軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

480話 魔物塚

「おぉ~すげーな! 魔物もいるし、このよく分かんねーバランスの悪さが良い味出してんじゃねーか」

「う、うるさいですよ!」

転移した先は町の入り口。

少しだけ上空に転移したため、左手に見える庶民的な街並みと、右手に見えるデカ過ぎな建物とが同時に見えたのだ。

特に特徴的な石材を用いたニューハンファレストの存在感が強いので、ここだけ観光地にあるリゾートホテルのような雰囲気を醸し出してしまっているし、バランスが悪いのなんて百も承知である。

「くははっ! どんな町であろうと、そこに住んでる連中が笑えてんならそれが一番だ。気にする必要はねーよ」

「まぁそうですよね。僕もそれを一番に目指しています」

「なら十分成功してそうじゃねーか。人が増えるほど大変にもなってくるけどな」

「望んで増やそうとは思ってませんよ。僕は僕でやりたいこともありますし」

「どっかで聞いたセリフだ。そんなことを言ってるやつほど人が増えるし、なぜか勝手に増えていく」

「そんな人が周りにいるんですか?」

「経験談だ」

「……なるほど」

そのままハンスさんが今回うちに来た理由。

いざという時に連絡を取れる手段くらい整えておきたいという目的を果たせる場所へ。

恥ずかしいが、うちの窓口といったらここしかない。

中にいたダンゲ町長とペイロさんにハンスさんを紹介すると、ペイロさんは尻に竹槍ぶっ刺されたような顔して悶えていたが……

まぁ死ぬわけじゃないし放っておいてもいいか。

「おし、そんじゃこの小屋に鳥を飛ばすようにするぜ」

そう言ってハンスさんが懐から取り出したのは、黒く小さい1羽の鳥。

放すとその鳥は何かを確かめるように上空を旋回し、その後どこかへ飛び立っていく。

「あれだけでいいんですか?」

「あぁ、あの鳥は【調教】してあっからな。あとは帰りながら勝手に道を覚えて手紙を届ける」

「へぇ~便利なもんですね……うちもやった方がいいのかな」

「そりゃそうだろ。自分で飛んじまえば解決って思うかもしれないが、できるってだけでなんでも背負えば、本当におまえの力が必要な場面で身動きが取りづらくなる。人を頼って任せなきゃ国なんざ回らないぜ?」

「さすが先輩、勉強になりますね」

「かかかっ! 仕事をサボる口実にもなるしな!」

冗談なんだか、本気なんだか。

この雰囲気がハンスさんの魅力なんだろうと思いながら、ついでに金持ちそうなこの人を顧客化させるためクアド商会へ。

高級店に入り浸るハンスさんをクアドに任せ、俺はスチア連邦の調査を始めた。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

国土の大半は森に覆われ、時折集落のような家が見え隠れするも、そこに繋がるまでの獣道は木々に隠れてほとんど見えず。

そんな光景が続く中、マッピングを進めて3日目には話に聞いていたBランクの狩場を発見した。

周囲の密林から浮き出たように、砂色の土が剥き出しになった小高い山がポツンと存在しており、その山には無数の穴が。

そこから魔物が這い出ているようで、渦巻き状に踏み固められた足場に陣取りながら魔物を狩る人の姿が多く見られる。

「蟻と、芋虫……あとは、蜂か……?」

蟻は予想通りソルジャーアントだし、芋虫も砂漠で見たサンドワームと同じだろう。

しかし蜂は初めて【飛行】を手に入れた思い出深いファンビーよりも大きく、腹の縞模様も赤と黒で色が明らかに違っていた。

新種であることは嬉しいけど――

「これはどういうことだろうな……」

――それ以上に気になるのは、その巨大過ぎる蟻塚に多くの人間も混じっていることだった。

ハンターギルドの受付嬢は、"奥地はナワバリ意識が強く、特に人間は危ないから近寄らない方がいい"と、確かにこう言っていたはずだ。

にも拘わらず、この地がナワバリなのか?

猪の姿をした獣人も多くいるが、確実にそれ以上の人間がここで狩りをしているのはおかしな話だし、お互い姿を認識しているのに険悪な様子もまるで感じられない。

それになぜか狩場から東へ、唯一と言ってもいいくらい上空からでも僅かに認識できる道が長く長く延びているのだ。

ここにいる人間がどこから入ってきているのかなど容易に想像できるというもの。

となれば、問題は何を狙っているのかだが……

より確かな情報を求め、森の中へ。

気配を消しながら様子を窺うと、狩場の入り口近くに大きめの小屋があり、そこで猪獣人と一緒に荷車へ積み込みの作業を行なっている人間がいた。

そして荷車は東へ向かう獣道を進んでいくので、ソッとその中身を覗くと、蟻の頭部と蜂の腹部だけが積み込まれているようだった。

「……」

情報がなく、未だ名前も分からぬ蜂は、スキルに【麻痺針】レベル3という分かりやすいスキルを備えているのだ。

これで全てかは分からないにしても、一つの狙いがおおよそ見えたところで視線は狩場へ。

今露骨に動いてバレるわけにもいかないため、姿を隠すためにも俺は迷わず魔物が湧き出る穴の中へ突入した。

この蜂、なぜか【呼応】持ちなので、レベル6までもっていくだけならそう時間が掛かることもないだろう。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「……」

「……」

「出てこないな……」

「なんだぁ?」

男達は、人の背丈ほどもある穴を見つめながら呟く。

「おいジェンキー、そっち魔物出てるか?」

「いや、急に動きが止まった。そっちもか?」

「ああ、まったく出てこなくなった……リドリーさんよ! こんなことあるのか!?」

そう問われ、頂上付近で現場を監督していた猪獣人の男は困惑の表情を浮かべた。

「いや、中で『魔物塚の主』と戦えば自然と近い状況にはなるが、まだ生まれる時期でもない。かと言って誰かが穴に落ちた程度で魔物の動きが止まることもない」

「じゃあ、なんなんだよ? 1匹も出てこないとかおかしいだろ」

「確かに、それはそうなのだが――」

ズズズッ……

「?」

ズズズズズズズ…………

この時、通常の音とは違う、蠢く多量の気配と僅かに感じる地面の震動に気付いた者達がおり、それぞれが顔を見合わせる。

魔物塚と呼ばれる土山は高さもそれなりだが、それ以上に幅があるため、とても内部まで【気配察知】で見通すことはできなかった。

だから表面の一部のみではあるが、なぜか魔物は本来の動きとは正反対の内部へ向かっているようで、「ギギッ」と。

鳴き声なのか、呻き声なのか……兎にも角にも恐怖をそそられる不気味な音が、穴の内部から響いていた。

「お、おい、リドリーさんよ! やっぱ誰かが中にいるんじゃねーか!?」

「バカを言うな。私が上で見張っていたし、中は光も通さぬ迷宮だぞ? 準備も無しに入れば大抵の者は出てくることもできずに死ぬ」

「んなことは分かってっけど、今までこんな―――、って、あれ、湧いた」

「え、こっちは全然だぞ?」

「んあ、こっちも湧いた。なんだったんだ?」

「分からんが、解決したのだからどんどん狩ってくれ、"今日のノルマ"まではまだまだ遠いぞ」

そう時間も掛からず狩場は平常に戻ったため、最初は困惑していた者達も次第に記憶は薄れ、誰も先ほどの現象を気に留める者などいなくなる。

結果、誰も上に報告することなく、いつも通りの日常は過ぎていった。