軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

574話 動く島

じいさんの髭を毟るなんてとんでもない。

これは想像以上に情報の中身がデカいんじゃないのか?

そう思いつつ、真っ先に感じた疑問をノトスさんにぶつける。

「島が動くって、ノトスさんもその事実を確認されているんですか?」

「いや、ワシが生まれるより前から、北側にある島はまとめて立ち入りを禁止していたのでな。動くというのがどれほど前の話なのかも分かってはいないが……」

「が?」

「忘れた頃に、波とは違う妙な音が風に乗って聞こえてくることはある。ワシらは決まって海が怒っていると言うその音も、もしかしたら何か繋がりがあるのかもしれん」

「なるほど……」

どのような特性があるのか、この程度の情報だけでははっきりとしない。

しかしかつては空にあり、今なお動く可能性があるとなると、原因はまず間違いなくコイツだろう。

「たぶんそれって、浮遊石ですよね?」

「ほう。その存在を知っておるとは、若そうには見えてさすが一国の王だけあるな」

「書物でその内容を少し目にした程度ですけど、古代の時代には存在していた希少鉱石――ああ、なるほど。魚人では価値が見出せないというのはそういうことですか」

「うむ。海や水があってその本領を発揮できる我らが、空を目指したところで何一つ利点などない。だが、人間ならば話は違うだろう?」

「ですね……翼を持たない者にとっては夢や憧れ、空を舞いたいと願う人間は山のようにいると思います」

にも拘わらず、羽も無しに飛んでいるという情報は出てこず、空を飛ぶ類の人工的な乗り物があるという話も一度として聞いたことがないのだ。

近年――と言ってもどの時代を指しているかは分からないが、その書物が書かれた時代には既に存在が確認できない幻の鉱石という扱いになっていたのだから、大陸に伝われば魚人が滅びると言い伝えられるほど警戒していた理由にも納得できる。

実際マリーがこの情報を手にしていたら、魚人にどれほどの被害が出ようと我が物にしようとしていただろうしな……

「先ほどは立ち入り禁止と言っていましたけど、さすがに僕が行くのは許可してくれますよね?」

「情報だけ伝えて行くなというのもおかしな話だしな。断崖ばかりで周囲は危険な場所だが、ロキ王なら問題なかろう?」

「じゃあ早速行ってみますか。ノトスさんは場所を分かっていそうですし、ちょっと案内してもらえません?」

「うん? それは構わないが……なんだ、なぜ襟を掴む――……………ギョぇえええええええ!?」

なんだ、やたら落ち着いているこの爺さんも慌てることがあるんだな。

そう思いつつ、転移した先から眼下に広がるアオキノ島と、その先に見えるいくつかの島に目を向ける。

「な、なんじゃこの高さは!? 落ちる!! 落ちてしまうぞ!?」

「大丈夫ですよ。僕はその浮遊石がなくても元から飛べますので」

「へ? は、羽も無しに、か……?」

「羽がなくても飛べますけど……出せばもっと速く飛べますね」

そう言って、少々おどろおどろしい黒い羽を生み出すと、ノトスさんは上空にいることも忘れたように静まり返って目を見開く。

「い、異世界人がどれほど脅威に見られているのか、今ようやっと分かった気がするわ……」

「まあ、異世界人だから、という特徴ではないですけど。それで、どちらを目指せばいいんですか?」

「あの先に見える山の右手、一番奥の方にある、周囲を崖に覆われた島がそうだが……既に飛べるのなら、ロキ王にとってさほどこの情報に価値はなかったのではないのか?」

指を指しながら言葉を続けたノトスさんは、ほんの少し前とはまた違う不安げな表情を浮かべていた。

だから、まだなんとも言えないところだけど。

「今更情報の中身で約束を違えたりはしませんよ。それにもし……いや、あとは行ってから判断してみますか」

俺の予想通りならそうとも限らない。

その言葉を飲み込み、俺達二人は示されたその島へと向かった。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

いくつかある島の一番外れに、外周が切り立った崖で覆われた、他とは少し異なる雰囲気のする島――ルフオミ島は存在していた。

崖の内側はそこまで高くはない山と盆地が半々程度に存在しており、大きさは初期の頃のベザートが収まるかどうかという程度なので、そこまで大きいわけではない。

そんな場所に降り立つと、周囲の木々から鳥が一斉に羽ばたいていく。

「魔物の気配は無し……どこも鬱蒼と生い茂っていますし、今は野生動物の住処って感じですか」

「であろうな。少なくとも魚人がここで何かをしたという記録は残されていない」

「なるほど。でもかつては、この地で人の動きも少なからずあったんでしょうね」

ノトスさんはこんな所をまともに移動できないため、フヨフヨと浮いた状態で探索していると、どう考えても人の手が入ったと分かる石垣の一部が所々に残されていた。

どれほど古い時代のモノなのかは分からないが……

魚人は立ち入っていないというのなら、かつてここへ落ちてくる前の時代に誰かがこの地で暮らしていたか、もしくはここで何かをしていたということ。

となると、やはり――。

答え合わせのために、反応を探りながら山の方面へ向かっていると、木々の隙間から覗くぽっかりと空いた穴が見えてくる。

「む、あれは洞窟か?」

宙吊りにされたノトスさんがソレに反応を示すが、それじゃ正解とまでは言えないだろう。

「まず間違いなく坑道の跡でしょうね。あの一帯は明らかに浮遊石の反応が薄い。かつて人は、ここで浮遊石を採掘していたんだと思います」

「浮遊石を……でも薄いということは、まだあるにはあるのだろう?」

「ええ、どうします? ガスとか魔物は大丈夫そうなので、一応この中も軽く調査してみますけど、ノトスさんは一度町に戻りますか?」

「いや、せっかくここまで来たのだ。この機会に自分の目でも確認し、できればより正確な情報を後世に残したい」

「では、もう暫くこの状態で」

光玉で視界を確保し、いくつもの分岐を越えながら、なんら補強もされていない坑道内を進んでいく。

そして目を付けていた大きめの反応がだいぶ近くなったところで坑道も行き止まりになったため、そこで足を止めた。

「ちょっと掘りますね」

「え?」

『穴』

何度か繰り返し、斜め上に穴を拡張していくと見えてくる半透明の石の塊。

一見すると地球にある水晶石のようなソレは光玉の光で僅かに輝いており、いくつか取り出してみるとなんとも言えない不思議な感覚に襲われる。

「これが浮遊石か……ノトスさん、見つけましたよ」

そう言いながら、下で待つノトスさんに渡すつもりで、手に持ついくつかの塊を軽く投げてみた。

すると。

「ん?」

「お~」

速度を落としながらそのまま下に転がっていく石と、途中で動きを止め、空中でフワフワと揺れ動いている石。

そして俺の方へ戻ってこようとする石と、様々な動きを見せてくれる。

「ははっ、面白い特徴ですね。この浮遊石は」

「……小さいモノだけこちらに転がって……大きさで動きが変わるのか?」

「みたいですね。質量が大きいほど浮力が増す。ただ剥き出しの状態だと小さい塊でも結局天井に張り付いているので、ここにある土のように、何かしら重しとなる支えがあって意味を成すんだと思います」

「支えがなくなれば、次々と浮上し地上から消えていくわけか……こうして実物を目の当たりにすると、希少と言われる所以がよく分かるな」

「ですね。そしてこの島が落ちてきた理由もこれで理解できます」

「ふむ。かつて何者かが採り過ぎたわけか」

「ええ、ここの地下やもっと奥にはまだ相当量の浮遊石が存在していることは分かりますので、たぶん当時も、それが分かっていたから掘り進めて……結果、島の自重を支えきれなくなったんでしょうね」

「では良かったな、ロキ王。それだけの量があるなら、使う分に困ることはあるまい?」

ノトスさんのその言葉に暫し思考は巡る。

普通に考えればその通りで、まだ相当量の浮遊石が眠っているのだから、この希少鉱石を用いていったいどんなことができるのか。

革新的な何かが生まれるかもしれない未来にワクワクするのだろうけど、技術者としての経験がないからかな……

なぜか俺のワクワクはそちらに向いていない。

それよりも。

「――正直、少しずつ持ち出して使うよりは、この島自体を再び浮き上がらせたいんですよね」

俺の興味はそちらの方へ向いてしまう。

「なに? この島を再び浮かせたとして、それでロキ王に何か利点でもあるのか?」

「ん~まあ、新しい秘密の基地ができたりとか…… 凄く夢(ロマン) があるじゃないですか」

「ロ、ロマン……」

「それに、こうして元からある島の形が今もしっかり残されているのなら、まずは維持することを優先すべきかなって。使ってない島が一つどこかに飛んでいくくらいなら問題ないですよね?」

「………………うむ」

浮遊石であろうという予想はついていたのだから、この島に来る途中も【広域探査】でその反応は探っていた。

しかし島の周囲には存在せず、この島がそのまま塊のように反応を示すだけ。

それは当時、支えきれるほどの浮力を失ったこの島が、ゆっくりとゆっくりと、大きく砕けることもなくこの海に落下してきたからだろう。

ならば大きな塊でしかできないことを先に試すべき。

ノトスさんには少々言いづらいけど、もし実現すれば俺の抱える弱点を1つクリアにできるかもしれないからな。

「削るか、もしくは足せるのなら足すか……取り急ぎ何かに使いたいわけでもないので、暫くここに置いておきますよ。この大きさじゃ、まだ『収納』して持ち帰ることもできなさそうですし、浮かしたところで制御ができなければなんの意味もありませんしね」

「ロ、ロキ王にその辺りは任せるが、何かする時は一声掛けてくれ。いきなり島がなくなっていたりすると大問題になるのでな」

こうして島の探索を終え、思いがけない発見と戦利品を獲た俺は、アルバートのマッピング作業や海洋魔物の討伐を一時中断。

Bランク狩場までしか把握していなかった自国の南部調査を開始した。