軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

433話 テコ入れ

『ロキ君、今日の夜は報告会ですよ~みんな砂漠の料理を楽しみにしています~』

「……?」

砂漠のマッピング中に届いた、少し弾んだような声。

その間延び具合からすぐにフィーリルだと気付き、前後の文脈がおかしいことにも気付く。

もう報告会はおまけもおまけで、主眼は砂漠料理の催促としか思えない【神託】の内容。

連日のように様々な国や領地のお偉いさんが思惑と共にうちへ足を運び、ついでにクアド商会で買い物して、まだ窓ガラスもないため一部だけだが、試験的に泊まれるようにしたニューハンファレストで1泊してからお帰りいただいているのだ。

強欲ババアは至るところで暗躍しているし、勇者タクヤんとこだって結構ピンチっぽいしで、世界は大きく動いているというのに、あの女神様達――。

「いったいいつから、報告会をお食事会だと錯覚していた……?」

――って、いやいや、ちょっとカッコよく言ってみたけど最初からだな、うん。

考えてみれば、リルがゴミ袋とサンダルの片割れを拾ってきたくらいで、他はまともな報告を何も聞けていないような気がしなくもない。

はぁ。

(だからハンスさんに駄女神って言われんだよ……)

要所要所では物凄く頼りになるし、少しずつ下界に慣れてきているのも分かる。

が、それでも未だに否定はできない先輩からの重い言葉。

さすがに今日の報告次第ではそろそろ本気で修正するべきではないのか。

そんなことを考えながら、夕暮れ時に西の町『ポルック』で珍しそうな料理を買い込み、拠点の上台地へ転移した。

「ほい、買ってきたよ~」

「やっほ~! みんな呼んじゃうね~って、なんかロキ君、顔がやつれてない!?」

「うむ……今にも死にそうな顔をしているな」

「なんというか、目の下のクマが酷いですよ?」

「今ちょっと広範囲を動き回る表ボス追いかけててさ。ちゃんと寝るのは倒してからにしようと思って」

本音を言えば、今は極力砂漠から離れたくないくらいだ。

可能性はどうしたってあると理解しているが、ボスがもしマッピング済のエリアに侵入すれば、生存しているかも分からない非常に面倒な事態に陥ってしまう。

うーん、それにしても……

別に用意された木の机で、膝にペットの猫を乗せたまま服作りに励んでいるアリシアと、ご飯が楽しみなのか、皿をクルクルと器用に回しながら踊っているフェリンとリル。

なんと平和な光景か。

これが平常運転なんだけど、この能天気な姿を見ているとみんなの報告を聞くのがどんどん怖くなってくる。

次々と石机の上に並べられるポルックの砂漠料理。

そして集まる残りの女神様達。

「……なんで浮いてるの?」

「なんとなく」

俺の身長よりやや高い位置をキープし、訳の分からないマウントを取ろうとするリアの背後では、えらく発育の良い赤毛の馬に跨ったフィーリルが、満面の笑みでこちらに向かって駆けてくる。

俺が引き渡したのは仔馬だし、あんなのは奥の"動物園"にいなかったはずだが……

少し疑問に思いながらも眺めていると、近くに青紫の魔力渦が現れ、そこから登場したリステは久しぶりに見る黒いスケベドレスを着用していた。

早めに砂漠へ戻らないといけないのに、もしや発情期だろうか?

「それでは報告会を始めたいと思います。いただきます」

「「「いただきます」」」

毎度の如く、進行役を買って出る自称リーダーのアリシア。

だが、まだだ。

まだ口を挟む時ではない。

今更ながら、報告会始めるのに"いただきます"ってなんだよとは思うけど、まだ焦る時ではないのだ。

問題はここからで、どう報告を上げてくるのか。

そいつを聞かせてもらってからでも遅くはない。

サンドフィッシュは淡泊だけど骨が無くて食べやすいだの。

カメレオンの肉はトロトロだの、そんな感想を言い合って暫し――、とうとうリーダーアリシアが口火を切った。

「ではリステから、北の様子はどうですか?」

「兵が大きく動員されるような目立った動きはありませんね」

(……)

「フェリンは?」

「大丈夫! 楽しいよ!」

(……?)

「なるほど。フィーリルはどうですか?」

「凄く大きな馬を見つけたので、思わず連れてきちゃいました~!」

(………??)

「リガルは順調に見張りを――」

「ちょっと、待たれよ」

「え?」

これはいけない。

秒速で報告が終わり、何事もなく飯の続きに戻るという毎度の流れ。

どこかでテコ入れをしなくては、この流れが今後も続いてしまう……

それではマズいのだ、特に西方は。

「進行は、俺が代わる」

たぶん、いつもと声のトーンでも違ったのだろう。

この言葉に、大口を開けて肉を放り込もうとしていたリルとフェリンは、口をあんぐり開けたままピタリと動きが止まり、他の4人も空気が変わったことを理解したように静かになる。

「まず下界を探索している3人は、今どこら辺にいるの?」

「ファンメル教皇国ですね」

「水の都ハーディアって所だけど」

「私はガルム聖王騎士国です~」

「ファンメル教皇国か……トルメリア王国の北だよね?」

「よくご存じで」

砂漠に入って半月ほどで、図書館にある多くの本には軽く目を通したのだ。

ぼんやりとした脳内地図だが、それなりに名の通っている国ならおおよその配置くらいは掴めてきている。

大陸のど真ん中で東西に広く延びるエイブラウム山脈。

そこを沿うように東へ進行しているのがフィーリルで、西から抜けて北を目指しているのがリステ、そしてフェリンはジュロイを抜け、ひたすら西側に向かっているわけか。

フェリンだけ進みが遅いように思えるけど、あそこは国が大きいとボスハンターのアウレーゼさんが言っていたからな。

「フィーリルはなんでガルム聖王騎士国にいるの?」

「亜人種が大陸の東側に多く生息していることは分かっていましたから~ここから北と南のどちらに向かうか、人々の記憶を探りながら考えていたんですよ~」

「ん――……北に向かえば北東にある大国アイオネストのその先、ナルジャ半島のどこかにエルフの里があるって話はたぶん間違いないと思う。ただ少数種族を探すなら南のスチア連邦か、人があまり住んでいないっぽい大陸南東方面だろうね」

そう言いながら机の隅に大陸図を広げ、空白の予測箇所をいくつか指差す。

まだマッピングもしてないけど、おおよそ場所はこの辺りだろう。

「え? ロキ君はエルフの所在を掴めてるんですか?」

「あらら~いつの間にそんなことまで……」

「情報が欲しくて、本を読み漁ってるからさ。ちなみにあの立派な馬、ガルムからパクってきたりしてないよね? 軍馬育てるの凄い上手な国みたいだけど」

「うふ、うふふ、そんなことあるわけないじゃないですか。原っぱで気持ち良さそうに寝ていたので、可愛くてついつい連れてきちゃっただけですよ」

(間延びしてないし、めちゃくそ怪しいんだが……)

内心そう思いながらも、次はフェリンに視線を向ける。

「えーと、フェリンにも1つ確認しておきたい」

「うん」

「毎回大丈夫って言ってるけど、具体的にどう大丈夫なの?」

「えっと、戦争は起きてないよって意味で、大丈夫、みたいな?」

「なるほど……ちなみにこっちの情報で、ハーディアの商人が大量の鉱物と、それに他所の軍が使っていた既製武具も買い付けようとしていることは分かってるんだよね」

「え?」

「それが西側に対しての備えなのか、それとも元々は険悪だった東のジュロイ、トルメリアに向けたモノなのかは分からない。ジュロイの刻印が入った正規兵の鎧も欲しがっていたみたいだから、どちらも有り得る話だとは思う」

「……」

「今争いが起きているのかどうかももちろん重要なんだけど、これから起きそうなことに対しての情報は掴んでいない?」

「それは、ごめん……」

「リステはどう?」

「同じで、今の情報しか……」

「そっか」

ふぅ――……

頭ごなしに否定しては駄目なのだ。

以前は戦争が起きていることすら満足に気付けていなかった。

それが今は現場確認から『戦争が起きているかどうか』の確認をするようにはなってきているのだから。

でも、どうせ動くのなら、もう一歩先――、予兆を掴み、起きる前に対策が取れるところまで手を掛けてほしい。

そうしてくれれば、のうのうと自分だけは安全な立ち位置に構え、駒を使って利益を貪ろうとする『悪の親玉』を俺が叩き潰しに行ける。

きっとその方が皆の望む世界に近づけるだろうし、ベザートの安全性だってより保たれるようになるはずなのだ。

できれば皆には、間諜のような役目を担ってほしいものだが……

「リルは町の入り口を監視してくれてるから分かると思うけど、連日いろいろな国のお偉いさんとかが、思惑を引っ提げてうちに来てるんだよね」

「それはリガルから聞いています。一部はロキ君も対応していると」

「うん、それで皆も知っている一番下界で有名な異世界人――勇者タクヤの所もうちと同盟っていうか……俺個人の力を借りに来た」

「ロキ君の力……」

「あまりこういったことを言ってはなんだが、少なくとも個人の強さだけで言えば、下界であの転生者を超すような者などまずいないと思うが?」

「あの加護は、強力」

「きっとそうなんだろうね。直接会ったことはないけど、ハンスさんの言い方からして、そうなんじゃないかなって思ってた」

ハンスさんはかつて、勇者タクヤのことを名指しで『よほどの強者』と言っていた。

つまりはハンスさんから見ても明確な差を感じるほどに強いということ。

推測するに、最低でも広範囲のスキルレベルが+2、もしかしたらそれ以上の自動補正に、関連するスキル経験値の 上昇補正(ブースト) 、それに【転換】のコンボと、【魂装】や【神通】みたいな職業限定スキルってところか。

しかし。

「それでも厳しい状況に立たされているっぽいんだよね。シヴァって異世界人のいる帝国が、多くの異世界人を抱えているとかで」

「「「「「「……」」」」」」

「大陸南西に位置するその帝国が、周辺の国を呑み込みながら北西の大国――勇者タクヤのいるエルグラント王国と戦っている。そこに介入するかはまだなんとも言えないけど、勝敗がはっきりと見えてくれば次は東にその戦力が向く可能性は高い」

「そうなると……責任重大ですね。私とフェリンは」

「うん、楽しいなんて言ってる場合じゃなかった」

「いやいや、楽しむことを否定なんてしないよ。それこそ少しお金を持って、屋台とかで買い食いしながらお店の人に町や国の様子とか聞いてみたら? リステなんか以前のままなら、誰とも会話なんてしてないでしょ?」

「それは……はい」

「干渉になるんじゃないの?」

「それくらいなら余裕でしょ。リルなんて俺からお金せびって、連日露店で買い食いしてたんだし」

「確かに!」

「「「「「……」」」」」

「客商売してる人って世情に敏感だし、そういう場所だからこそ旅人として気軽に話を聞けるっていうのもあるしさ」

「そっか! いいのかな!?」

ほんの数秒前まで凹んでいたのに、急に目がキラキラと輝きだすフェリン。

相変わらず感情の起伏が激しい。

「少し工夫すればお金は持ち運べるわけだし、なんならフェリンが作った野菜とか、フィーリルが卵やミルクでも量産してくれれば俺が買い取るよ? 広く出回っている食べ物程度で干渉したなんて話もないだろうし、町に持っていけば皆喜んで食べてくれるんだから」

「「おぉ~」」

「もちろん北と西側だけの問題じゃない。リアが危ない考え持ったヤツを炙り出してくれれば楽になるし、他にも王族とか貴族とか……まぁ都合良く神像の前でのんびりしてくれればだけど、権力者達の記憶を覗ければ対策は立てやすくなるでしょ?」

「それなら私も協力できると思います」

「あの王族みたいなヤツを炙り出す」

「もし予防ができそうなら俺も動くから、現状確認+αの気持ちで頑張ってみてよ」

俺には記憶を覗くっていう感覚が分からないけど……

リステやリアのやっていた内容を思い返せば、個々に対して確認したいことだけを膨大な記憶の中から検索していく。

なんとなくだが、そんな印象を持っていた。

となればそう簡単なことではないだろう。

神界から遠隔で行う以上、対象が誰かも分からない状態から始まるのだ。

しかも神像の近くに居続けてもらわないといけないのだから、信仰の厚過ぎるヘディン王のようなタイプでもなければそう上手く事が運ぶとは思えない。

それでも――。

もしラグリースやベザートが本格的な戦争に巻き込まれれば、否が応でも『数』は爆発的に増えるし、戦後処理まで含めればまた相当な時間が奪われるのだ。

俺は俺のやりたいことに時間が使えるように。

そして反動という過度のリスクを負わないためにも、できることなら未然の対策を。

今までにないまともな報告会は、その後も1時間ほど食事を摂りながら続いた。