軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

510話 後始末

反乱軍の侵攻を止められたら終わりというわけではない。

ガルムがやるべきことは山積みであり、急ぎ王都内へ戻ったハーゼン達は、いない間も進められていた市街地の鎮圧にすぐさま取り掛かっていた。

「南部、テニアン第二聖騎隊長が概ね南部の鎮圧に成功したとの報告が! 予定通りこのまま1部隊を残して全軍が南西に回るそうです!」

「よし、【水魔法】と【魔力譲渡】の使用が可能な者達も追加で向かわせろ。そのまま西部の鎮火を並行して行なう」

「承知しました。しかし最も火災の激しい北西部までまったく手が回りませんね」

「既に【土魔法】の使い手を可能な限り集めて向かわせているんだ。延焼を防ぐために火災地域を土で囲い、火を塞き止めるくらいしか今は対策が取れん」

「そうなると住民の避難が……」

「分かっている。ナズリー! いけるか!?」

「大丈夫です、一応」

呼ばれた現聖騎魔導隊の隊長ナズリーは、聖王騎士でありながら通常の恰好とは異なり、赤みの強いレザー装備を身に着けていた。

それは後方に続く部下達も同様で。

「テサリア通りを境に土壁を築き、火の回りをここで止める予定だ。お前たちはその内に入り、鎮火しつつ住民を救助、内部に偽装兵が残っていれば始末しろ」

「住民は西と北へ避難誘導すればよろしいですか?」

「それで構わん。ただしあまりに状況が厳しいとなれば止むを得ん。ナズリー、お前の判断で外周の防壁を破壊し、避難経路を確保することも許可する。住民と、そして自分達の命を最優先しろ。いいな?」

火が回る中、徐々に逃げ道が塞がれていくのだ。

いくら魔法に秀でていようと、魔力は有限。

火に囲まれた中で尽きてしまえば、当然死ぬ。

耐性装備を身に着けたとしても、どれほど動け、熱さに耐えられるのか。

現場の状況がはっきりとは分からないため、選ばれし聖騎魔導隊の隊長と言えど相応の覚悟が必要だった。

だからこそ、一度ナズリーは空を見上げ――

「分かりました。そうなる前に、彼が救ってくれることを祈ります」

静かにそう告げ、部隊を引き連れ現場に駆ける。

その時、ハーゼンが出ている間に現場を纏めていた副団長マリクも、釣られるように上空を見上げていた。

「彼は……ロキ王はなぜ、私達に力を借してくれるのでしょう」

素朴な疑問だった。

副官マリクは立場上、ロキがガルムの属国化を拒んだと聞いていたからだ。

なのに今も――、あれは魔道具なのだろうか。

水が吹き出す、人ほどの大きさがありそうな何かを持ちながら市街地の上空を飛び回り、度々滑空を繰り返していた。

「なぜだろうな。『説得』と言っていいかは分からぬが、戦わずして東部の侵攻を塞ぎ、あのハンス殿を巻き込んでまで学院の守護に尽力してくれたのだ。陛下と取り交わされた傭兵としての仕事は、もうこれ以上ないほど果たされたはずなのだが」

本来ならば、さらなる対価を求められて然るべき。

それでもこの急場に手を貸してくれるだけ有難い話なのだ。

しかし、王都へ戻ってくる途中もそのような話は一切出なかった。

何もないまま、こうして市街地を上空から鎮火して回ってくれている。

「勇者じゃない、か……」

「なんですか、それ?」

「ロキ王に助力を求めた際、陛下が直接言われた言葉だ。自分は勇者じゃない、だから他を当たれとな」

「……私は自称勇者より、ロキ王の方が遥かに勇者様だと思いますが」

「違いない。だからこそ巷に流れているあのよく分からぬ噂は、何としてでも払拭せねばならん」

「その通りですね……こうして尽力いただいている方を、首謀者という立場のまま放っておくなど断じてあってはならないこと。流言の出所と、真実の流布は沈静化後の最重要事項と捉えて動きます」

その言葉を聞きながら、ハーゼンは再び姿の見えなくなった空を見上げる。

まだ全ての難が消え去ったわけではない。

国を二分する内戦が解消された代わりに、テリア公国とパルモ砂国――隣接する二国が敵に回る可能性は濃厚となった。

王都の鎮圧が無事に済んだとしても、即急に市街地や学院の被害状況を確認して復興を進めていかねばならないし、東に向けての対応策だってすぐにでも練る必要が出てくる。

「マリク、今のうちにこれからのことを陛下へ具申しておきたい。少し、この場を任せてもよいか?」

「問題ありません。緊急で何かあればお声掛けします」

強者であり、軍部のトップだからこそ見える視点。

果たして、ガルムの未来は自らの予想するように流れていくのだろうか。

ハーゼンは緊張した面持ちで宮殿の中へ向かった。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

時刻は宵の口。

目印に伝えた光玉をいくつか宙へ浮かし、散乱していた周囲の死体を回収していると、連絡してからさほど時間もかからずに空から4体の巨竜が姿を現す。

こちらへ近づくにつれ、帰還を喜ぶような声もあれば、空の旅を惜しむ残念そうな声もあって。

とりあえずこの騒がしさから、生徒の多くが無事であることはすぐに分かった。

「ありがとうございました。近くにいてくれて助かりましたよ」

「ロキが【遠話】を使えて本当に助かったぜ……」

そう言って竜の頭から飛び降りたハンスさんは――あれ?

急に老け込んだというか、足元がフラついているし、どうしたんだろう。

「大丈夫ですか?」

「遠慮のねぇガキどもを相手にするのがこれほど疲れるとはな……」

「あ、もしかして一度も降ろさなかったんですか」

「降ろすとまた乗せるまでが面倒ってのもあるし、何より降ろせるような場所がなかった。あのクソババアが絡んでいる可能性を考えりゃ、近くの町だろうと安心はできねーしなぁ……それにこんなのを町の近くにでも降ろしたら確実に混乱する」

「それは、確かに」

「あ~あぶねぇ……あと少しで エリオン共和国(うち) まで連れ帰るしかねーのかと思って、久々にビクビクしちまったぜ」

なんというか、孫を相手にした後の燃え尽きたおじいちゃんみたいだな。

でも責任感の強い人で助かった。

結局大規模な戦闘にはならなかったが、ハンスさんが協力してくれたおかげで、鎮火ついでに街中の悪党共を集中的に狩れたのだから。

「んーで、町中の火事はだいぶ落ち着いたように見えたが、他はもう大丈夫そうなのか?」

「ええ、予定通り反乱軍は『説得』できまして、一応死者の出ない平和的な解決を。街の方も暴れていた連中はだいぶ減らしましたし、残った教師陣と、それに僕も学院の敷地内は確認したので、もう生きている侵入者は残っていないはずです」

「ほーう、あれが『説得』で、平和的な解決か。俺には全員くたばっちまってるように見えたがなぁ……」

「いやいや、ちょっと荒いやり方ではありましたけど、馬が一部使い物にならなくなったくらいで全員死んでいませんし、最後はちゃんと納得して、国が一つに纏まってから帰っていきましたからね?」

「くはは! 死んじゃいないことくらいはすぐ分かったけどよ。それにしても、ガルムの内乱が解決したか……なるほどな」

一瞬、何か考える素振りを見せるハンスさん。

だが、すぐ切り替えたように指示を出し、竜の垂れ下がった尻尾から続々と生徒達が降りてくる。

待ち受けるのは教師陣と、それにどうしてもとお願いされて俺が連れてきたガルムの役人達だ。

この騒動を国として詫び、国内紛争が解決したことを伝えるなんて言っていたが、果たしてどれほどの生徒がこの地に残るのか。

幸い南部に広がる寮区はほとんど無傷なので、生活の面で大きな支障が出ることはないだろうけど、普通に考えればここまで被害の出た場所に残っていたいとは思わないだろう。

そんなことを考えながら、俺は俺で侵入者の遺体を回収。

数名ではあるが、出てしまった生徒の遺体を目立たない場所に並べていると、どうやら生徒達の移動も全員完了したらしい。

「おう、終わったぜ。そいつらは――、学院の生徒か」

「ええ、やるだけはやってみたんですけどね。それでも守り切れませんでした」

「多少話は聞けたがな。広域にこれだけの生徒達が散っている中で、数百じゃきかないアホ共が四方から襲ってきたんだろ? それで被害が2人だけなら、俺から言わせりゃ奇跡みたいなもんだぜ?」

「それでも、他にやりようはあったのかな、とか。もっと知識があれば別の方法も取れたかも、とか……なんていうか、やっぱり考えちゃうんですよね」

「ったく、現実は物語のように都合良くはいかねぇよ。それにここはそんな優しい世界でもねーだろ」

そう言われ、恐怖に引き攣った子供の死顔から、ポンと肩に置かれたデカい手に意識が向く。

そうだな。

初めから、今の自分ではたぶん無理だと分かっていたことだ。

それでも強引に都合の良い未来へ変えたいなら、やはり俺自身がこの世界の知識を誰よりも深め、そして強くなるしかない。

「ふぅ……ハンスさん、ほんとありがとうございました。兎にも角にも助かりましたよ」

「これも頼まれた仕事のうちだから気にすんな」

「ちなみにですが、一応ここの王様が戻ったらハンスさんにもお礼を言いたいということで……どうします?」

念のための確認。

対してハンスさんは顔を顰め、俺の肩に手を置いたまま耳元で小さく呟く。

「"一応"なんて言うくらいだから分かってんだろ? 俺はロキの借りを返しにきただけ、面倒だし会うつもりはねーぜ?」

「ですよね~なんとなくそう言うと思ってました」

「……ちなみにロキは、この国をどうするつもりなんだ?」

いつものような軽いノリではない。

これは間違いなく、エリオン共和国のトップとしての言葉。

それが声色から分かるも、これといって狙いがあるわけでもないしなぁ。

「僕はこの学院の生徒としてこの国にいただけですし、特別何かするつもりはありませんよ」

「ここまで手を貸してやったのにか?」

「ですね。なんとなく、この国はあまり潰れてほしくないとか、それ以上にマリーの好きなようにさせたくないっていうのはありますけど……でも傭兵として、報酬と引き換えに少し手伝ったというくらいですから」

「そうか……まぁいい。ロキはこれからガルムの王に会うんだろ? それなら俺の代わりにこいつを渡しておいてくれ」

そう言われて差し出されたのは、くるくると丸められた一通の手紙。

一応羊皮紙ではあるが封はされておらず、国のトップが送る手紙にしては不用心というか、こんなんでいいのかと首を傾げてしまうくらい雑な感じが否めない。

「それは構いませんけど……それこそ、ハンスさんが直接渡さなくていいんですか? 封もされていないんじゃ中身も見えちゃいますし」

「別におまえが先に見たって構わねーよ。後々の面倒事を避けるために、ここへ来たのはロキとの個人的な貸し借りが理由だっつー経緯を軽く記しているだけだしな」

「あーなるほど」

国として動いたのではなく、ガルムを救うためでもなく、ただ俺との借りを返すため。

継続的に頼られても困るというのが根底にあるのなら、会わずに今回の理由だけは説明しておくのも当然か。

ガルムにはガルムの、エリオンにはエリオンなりの事情や考えがあるのだろうけど……

巻き込んでしまった当事者として、最低限この程度の後始末くらいはやっておくべきだろうと手紙を受け取る。

そして最後に。

「また落ち着いたら顔を出せよ」

そう告げて去っていくハンスさんと従える巨竜を眺めながら、どこかホッとしたように大きく息を吐いた。

「ちょっと、殺り過ぎたかな……」

まだ十分耐えられる範囲ではあるが。

それでも明らかにあの時の――、8000人の時よりも衝動が強い。

そのことを自覚しながら、俺は仕事の報酬を得るべく宮殿へと向かった。