軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

619話 その頃、あの二人は

周囲を石壁に覆われた広い空間。

その中で男が気だるそうに座っていると、視界の端に一人の女性が現れる。

すると男は視線を向け、軽く片手を上げた。

「おっ、お疲れさん。はは、さすがにそっちもしんどそうだな」

笑いながら言われた言葉に女は分かりやすく嘆息を漏らし、周囲で眠る人々の姿を見回してから静かに答える。

「あれほど規模の大きな町を標的にしたのですから当然でしょう。それに邪魔も入りましたしね」

「邪魔? 糞ババアが別の黒騎士でも連れて戻ってきたのか?」

「いえ、ロキの方です。私が限界まで巨大化させた" 落星(カリス) "だけでなく、" 流星群(メテオラ) "まで力技で止めようとしてきましたから」

「マジかよ……って、なんでアイツが止めようとしてくるんだ?」

「私も意味が分からなくて、姿を晒す気などなかったのに思わず聞いてしまいましたよ。なぜ敵対しているあなたがこの町を護るのかと」

首を傾げる男に女は同調する。

二人は途中からではあるが、遠目にロキとマリー達の戦いを観戦していた。

かなりの距離があったため、さすがに会話のやり取りまでは把握できていないものの、ロキが黒騎士を次々と始末し、マリー側が劣勢としか思えない状況の中で残る黒騎士が姿を消したのだから、二人には転移を使用してマリーがあの場から逃げ出したように映っていたのだ。

そのため、なんとも中途半端な結果だと。

どちらも生き残っているという事実に強い苛立ちや不満を覚えた男は、マリーとロキの争いがより激化するように。

マリーが逃げ去ったあともその場で茫然と立ち尽くしていたロキに代わって、容易に立て直せないほどのダメージをマリーに負わせるべく、用済みとなった王都『ロミナス』の襲撃を実行に移したのである。

と言ってもその実行役は、万が一発見されても両陣営に顔が割れておらず、また調子に乗って戦いに興じないという理由から女の方がその役割を担ったわけであるが……

「すると彼は、この町の住民は関係ないと……敵対国の、しかも富と恩恵を求めてマリーを支持する者達が群がる王都民の命を気にしていました。咄嗟にあんな言葉が出てくるのですから、まず間違いなく本気なのでしょうね」

男は続く女からの報告を聞いて一瞬思考が停止したように固まるも、すぐに周囲で眠っている者達が目を覚ますのではないかと心配になるほど笑い出した。

「…………ひっ、ひははっ……! なんだよその甘ちゃん野郎は。あの自称勇者君と同じか、下手すりゃアイツよりも甘々じゃねーか」

「ええ。強さだけは一級品に見えましたが、あのタイプなら少し搦め手を使えばすぐに動きを止められますから、仮に問題が起きたとしても対処は楽そうですね」

「ひひっ、そんな甘ちゃんならうちと衝突する前に、国も本人も消されてんだろ。ここまでやればさすがにババアも抱えた戦力を吐き出してくるだろうからな」

そのために王都を攻撃したのだ。

東は東でより苛烈な削り合いが始まり、ここに静観を決め込む獣人の王も巻き込めれば最上だと。

男は意外な密告から面白い展開になってきたことをほくそ笑むも、女の方は顎に手を当て、賛同できないとでも言いたげに難しい顔をしていた。

「ん? 何か気掛かりでもあるのか?」

「ありますよ。特に今回は動き方がかなり雑になりましたからね……早く観戦したいと騒ぐ誰かさんのせいで」

「……」

「ファルコムと呼ばれていた研究施設や王都の襲撃を、全てロキの仕業と判断してくれれば理想の削り合いに発展するでしょう。しかし第三者の介入を疑われればどうなるか……完全にこちらへ意識が向くことはないと思いますが、マリーがどう動くのかまでは予想できません」

「んーでも、あれだ。とりあえず見れて良かっただろ? お前だってなんだかんだ言いながら結構楽しんでたし」

「……そ、それは敵の主戦力がどれほどのものなのか把握しておくべきだと……!」

「はは、まあバレたらバレたで、そん時はまとめて相手すりゃいいだろ。希少鉱物だけじゃなく、海洋素材まで持ってこなくなったババアに利用価値なんてなくなってきたしな」

そう言って好戦的な笑みを浮かべる男に、女は冷ややかな視線を送る。

「はぁ……どうせあの戦いを見て触発されたんでしょうけど、これ以上ちょっかいを掛けにいくとかは止めてくださいね?」

「ひははっ、せっかく種を撒いてきたんだ。そこまで馬鹿じゃねぇから安心しろって」

「ならいいですが」

「でもまあロキと、最後に少しだけ現れたあのヤバそうなやつとは早く戦ってみてぇけどなぁ……」

「……」

周囲を大きく巻き込みながら進められる大国同士の争い。

その渦中で都合よく利用された小国の王は、死体しか存在しない小さな世界で地面に額を突きつけ哭いていた。