軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

593話 今更

あれから約20日ほど。

日中はマッピング、夜間は変わらず 《嘆きの聖堂》で経験値稼ぎや素材集めを繰り返していると、ようやく辿っていた輪郭が繋がり、アルバートという国の規模感を把握することができた。

ベザート関連の雑事をこなしながらだし、今までとは異なる詳細なマッピングを目指していたからというのもある。

ただそれ以上に時間が掛かったのは、やはりこの国が今までとは比較にならないほど巨大だからだろう。

人の住む地域だけを見ればそうでもないが、広さだけなら今までで最も大きかったパルモ砂国のさらに3倍から4倍。

そのくらいはありそうなアルバートの国土に、マリーが与えているであろう影響力を感じずにはいられなかった。

そしてその間、ベザートでも連日のように様々な出来事が起きていた。

レストランでどこまでソースの再現が可能かサンプルを渡すついでに、俺が中身を勘違いした氷菓子の存在をいくつか伝えると、ボーラさんが過去一とも言えるほどの食いつきを見せたり。

魚人の屋台が想像以上に盛況で、すぐに雨除けの天幕を張って椅子と机を適当に並べた即席レストランに拡張させたら、後日レイモンド伯爵が普通にそこで飯を食っていてビビったりと。

小さな驚きや進展はいくつもあったが、やはり鍵となる人材が増えたことで、新しい施設がベザートでも動き始めたというのが一番大きいだろう。

予定通りアマリエさんとスタークスさんがベザートに来てくれたため、マルタの診療所を模して作った建物に案内し、早速翌日からベザートで初となる病院を開業してくれていた。

メイちゃん家を含む薬屋や、ベザートに1人だけいることは分かっていたポーションを生み出す錬金術師の仕事を奪わないよう、必要以上に料金を安くする必要まではないと伝えておいたので、あとは暫く様子見といったところだが……

生活が安定して時間に余裕も生まれるようなら、特にスタークスさんはいずれ学校の特別講師も担ってほしいものである。

また、以前に声だけは掛けていた傭兵ギルドの受付嬢ミルフィさんも、旧ヴァルツ領のグリールモルグから馬車を乗り継ぎ、わざわざこの町まで来てくれた。

となると、彼女にはぜひやってもらいたい仕事がある。

そう思って、職業斡旋ギルドの脇に増築という形で、もう1つの建物を建ててもらえるよう依頼しておいた。

移民が真っ先に押し寄せる場所として、特に1階のロビーは常に激混みという印象だったからな。

傭兵のような戦闘に発展する可能性がある仕事とそうでない仕事に分け、混雑を改善できればという話をヤーゴフさんとしていたので、気性の荒い連中も上手く転がしてきたミルフィさんなら、腕自慢達に適材適所の仕事を割り振ってくれるはずだ。

それとだいぶ暖かくなってきたからということでアマンダさんに急かされ、クアド商会の屋上でプール作りに励んでいると、見覚えのある馬車が町の入り口で停車しているのが目に入った。

まったく見なかったわけではなかったが、自然と懐かしさが込み上げてくるその馬車に興味を惹かれ、もしかしたらと思って確認すると、予想通りダンゲ町長と話していたのは、かつてマルタまでの道中を共にしたギルド専属御者のホリオさんで。

正式にベザートがハンターギルドの支店として認められたことから、元々ラグリース南部を担当していたホリオさんがここも巡回の担当になったと聞いた時は、思わず声に出るほど喜んでしまった。

ルート的に最南ということもあり、今後はベザートで寝泊まりする可能性もそれなりにあるようなので、お世話になったしホリオさん用の家をプレゼントすることが俺の中で決定したわけだが、どうせならその建造は建築のプロにお任せした方がいいだろう。

こうして予定していた人、どちらか分からなかった人、想定もしていなかった人と。

様々な人達が訪れ、少しずつ賑わう声も大きくなっていくベザートだが、しかしなかには探してもまったく見つからない人がいたりする。

リプサムの受付嬢は事件解決後、彼女が東の国へ向かったと言っていた。

アマリエさんも彼女から同じようなことを聞いたというのだから、行先に関してはまず間違いないだろう。

しかしアマリエさんは当時、別の気になる言葉も聞いているという。

それは彼女自身からではなく、彼女の横にいた見知らぬ男から掛けられた言葉――。

『あなたもその能力をお持ちなら、空いた時間に別の仕事をしませんか?』

【回復魔法】を所持しているのなら、国を出て東の地に向かえば今よりもずっと稼げると。

そう説明を受けたらしいが、ラグリース生まれのアマリエさんは安易に国を出るという選択肢など選べず、また精神的に不安定だった当時はそこはかとない不信感もあったようで、その誘いは丁重に断ったと言っていた。

その話を聞いた時、当然俺の心がざわついたのは言うまでもない。

だからこうして、フレイビル王国の中で最も情報が集まっているであろう王都『グラジール』の傭兵ギルドを訪ねてみたわけだが。

「うーんエステルテ、エステルテ……いや、やはりそのような人物の登録は確認できませんね。つい最近の登録ということでしたら、まだこちらに情報が回っていない可能性もありますが、どちらにせよこれでは指名依頼をお引き受けすることができません」

「そうですか……ありがとうございます」

やはりか。

ここでも行方を捜している人物の足取りは拾えない。

既にAランク狩場を保有するフレイビルの主要都市『ロズベリア』と、旧ヴァルツ領とフレイビルを繋ぐ中規模都市『サラトーナ』でも、同様にエステルテさんの傭兵登録は確認できなかった。

ミルフィさんは、エステルテさんと思しき【呪術魔法】の使い手に心当たりはないと言う。

しかし彼女がもし傭兵になっていたのだとしたら、フレイビルでは登録している様子がないのだから、さらに東へ向かうよりはヴァルツ内で動きを止めた可能性の方が極めて高い。

旧ヴァルツ領の傭兵ギルドは既に潰れていたため、今更記録を辿るというのは難しいが、傭兵という駒を強く求めていたあの当時ならばそう考えるのが自然だろう。

参加したのは全体の約8割で、残りは戦後、多くが東へ逃げたという話だけれど……

(あの時、もしかしたら混ざっていたのか……?)

いよいよ可能性が高まってきたことで心臓の鼓動が早まり、嫌な感情が心を蝕もうとするも、振り払うように顔を左右へ向ける。

もし仮にそうであったとしても、俺は後悔などしないし、してはならない。

大地を埋め尽くしてもなお足りないと言わんばかりに敵が群がる中、もし顔を知る人物がどこかに混ざっていたとして、それを理由に俺は動きを止めるのか?

止めたとして、誰が救われ、誰が犠牲になる?

その結果、最も得をするのは誰だ……?

「はぁ…………今更だな……」

初めて人を殺した時から決意し、それ以降も僅かな犠牲は覚悟の上で、悪の掃討を優先させてきた。

だからこんな俺でも、自分が守りたいと思えるモノを守れてきたのだ。

自己の満足を満たすための傲慢な正義感など大した役には立たないだけでなく、酔った思考の多くはただただ犠牲者を増やすだけ。

それでも物語にありがちな勇者様のように、都合の良い我儘を押し通したいのなら、何があろうと実現できるだけの絶対的な力を身に付けるしかない。

そう自分に言い聞かせ、エステルテさんの探索に区切りをつけた俺はベザートへと転移する。

予定通りなら、もうそろそろ彼女が迎えに来る頃か。

3日に1度はグリムリーパーを湧かせてもスキルレベルまでは上がらず、【魂装】の結果もしばらく更新できるほどの数値を引けていないため、海で巨大魚のボスを倒して以降はまったくステータスを伸ばせなかったが……

ようやくだ。

初見のボスを倒せば、また少しは俺も強くなれるだろう。