……厄介なアレも、もしかしたら協力してくれるかな?)

そんなことを考えながら、リアにとりあえず必要な転移陣の枚数を伝え、他に防衛力を高め、皆の命を護るためには何ができそうなのか。

外に目を向け、俺自身がより確かな強さを得るためにも今注力すべきは町だなと。

他の女神様達が待つ食卓へ戻り、食事を摂りながらの協議を再開した。