作品タイトル不明
58話 唐突な来訪
ご~ん……ご~ん……
(アー……ウゥー……昨日行きそびれたんだし、今日はルルブの森に行かなきゃだな……)
昨日は昼前に女神様達の呼び出しも終わり、もしや昨日の出来事は俺の 異(・) 世(・) 界(・) 人(・) 生(・) 最(・) 大(・) の(・) 分(・) 岐(・) 点(・) だったのでは? と思うと心が落ち着かず、のんびり午後を釣りだけして過ごしてしまった。
釣りをしながらボーッとしても考えは纏まらない。
これが分かっただけでも一つの収穫と言える。
ちなみに魚を釣り上げるという収穫ももちろんなかった。
たぶんセンスが壊滅的に無いのだろう。
さーて今日はその分頑張らねばと、寝ぼけ眼を擦りながら起き上がった俺は、ふと、視界の端に 足(・) があることに気付く。
(……ん?……んんんんっ!?)
急速に覚めていく眠気、見開かれる瞳。
視線を上に向ければ……
「……」
「……」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああ!!!!」
ドンッ!!
「うおっ! すみません!!」
まさかこの世界にも壁ドンがあるとは思わなかった。
早朝に叫べばそりゃお隣さんも怒るだろう。
壁薄そうだし。
って、今はそれどころじゃない!
なんだ?
いったい何がどうなっている!?
「なんで……なんでリア様がここにいるんですか!?」
そう、なぜか備え付けの椅子にちょこんと座るリア様がいた。
ぐぅ~朝から眩しい……謎のオーラを放ってやがるぜ……
「ん? ロキを目印に【分体】を作ったから」
「へ? あ、いやいや、そんな冷静に答えられても……というか俺の居場所ってずっとバレていたんですか……?」
「だっていつも同じ場所から【神通】使ってたし。ここが家だと思った」
マジかよ……【神通】って相手の居場所バレるのかよ……
「ま、まさかずっと俺の姿を監視していたんじゃ――」
「そんなことはできない。場所が分かるだけ」
「……どうやって入ったんですか? 鍵掛かっていたでしょう?」
「直接この部屋に【分体】を出したから鍵は開けてない。開けようと思えば開けられるけど」
「……」
不法侵入とか、どうなってんだよ女神様は!
というか、なぜ俺の部屋に【分体】を出さなければいけないんだ?
昨日の話では【分体】で転移者捜索をする、そんな話だったはずだ。
「リア様? なんで俺の部屋に【分体】を? 転移者を探すなら街中とか、探すところはいっぱいありますよね?」
「ロキが私達の中で初の転移者。それにパルメラの森で遺留品が見つかっているなら、ロキの周りを探した方が効率が良い――ってリステが言ってた」
な、なるほど。
そう言われると何も言えない。
さすがリステ様である。
「では既に他の女神様達は探しに行かれているんですか?」
「ううん。勢いで納得したけどやっぱり不安だから……とりあえず【分体】を下界に降ろすのは1人だけ。これならもしフェルザ様に見つかっても、怪しいロキを担当が直接監視していたという言い訳が立つ」
そ、そうですか……
俺の扱いが酷過ぎる気がするんですけど、気のせいでしょうか……
「ということはリア様が転移者探しの担当ということですね?」
「私が最初。交替制になるから1週間くらいで替わると思う」
ふーむ。
そういえばフィーリル様は楽しみなんて言っていたし、他の方々もやたらとやる気になっていたので、皆さん管理している下界に降りてみたいのかもしれないな。
神界は退屈とか、フェリン様が言っていた気がするし。
「分かりました。とりあえず俺は宿の朝食を食べに行きますけどどうします? って、リア様は宿泊客じゃないから食べられるか分からないか」
「大丈夫。私達は食事を摂る必要が無い」
「さ、さすが神様ですね……では宿の中を通って出るとマズいかもしれないんで、出かけるなら上手く隠れて出てくださいよ? 何かあっても責任持てませんからね!」
「分かった」
はぁ……朝からなんなんだよこりゃ。
俺のせいと言えば俺のせいかもしれないけど、起きたら部屋の中に人が座ってましたなんて、さすがにホラー過ぎるだろう。
朝に気付いて良かったと心底思う。
それにしても、1週間リア様はどのように過ごすのだろうか?
宿に泊まるという知識はあるのか?
それにお金は?
食事は必要無いと言っていたし、まさか睡眠も必要無いとか?
よくよく考えれば、女神様の生態はかなり謎に包まれている気がする。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「なんでまだいるんですか?」
「ロキを待っていたから」
朝食後、部屋に戻ったらリア様はまだ椅子に座っていた。
素足をプラプラさせている姿は可愛いし、顔もウルトラ可愛いし、そんな中で「待ってた」なんて言われたら俺がときめいてしまいそうだが、だがしかし、俺は騙されない。
「えっと……転移者の探索をするんですよね?」
「うん」
「早く行った方がいいんじゃないですか?」
「ロキと一緒に行く」
「……へっ?」
どういうこと? なぜ俺も一緒に? 昨日、俺も一緒に探索しますなんて言ったか?
いやいや、言ってないよな……
俺が狩りを放り出してそんなことするわけが無い。
そうだ、つまり断じて言っていない!!
「ちょっと……俺にも予定があるんですよ? 今日は昨日行けなかったルルブの森に行く予定なんです」
「だからついていく」
「は?」
やべぇよ。
会話のキャッチボールができているようでできていない。
俺は難聴でもないのに、耳の通りが悪くなったような気がしてくる。
このままでは「ん? なんだって?」と連発してしまいそうだ。
「下界の町とか村なんてよく分からない。だからロキについていって、その中で転移者がいないか探す」
「なるほど……それで、今日1日が終わったらどうするおつもりで?」
「?」
「だから、俺についてきて、今日1日が終わったらリア様はどうするんです?」
「一緒にここへ戻ってくる」
おぉぅ……
俺は確かに願ったことがある。
この世界で今まで多く接点を持った女性はアマンダさん(推定40歳くらい)、宿屋の女将さん(推定50歳くらい)、ギルド内のお食事処のおばちゃん(推定50歳くらい)、教会のシスターメリーズさん(推定50歳くらい)
全て俺の元年齢よりも上の方々、つまり全員おばちゃんだ。
ストライクゾーンを大きく超えている。
一応メイちゃん(10歳)だっているにはいるが、これまた逆の意味でストライクゾーンを大きく下回っているので、さすがに子供としか見たことが無い。
これが俺の、転移後の運命なんだと思っていた。
なぜか適正年齢とも言える若い子に声を掛けても躱される様は、ある意味呪われていると言ってもよかった。
だから転生チート勇者のタクヤが絶賛ハーレム野郎と知った時には――震えるほどの殺意を覚えた。
てめぇ、何良いとこばっかり持ってってんだおぉん? 俺の境遇分かってんのかあ~ん? と、会えば恫喝してしまいそうな勢いだった。
だがしかし、いきなり女神様はハードルが高過ぎるよ……
こんな、文字通り 人(・) 間(・) 離(・) れ(・) し(・) た(・) 子(・) をどうすればいいんだよ……
「リア様? 見て分かる通り、この部屋はベッドが一つしかありません」
「私は寝る必要無いから大丈夫」
「ね、寝なかったら夜中どうしてるんですか……」
「座ってロキが起きるの待ってる」
ズッキューーーーーーン!!!!
……って違うわ!
そんなことになったら俺のプライベートなんて欠片も無いだろうが!!
「それ、もう俺の監視とかわりませんよね……」
「……そうとも言う」
それを聞いて俺の身体が自然と流れた。
過去に数度やらかし、お客さんの前で披露せざるを得なかった土下座だ。
「勘弁してください!!!」
「?」
「勘違いしないでくださいよ! 俺は悪さをするつもりはありません! 日々セコセコと懸命に生きているだけです! だからやましいことなどございませんが! それでも! それでもプライベートの時間というのは大事なんです! 俺も男なんで――夜、寝る前あたりは特にっ!」
「よく分からないけど大丈夫だよ?」
「大丈夫なわけあるかぁぁぁい!」
マズいマズいマズい……
絶対こちらの事情を理解してないリア様に、もっと効果的な説得方法はないものだろうか。
他の女神様に効きそうな手はあるんだが、果たしてリア様に効くかどうかが分からない。
でもこの窮地を脱するには試してみるしか――
「リア様。リア様は人間から見てどのように映っているか自覚はありますか? 世界一と言っていいくらいに可愛い少女なんですよ。地球でも比類する存在なんて見たことがないくらいに。そんな子がずっと近くにいたら俺はどうなると思います? 色々な意味で死んでしまいそうになるんですよ。俺だって将来結婚して子供ができたらくらいのささやかな夢はあるんです。俺を……目の肥え過ぎた贅沢者にしないでいただきたい」
言い終わった後、ジッとリア様を見つめると――
「わ、分かった、考える……」
やった! 通じた! 通じたぞぉー!!
嘘の要素はまったく無い。
かなり本音であるから、思考を読まれたところで問題は無い。
しかし……僅かに顔を赤らめて下を向いている姿も尊過ぎるな。
そう思えば、ずっと一緒にいてくれるとか、それ実は凄く幸せなんじゃ?と、別の願望が隙間から漏れ出てしまうのであった。