作品タイトル不明
472話 手遅れの可能性
日中は東部をマッピングしつつハンターギルドや傭兵ギルドにも顔を出し、市場や商店で見覚えのない珍しい食材や何かの材料になりそうな素材があれば、買い占めにならない程度のまとめ買いを。
夜間はSランク狩場への突入チャレンジと決めて動き始めたパルモ砂国の後半戦。
と言っても真っ先に手を掛けたのは、【転換】の余剰経験値を割り振ることだった。
「これはこれは……」
表示されていた余剰経験値は『7,272,996』。
以前ジュロイで8000人の兵士を潰した時は約45万ほどだったので、15倍以上の数値を見た瞬間に思わず顔が綻んでしまう。
ランカークラスの傭兵っぽい連中を5人くらいは殺っているし、隠蔽MAXの暗殺者までいたからな。
これでとりあえず1つは確実に上げられる。
そう思って約200万の余剰経験値を突っ込んだ。
『【転換】Lv8を取得しました』
そしてすぐに100万を使い、レベル8だとどの程度上昇するか判別するも――、
「マジか……」
余剰経験値100万の上昇幅は僅か5%。
レベル8から9の段階で2000万経験値が必要とか、さすがの鬼畜仕様に変な笑いが込み上げてくる。
一つのスキルをレベル7まで持っていくのに必要な余剰経験値は30万弱。
対してレベル9まで持っていこうとすれば2230万弱も必要になるのだから、本当ならレベル7止めのスキル量産が【転換】運用の王道パターンなのだろう。
まぁそうであっても、俺はレベル10に意地でももっていくが。
目指すのはそこそこの最強などではなく、誰からも何一つ害されることのない最強なのだからしょうがない。
魔物はたぶん無限に湧くし、悪党も少し探せば無限に湧いてくるのだ。
少しずつ経験値取得効率は上がっていくのだから、先は長いがコツコツと頑張っていこう。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
それから10日ほど。
目立つ新規狩場や新種魔物もいないまま、ようやく今までで一番大きな国、パルモ砂国のマッピングが完了した。
上空から俯瞰することで見えてくる事実と違和感。
そいつをどうせ大したことは知らないだろうと思いながら、横の男に聞く。
「あなた方は何を狙って野盗をしていたんですか?」
「ひ、東に流れる魔物素材か、東から入ってくる食料や生活物資だ! どっちも手堅く金に換えられるから、それで……」
「はぁ、 あ(・) な(・) た(・) も(・) ですか。古代の遺物――、希少武具や古い魔道具はなぜ狙わないんです? そちらの方がよほど金になると思いますが」
「ね、狙わねぇし、狙えねぇよ! 領主の保管庫を襲うなんて死にに行くようなもんだろ!」
「ということは、あなたも砂漠から掘り起こされた遺物が運搬されている姿を見ていないわけですか」
「ねぇって! 狙ってる連中は多いけど、いつどうやって運んでんのかさっぱり分からねぇ! なぁ、もういいだろ!? こんだけ喋ったんだから見逃し――、ッ……」
また、同じ証言。
これしか情報が出てこない。
パルモ砂国の東部は東に向かうほど緑が増え、長閑な田園地帯も少しずつ広がっている。
しかし長い期間水を吸い上げられていたせいなのか。
素人目から見ても農作には不向きであろう乾燥した大地が多く、頻繁に東の隣国から多くの食料を積んだ馬車が入ってきていることは分かっていた。
そして、ヘルデザートの魔物素材が東に流れていることも。
途中の山岳地帯や見通しの悪い森で張っていた野盗連中は、そんな馬車の積み荷を狙っていたようだが、なぜか一番金になる遺物の運搬情報が拾えない。
"遺物は国が全て買い取っている"――、以前受付のお姉さんはこう言っていたのに、実際はこの国の首都『クトゥ』にすら遺物が運ばれていないわけだ。
確認のため、遺物ハンター達の拠点にもなっている西部の町『ポルック』に飛び、街中を徘徊しながら『領主の保管庫』とやらを探すと、結界魔道具で阻害し、周囲もそこそこ強い見張りで厳重に固められた遺物の集積所が存在していることはすぐに判明した。
つまりここに集められたまま、外に出ることなくどこかへ運ばれているということになる。
そんなことをするのは、一人しかいないよなぁ……
「もうこの国は手遅れかな」
パルモ砂国の最東端に飛び、そこから東の隣国――アルバート王国へ視線を向ける。
枯れた土地の多いパルモ砂国に物資を支援し、その見返りに本来は外へ出さない遺物を一部回してもらうなどという生ぬるい話ではなく。
発掘された遺物は根こそぎ回収し、その遺物を継続して発掘させるために食料などの支援物資を提供している――そんな印象を受けてしまうほど、この国はマリーに属国化されてしまっているような気がしてしまった。
「難しいな……」
西と東にある7か所の集積所。
その全てを襲って遺物を強奪することはできるだろうが、さすがにそれをやれば俺がパルモ砂国に対して盗賊行為をしているのと同じだし、本格的にやり続ければ戦争の切っ掛けにも十分成り得るだろう。
となれば、発掘の邪魔をするという選択もなくはないが……
一瞬、掘り起こした天候型魔道具をもう一度埋めるか? という考えが過ったものの、すぐに頭を振り、余計なことを考えるのはやめた。
パルモ砂国の歴史など知らないが、どうせ数十年、数百年と発掘し続けた結果が今なのだから、ここから多少の嫌がらせをしたところで焼石に水。
それにいくらマリーに打撃を与えられる選択と言っても、パルモ砂国で普通に暮らす人達が苦しむやり方を取ろうとは思えなかった。
そんなくだらない謀略に時間を費やすくらいなら、その分俺が強くなればいい。
魅力的な装備、使い勝手のいい高性能魔道具をマリーには回収させるだけさせて、いつかその全てを俺がマリーをぶっ潰すついでに回収すればいいのだ。
が――。
(まさか遺物だけでなく、Sランク狩場の情報まで掴んで動いてないよな……)
過った不安を少しでも解消すべく、ヘルデザートの中心部でマーキング用に生み出した岩を残さず回収してから、俺は出来上がった6か国目の地図を担当ワドルさんの下に持ち込んだ。