軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

595話 構想と現実

アウレーゼさんに先ほど見た光景を伝えると、それだけで何かピンとくるものがあったらしい。

深刻そうな表情で暫く考えこみ、その上で出た結論はBランク狩場よりもさらに奥。

ボスの手前にある山道での待機だった。

「この辺りでいいんですか?」

「うん。来るなら間違いなくここを通るし、ロキもこの位置ならボスに届くんでしょ?」

「ええ、まあ……」

と言っても、動くのは俺達二人だけ。

先ほど森の中を疾走していた集団は、目的が移動のみなら1時間もかからずここまで登ってくる可能性が高いらしく、そうなると狩場に散ったレイド参加者を呼び戻し、さらに準備を整えるというのは難しいし、何より集めてしまうと逆に危ないとアウレーゼさんが漏らしたことで、これから来る連中がどのような存在なのか、おおよそ見当がついてしまった。

しかしそうなると、なぜ? という疑問も頭に浮かぶ。

俺が今のうちにボスを倒してしまい、素材や報酬だけは緊急事態ということで参加予定者全員に配れば、それでこの問題は解決だろう。

にも拘わらずボスを放置したまま、わざわざこのような場所で待機する理由を求めると、アウレーゼさんの口から出てきたのは『クラン』という意外な言葉だった。

「以前にリュークさんから少しだけ聞きましたね。アウレーゼさんがボスレイドに特化した組織を作ろうとしているって」

「まだ手探りではあるんだけどね。私を含め、この世界にはボスハンターって呼ばれている連中がそれなりの数いるけど、そういったレイドを生業とするハンターの多くは縄張り意識が強いっていうか、抱えている情報は隠すみたいな習慣が昔からあってさ」

「周期とか、攻略法とかですか?」

「そうそう。だから死亡率が高過ぎて、いつの間にか放置されているボスなんかもどこかにはいるみたいだけど、それだってわざわざ縄張りの外にまで呼びかけて改善しようっていう風にはなりにくいんだ。そんなことして外の誰かが倒してしまったら、その縄張りを奪われることに繋がるわけだから」

毎度参加者に死者が出ようと、倒せずボスを放置することになろうと、誰かに奪われるくらいならその方がまだマシという、そんな考え方をまったく理解できないわけじゃない。

ゲームでも決まった時間経過で湧くレイドボスなら俺自身が同じように周期管理し、他者を介入させないようにひっそりと狩り続けていたわけだし、レイドという旨味がそれだけ大きいのなら、一度手にした流れを手放すものかと必死になる理由も分かる。

思い返せば旧ヴァルツ王国のヴァラカンは、フィデルというクズも混ざってはいたけど、それでも主催者が複数人いて上手く回せていた事例であり、フレイビル王国のガルグイユなんかはまんま他所へ声も掛けられずに放置された典型。

それに旧スチア連邦の魔物塚は、どう考えたとしても内部の形状からボスはいるはずなのだから、どうせあの場にいた猪獣人やハンター達が現在進行形で独占している真っ最中なのだろう。

だが、それと今回の件になんの関係が?

そう思う俺の顔を眺めながら、岩に腰掛けたアウレーゼさんが言葉を続ける。

「たぶん今こっちに向かってきてるのって、こないだ私が会ってきた別の討伐グループの1つなんだ。20人そこらの少人数なら、すぐ北のオデッセンとかラナンとか、その辺りを縄張りにしている連中で間違いないと思う」

「あー……ラナンってギルド本部と上級ダンジョンがある、ハンターの聖地と呼ばれている所ですか」

「そっ、あそこの連中にまだ煮詰めてもいない中途半端な案を抱えて近づいちゃった私もマズかったんだけどさ。軽く相談がてら話を振ってみたら、そことは少し揉めちゃってね」

「ん? 反対されたのではなくてですか?」

「最初は頭ごなしに反対というか否定されたけど、途中から気でも変わったのかな。提案を続けてたら自分達がそのクランを取り仕切ってやるから、お前達は方々で情報を拾ってこいって。ほんっと自分が考えたわけでもないのに、偉そうにしやがってあのクソオヤジ!」

「……」

いったいどのような構想を描いているのか。

良い機会だからとアウレーゼさんからも意見を求められ、クランという素案の中身を聞いてみると、確かに面白そうだが穴も多そうな印象を持ってしまう。

彼女が把握しているだけでも4つはあるという、ボス討伐を生業とする一団。

それぞれが独立して動くこれらの集団をまずは1つに纏め、お互いが抱える情報と人員を共有し合い、より確実で安全性の高い討伐を目指しながら大陸全土のボスと呼べる魔物を発見。

適切に管理しつつ、いずれはその規模を生かして裏ボスの情報収集も進めたい。

そんなアウレーゼさん個人の夢も詰まった壮大な計画だが、レイド戦に対する考え方や望むモノなど人それぞれ。

生じるズレをどうにかしない限り、そう簡単に話が纏まるとは思えない。

「情報が共有されることでレイド参加者が増えたら、安全と引き換えに一人当たりの報酬は減りそうですよね」

「まあね。代わりに管理下のボスが増えれば、皆の倒す頻度も増えて結果的には一人当たりの報酬額が増えるかなって思ってるけど、子供がいたり自由な時間を求めてレイド戦に参加している連中なんかは長い移動を嫌ったりするからねぇ……それに少数精鋭でこれ以上の安全は不要って思っている連中だと、自分達が抱える情報の共有自体にどうしても消極的でさ」

「……それがここに向かってきているであろう人達なわけですか」

「そっ。エストニアより北はやつらの縄張りだし、何かきっかけがあれば、あとは強引に力で奪おうとでも思っているんだろうね」

んー……

相手の縄張りとは隣接しているようだし、ずっとここのボスが狙われていたのか。

それとも交渉の材料に、アウレーゼさんが抱えている情報の一部でも吐き出したのか。

なぜこれほど都合よく相手が介入できたのかは分からないが、少なくともアウレーゼさんは先にボスを始末するではなく、こうして待ち構える動きを取ろうとしているのだから、まだその連中を諦めてはいない。

どうにかして説得しようとしているのだろうし、俺としても縄張り争いに首など突っ込みたくはないけど、アウレーゼさんの考えるクランは応援しておきたいし、しておかないと俺個人の都合も悪くなる。

俺の知らぬところでこの先も周期管理を徹底されてしまえば、いつまで経ってもボスを倒せないという悲惨な事態に陥ってしまうからな。

となると、説得に加わるか、もしくは……

(まあ全ては、相手の出方次第か)

そんなことをぼんやり考えていると、視界の先で僅かに土煙が舞う。

かなり素早い移動――、どうやら先ほどの一団が現れたらしい。