軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

630話 新しい地図

見慣れた階段を上り、商業ギルドの3階でお決まりの髪形を探す。

すると、見つけたと同時に複数の職員が慌てた様子で目的の人物の肩を揺すり、声を掛けていた。

そして目が合う。

「お久しぶりです、ワドルさん」

「おお、ロキ王様。本当にお久しぶりですね。最後に来られてからもう半年以上は経っていると思いますし、珍しくのんびりされていたんですか?」

にこやかに笑みを浮かべながら正面の椅子に座ろうとするワドルさん。

「いえ、アルバート王国の地図作りを始めたらやっぱり広くてですね。結構時間が掛かっちゃいました」

そんな彼に事実を伝えつつ、用意していたいくつもの羊皮紙を目の前の机に広げると、ワドルさんは中腰のまま目玉が飛び出そうなほどに目を見開き、硬直する。

「えっ? こ、これは……」

「初めて作ってみたんですけど、どう思います?」

「……まだまだ理解しきれていない部分もありますが、そういった点を抜きにしても世界が震撼すると思います。間違いなく」

目の前に広げたのは当然、時間を掛けて巡り巡ったアルバートの地図だ。

当初の予定通り、今まで卸していた主要街道と町、それに山や谷などおおよその地形だけを記した地図ではなく、砦や塔などの軍事施設から村や主要ではない街道に山道、さらに大小様々な川や湖まで分かる範囲で細かく記していた。

「以前に案だけは伺っていた狩場の規模やランクまでこの地図には記されているわけですか……」

「ええ、これを見れば大半の事が分かるというモノにしていますので」

「ちなみに、この町の上に記されたいくつかの数字や記号はなんですか?」

「おおよその町の規模と城壁や駐屯地の有無、あとはその高さですね。指を指しているその町なら推定3~5万人くらいの人が住んでいそうな中規模の町ということで『Ⅲ』、石造りの城壁はあるけど纏まった国軍までは確認できなかったので『△』とし、その高さはおおよそ『5M』ということを示しています。王都クラスだと『Ⅴ-〇-20M』、村だと『Ⅰ-×』といった具合ですね」

「……この、ぐるぐると囲われた数多の線は?」

「等高線と呼ばれるモノで、要所要所に数字が書かれているでしょう? これがその位置の高さを示しているわけです。この間隔が狭くなるほど傾斜が急な山間部とかになり、逆に広ければ緩やかで馬車や人の通りやすい平地になっているということですね」

「………………………どうやってこんなことが分かるんですか?」

空を飛べるという理由だけで判別できるような内容ではないからな。

ワドルさんがそう思うのは当然だと思うが。

「それは秘密です。でも今この時の情報としては間違いありませんよ」

「そう、ですか……」

ここは今まで積み重ねてきた信用で押し通すしかなく、間違いないという事実だけを告げて黙らせる。

すると暫くして、ワドルさんが地図を凝視しながらか細い声でボソリと呟く。

「こんな感情は初めてですね……この地図を公表することに今、そこはかとない恐怖を感じています。内容が全て間違いないとするなら、この地図はあまりに精巧過ぎる……」

「でしょうね……そう思ってもらいたくて作ったわけですし」

「え?」

「こんなモノ、自分達の国だけが世に公表されたら嫌でしょう? 商売の呼び水として利用される利点より、軍事目的で利用される危険性の方が遥かに大きいわけですから」

「え、っと、つまり……」

「だからいつもと同じ、アルバート王国の通常版ももちろん作っています。こちらを今までと同様、段階的に値を落としながら広く流通させてください」

そう言ってこれまで広げていた精巧な地図を回収すると、ワドルさんはなんとも言えない表情を浮かべながらその様子を目で追う。

じゃあそれはどうするのだと、今にも言いたげ顔だ。

だからこちらも敢えてこの場で見せた意図を告げる。

「そしてワドルさんにはもう1つお願いが。このような精巧な地図が存在していると、各国の商業ギルドと交渉する際にでもやんわりと伝えてください。実際にどのようなことが記されていたのか、具体的に伝えてもらっても構いませんので」

すると理解してくれたのか、ワドルさんは目つきを鋭くさせた。

「……もしかしてこれは、脅しの材料ですか?」

「そういうことです。もういい加減、地図の作成者は僕だとバレてきていますからね。派手な動きを見せたらこっちの精巧版を僕自身の手で公開する――それだけでもある程度の戦争抑止にはなるかなって」

「なるほど……しかしそれでは、ロキ王様へ向けられる各国の目は厳しくなりそうですが?」

「悪業を止められるのはただ祈り、願いを口ずさむだけの善人ではありませんからね。アースガルドとラグリースの安全が確保され、くだらない領土争いが消えるのなら構いませんよ」

「そうですか……ではそれとなく、遥かに精度の高い地図が存在していると、その内容も含めて触れ回りましょう」

これで下準備は問題ない。

商業ギルドは貴族や国と密接な繋がりがあるのだから、流れた噂はそう時間も掛からず支配階級の耳に届くだろう。

となると、あとは実際に試すだけ。

「お返しだよ、糞ババア」

商業ギルドを出てから一人呟き、そのままある場所へと飛んだ。