軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

577話 魚人の隠れ家

ようやくこれで10組目。

元から【魔力譲渡】を引き受けてくれていたフェリンとフィーリルの協力もあり、移住先の広場にはもう500人ほどの魚人が集まっていた。

しかし、皆同じ反応だな。

「はい、到着です。見える範囲で遊ぶくらいならいいですけど、まだ外に出たりはしないようにしてくださいね」

「「「……」」」

もうちょっと子供達は喜んでくれるかと思ったんだが、いまいち反応が薄いというか、キョロキョロしているばかりで騒ぐ様子がない。

人間の子供と違うからかな?

そんなことを思いながら、すぐ別の場所で待機している二人の所へ向かおうとすると、この町の町長になるキリュウさんが、おずおずと手を挙げながら口を開いた。

「あの、ロキ王。そろそろここがどのような場所なのか、説明してもらいたいのですが……?」

「ん? ここがそのまま、皆さんの住む新しい町になりますよ」

「いや、それは分かっているのです。ただ、どう見ても洞窟の中ですよね? なのに壁や天井から光が漏れていますし、上から水は降ってきますし……このような地形を今まで見たことがないんですけど」

「でしょうね。掘って固めて整えて、こちらで無理やり作り替えていますから」

「「「??」」」

うーん、本当は運べるだけ運んでからと思っていたけど、しょうがないか。

今後訪れる人達にはキリュウさんから説明してもらおうと考えを切り替え、一度このタイミングでここがどのような場所なのかを伝える。

「まず、こうして移住計画が始まった切っ掛けは、これ以上被害が増えないよう、異世界人マリーから身を隠すため。そして最悪を想定した場合に魚人の住処を分けておき、万が一にも種が根絶しないようにという意味も含まれています」

「ええ、そのように族長と長老からも聞いております」

「なのでこのような造りにしたんです。ここは大地の一部をくり抜いて作られた魚人の隠れ家。場所は複雑に入り組んだ入り江の奥にありますから、海からは当然として、上空からもこのような町があることは分からないようになっています。それに陸路での到達も、少なくとも周囲数百kmに渡って人は住んでおらず森ばかりですし、厳密には大陸とも繋がっていませんから不可能と言っていいでしょう」

「そ、そんな場所を……しかし、そこまでの僻地となると、私達はやっていけるのでしょうか……?」

キリュウさんの不安はごもっともで、普通ならそんな環境でまともな生活など営めない。

「だからまあ、当面は僕がマリーのように、皆さんが獲ってこられる資源と引き換えで生活物資を届けるようにするしかありません。なので無理がない程度に頑張ってくださいね」

そう言って、事前に準備していた一枚の木板をキリュウさんに渡すと、周囲にいた人達も覗き込むように見つめる。

「こ、これは……」

「この周辺を描いた『地図』というモノです。簡易的ですが、黒く縁取った部分に記載の魔物がそれぞれ生息しているので、これなら迷子になることもないでしょう? 余った素材は1階の奥に大きな貯蔵庫を設けているので、そこに置いておいてもらえれば僕が回収しますから。レモラを頑張って獲ってきてもらわないと、なかなか大きなお金にはならないですけどね」

「上空からの景色を描き写しているのか……凄いな」

「キリュウ、大陸にはこのような便利なモノがあるのか?」

「私が向こうにいた頃はこのようなモノなどなかったはずですが……いや、それより今は魔物ですね。レモラが近海にいるのなら、そうお金に困ることはなくなりそうです」

「ああ、それにFランクやEランクの狩場も近くにあるなら、子供達に狩りの訓練だってさせられそうだな」

「お、おい、ここのFランク狩場はミノ諸島にもなかった陸地みたいだぞ!? それなら俺達だって新しい挑戦が――」

パンパン!

この町を支える狩り担当の面々が盛り上がっていたので、一度手を叩いて意識をこちらに向けさせる。

まだ説明しきれていないのだから、その辺りは俺の運搬作業を再開してからやってほしい。

「この魚人の隠れ家は5階層で、1階は港としても使える吹き抜けの水場と先ほどお伝えした貯蔵庫の他、向こうの町にはお店がいくつも存在していたので、それ用に少し大きめの部屋を多く確保しています。ちなみにここは僕も把握しきれていなかったんですけど、魚人の人達は教会って利用してました?」

「ええ、してはいましたが……あくまで残されていた道具を利用していた程度でしょうか」

「道具というと、黒曜板ですかね」

「そうです。いつの時代に置かれたのかも分からない黒い板と、それに女神像はミノ諸島にも設置されていますから、我々のような狩人と島を守る歌姫達は祈祷でスキルを授かったり、自分の所持スキルを確認したりということはしていました。ただ大陸で案内していたハンター達のように、何かしらの"職業"に就くということまではしていませんでしたが」

「なるほど……」

周囲ではこの"職業"という言葉に、まるで初耳のような反応で驚く人達が多くいた。

つまり一時は大陸に住み、人間やハンター達と交流のあったキリュウさんだから知っている程度の情報であり、魚人の住むあの町には<神官>の立場に就く者がいなかったということ。

となると――

「一応、ここの一室にも女神像と黒曜板は設置してあります。上手に利用されていけば、いずれもしかしたら職業選択に必要不可欠な<神官>の適性を認められる方が現れるかもしれません。そうなると様々な面で成長が速くなるので、魚人の未来はより明るくなると思いますよ」

大陸に住む人間と違い、魚人はファンメル教皇国の管理体制を知らないのであっさりしたモノだな。

多くは馴染みがないのだから、よく分かっていないような顔をしているが、これであとはフィーリルにでも事情を伝えておけば、魚人の中から神官職が生まれ、それぞれが望む職業に就いてより効率的に成長できる未来が訪れるかもしれない。

「それでは説明の続きを。ここの2階以降は居住区です。大量の小部屋がありますから、あとは皆さんで割り振って自由に使ってください。内側の部屋は光が入らないので、光源魔道具が必須になっちゃいますけどね」

「ロキ王、あのクルクルと回っているモノはなんでしょう? 水も流れているのですが……」

「あれは――ここで一番の特徴となる『ウォータースライダー』ですね」

「……?」

他はだいたいフェリンとフィーリルが手掛けているけど、あれは俺の自信作。

よくぞ聞いてくれましたとばかりに答えを告げるも……駄目だな。

この無反応っぷりは、誰一人として伝わっていないパターンだ。

それなら誰か実験台に……そう思って見回すと、俺とケイラちゃんに話しかけてきた子供が鼻を穿りながら近くに立っていたので、丁度いいやと抱きかかえる。

「うわー」

「ちょっと遊ぼうか。ここに来た時みたいに、少し動かないでいてね」

そして5階へ転移し、ポイッと手を放す。

すると、断続的に響く子供の叫び声。

しかしそれは楽しげなモノで、グルグルと回りながら次第に下りていき、先ほどの広場へ豪快にダイブした。

「ぶはーすっげぇー!! 何これ! 楽しいんだけどぉ~!?」

これに子供達が大きく反応して大騒ぎになるが、とりあえず大人にだけ事情が伝わっていれば問題ないだろう。

――【拡声】――

「というわけでして、子供達が多いことから作った遊具みたいなモノだと思ってください。ウォータースライダーは5階から直接この広場まで下りるタイプですが、各階層を通りながら、この広場の周りを大きく回るようにして下りてくる『流れっぱなしのプール』もあるので、そちらは普段の上り下り用にでも使ってください。一応手すり付きのスロープも用意していますけどね」

「この水は、どこかの川から引いているのですか……?」

「いえ、どちらも水を生み出す強力な魔道具を埋め込んでいます。真水なので飲み水としても利用できますけど、いくつかある守ってほしいことの1つとして、触れて壊すことだけはないよう徹底して子供達にも教えてあげてください。今の時代では作れないであろうモノを使用していますので」

「「「……」」」

使っているのはヘルデザートの奥底に埋められ水を放出し続けていた、あの大きなラッパ形の魔道具だ。

希少だが今のところ決まった使い道もないので、こうした形で活用してみたが……

うん、周囲は海だし、この環境なら常時使用でもまったく問題なさそうだな。

「お、恐ろしく希少なモノが使われているのですね……分かりました、子供達にも触らないようにと徹底させましょう。それで、他に我々が守らなければいけないこととは?」

そう問うキリュウさんに軽く頷く。

「2つ目は、ミノ諸島の周辺海域でも歌われているあの歌――というよりスキルを、ここでは使わないようにしてほしいんです」

「え? この地を隠すためにも、【惑声】は非常に強力だと思いますよ?」

「ええ、強力なのは理解しています。ただあの歌は声が届く範囲に必ずスキル使用者が存在し、隠したい何かがあることを自ら告げていることになりますから」

「それは、確かに……」

「そうなると力技で破る方法もなくはないので、ここまで周囲に何もないなら切っ掛けすら掴ませない方が存在を隠せるんです。海で狩っている姿を航行する船に見られたとか、そんな事態になればまた話は変わりますけどね」

よほど自信があったのだろう。

力技で破るという発言にキリュウさんを含む大人達はざわつくが、高射程と高威力の範囲魔法を連発できれば実際にできなくはないのだ。

ガルム聖王騎士国のド田舎に隠された秘蔵院のように、何も手掛かりを得られない方が探す側としてはキツい。

否定せずにそのまま見つめていると、ここに来ている魚穎番衆の面々が顔を見合わせ頷いた。

「承知しました。では外での活動も、極力荷積みの船は視界が遮られた場所でしか使わないなど、方針を決めて動くようにしていきましょう」

「お願いします。そして最後に、これは守ってほしいというより僕からのお願いですが、ぜひ水場に強い皆さんの力で、この南部に広がる広い海を可能な限り探索してもらいたいのです」

「探索、ですか……」

「ええ。今のところ文献でも情報がまともに出てきていませんし、誰も住んでいないのですから調べようとする人だっていません。船が通る可能性はあったとしても、海図がなければ陸地がある程度見える範囲でしか航行していないでしょうしね。なので沖合いは特に未開の領域である可能性が高いわけです」

「なるほど……目的は新しい狩場ですか?」

「もちろんそれもありますが、より正確にお伝えすれば"違和感"ですかね……海に詳しい皆さんから見ても普通じゃない場所や環境――、それにもしかしたらどこかに島や別の陸地があって、そこに同じ魚人種が住んでいる可能性だって否定はできないでしょう? ノトスさん達も、他の海域に魚人が住んでいるかは分からないという認識なのですから」

分からないから自分達だけの可能性もあり、こうして種を残そうと大きく動いた。

でも分からないのだから、もしかしたら人目に付かない所でひっそりと生活を営んでいる魚人がいる可能性だってある。

そう告げると、この場に集まっていた大人達が再び騒めくが、今回の返答は早かった。

「こうして我々の居住場所まで用意してもらい、さらに生活まで支えてくれようとしてくれているのです。拒否などできるわけがありませんし、我々にだって探索をする利点は大きい……新たなこの町の長として、喜んで海の探索に協力することをお約束しましょう」

「ええ、くれぐれも無理がない程度に、頑張ってみてくださいね」

どちらが上ということもない、持ちつ持たれつの関係。

好んでやりたくないという気持ちは今も変わらないが、定期的に生活物資の供給を行いつつ、代わりに海の資源調達と、周辺海域の調査を広く行ってもらう。

その結果、得られるモノは果たしてあるのか……

面白い発見があることを密かに期待しながら、一通りの説明を終えた俺は再び運搬作業を再開した。