作品タイトル不明
604話 王都ロミナス
王都『ロミナス』を目的地に定め、意識して行動し始めてからは早かった。
悪名高い刀使いを始末して1週間程度。
そのくらいで長く続いていた耕作地の先に、商人達が口を揃えて城塞都市と呼ぶのも頷けるほどの高い城壁が現れ始める。
これほど堅牢な作りは他じゃ見たこともないのだから間違いないだろう。
ここが大国アルバートの王都『ロミナス』だ。
ラグリースの王都と同じように、層を分けるための城壁がいくつも町の内部に存在し、その先には他国の宮殿のような規模を誇るいくつもの施設と、華やかさとは無縁の無骨で巨大な城。
そして監視目的なのか。
敷地の脇には城壁の一部と繋がっている、城よりもさらに高く聳える塔のようなモノまで存在していた。
実在するとは言い難い 《夢幻の穴》の古城を除けば、この世界で城と呼べそうな建物を見るのは初めての経験だ。
規模感もいくつか見てきた主要都市よりさらに大きそうで、自由都市ネラスと同じくらい町の探索は楽しめそうなものだが。
「どれどれ……」
それでも真っ先に向かったのはハンターギルドの資料室で、目的の情報を目にして暫し思考を巡らす。
――《シトラスの森》――
王都ロミナスの北部に広がる、ミシュト山へと続く深い森。
大陸でも屈指の難易度を誇る狩場であり、日が沈むと魔物の種別が3種から6種に増加するという珍しい特徴を持つ。
そのため非常に死亡率の高い狩場であるが、それでも夜間に挑むハンター達が多いのは、最高級木材として名高いエルダートレントの存在が大きいだろう。
富を求めて挑まんとする、腕に自信のある者達はくれぐれも注意してほしい。
エルダートレントと同じく、夜にのみ現れる『ドリームシアター』と『カトプレパス』は、生息数は少ないものの睡眠や石化といった、どれほど力がある者でも強い耐性を持たなければ無力化されてしまう能力を持っている。
素材に目が眩み、索敵を怠った者から死んでいく――それが夜のシトラスの森である。
ふーむ……
その下にある挿絵には、パルメラの深部で見かける『キュウキ』『オーランベアー』『マンティコア』が描かれているので、この手のパワータイプが通常枠。
そして夜間になると追加でパルメラにもいる『カトプレパス』と、俺も過去に1度オルトラン王国で襲われた『ドリームシアター』という、状態異常を引き起こす癖の強い魔物が少数存在しているわけか。
となると、ここでの初見は『エルダートレント』のみ。
魔力を帯びた木材としてかなり強い需要があり、旧アルバート時代に国を支えるほどの金を生み出していたという話なので、この魔物はスキルの内容に拘わらず纏まった数を狩っておこうと思うが……
俺がこの町に来て、真っ先にハンターギルドへ足を運んだ理由。
ボスに関連する情報が載っておらず、自然と足は受付に向かう。
「あの、《シトラスの森》について伺いたいのですが、この狩場にボスのような存在は確認されていないのですか?」
「え? いないはずですけど……ですよね、サブマス?」
若いせいか。
少し不安げな表情を浮かべながら受付嬢が背後へ向くと、奥の事務スペースにいた壮年の男が代わりに答えてくれる。
「Bランク以上の狩場なら存在することも多い狩場の 主(ボス) は、シトラスの森じゃ一切確認されていない。他にもそのような狩場はあると聞くし、王都ロミナスがただの町だった数百年前から記録がないのだから、存在していないと断定してもいいくらいだろう」
「そうでしたか……ありがとうございます」
サブマスと呼ばれていた男の言葉を聞き、 数(・) 百(・) 年(・) 程(・) 度(・) の記録しか残されていないのでは知らなくてもしょうがないかと、表情には出さずに一人納得する。
町や国は変われど、狩場はいつの時代も変わらない。
《シトラスの森》――それはかつて、ゼオが魔宝石を持つ裏ボスを討伐した狩場。
当時は狩場の周辺に亜人達が住んでいたらしいが、大陸南東という位置関係からしても、まず場所はここで間違いはないはずだ。
表ボスはおらずとも、裏ボスが発生するスイッチは必ず狩場のどこかに存在している。
そして現在湧く状態にあるのか。
それは分からないが、もし再度ここで湧かせることができれば、裏ボスの再戦とその条件が何かしら見えてくる可能性もある。
(夜間限定というのは面倒だが、数日はここで狩ってみるか……)
そう思案しながら傭兵ギルドや市場を巡り、まだ日暮れまで時間があるならマッピングの続きでも進めるかと上空へ移動。
ついでにセルリック侯爵の父親が言っていたという、北北東の方角に目を向ける。
地図と照らし合わせると、俺が初めて刺身を食べたことで強く記憶に残るアルバート最北東端の町『ニッカ』は、この位置から見ると北東という表現の方が適切だ。
つまり北北東というくらいならそれよりは内側。
海ではなく、山地も多い印象だったアルバート王国の内陸に潜んでいるか、もしくはまだ俺も足を踏み入れていないアルバートよりも北側のどこかに潜伏しているのかもしれない。
だが、仮にそうだとしてもだ。
「欲の塊みたいな女が俺のように、穴倉の中で数十年もひっそり地下暮らしなんて、そんなこと絶対しないよなぁ……」
そう考えればいくら僻地であろうと、それらしい建物が上空から見えてもおかしくないわけで。
地図を眺めながら拡大と縮小を繰り返し、暫く北北東という方角に怪しい施設や建物がないか確認していると――
――ジッ――……
不意に側面から聞きなれない大きな音が聞こえ、思わず地図を消して目を向ける。
「え?」
しかし、そこに町の姿は見当たらない。
代わりに見えるのは複雑に色が混ざり合ったような眩い光と、今までに感じたこともないほどの膨大な魔力の渦。
それは瞬く間に俺を飲み込み、全身を溶かすように肌を焼いた。