作品タイトル不明
467話 やる気次第
(ん~攻撃を加えてから30分も経過したら、さすがにラストアタック判定はされずか)
奴隷区画の1階を一通り回り終えるまでにかかった時間は30分強。
その後に戻ってみたら、腕を失った男は自分の血溜まりを見つめながら死んでおり、【転換】の余剰経験値は変動無しのまましっかりロスしていたことが分かった。
30分という時間が長過ぎた。
他にも対象が死亡した時、距離が離れすぎていたなんて可能性も一応あるけど、今回は致死に繋がる攻撃だけでは経験値をロスすることもあると分かっただけ良しとするか。
先ほど、地下のゴミ箱に水を注いだ時。
死亡までにそれなりの時間を要してしまう溺死がラストアタック判定にならなかったらどうしようと、一瞬そんな考えが頭を過ぎってしまい、【雷魔法】という確実な感電死を俺は選択した。
他にも戦争の時は大量にいたであろう重度の火傷とか、今のところ使う予定もないけど毒とか、死亡までにラグが発生する攻撃方法はいくつも存在している。
経験値が欲しければその場でキッチリ止めを刺せってのは基本中の基本。
でもできない時だってあれば、したくない時もあるわけで、今後もパターンを変えて情報収集していけば、その時々で適切な攻撃方法を選択できるんじゃないかなと思う。
(まず試すべきは溺死がセーフかどうかだよなー)
そんなことを考えながら、2階、3階と順番に回っていく。
商談用のソファや机が置かれた場所と、フロアの多くを占める奴隷区画。
構造は階層が違ってもそこまで大きく変わるものではなく、ただ上階に行くほど置かれている家具は商談スペース含めて上等になり、割り当てられた部屋も鉄格子付きではあるものの広くなっていった。
となれば当然、奴隷の質も上がってくるわけで。
(この人結構バランス良いなぁ……お、この人もなかなか……)
【心眼】を通したスキル構成から、こんな感想をしばしば抱きながら解放と残留の選別を進めていく。
そして奴隷区画の最上階となる4階へ。
ここまで来ると床に絨毯まで敷かれ、かなり余裕のある個室が与えられているようだが、奴隷の数は僅か8人のみとかなり少ない。
もしかしたらこのフロアは、マリーがどんどんアルバート王国に連れてっちゃってるからかもしれないけど……
(【舞踊】レベル7……【建築】レベル7……おぉ、【酒造】レベル8か……)
何かのスキルレベルが職業加護込みでもいいからレベル7以上、もしくは解放条件を満たす必要がある中級以上の希少スキル持ち。
さすがに見たこともないスキルを所持している人はいなかったけど、それでも十分優秀だなと思える人達が、鉄格子を強く握り静かにこちらを見つめていた。
まぁ中には例外もいるようだが。
「ようやく助けが来ましたわね。早く出してくださいまし」
いくら4階といっても、身に着けている衣類はようやく庶民的に見える程度のモノ。
その口調と身なりのギャップに、思わず声の主である若そうな女性を二度見してしまう。
スキルを覗いても精々2階にいた人達程度で、明らかに一人、この階層で存在が浮いていた。
フェリンよりは劣るが、顔面偏差値的なヤツでここにいるんだろうか?
「えっと、あれは?」
「……『白』」
一瞬、不満げな表情を浮かべて答えるフェリン。
内心嫌な予感がしつつも、しょうがなくその女性の鉄格子を取っ払う。
「私がラグリース王国旧ヴァルツ領、モントーレ伯爵家の次女、ユッテ・モントーレですわ」
「はぁ、そうですか。では気を付けて帰ってくださいね」
「そこの、お待ちなさい。私が名乗った意味、お分かりでして? あなたはお父様が差し向けた救援者ではありませんの?」
「まったく違いますが」
「ではしょうがありませんわね……我が屋敷まで送り届ける栄誉をあなたに与えますわ。寝具を積んだ2頭立て馬車くらいはできれば用意してくださいまし」
すぅ――……はぁ――……
フェリンの深い深い呼吸音が横で聞こえる度、俺はドキドキして冷静になれる。
不意に身体を捩じ切ったどこかの貴族ばばあが浮かんできたけど、一応この女って取っ捕まってここで売られている『白』だしなぁ……
「……お断りします。僕は無理やり奴隷に落とされた人達を救出するのが目的であって、一人一人自宅まで送り届けるほどの面倒を見るつもりはありませんので」
「もう1度言いますわよ? 私はモントーレ伯爵家の次女、ユッテ・モントーレ。上級貴族の娘ですのよ?」
「だからなんですか?」
「こ、このようなみすぼらしい恰好をされた平民では、想像すらできないのですか……」
……すぅ――! ……はぁ――!
「救出したとなれば、上級貴族と顔を繋げますのよ? それなりの褒美も得られるでしょうし、私が取り成せば、伯爵家があなたを取り立てることだってできますのに!」
「まったく興味がありませんので結構です」
「なっ……!」
たぶん言ってることは嘘じゃないんだろう。
誰しもがこの提案を喜ぶと本気で思っていそうな雰囲気があるから余計に質が悪いけど。
「最後の通告です。これ以上騒いだら牢の中に戻しますので、静かにここから出てください。あなたが本当に貴族なら、ハンターギルドでも傭兵ギルドでも、この街の人間があなたの提示したメリットに釣られて望みを叶えてくれるでしょう? 僕である必要はないし、僕は僕でやるべきことがありますので」
「ッ……」
なぜ俺は睨まれているのか。
よく分からないけど、フェリンの感情を捏ね繰り回すかき混ぜ棒みたいな女が出口に向かってくれたのであればもうどうでもいい。
その後もグルリと回って滞りなく――、というより4階は『白』しかいないので全員解放したら、お次は人のいない部屋の家具や魔道具なんかも全て綺麗に回収していく。
せっかく潰すのだから、金目のモノを一切残したりはしない。
そして1階に戻ってきた時。
「おぉ……?」
ロビーにいた想像以上の人の多さに思わずたじろぐ俺。
外は雪だし深夜だから、朝まで待つかは任せると伝えていたが……
解放した300人くらいがほとんどここに残っているんじゃないのか?
そう思って近くにいた人へ問いかけると、納得せざるを得ない答えが返ってくる。
「いや、助けてくれたのはありがてーんだけど、俺達みんな裸足だし……」
「こんな雪道の中で外なんて歩けねーさ」
「あー確かに……気付いてなくてすみません」
よく見なくても全員裸足。
今も俺が絨毯を引っぺがしているため、皆がかなり辛そうにしていた。
これはさすがに申し訳ないな……
『火』
そう思って適当な木製家具を引っ張り出し、雑に割って焚火の材料にしておく。
石造りの建物だから火が移る心配はないし、4か所に分けておけばみんな暖を取るくらいはできるだろう。
「これだけあれば朝まで十分燃え続けるでしょうから」
「あんちゃん、ありがとな」
「おぉ~暖かい……暖かいよぉ……」
「本当に感謝しかないねぇ。ただ朝になったとして、私達はどこに帰ればいいのか……」
「まだこの街出身の者はいいだろうよ。俺達はヴァルツに戻るまで、馬車代と通行税をどうやって稼げばいいんだ」
「というか、家がまだ残っているのかも怪しいよ」
「……」
似たような会話は他でも聞こえてくる。
でも奴隷の今後については、オムリさんに上手くやってもらうくらいしかないんだよなぁ……
「あ、あの、もし間違えていたらすみません……あなた様はもしかして、ロキ王様ではないでしょうか……?」
「「「え?」」」
俺と周囲の声が重なった。
目の前にいるのは10代後半くらいの人の良さそうなお姉ちゃんだが……
いや、いやいや、まったく記憶にないんだけど?
俺の【暗記】レベルでも思い出せないとか、マジでどこのどなた様だよ。
「えっと、失礼、どこかでお会いしましたっけ……?」
「い、いえ、遠目から一方的に眺めていただけですので。私達の町に白くて美味しい魔物のお肉をいっぱい届けてくれましたよね? 何もない場所から家具が出てきたのを見て、もしかしてって思ったんです! あの時と背丈が全然違いますけど、よく見るとお顔の雰囲気もソックリですし!」
「あ、あぁーそういうことですか」
「食べ物を兵に奪われ、ただ死を待つだけだった私達を救ってくれたばかりでなく、このような奴隷の解放まで……うぅ…っ……ありがとうございます……ありがとう、ございます……」
ヴァルツで死にかけていたどこかの町の人か。
納得はした。
したけど、これはどうしよう……
目の前の女性は泣き崩れているし、名前に反応する人まで出てきてしまっている。
「ロ、ロキ王って、5番目の異世界人って噂のロキ王様、か……?」
「噂じゃなくて事実だべ……ヴァルツの圧政から我らをお救いくださった英雄様だ。子供姿って聞いていたけんど……いや、あの幼い雰囲気は子供姿で合ってるか」
「すげえ、俺達は異世界人の王様に救出されたのか……!」
「ってことは、横のどえらい別嬪さんが、彼女さんか奥さんってことか?」
……すぅ――! ……はぁ――!!
(えっ、なぜこのタイミングで!?)
そう思ってフェリンの顔を見ると、鼻の穴膨らましてあからさまに喜んでいた。
機嫌が戻って良かった良かっ……って、まったく良くないわ!
変な噂が広がる前にとっとと撤退しないとこれはマズい。
「えーっと皆さん、ちょっと落ち着きましょう。僕達はまだ急ぎでやることがあるのでここを離れますが、朝一にはハンターギルドのギルマスに手を貸してもらえるよう伝えておきます。他国から攫われてしまった人や帰る場所がない人の相談にも乗ってもらえるよう言っておきますから、もうちょっと辛抱してくださいね」
あとは万が一に備えて、フェリンに5階辺りから見張っておいてもらえれば問題ないだろう。
そう思って二人外へ出ようとした時。
「こ、今生の頼みじゃ!」
「ん?」
振り返ると見覚えのある爺さんがいた。
たぶん4階にいた人――、【酒造】がレベル8だった人か。
「生い先短いこの命、余生はせめて救ってくれた者のために使いたい。わしをロキ王様の国に連れてってもらうことはできんですか? 酒造りにはそれなりの自信があるんです」
瞬間、少しだけ嬉しいと感じる反面、マズいなという危機感も生まれる。
この場には帰る場所が無さそうな人達も多くいるのだ。
「俺もぜひ連れてってください! なんでもやりますから! どんな仕事でも!」
「わ、私も! できることならなんだってやります! もう家族もいないし帰る家もないんです!」
一斉に湧き上がる声……、やはりこうなってしまう。
だから少しだけ誘おうかなと思える人材がいても動かず、俺の立場がバレても明言せずに去ろうと思っていたのに。
奴隷商館に足を運び、望む人材を購入するのとはわけが違う。
希望者を丸ごと転送なんて無理だし、かと言って全員が共通して奴隷落ちさせられているのに、能力を見ながらあなたはオッケー、あなたはアウトと、人を選別するなんて俺には無理なやり方。
その中で平等にいくには――、もうこれくらいしか思い浮かばない。
「申し訳ありませんが、この数を一斉にというのはまったく現実的ではありませんし、この中から人を選別して連れ帰るということも嫌なのでしたくありません」
「「「……」」」
「なのでもし、うちの国――と言ってもベザートという作りかけの小さい町しかありませんが、そちらに移住したい方がおられましたら、僕が連れていくのではなく自分達で来てください。それくらいやる気があるなら歓迎しますし、ここのギルマスにもそのような話が出ていることは伝えておきますので」
「おぉっ……」
能力の選別はしたくないけど、やる気の選別くらいはしたっていいだろう。
決して近くはないのだ。
これなら、本気で考えている人だけに絞られる。
そんなことを考えながら、俺と足取りが軽くなったフェリンはレサ奴隷商館を後にした。