軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

610話 黒騎士との戦い①

重量感のある歩みで前に出てきたデカいのと、その後に続く、無手に見える二人の黒騎士。

巨大な鎌を持ったやつは武器を構えるだけでその場から大きくは動かず、杖の二人を含むほか3人はお互いの距離を空けるように横へ広がりながら少し後退していく。

相手の【隠蔽】により気配や魔力の動きを捉える感知系。

それに探査系統スキルなども遮断され、基本的には視覚でしか相手の動きを捉えられないこの状況。

互いに出方を窺っている今はまだ、全体を追いきれているが……

(とりあえず、後衛の首を1つ斬り飛ばしてみるか?)

そう上手くいくとは思えないが、それでも支援に回ると言っていたわけだし、マリーが後方に陣取る3人のうちの誰かである可能性が高そうなのだ。

強く警戒しながら動きを止め、転移の準備に入っていると――

「させん!」

叫びと共に先頭のデカブツが大きく踏み込み、拳を掬い上げながら地面へ叩きつける。

すると、爆発したように地面が吹き飛び、俺目掛けて土石が飛散。

その中には明らかに魔法で生成されたと分かる、飛来速度のまったく異なる岩の槍まで大量に飛んでくるが、これはダメージを負わせる――というより、転移対策なのか?

【風魔法】――『風』――

そう思いながら、極力魔力消費を抑えた形で周囲の土石を払うと、デカブツの後ろにいた二人の姿が忽然と消えていた。

(マズい……動きを止めたらダメだ……)

直感的にそう感じて飛び退けば、先ほどまでいた場所に槍を突き出した黒騎士が弾丸のような勢いで降ってくる。

が、それだけでは終わらない。

想像以上の速さでそのまま流れるように槍を薙いできたため仰け反るも、避けたと思ったところからさらに穂先が伸びて頬を裂かれ、素早い引きと同時に接触していないはずの肩口まで抉っていった。

理解の追いつかない現象とその強さに対する素直な驚き。

槍を持った黒騎士は距離を取り、隠れるようにこちらへ走ってくるデカブツの背後へ戻ったが、もう一人はいったいどこへ消えたのか……

軽く視線を這わせるも見当たらず、状況を確認するため大きく跳躍。

そのまま上空から見渡すと、俺に寄ってきていたもう一人の姿は見当たらず、代わりに――なんだ?

人型だが黒騎士よりも明らかに大きい、羽を生やした煌めく浮遊体が後衛の一人によって生み出されていた。

「ぐおっ……」

と、急に踏み潰されたような衝撃が加わり、視界がブレる。

過去に味わった覚えのある、強い身体への違和感。

満足に飛ぶことができず、強制的に地面へ引き摺り降ろされた途端、踏ん張ろうとした足を取られて立つことすらままならなくなる。

何事かと足元に視線を向けると、自分の影の中から湧き出た幾つもの黒い手が俺の足を掴み、片足がその影の中にめり込んでいた。

「抵抗……強過ぎ……もう、もたない……!」

「十分だ!」

今抵抗がどうだと叫んだ女は鎌を持ったやつか……?

状況を整理する暇もなく目の前に迫るデカブツ。

【闘気術】だと一目で分かる白気を身体中から発し、先ほどとは違う、甲から鉤爪を生やした金属製の拳を勢いよく振り下ろす。

――【剣術】――『力刃』

足を取られて満足に踏み込めず、未だ身体も鉛を背負ったように重い。

それでもこのままでは身体を貫かれるという危機感から剣を振り上げると、デカブツが唸るように声をあげる。

「ぐ、ぬ……なんという力……! だがッ!!」

見た覚えのない行動だった。

デカブツは振り下ろしていた手を開くと鉤爪を引っかけながら手首を返し、もう一方の手と合わせて俺の剣を両手で強く握る。

狙いを理解し金属に覆われた指を切断するつもりで咄嗟に腕を引くも、掴まれた剣を抜くことができず――

「やれぇええ!!」

デカブツの咆哮のような叫びと共に、再びその背後から現れる、槍使いの男。

飛び上がってすぐに宙を何度か蹴り上げ、槍を前面に向けたまま凄まじい速度で迫りくる。

それは仮面越しでも寒気がするほどの殺気に満ちていて――

「" 竜点突牙(ドラゴンファング) "」

……対処しなければ殺られる。

そう思ったと同時に空いた左手を突き出し、纏わせていた魔力を槍の形状に合わせて限りなく小さな盾へと変化させた。

――が。

(向こうも何かを、纏わせている……?)

ただの魔力とは異なる、風の渦。

それは鋭い槍の穂先に向かって激しく回転しており、自分の魔力だからか。

厚みを持たせた魔力の盾を異常なほどの力で抉り、貫いてくる様子が手に取るように分かってしまった。

こいつだ……

こいつが特にヤバい……!

――【不動】――

こちらは片手であり、掴まれた剣を手放し両手で対処するか一瞬悩むも、そうすれば今度はデカブツを自由にさせるだけ。

一旦【不動】で耐えつつ、体勢を整え――

「?」

――突然視界に現れたのは、姿を見失っていたであろう黒騎士の一人だった。

気配どころか、接近の予兆すら視認できていない。

それこそ湧いたように忽然と真横へ現れ、気付いた時には鋭く光る刃が目の前に迫っていた。

間に合うか、そもそも"重複"の効果があるのかも分からない。

それでも、【硬質――

「あ、がっ……!?」

首を、狙われた……

間違いなくそうだと理解できるほど喉元に激しい衝撃と痛みを覚え、そのまま激しく吹き飛ばされる。

転げる度に舞う鮮血。

だがその光景が見えているのだから、まだ首は繋がって――……

気付けば鮮血が舞う青い空の中に、別の色が混ざっていた。

羽を生やして浮遊する、人型の存在。

先ほど後衛の誰かが生み出していたソレは全てが小金色をしており、目玉などないというのに転がる俺を見下ろし、仰々しく片手を天にかざす。

と、同時に空を数多の稲妻が走り、轟音と共に突き抜けるような衝撃が俺を襲った。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

雷光迸る浮遊体の攻撃により、辺りは視界を遮るほどの砂煙が濛々と立ち込める。

そんな状況を嫌い、一度大きく距離を取った黒騎士の一人が様子を窺いながら呟いた。

「……やれたのか?」

問われ、別の黒騎士は手に持つ血の滴った長剣に目を向けながら不気味に笑う。

「くふふ……致命打には違いなかったと思うが、刎ねた感触ではなかった。恐ろしく硬いな……まるで金属の塊を斬ったような感覚だぜ」

「ふむ……まだ油断はできんぞ。あやつ、あの状況で剣を掴む儂の手を切り飛ばそうとしてきおったからな。お陰で武器を奪いそこなったわ」

「かなり形成の速い【魔力纏術】だったな。こっちも" 竜点突牙(ドラゴンファング) "を防がれた上に、あの黒い魔力が蛇のように巻き付いて俺の腕を狙ってきやがった」

言いながら、油断なく槍を構えた黒騎士は、金属で覆われた自らの右手を見つめる。

手首に亀裂が入り、その隙間からは血が垂れていた。

「くふふっ……だがあれなら、もし立ち上がってきたとしてもやってやれないことはない。そんな感触だ」

しかし、それでも血に染まった剣を持つ黒騎士は笑う。

狙い通り、様子見という状況から畳みかけるように攻勢へ出たのだ。

まだまだ手の内は隠しているのだろうが、それでも攻防を繰り広げれば速度や耐性だけでなく、戦いに対する慣れや機転、観察眼など見えてくるモノも多い。

1対1なら迷わず避けたい相手でも、多対1というこの状況ならば押し切れる――前衛を務める3人の黒騎士がそのような手応えを感じていると、後方に陣取っていた者達も近寄ってくる。

と、負傷していた槍使いの黒騎士は青紫の魔力に包まれ、瞬く間に傷が塞がった。

「こちらからは止めの"霊撃"含め、十分絶命に足る攻撃を加えていたように見えましたが……アレでまだ、死んでいないと?」

「くふっ……たぶん、だがな」

「僕は首を刎ねていないと聞いて安心したけどね。さすがにこの程度で死なれたんじゃ興覚めだよ」

「そ、そんなこと考えてるの、イグリアだけ……! あんなの、早く死んでもらった方が、良いに決まってる……!」

「そうかな? 僕には武器を突き合わせたユーゼスとザッハも、全力で戦えそうな相手を前にして、嬉しさから気持ちが高ぶっているように見えるけどね」

「「「……」」」

その指摘はあながち間違いというわけではなく、名指しされた二人も敢えて否定の言葉を口にはしなかった。

そんな様子を見て、釘を刺すようにしわがれた声が語る。

「お前達が何を思って戦おうと自由だけどね。首を刎ねるでも、心臓を潰すでもなんでもいい。確実に死体だと確認できるまでは絶対に油断するんじゃないよ。今この時だって、転移での奇襲を食らわないよう常に動き続けときな」

「あなたがそこまで警戒する姿は初めて見ますね、マリー。あなた自身の力に加え、この数の黒騎士で挑んでもまだ不安ですか?」

「……いろいろ試したが、状態異常の影響だって大して受けている様子がないんだ。それにあの男は、まだ不可解な能力を――……」

マリーの言葉が途切れるも、そのことに触れる者はいない。

全員の視線は砂塵の中に突如現れた、高く聳える2本の巨大な炎柱に注がれていた。