軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

525話 物欲センサー

「それじゃこの子をお任せしますので、ちゃんと皆さんで大事に飼ってくださいよ。アースガルドの場所は先ほどお伝えした通りですから」

「ニャー」

「し、承知しました。鳥使いは可能な限り早めに向かわせますので」

上手く見通しの立った部分と、立たない部分と。

なんでも都合良くいくわけがないし、こんなものだろうと思いながらテリア西端の交易都市『ウバル』を後にする。

結局パルモ砂国の方は、よくよく将軍達の話を聞く中で確かにと思う部分もあり、軍のトップを情報源とする作戦は一旦様子見というか、とりあえず今は止めておこうという結論に至った。

理由は状況の違いだ。

テリア公国にもアルバートからの支援はある。

しかし強みであった主要産業がマリーに奪われ、今となっては家畜さながら餌を与えられ、人という資源を生み出し供給する国でしかないと。

自嘲気味に将軍は話し、俺は俺でパルモ砂国の事情を把握しているからこそ、安易にその言葉を否定することもできなかった。

広大なヘルデザートを抱えるパルモ砂国は今現在も魔道具であり、武具であり、掘り起こすことで古代の資源を生み出し続けている。

現代では手に入れることが不可能なほどの一品はそう滅多に出ないだろうけど、並みの武具であろうと戦争が頻発している西へ流せば金に。

魔道具だってたぶん、相当な数が掘り起こされているからスチア連邦にばら撒き、別の足掛かりとして利用しているのだろう。

直接言葉にはしなかったが、国としての重要度――利用価値で言えば、パルモ砂国の方が圧倒的に上。

支援は間違いなくパルモの方が手厚く、テリアのようにマリーを恨んでいない可能性があると言われてしまうと、こちらも慎重にならざるを得なかった。

下手に接触することで情報が洩れ、せっかく懐柔できたテリア軍部との関係までマリーに破壊される可能性があるわけだしね。

まぁそれでも、クソババア連呼の罵倒大会をしてくれたお陰で方向性が定まり、そのまま1ヵ所はアンテナ役として成功したのだ。

先ほど、町中で拾ってきた野良の子猫を1匹託してきたので、何かあれば【魔物使役】で管理されたテリア用の猫が俺の視界を青く光らせ、緊急の用件があった場合は知らせてくれるだろう。

なぜ魔物使役にGランクの枠として、普通の動物までコスト『1』で組み込めるのか。

あの厳ついおっさん達が育てるのかと思うとちょっと笑えてくるけど、ようやくその意味と有用性を理解できた気がする。

そして、その日の夜。

パルモ側の状況が気になり、ガルムの南東部に広がるとパルモとの国境付近を上空から偵察したり。

テリアとは違って守備用の戦力が送られている可能性もあるというから、パルモ砂国の王都『シュノイ』の傭兵数を少し確認してみたりして。

他にもアルバート側から軍が入ってきているか、国境付近にいくつも存在する町の様子など、気が付けば転移を繰り返して移動していたため、いつも以上に意識から抜け落ちていたんだと思う。

「あ」

なんとなしに入った、その日の1回目。

気付けば俺は、絵画の飾られた赤い壁が目立つ、ロビーのような部屋の中心に立っていた。

まったく身に覚えのない場所。

一瞬、状況が呑み込めずに固まるも、次第に何が起きたのかを理解し、同時に身体の底がグツグツと煮え滾ったように熱くなる。

「は、ははっ……やっと……やっとか……!」

都合、288回目。

意識から完全に抜け落ちた時に限ってくるとは……

どうやらこの世界にも、物欲センサーなるものはあるらしい。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「マリー様、よろしいですか?」

「ったく、何度も何度も……今度はなんだい!」

扉越しに聞こえる、明らかに不機嫌と分かる声。

若執事シェムは、最近このような状況が増えてきていることに言い知れぬ不安と、強い胃の痛みを感じつつも言葉を返す。

「国からです。例の副学長がその後の状況を報告してきたようで……」

「ああ? 今更アレが?」

「はい。ただ内容からすると、今回は良いご報告になるかと」

そう、今回は朗報なのだ。

きっとこれで、マリー様の機嫌も良くなるはず。

そう思いながら通された部屋で書類を渡すと、露骨に苛立っていたマリーの表情は、見慣れた狡猾な笑みへとみるみる変化していった。

「へえ、あの小僧……これ以上の被害を避けるために自ら手を引いたのか」

「そのようですね。このまま学院に通えばまた大きな被害が生まれるかもしれないと、退学を願い出たようです」

「ふふふ、こいつは傑作だ。とんだお人好し……本当に物語の勇者様でも目指してんのか、この阿呆は」

周囲を巻き込み、その犯人に仕立て上げることで救った者達から忌み嫌われ、ガルムを含めた大陸からの居場所を無くしてやる。

下らない正義感を振りかざすようなやつにはそれが一番効くだろうと、そう分かっていたにも拘らず、一度は助力を断ったはずのハンスまで介入してきたことで全てが水の泡に。

結果、噂の種は各所に仕込んだものの、被害がそこまで拡大しなかったのだから大した影響は見込めず、時間と金を掛け、もう少しで得られる予定だったガルムの全てを取りこぼすはめになったマリーは、一人損を被ったことで酷く荒れていたわけだが……

自身の被害が拡大したからではなく、これ以上他人の被害を拡大させないために目的を捨てて去るなどという、マリーからすれば微塵にも理解できない思考をしてくれたお陰で、情報を与えないという当初の狙いが形となったことに驚きを隠せないでいた。

「しかし、このような判断をしたということは、マリー様が狙いをガルムから異世界人ロキに切り替えたことにも気付いたということですよね? 向こうからすれば目的を阻まれたわけですし、今後の動きが少々心配ではありますが……」

「ふん、目的を阻まれたなんてお互い様さ。こっちにちょっかいかけてきてんだから、疎ましく思われている自覚くらいはあるだろうよ。それにあのハンスが今回動いたのだって、警戒を強めたあの男なりの意思表示と当てつけだろう」

「まさかこれほど早い段階で、一部とは言え動きを悟られるとは思いもしませんでしたからね」

一部の代表種族から、ハンスに乗り込まれて危うく殺されかけたと、ある種クレームに近い報告が入っていた。

そのせいで中断せざるを得なくなった計画もあり、スチアが上手くいっていないこともマリーの機嫌を大きく損ねる要因になっていたわけだが、これで少しは機嫌も持ち直しただろうと。

若執事シェムはホッと胸を撫でおろしながらマリーに視線を送ると、そのマリーは先ほどと違い、訝し気な視線で手紙の後半に目を向けていた。

「何か、問題でもありましたか?」

「いや……」

そう否定はするも、やはり表情は変わらず、視線も手紙を見つめたまま。

緩く自らの顎を摩り、何か綻びを見つけて思考に耽っているようにも思える。

「マリー様……?」

「なぜニトイは、今更私に連絡を寄こしてきた」

「え?」

「親マリー派と呼ばせた反乱軍は敗れ、目的を変えたことで学院諸共ニトイを切り捨てようとしたのだから、今更報告する義理はないはずだが」

対して若執事シェムは、特に悩むことなく答えを返す。

「マリー様に見切りをつけられたことなど、まだ知らないのでは? そのためにも噂を流し、異世界人ロキを首謀者に仕立て上げようとしたわけですから」

「確かに、それはそうだが……」

言いながらもゴソゴソと、マリーは引き出しから数枚の羊皮紙を取り出し、机に並べる。

「筆跡は全て同じか。シェム、潜らせている他からの連絡は?」

「いえ。ガルム王家が各国に通達したとみられる知らせが届いたばかりですから、まだ広く情報は回っていないと思いますし、これ見よがしに記されたあの言葉が事実なのかもしれません」

「……」

二人の視線は、改めてガルム王家から届いた手紙に向く。

アルバート王国宛てに届いた手紙には、ハンスとロキという二人の異世界人から大きな助力を得て、内部に紛れた虫は一掃し、内紛は解決に至ったこと。

そのため学院は安全であることをアピールするような内容が書かれていた。

正面から刺激することを避けてか、マリーの行ないを糾弾するような事柄は書かれていない。

「内部ねぇ……おまえに任せた『保険』はどうなっている?」

「学院の管理を任されている役人から一人、ニトイと異世界人ロキの動向を報告させる目的で用意していたのですが、連絡が……」

「チッ、だからおまえは顔と体だけって言われるんだ。普通は警戒心が薄まる女生徒にでもやらせるべきだろうが!」

「えぇっ!? 頭が回る連中の方がいいかと思って……お、お許しを……!」

「はぁ……ってことは、ニトイだけ網から逃れた可能性もあるわけか」

「い、今まで学院に潜らせるようなことはありませんでしたし、アルバートに属する生徒や教師も巻き込んだことで、ガルムや異世界人ロキの警戒網から外れているのかと!」

「ふん、なら仕方がない。ガルムだってしばらくは様子を見るというだけで、いずれは必ず手に入れるんだ。利用できるうちはコイツから情報を抜いておきな」

「承知しました!」

いつかは発覚することだろう。

しかしまだ、副学長ニトイが情報操作だけを目的に生かされていることは知られていない。

椅子に拘った男が、自らの延命のためにどこまで踊れるのか。

そんな男の姿を、肉を削ぐための鉈を握った数名の男達が、陰から静かに見つめていた。