軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

544話 暗霧

威力を考えれば、結界もそこまで長くは保てないだろうと思っていた。

だがものの10秒足らずで剥がされ、全方位から凄まじい速度で飛来してくる紫の水流や黒い霧の槍にただただ耐える。

『……聖霊よ、生み出せ、 大地(アース) 』

今は、回復を挟む余裕もない。

血なのか、それとも胃の内容物なのか。

痛みと吐き気から込み上げてくる何かを強引に飲み込み、ひたすら詠唱を唱え続ける。

幸いここは一面が赤茶けた荒野だ。

これだけ土属性の【聖霊魔法】を連発しようと、聖霊の反応が弱まることはなかった。

『聖霊よ、生み出せ、 大地(アース) !』

お陰で、だいぶ攻撃の手が緩んできている。

あと、ちょっと。

ちょっとなんだ。

上空に漂い、好き勝手に暴れてくれたあの黒い霧を地に叩き墜とす。

多くが次々と落ちてくる分厚い大地に逃げ場を塞がれ、土に埋もれたまま身動きがとれなくなっている頃だろう。

『聖霊よ、生み出せ、 大地(アース) ……!』

ついでに意味のありそうなあの黒い球体も、そのまま圧し潰す。

そのつもりで、盲目であろうとなぜか見えるステータス画面から魔力残量を確認しつつ、ただひらすら巨大な大地を落としていく。

すると、30発くらいは唱えただろうか。

ようやく俺への攻撃が完全に止まり、思わず顔を上げる。

――【神聖魔法】――『治癒』

「ああ、いってぇ……」

腹や背中がこの程度じゃまったく治りきっていないことを把握しつつ周囲を見回すと、黒い霧は掻き消えたようにまったく存在していない。

下はかなりの広域が土石に塗れ、盛り上がった大地は土砂災害があった後の山のような、丘とも呼べない荒れた地形を広域に作り出していた。

だが、一切ログが流れていないのだ。

有象無象の魔物ならまだしも、相手は裏ボス。

ならば間違いなく、これでは倒せていない。

そう判断し、半分以下まで減少した魔力を少しでも回復すべく、予め用意していた魔力回復ポーションをガブ飲みしながら眼下を眺めていると、視界の片隅で、ボン、と。

僅かな爆発音を響かせ、地面の一部が吹き上がったように上空へ土を吐く。

そして這い出るように現れたのは……ようやくお出ましたか。

トカゲのような形状に近いが、真っ先に思い浮かんだのは"クリーチャー"という言葉で、全身黒いその姿は地を這い、歩きながら脚の数を増やしたり背中の一部から触角が生えたりと。

周囲から滲み出る黒い霧を吸い上げ、再び僅かに宙を浮く、1メートルほどの球体形状に変化しようとしていた。

だから咄嗟に目の前まで躍り出て、その動きを阻害する。

「させるか!」

【剣術】スキルも使用した、上段からの振り下ろし。

案の定、変化の途中にあった黒い塊は霧と化し、俺の身体を覆うように攻撃してくる。

防ぎようもなく、再び盲目のデバフを受けて黒ずむ視界。

だが、それでも確かに見えた。

なりかけの球体が黒い霧となって舞う中で、その中心部には一際黒い、こぶし大ほどの球体が存在していた。

あれは魔宝石そのものではない。

唯一霧に変化しなかった、魔宝石よりもう一回り大きな何か。

となれば、まず間違いなく魔宝石を覆う最後の防御機能であろうことは想像がつく。

ようやく見えてきた、この魔物の倒し方。

中心のアレを破壊すれば、きっとコイツに勝てる。

ならばもう、ここから絶対に逃がしはしない。

「ハッ!!」

今度は外さない。

そのつもりで、再び隠されようとしていた中心の核に狙いを定めて斬りつける。

ガキン!

しかし、激しい音を響かせながら僅かに俺の剣筋は横へ逸れてしまった。

球体に弾かれたというよりは、その手前……

となると、これはもう間違いない。

先ほど魔法を打ち込んだ時と同じ違和感を覚えて確信する。

「おまえも【結界魔法】持ちか!」

しかし、相手の手札をまた一つ暴いたからと言って、必ずしも討伐の難易度が下がるわけではなかった。

その後も数度、結界などお構いなしに攻撃を加えるも。

「ふ、ふざけ……硬過ぎるだろうが!?」

その硬さに、剣を振り下ろしながらも思わず吠える。

まったくダメージが通っていないわけではないのだ。

ガラスが砕かれたような煌めく何かが飛び散っているのだから、攻撃を加えるたびに結界を破壊していることは分かる。

だが、あまりにも再生の速度が速い。

砕いた傍から掛け直され、そうこうしているうちに盲目の進度が深くなっていき、俺から距離を置こうとする黒い霧を見失いそうになる。

――【神聖魔法】――『治癒』

「ふっ……はぁ……」

手は――緩められない。

欲を言えば『収納』からもう1本、破天の杖とは違う斬撃性能の高い武器を取り出したいが、そのためには【空間魔法】特有の動作停止が必ず必要になる。

ここで5秒近くも動きは止められない。

止めれば距離を取られ、防戦一方の現状から攻勢に転じられる可能性も出てくる。

ならば……一瞬、オリハルコンの剣を持つ右手を左手首に添え、解除をしてから手首を捻り、左手を大きく振り被る。

――ガキンッ!

すると飛び出る、爪を想定した隠し武器。

本来は対人用、今までも暗殺者のクロイス相手にしか使用したことはなかったが、緊急時となればそうもいっていられない。

暗器とオリハルコンの長剣による二刀流。

異常に再生が速いのなら、その速度を上回る勢いで攻撃を加えて破壊する。

――【時魔法】――『自己加速、セカンド』

「うらァッ!!」

さらにギアを上げて連撃を加えるも、息は上がり、気を抜けば足がもつれそうになる。

既に【闘気術】との併用だ。

魔力、体力ともに消耗が激しい。

だが、ガリッと。

今までは違う感触を手に感じるのだから、もう少し。

あと少しで、破壊できる。

そう思っていたところ、突然黒い霧が逃げ惑うように退いていたその動きをピタリと止めた。

と、同時に突如繰り出される、前方からの刺突。

棘のように伸びた無数の針が、俺の腹に突き刺さってからも怪しく蠢く。

「ふぐっ、はは……ッ!」

この魔物……気化して俺を盲目にしたところで逃げられないと悟って、玉砕覚悟の攻勢に転じてきやがったのか!

「これが裏ボス……なんて倒し甲斐のある――ッ!? 【硬質化】――、ッぁあああッッ!!」

咄嗟に頭を下げながらスキルを唱えると、直後には俺の背中や頭部目掛けて、黒い霧の槍や紫の水流が飛んでくる。

やはり【硬質化】では魔法属性に分類される攻撃の威力は減衰できないらしく、前と後ろからの強烈な痛みに血反吐を吐きながらも、なぜか顔は笑ってしまう。

「さっきみたいに不意打ちかましたつもりだろうが、おまえ【隠蔽】はレベル9だろ……! レベル10の【気配察知】だけは通ってるんだよ……!」

それに結界はそこまで万能なモノではない。

自分から攻撃を仕掛けるということは、自らの結界で阻まれないように解除したということ。

より攻撃が通りやすくなったこの場面で、背後を気に掛ける余裕はない。

――【炎獄柱】――【白火】――

――【土魔法】――『大量の、砂』――【砂嵐】――【砂硬燐】――

ならば【魔力纏術】によって纏わせた魔力を全て背後に回し、壁のように厚みを持たせて盾とする。

加えて周囲に展開しておけば攻撃の一部を消滅してくれそうな【炎獄柱】と、周囲の黒い霧を妨害してくれるであろう【砂嵐】を。

そして無理やり生み出した砂の一部を自動防御に回しておけば、多少は流水や黒い槍の攻撃も緩和してくれるはずだ。

代わりにここからは、致命傷となる顔と胸だけを死守して他の防御は捨てる。

そのつもりで足を止め、次々と腹に突き刺さる黒い霧の槍に意識を飛ばしそうになりながら、それでも両手の武器で黒い霧を強く斬りつける。

――【時魔法】――『自己加速、サード』

求められるのは速度。

どちらが先にくたばるか、正真正銘の削り合いだ。

固体化したところで、金属のような硬さがあるわけではない。

普通の魔物よりかは遥かに硬い――その程度であれば、斬りつけることで黒い霧は少しずつ削られていく。

ポトポトと落ちる、固体化した黒い霧の一部。

本当なら落ちた傍から気化し、また身体の一部にでもしたいのだろうが……

足元から魔力を這わせて作動させた【土操術】が、すぐに破片の一部を飲みこみ地中奥深くへ引きずり込む。

だが、それでも。

「くそ……! まだ、吸収して……」

先ほど大地を落とした時に閉じ込めた多くの黒い霧。

それらが各所から少しずつ漏れ出ていることは分かっていたが、今この状況でも、コイツは地表に漂うそれらを吸収している。

肉を断つように斬り落とし、なおかつ破片を地中に埋めても少しずつ再生して元に戻っていくのだから、そう判断するしかなかった。

つまり、まだ速度が足りない。

この程度じゃまだ、足りていないのだ。

――【時魔法】――『自己加速、フォース』

だからもう、ステータス画面を確認する余裕がなく、魔力残量が不明のままでも、さらにギアを引き上げるしかなかった。

【時魔法】の魔力消費は10秒単位。

消費魔力はこれでまた、大きく上がる。

喉が――、身体が乾いたような、魔力を急激に失った時のあの独特の感覚に襲われるも、それでも止まれない。

止まればたぶん、俺は死ぬ。

それが分かっていたから、一太刀でも多く斬りつけ、黒い霧を削ぎ落とし、中心部の球体を曝け出すしかなかった。

あと、少し……もう少しで……

――【時魔法】――『自己加速、フィフス』

「ふぐっ……」

身体中から湯気が吹き上がるような感覚と、意識が飛びかけるような、強烈な痛みが同時に襲う。

一瞬だけ蘇る、過去の嫌な記憶。

腹に刺さったまま蠢いていた黒い霧の刺突が、俺の背中まで突き抜ける。

ふざけんな、あとちょっとなんだ。

再生していく速度よりも削る速度が上回り、俺の腹に穴が開くたび、黒い霧も少しずつ小さく、細くなっている。

あとは間に合うかどうか。

違う……そうじゃないだろう。

ここまで来たんだ。

あと少しのところまできたんだ。

だったら意地でも間に合わせろよ……!

「ガアァアアアアアアアアッッ!!」

今まで致命傷だけは避けようと、多くをガードに回していた左手。

その手も防御を捨て、全て、攻撃に回す。

すぐに伸びてくる黒い霧の刺突は鎧を突き抜け胸に食い込むが、腹があれだけ粘ったのだ。

それにミノタウロスから得た【底力】というスキルなら、死の瀬戸際であるほど俺の防御力と魔法防御力は上がるのだから、そう簡単には貫通しない。

あまりにも危険な攻撃の時だけは【硬質化】で耐え、魔力枯渇との瀬戸際の中でも無心で両手を振るう。

そして――再び視界に入る、中心の 核(コア) 。

見つけた途端にスキルを叫びながら、俺はその横っ腹を抉るように、飛び出た暗器の刃ごと左腕を突き刺していた。

――【体術】――『剛力』――【爪術】――『貫手』――【硬質化】――

すると、崩れ始めた黒い核の中で、丸みを帯びた感触が手に触れる。

ようやく――本当に、ようやくだ。

そんな思いで掴みながら左手を引き抜くと、内部が紫色をした、今までよりも一回り大きい気がする魔宝石が。

そしてその姿を拝んだのと同時に、残された黒い霧も、それこそ本当の霧のように溶けて消えていった。

――【魂装】――

『レベルが68に上昇しました』

『レベルが69に上昇しました』

『レベルが70に上昇しました』

『レベルが71に上昇しました』

『レベルが72に上昇しました』

『レベルが73に上昇しました』

『レベルが74に上昇しました』

『【省略詠唱】Lv9を取得しました』

『【紫水】Lv1を取得しました』

『【紫水】Lv2を取得しました』

『【紫水】Lv3を取得しました』

『【紫水】Lv4を取得しました』

『【紫水】Lv5を取得しました』

『【紫水】Lv6を取得しました』

『【紫水】Lv7を取得しました』

『【魔力感知】Lv10を取得しました』

『【結界魔法】Lv7を取得しました』

『【昇華】Lv1を取得しました』

『【昇華】Lv2を取得しました』

『【昇華】Lv3を取得しました』

『【昇華】Lv4を取得しました』

『【昇華】Lv5を取得しました』

『【昇華】Lv6を取得しました』

『【昇華】Lv7を取得しました』

『【昇華】Lv8を取得しました』

『【昇華】Lv9を取得しました』

『【穢れた霧】Lv1を取得しました』

『【穢れた霧】Lv2を取得しました』

『【穢れた霧】Lv3を取得しました』

『【穢れた霧】Lv4を取得しました』

『称号:《 暗霧(ダークミスト) を討てし者》を獲得しました』