軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

535話 トロッコ発車実験

案内されて建物の裏手に回ると、積み込みのし易さを優先したのだろう。

背は低いけど幅と長さがある、荷車をだいぶ巨大化したようなトロッコが、俺が絵付きで伝えた30メートルくらいのレールの上で待機していた。

背後にはこの大砲のような魔道具を備え付ける箇所が備わっており、稼働実験も兼ねているからかな?

トロッコには木材がこんもりと載せられているので、既に準備万端といった様子だ。

「では早速、取り付けてきますので」

「お願いします。結構大きいけど、ちゃんと動いてくれるかな」

「上手くいけばトロッコを連結させて、2番、3番目に送風魔道具を設置するって案も出てるんすよ。なのでまずはこの1台でどれほど動いてくれるのか、ここからが見物っすね」

そして準備万端はこちらだけじゃないらしい。

横には包まるようにローブを羽織った女性が、不敵な笑みを浮かべながらこちらに視線を向けていた。

「遅かったじゃないロキ君、待ちくたびれちゃったわよ」

「あ、いやーすみません……ベザートの今後に大きな影響を及ぼす重大な話になりまして……」

言いながらも、嫌な予感をひしひしと感じ、口がいつものように回らない。

明らかに、肌を見せまいと隠そうとしているのだ。

アマンダさんがこれから何をしようとしているのかは察しがつくし、ジュジュさんともう一人。

助手の立場であろう女性が足元の丸い台座を押さえ、その上に堂々たる様子でアマンダさんが立っているわけで……

こんなの、まるでお立ち台。

この気合の入れように、想像を遥かに超える水着だったら俺の目はどうなってしまうのかと、今から視線を肩越しに漂う雲にでも合わせておくべきか悩んでしまう。

「いつまでもこの格好じゃ肌寒いし、あちらの取り付け準備をやっている間に私の方からお披露目しましょうか」

「ゴクッ……」

クアドだろう。

横で、唾を飲み込む音が聞こえる。

異様な緊張感に包まれる中、バッとアマンダさんはローブを宙に放り――

「お、おぉ……?」

――その下に隠された姿が曝け出す。

何かあれば、直接アマンダさんに遮蔽結界でもぶち込んでやろうかと思っていたけど、これは……

「あれ。なんか、普通に良いじゃないですか」

拍子抜けしたというか、なんというか。

アマンダさんは地球でよく見る、ビキニタイプの水着を着ていた。

かなり際どいデザインだし、両手を自分の後頭部に回して、こちらへ見せつけるようなボージングをしていることにはちょっとイラッとくるけど、悔しいかな。

なかなかスタイルがいいので似合ってしまっている。

「でしょう? 一番の自信作よ。ラグリースからスネークバイトの革を取り寄せて作ってみたの」

ポーズを変え、大して主張していない乳を寄せながら答えるアマンダさん。

「いくつか案を出したのは僕ですけど、よく想像通りというか、上手く形にできましたね」

この世界にブラジャーがあればなんてことはないのかもしれないけど、今まで悪党の私物や売り物を押収してきても、ネグリジェみたいなモノばかりで見たことがなかったのだ。

だからこそ奇想天外な水着が生み出されるのではと警戒もしていたが……

「ふふ、噂になっている凄腕の服飾師にだって相談したんだもの。ロキ君もノアって女性、知ってるでしょ?」

「あ~そういうこと」

この言葉を聞いて深く頷く。

ノアさんが監修しているんならこの完成度も理解できるし、安心して見ていられるわ。

……そう思っていたが。

「ふぐっ」

普段聞かないような声が横から漏れ、思わず視線を向けるも犯人はどう見たってクアドしかいない。

プニプニした気持ちよさそうな両手で口元を覆い、アマンダさんの水着姿をガン見していた。

尻尾が凄まじい勢いで回転しているので、これは嬉しいとかプラスの感情なんだろうな、たぶん。

そして――、

ガコッ。

トロッコの方からも、変な音が聞こえる。

目を向けると、鼻血を垂らしたクレイブさんがよろめきながら、それでもなおアマンダさんを食い入るように見つめていた。

というか、手にかけているそのレバーの向き、マズくない?

そう思った時にはもう遅く、大砲のような吹き出し口から勢い良く突風が噴出される。

いやいや、近くにアマンダさん達がいるんだけど。

「あばばばばばばっ!」

「ひぎぃいいいいい!!」

「と、飛ばされるぅー!!」

台座を支えながら地を這うように身を屈め、飛ばされまいと必死に耐える助手の二人。

そしてアマンダさんは――なんだ、これは。

腰を入れ、突風を一身に浴びながらもまだ台座の上で耐えていた。

そこら辺の葉っぱや小枝に襲われ、髪の毛は空へ昇るように舞い、歯が剥き出しになるくらい顔がアバアバしているが、それでも震えながらポージングを維持しようとしている気合はいったいどこから来るのか。

それになぜか、ここに来てお立ち台が回転し始めたことで、余すことなくアマンダさんの半裸を全方位から見せつけられる。

(くっそ……くだらないもん開発してやがる……)

だが、アマンダさんは耐えても、近くの小屋が耐えられなかったらしい。

バキバキと、勢いよく壁の木板が剥がれだし――

「あ」

「あばぁあッ!!」

何枚かがアマンダさん達に直撃。

3人の身体やお立ち台と一緒に、胸を覆っていた水着までヒラヒラと宙を舞った。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「これはちょっと無しですね……」

そう言った俺に、身体中に擦り傷を作った新奇開発所の3人とクアド、それにクレイブさんも悔しそうに頷く。

トロッコは確かに進んだ。

だが動きは非常にゆったりとしたもので、2個3個と連結しようものなら、今の出力ではまともに機能しないことはすぐに予想できてしまった。

それに1台動かすだけでも周囲の被害が大きく、今回は小屋が破損し、直撃しないような場所に置いていた荷物や木製テーブルなどもどこかへ吹き飛んでしまっている。

こんなのをバックヤードで使おうものなら、他の商品を破壊しながら進んでいく未来しか見えてこない。

「筒をもう少し上方に向けて出力調整を図るなど、改良の余地はあるかと思いますが……」

「結局、この『馬』が凄過ぎるのよねぇ」

「ブヒーン!」

「この鉄の棒が敷いてあるとだいぶ楽なんだろうな。まだ全然余裕だってよ」

レールがあるならこれはどうかと、ベッグさんを呼んで試しに赤馬で牽かせてみたら、それはもう皆が唖然とするくらいスイスイと運んでしまったのだ。

半日くらい平気で動くようだし、どう考えてもこちらの方が平和で現実的。

バックヤードと売り場を繋ぐクアド商会の中と、あとは中央区と東区の農地を繋ぐレールを使った大型の運搬方法は、もうこれで決定しちゃってもいいだろう。

そうなると、この大砲みたいな魔道具はどうするんだって話になるが。

「まぁ失敗して気付くこともありますし、これはこれで活用方法が他にありそうですしね」

「そうなの?」

「この辺りなんて風で飛ばされて凄い綺麗になっちゃいましたし、もう少し威力を弱めた魔道具に車輪付けたら落ち葉の集積とか町の掃除には役立つと思うんですよ。あとはこの強い風力を活かすってなったら――、やっぱり風車かな」

言いながら皆の顔を眺めると、反応示したのはクレイブさん一人だけ。

「あの風でクルクルと羽が回るやつですか」

「ですです」

「羽が回るって、いったい何に使うの? っていうか、それはロキ君の世界だけじゃなく、ここにもあるものなの?」

「今のところテリア公国でしか見かけていませんけど、この世界にも間違いなくあるものですね。風で回る羽を動力に換えて、単調な動きを繰り返す装置って言えばわかりやすいですか? 風があればずっと回転させることができるので、粉挽きとか絞り油、大量の果実を絞ったりもできるでしょうし、あとは伝わるか分かりませんけど遠心分離機としてハチミツを抽出したりもできるはずですね」

他にもできることは多いのだろうけど、なんとなくのイメージだけで詳しいことまでは分からないしな……

あとは延々木の棒でペシペシと叩くこともできるはずだから、洗い物を置いて洗濯機の代わりくらいにはなるかもしれないか。

うーん洗濯屋……ついでにクルクル回して乾燥させちゃうコインランドリーもこの世界なら仕事になるか……

「作れさえすれば、いろいろと応用が利きそうっすよね」

「確かに……人のいない所ならさっきの魔道具を使っても支障はないわけだし、今度奥の空き地で試してみようかしら。その時はクレイブ、あなた風車を知っているみたいだし協力してくれない?」

「も、もちろんですよ! 私にできることなら喜んで!」

「……」

あ、あらら?

まさかここで、いかにも真面目そうなクレイブさんとアマンダさんがくっついたりするのだろうか……?

いや、いいけど。

全然いいんだけど。

しかし、可能性が高いかなと思っていたら、やっぱりそうか。

顔を赤くしながらやる気になっているクレイブさんを見て、たぶんこの人はテリア公国から逃げてきた人なんだろうなと。

そんなことを思いながら、ベザートのトロッコ運搬計画にGOサインを出し、俺はヤーゴフさんの所へ向かった。