作品タイトル不明
431話 特使の男
一旦はニューハンファレストの上空に転移。
商会の屋上から、より高さのあるこちらへ見張り場所を移していたリルに一応確認し、転生者本人じゃないことを把握してから入り口へ向かう。
さて、呼び出しが入るほどの来訪者はどこのどなたなのか。
村の入り口に建つ小屋の扉を開ければ、
「おぉ、ほんとに来てくれたか。これで今後も一安心じゃな」
「いや~これで肩の荷が下りましたよ……」
そこには安心した様子を見せるダンゲ町長とペイロさん。
そして二人の正面には、旅人というより冒険者なのか?
薄汚れた革鎧に、火か風あたりの属性防御用かな。
半身を隠すレザーマントを身に着け、腰には2本の剣を携えた壮年の男が座っていた。
極端に強いわけではなさそうだが、マルタ防衛戦で一緒になったSランクハンターの渋いおじさんと同じくらいの力量はあるように思える。
うーん……使者だの貴族だのと聞いていたので、これは想定外のお客さんだな。
男は俺に気付くとその場ですぐに片膝を突き、視線を落とした。
「えーと、あなたは?」
「お初にお目にかかります、ロキ王陛下。私はエルグラント王国の特使、レグナートと申します」
「エルグラント……勇者タクヤの所属する国ですか」
「はっ、左様でございます。まずは拝謁の機会を設けていただいたこと、感謝至極に存じます」
「おぉう、畏まったのは苦手なので楽にいきましょうね。どうぞ座ってください」
「え? あ、は、はい」
とうとう来たか。
そう思いながら正面に座り、レグナートと名乗った男にも座るように促す。
戸惑っていたけど、まずここ、人によっては物置と判断するくらいの小屋だしね。
こんなところで偉そうにするとか、なおさらこちらが恥ずかしくなるわ。
「それにしても、僕と似たようなハンターっぽい恰好をされているんですね」
「実は私、監査諜報部の所属でもありまして……国よりロキ王の勧誘という任を授かり、フレイビル王国のロズベリアから長く足取りを追っていたのです」
「んん? というか、ご自身が諜報部であることを明かしてしまって大丈夫なんですか?」
「まったく問題ありません。後々の不和を招く切っ掛けなど、こちらとしては不要ですので」
ロズベリアっていうと、竜の素材がどれもデカくて【空間魔法】を堂々と使い始めたくらいのタイミングか。
それで目を付けられたってことなんだろうけど、大半を転移と飛行で移動していたのだから、足取りなんてまず追えたものじゃなかっただろう。
となれば、追っていた当人が興した国に直接足を運ぶのも当然だわな。
「不和を望まないね……一応確認しておきましょうか。僕が国を興した以上、勧誘は100%無理だと分かっているはずです。なのにあなたがここへ訪れた理由は?」
まずこれだろうという答えを確かめるための質問。
この問いかけに、男は一層背筋を正して答える。
「我が国――エルグラント王国との同盟を、前向きにご検討頂けないでしょうか?」
「特使ということは、あなた個人の願望などではなく、エルグラント王国の意向と捉えてよろしいのですか?」
「もちろんです。ロキ王のお力添えを、我が国で反対する者などおりません」
「……」
言いながら男は、木箱の中で丁寧に丸められた一枚の書簡を差し出す。
中身を確認すると、勇者タクヤが直筆で書いただろうことが分かる"日本語"で、『ロキ、君の力を貸してほしい』と。
その理由も含め、手紙には記されていた。
普通に考えればこんな提案、異例中の異例だろう。
大陸有数の大国であるエルグラント王国が、少し前に開国したばかりの町一つしかない国に同盟を求めているのだ。
普通なら逆。
外交を重ね、様々な利点を説き、小国がようやく同盟という繋がりを手に入れ強国の庇護を得る。
そんな流れなのだろうけど。
(帝国との争いが激化か……)
だからこそ、望んで接触を図ってきた目の前の男からも、そして手紙からも同盟の意図が見えてくる。
それに俺の方針は予め決めているしな。
こちらの考えも伝えられる良い機会だから会うことは会うが、相手が大国であろうとこの方針はブレることもない。
「拝見しました。が、残念ながらご希望には沿えられそうもありません」
「ロキ王、あくまで私は前向きに検討頂きたいと、そうお伝えしたのです。また改めて正式に使者を寄こしますので、その時までにじっくりと――」
「時間を置いたところで、考えは変わりませんよ?」
「それは……我が国との同盟など、検討の余地もないと、そういうことでしょうか?」
「んー……ではレグナートさん。今から単純な質問をしますので、気楽にすぐ、答えてください」
「え? あ、はい」
「うちがエルグラント王国と同盟を組む利点はなんですか?」
そう問うと、一瞬意表を突かれた表情を浮かべるも、すぐ気を取り直したように口を開く。
「それはやはり、自国民を守るという意味でも、エルグラントであり、タクヤ様という名前が齎す『盾』もあった方がよろしいのでは?」
「そのような外部の盾に頼らずとも済むよう、自ら5番目の異世界人と名乗り、僕自身が進んで『盾』になっているんですよ?」
「確かにそうかもしれませんが、しかし同盟となれば、様々な物資に対しても融通が……」
「ご存じかと思いますけど、僕は【空間魔法】を所持していますから、その気になれば大陸中の物資を自分で調達できます」
「なるほど……しかし、人材は難しいでしょう? 難民を多く抱えているとなれば、内務に携われる優秀で実務経験のある人材や、専門性の高い職人を我が国から回すことも――」
「いやいや、現状は貴族も税金も存在しない国ですから、やれることをのんびりやっていければそれで良いと思っていますし、まず他国の人材を内務の中枢にでも据えたらその国はもう終わりでしょう」
「ッ……で、ですが! 少なくとも同盟とあらば、我らがこの地に攻め込む―――、ッ!!?」
「あぁ、気楽にとは言いましたが、あなたも立場ある人間なら、その先は言わない方が良い」
「カヒ…ュ……ッ……」
「そのたった一言で、ご自慢の国が丸ごと焦土化なんてなったら嫌でしょう?」
「も、もうじわけ……ありません……」
ちょっとやり過ぎたかな。
――【結界魔法】――『燐光』
「はひっ……!?」
「失礼、脅すつもりはなかったんです。もし自国に……この町に何かあれば、そのくらいの気構えを持っているというくらいですので」
「っ……はっ……」
「それに同盟を断るから即ち敵対、ということもまったくありませんからね?」
「え……?」
「僕は僕なりのルールで許容を超えた『悪』だと思えば手を出しますし、逆に許容を超えなければ基本は何も関与しません。そこに同盟の有無など関係ないので、初めからどこの国とも組もうとしていないだけなんです」
「そ、それは、つまり……帝国に与するようなこともないと?」
「この書簡の通りであれば間違いなく有り得ませんし、許容を超えていると思えば僕は僕で勝手に動くことだってあるかもしれません。まだ国を興したばかりで、外の争いに目を向けるには時期が早過ぎると思っているだけですから」
このように伝えると、納得とはいき難い表情であったが、一瞬だけ綻ばせた顔を隠すように頭を下げる。
「その言葉を伺えただけでも足を運んだ甲斐があるというもの、時間を割いていただいたこと、心より感謝申し上げます」
そして「最後に1つだけ」と、断りを入れてから男は口を開いた。
「ロキ王は帝国のシヴァを――、他にも数多の異世界人を抱えている帝国を、恐ろしいとは思わないのですか?」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
時間にすれば20分程度の短い会談を終え、足早に去っていく特使の男。
その後ろ姿を3人で見送っていると、ペイロさんとダンゲ町長が口を開く。
「あの人、以前も来ていましたよね」
「ふむ……書状があったにもかかわらず先日は置いていかなかったとなると、よほど内密にしたい内容じゃったか」
「少なくとも、僕と直接話せるような場でもなければ明かす気は無かったんでしょうね。どうもエルグラント王国は、相当厳しい状況に置かれているっぽいですし」
本当ならこの二人も席を外させたかったのだろうし、今になっては俺もそうしておけば良かったかと思ってしまう。
最後の一言――、あれは確かに重要な情報だったが、しかし余計でもあった。
特に異世界人を極度に警戒するペイロさんには。
「ロキさん……帝国は異世界人が多くいるなんて、そんなの初めて聞きましたし……そのうち東にも攻めてくるんですよね?」
「エルグラント王国との決着が付けば――、もしくは余力があると判断した段階で、東に目を向けるのかもしれませんね」
「ですよね……その、この町は大丈夫なんでしょうか?」
「ペイロよ、本当にそんなことになれば、狙うのは間違いなく大陸の覇権じゃ。どこにいれば安全ってこともないじゃろ?」
「それは、そうですけど……」
「大丈夫ですよ。僕がこの町を守りますから」
絶対とか、必ずとか。
そのような言葉を軽々しく口にはできない。
それでも、どこにいるよりも安全に皆が過ごせるように、俺は俺でやるべきことをやる。
そのためにも、今は他所の争いより自身の強化を。
まずは何ものにも揺るぐことのない強さをノーリスクで手に入れるために、俺は再び砂漠へと向かった。