軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

581話 早く、寄越せ

咄嗟の判断だった。

――【水蹴】――

勢いよく水中を蹴って交差していた横向きの穴へ逃げると、向かってきていた謎の何か――いや、魚か。

サメに近い巨大な魚はそのまま進行方向に沿って上の穴へと抜けていく。

しかし、凄いな……

先ほどまで、今までの中でもかなり大型な部類の巨大ワニを見ていただけに、ゴオゴオと音を立てながら真横を泳いでいくアホみたいなデカさの魚に思わず鳥肌が立ってしまった。

いったい何メートルあるんだ、コイツは?

さすがにハンスさんが連れてきたあの竜ほどではないと思うけど、それでもなかなか途切れないその全長はゆうに50メートルを超えていそうなくらいに長い。

そして――

「んお? コイツも【鏡水】持ちか」

ついでとばかりにスキルを覗くと、同じAランク狩場であり同じ水場。

共通する部分が多いせいもあってか、ガルグイユが持つ【鏡水】をこのサメも所持していた。

加えて、見覚えのないスキルが2つ……

今真横からブチ抜けば、たぶんそのままこの表ボスは殺しきれるだろうけど――いやいや、さすがに初見の、しかもボス魔物でそれは無しだろう。

得られたスキルが白文字なら詳細は確認できるにしても、やはり文字よりは直接そのスキルを目にした方が効果も分かりやすいわけで。

死が目前に迫る裏ボスでもなければ、最低限手本となる使い方を確認してからでも遅くはないと、握った拳を少し緩める。

すると巨大な魚が目の前を通過して間もなく、背中を押されたように海水が激しく流れ出し、碌に身動きも取れないまま流される俺。

敢えて何も逆らわずに身を任せていると、その俺を追うように、再び後方から猛烈な勢いで巨大な魚が迫ってくる。

なるほど……交差したこの空間は巨大なパイプのように繋がっているのか。

そしてこの、ヒレのない俺では無理やりスキルを使わないと抗えないほどの強い流れ。

それが【水流】と表示された未所持スキルの1つなのだろう。

まあどう考えても水場限定だし、仮に使えたとしても敵を外へ逃がし兼ねないこのスキルには、さほど魅力を感じないが……

鋭利で巨大な歯に掴まり、ボスに押されながら緩く曲がるパイプのような水の道を進んでいくと、途中で二手に分かれる分岐がいくつか存在し、立体的な8の字を描くように度々交差点のような交わる箇所を通過していく。

グルグルと回りながら泳ぎ続けるこのボスを相手に、魚人がレイド戦を繰り広げるとしたらどう倒すのか。

常に喰われる危険性があるのだから決して弱くはないだろうが、それでも単調過ぎる動きに飽きが生じ、余計なことまで考え始めていると――

「ん?」

――掴んでいた歯を含むボスの身体が、一瞬だけフワッと光る。

それが久しぶりに見る、【硬質化】の合図であると理解したその瞬間。

「ッだ……ぁ!?」

顔面から腹に掛けて、声が漏れるほどの強い痛みが走って思わず蹲る。

な、なんだ……?

何かにぶつかった……というよりは、明らかに斬られたであろう大量の斬り傷が俺の半身に刻まれており、噴き出した血はすぐに海水と混ざり合っていく。

ボスが僅かに光ったあの時、視線を逸らしたことで何かに攻撃されたのか?

「……」

なぜかボスも顔面に無数の傷を作っているが、その巨体にぴったりと合わせたような通路を泳ぎ続けたままで、視線を前方に向けてもその先で行く手を遮るような障害物はない。

ならば、次は絶対に見逃さな――

「うぐ……ッ」

俺は確かに、前を見据えていた。

だから間違いなく何もなかったし、【気配察知】や【魔力感知】でも何かがあるような違和感は拾えなかった。

なのに、また……また何かに無数に切られ、目を見開いていたせいで片目が滲んだように視力を失う。

もう原因は分かっているんだ。

このボスが持つ、見覚えのないもう1つのスキル。

まず間違いなくこのスキルのせいだということは分かっているけど、しかしこうして目の前で食らっても対処法が思い浮かばない。

「ふは……ふははは……!」

そのことに思わず笑いが込み上げてくる。

こんなところで血を流す予定などなかったというのに、まさかここまでの傷を負い、片目まで失っているのだ。

このスキルがもし白字なら、使用場面は限定されるだろうが、それでも間違いなく強い。

いや、もし水場の使用に限定されず、地上や空中でも同様の効果が見込めるのなら――

「ははっ、あはははは……………もう、いいや。そのスキル、早く寄越せ」

【魔力纏術】――『魔力10000』――【身体強化】――【闘気術】――【硬質化】――【爪術】――【衝撃波】――

ゴッ!!

「ゴガァォオオオオオ……!?」

鼻先から腕を突っ込み、頭部を吹き飛ばすつもりで内部から【衝撃波】を放つ。

これだけデカいと頭部の切断も儘ならず、かと言って【鏡水】持ちに魔法を無暗に撃ちたくはないため苦肉の策。

それでも穴という穴から赤黒い血を噴出させて動きを鈍らせるが……やはり表ボスだけあってタフだな。

ならば。

『暴れろ、"黒玉"』

豪快に開いていた口の中に無数の黒玉を放り込み、そのデカい口を縫うように、指先から伸ばした5本の具現化した魔力で上下の口を貫通させ、強引に縮める。

「ングゥウウウ"ウ"ウ"ウ"……」

これなら反射したって口の中。

再びどこかに当たっても、ダメージは全てこのボスが請け負ってくれるのだから無駄にならない。

しばらく、跳ねるように頭を上下に動かしていたサメは次第に力を失い――

『【水属性耐性】Lv9を取得しました』

『【水流】Lv1を取得しました』

『【水流】Lv2を取得しました』

『【水流】Lv3を取得しました』

『【水流】Lv4を取得しました』

『【水流】Lv5を取得しました』

『【水流】Lv6を取得しました』

『【水流】Lv7を取得しました』

『【熱感知】Lv6を取得しました』

『【熱感知】Lv7を取得しました』

『【鏡水】Lv6を取得しました』

『【座陣刃】Lv1を取得しました』

『【座陣刃】Lv2を取得しました』

『【座陣刃】Lv3を取得しました』

『【座陣刃】Lv4を取得しました』

『【座陣刃】Lv5を取得しました』

絶命を示すアナウンスが視界の隅に流れ始めたことで、俺はホッと小さく息を吐いた。