作品タイトル不明
441話 不思議な空間
気付けば、俺は草原に立っていた。
地下に広がるどこかへ辿り着くと思っていたのに、見上げると空は青く、周囲を見渡せば奥には森が広がっている。
そしてかなり遠くには城壁と、その奥には小高い丘の上に立つ荘厳な城の姿も。
今まで王族の住まう場所と言えば王宮で、何気にこの世界へ来て、まさにファンタジーとも言える想像通りの城を見るのはこれが初めてのことだった。
いったいここはどこなのか。
咄嗟に地図を開こうとするも、
「……発動すらしないのか」
真っ暗でどこだか分からないとかそんなレベルの話ではなく、地図を開くことすらできない。
考えられるのは転移――、穴に落ちたのではなく、途中で転移してここに飛ばされた。
状況を考えてもまずそういうことだろう。
となれば、自前の【空間魔法】でここを抜け出せるのか、それを早速試すという手もあるが……
成功したとして、ここに戻ってこられなかったら意味がない。
まずはこの場でやれることを。
周囲に存在している、見慣れた魔物につかつかと近寄る。
「ブギィ!」
ここはSランク狩場と聞いていたのだ。
なぜ目の前に、どこの国にもいるEランク魔物の『ピーキーボア』がいるんだ?
走り寄ってくるその速度を見ても、覗いたスキル構成を見たって特別強化された様子はなく、首を捻りながら突っ込んできた頭を掴み上げる。
うーん、普通だ。
普通過ぎて、ますます意味が――
「ん?」
なんだ、これ?
なぜか横腹の一部に、鈍色の金属が付着している。
気になって取ろうとするも、簡単には剥がれない。
ムキになって少し力むと、ピーキーボアの悲痛な叫びと共に赤黒い血が噴出。
まるで体の一部だったように、引き剥がした後は血肉が露出していた。
――【鑑定】――
思わず毟った鉱物を眺めると、それは『鉄』であることが分かる。
しかもダンジョンと同じ、高純度のタイプだ。
「カルラの言っていたダンジョンっぽいって、そういうこと……?」
首を刎ね、普通に残った死体を収納しながら次に見据えたのは、草の隙間からジッとこちらを見つめる『ホーンラビット』。
その耳も、片側は変色しており鉱物っぽく見えるが。
「よく分からないけど、手当たり次第乱獲すれば答えも見えてくるか」
そう思い、俺は少しワクワクしながら、視界に入る魔物全てを狩り尽くす勢いで駆けだした。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
『はぁ、はぁ……みずぅ~』
草原に寝ころびながら真上に水を生み出し、大口を開けて顔から浴びる。
たぶん、半日以上は狩っただろうか。
空がずっと雲一つない青空のままなので、時間経過は曖昧だが、久々に思いっきり走ったな~と思いながらこの不思議な空間を振り返る。
まず、もの凄く重要なこととして、この狩場にSランク魔物なんてまったく存在していなかった。
どうなってんだって文句を言いたいところだけど、おおよそ原理も分かってきたので今はグッと堪えておく。
原っぱや森にいたのは、FランクからDランクまでの魔物が15種ほど。
1匹だけ石や木の枝を投げてくる『スローモンキー』のレア種。
『ハウロモンキー』を初めて狩れたが、それ以外は全て既知の魔物であり、経験値が多少伸びた程度でスキルレベルが上がるようなことは一切無かった。
このレア猿は【空脚】を持っていたので、最初のうちに出会えたら良かったんだけどなぁ。
あとなぜか、この不思議空間に生息している魔物は、身体の一部が鉱物化している。
これはどうやら確定らしく、鉱物も 鉄(10等級) から 銀(6等級) と幅広い上、当然のように上位等級ほど出にくいという特徴が、1000匹以上狩ることによってはっきりと表れていた。
つまり魔物の身体は消え、その代わりに様々な種や鉱物、スキル本などが出るダンジョンと、魔物の素材を丸ごと得られる通常狩場の間くらいに位置するのが、ここ《夢幻の穴》の特徴なのだろう。
そしてこの場所自体にも謎の現象が発生していることは間違いない。
俺は魔物を次々と狩りながら城壁と、その先にある城を目指したわけだが、何をどうやってもその城壁に近づくことはできなかった。
言っている意味が分からないと思うけど、俺もさっぱり原理が分からないのだ。
走っても飛んでも転移しても、移動しただけ目指す場所が遠のくように、まったくその距離が縮まらず。
青白い光を上空へ放つ転移陣が原っぱにポツンとあったくらいで、それ以外の風景はほぼ変わることがなかった。
まぁここまで情報が出揃えば、おおよそ行き方の予測はつくんだけどね。
パンパンとケツを叩いて起き上がり、唯一存在感を示すその転移陣へ。
できれば"進む方"であってほしいが……
さて、二択のどちらなのか。
確かめるために、俺は人生で初めて転移陣を踏む。
「……」
すると、一瞬で風景は砂漠に切り替わった。
はぁ……残念な結果だ。
こちらの方が可能性は高いと思っていたが、どうやらあの転移陣は『次のエリア』に行くためではなく、『帰還用』だったらしい。
――『地図』――
――【広域探査】――『魔物』
「ん~ここが、隠道ってやつなのかな?」
飛んだ先はBランク帯のようで、少なくとも周囲200メートルくらいに魔物の反応はなかった。
が、そんなことはどうでもいいか。
重要なのはそこじゃないのだ。
すぅーはぁ――……
大きく深呼吸。
まずは――、マーキングした狩場への入り口に転移する。
すると、
「はいはい、やっぱりね」
岩の目印で分かりやすくしていた偽の蟻地獄は、岩だけを残して綺麗さっぱりその場から消え去っていた。
これで《夢幻の穴》への入り口は"変動すること"が確定だ。
となると、次。
ダメ元ではあったが――
「お?」
遠くには城壁と城が見える、先ほどいた不思議な草原。
そこには問題なく戻れることが確認できた。
考えてみれば魔物を『収納』していたんだから、任意に亜空間と繋げることはできていたのだ。
そう考えると当然の結果なのかもしれないが……
「ふーむ……となると、偽の蟻地獄が生まれる場所が関係するのか、もしくは、嫌な予感しかしないが、確率か……?」
《夢幻の穴》はSランク狩場という有力な情報があること。
入り口は固定されていないこと。
今回出現した魔物と鉱物が低位に絞られていたこと。
そして狩場の空間がおかしな力で固定されていたこと。
この辺りを考えると、少なくともあと1つか2つ。
上位狩場に繋がるルートがあることはまず間違いないだろう。
狩場の入り口が固定されていれば、それぞれの入り口が別に存在していると予想できるが、完全にランダムとなれば、最悪は確率でエリアが切り替わる可能性もある。
オドゥンのいない蟻地獄を見つけるのに要した時間は2日。
狩場の入り口がどういったものかが分かったので、今後は探すのも多少は楽になるだろうが……
このままSランク魔物が登場するエリアに辿り着けるのか。
想像以上にここで時間を食う可能性も出てきたため、どうすべきか悩んでしまう。
Sランク魔物が持つスキルや落ちる鉱物次第だが、まずはエリアを引き当てなければその答えも分からない。
ふぅ――……
(転移で直接飛べるというのはあまりにも大きい……なら、もう少し、あと3回くらいは様子見で試すか)
そう判断し、再び入り口探しを開始した。