作品タイトル不明
530話 10年ぶり
疲れた様子で階段付近に戻ってきた3人を、手だけ動かしながら出迎える。
「お疲れ様~」
「はぁ……はぁ……ちょっと、なんでロキも魔物狩ってるの! ちゃんと見ててくれた!?」
「もちろん、ずっと見てたよ。【火魔法】以外にもだいぶ手数が増えてたし、近接戦もこなすなんて凄いじゃん。1回吹っ飛ばされてたけど」
「でっしょ~!」
ビヨーンと鼻が伸びたように見えるエニーの背後には、床へ倒れたまま動かない多くの死体。
結局一度も手を貸すことなく、3人は40体近くの魔物を倒してきた。
後半になるほど役割がはっきりとし、俺が一人で狩り始めてしまうくらい安定した戦いを繰り広げていたのだから、これなら今後もまず問題はなさそうに思える。
まぁ、短時間であれば、だが。
「ただエニーは魔力の自然回復に頼り過ぎだから、場面に合わせて消費を上手くコントロールしていかないと、今みたいにすぐ魔力が枯渇してバテるよ?」
「うぅ……それいつも師匠に言われるやつ~」
「実戦となればより実感もできたであろう。まだまだ無駄が多く、調整と選択が甘い。増えてきた手札を今度はどのようにして活かすか、それが次なる課題だ」
横でゼオが渋い表情のまま言うも、あとは場数と慣れ次第だろう。
そう考えるとここは3階層――いや、城内部に拘らなければ城下町と草原の5階層から選べるのだし、場面に応じた手札の取捨選択を養うならいい修業の場にもなるはずだ。
そしてそれは、横で同じように息を切らしているカルラにも同じことが言えるのかな?
あまり体力がないようなイメージは持っていなかったけど、考えてみればカルラが戦う場面など拠点周辺の極僅かな時間だけで、ほとんど見ることもなかったしなぁ。
「大丈夫? 顔色がいつもよりさらに悪いけど、少し血、飲んどく?」
「あ……欲しい、ちょうだい~」
そう言っていきなり俺の人差し指を咥えるカルラ。
これがそこらのおっさんなら、喉の奥を連打突きしているところだが……
不思議とカルラの場合は嫌な気分にならないので放っておくとしよう。
今はそれより、謎解きの答えを早く知りたいしな。
「で、ゼオのやってたやつってなんだったの?」
「む?」
「あの撫でると魔物がバッサリ斬れていくやつ。魔法じゃないと思うんだけど」
ゼオは俺もまだ所持していない【無詠唱】持ち。
だから最初は言葉にしないまま【風魔法】でも使っているのかと思ったが、何度見ても魔力をそのタイミングで放出している様子がない。
それに勘違いでなければ、代わりに黒い糸というか、『線』のようなモノが時折動いていた気もするのだが……
ずっと気になって眺めていた疑問の答え。
それをゼオは、大したことはないと言わんばかりにあっさり教えてくれる。
「あれも【魔力纏術】だ」
「んん?」
「魔力消費を抑えて戦うとなると、これが最も有効だったのでな」
言いながら、ゼオは手の甲をこちらに向ける。
すると纏わりついていた魔力が指先に集まり、そのまま2本の線が上空へ伸びていく。
長さで言えば1メートル程度。
だが針金――というよりシャープペンシルの芯に近いソレは、あまりに細く、薄く、そして形成までが異常とも思えるくらいに速い。
直感的に、これをまともに食らえば俺も死ぬやつなんじゃないかなと、そう感じてしまうくらい目の前の技能が恐ろしく映ってしまった。
こっそり試してみても、あの速度で形成なんてまったく無理だし、あれほどの切れ味を残すなんてイメージもまったく湧かない。
「2本……だから切り口が1つだったり2つだったりしていたのか」
「うむ。あの太さの首や脚を落とすとなると、今の我では2本が限界であったが、誰も死なせずに倒す程度であれば問題なかろう」
「あぁ、そこも試していたわけね。ははっ、ははは……衰えたなんて言うけど、やっぱり凄いよ」
「何を言うか。持ち帰る素材分の魔力を残したというのもあるが、可能な限り消費を抑えたところで、この程度の時間しか満足に戦えぬのだぞ? 昔の我が見たら、情けなくて涙を零すであろうな」
「……」
今だから2本ということは、かつてはさらに多くの数を生み出し、左右の手を凶器に変えて暴れまわっていたかもしれないのだ。
魔力が少なく、かつ回復手段が限られているという理由から、消費の激しい魔法系統に制限を掛けてもなおこの強さか。
【体術】も明らかにできる人の動きだったし、本当にゼオの全盛期はどれほどの強さだったんだろうな……
そして受ける強さの印象と実際の強さの違いから、兼ねてよりその可能性が高いと思っていた【洞察】は、やはり基礎ステータス値の影響を強く受けていることは間違いないだろう。
ゼオのように能力を存分に引き出せるほど練度が高いと、想定以上に強いこともある。
どこぞの剣を扱う爺さんでも感じたことだし、癖のように使ってしまっている【洞察】は過信しないよう注意しておかないと、いざという場面で足を掬われそうだ。
そんなことを考えながらゼオの収納量を確認。
最後にマーキング目的で一通りの階層や草原エリアなどを巡りつつ、『城の地下だけは 匂(・) う(・) か(・) ら(・) 闇雲に探索しないように』と忠告をして、俺達は拠点に帰還した。
そしてその日の夜に、ひとまずリコさん、ノアさん、ベッグと順々に壮絶な悲鳴を聞きながら仕上げのパワレベをしたあと。
拠点に溜まった素材が消化しきれていないため、少しでも小さい魔物を狩ろうと、地下のBランク帯で怪しい箇所を探りながらスキル経験値を稼いでいたところ――
「……っし、やっときたか」
念願の1つ目。
拠点に1つだけある薄水色の鉱石が、ガーゴイルの腹に付着していることを確認する。
魔物がさほど大きくないため、鉱石の量も小粒だ。
それこそ、その辺に転がる小石程度しかないが……
それでも、予想していた通りにここで得られた。
この事実は凄まじく大きい。
「数は――1500か2000匹に1つくらいか?」
ざっくりではあるけど、今のところ2日に1つドロップするかどうか。
それでも確率的にこのくらいのペースで落ちてくれるならば十分。
外に流すことを考えなければ、確実に必要量は調達できる。
それに3人もゼオの魔力量次第ではあるが、修行の一環として2日1度くらいは階層を変えつつ挑むと言っていたのだ。
オリハルコンはSランクの上層だけという縛りもないことが分かったので、長期で見ればそちらからの素材にも期待がもてるだろう。
日中は極力マッピングに充てて、夜は全力狩りでレベルとスキル経験値と、オリハルコンを回収して……
「いやーこれは始まったな、本格的に」
本だって読みたいし、やりたいことが多過ぎて、まったく時間が足らない。
となるともう、これは10年ぶりくらいの本気を出すしかないなと。
一人そんなことを呟きつつ、再び魔物の乱獲を開始した。