作品タイトル不明
429話 オーマ
パルモ砂国とは不思議な国だ。
自ら求めたのか、それとも当時は土地の貰い手がいなかったからなのか。
砂漠を囲うように国境線が引かれており、その『余白』とも言える僅かな荒野や緑地帯に大小様々な町が。
そして砂漠の周囲を縁取るように、ぐるりと1本の大きな街道が各町を繋げるように存在していた。
国境と砂漠との間にある荒野の余白地帯は、多少牧畜っぽいことはされていたけど、田畑なんてほとんど見られず。
猫顔のお姉さんは発掘が主要産業と言っていたけど、西側を目にした限りじゃ遺物と、あとは幅広い魔物資源だけという印象を持ってしまうな。
「ギャウ!?」
「残念、コイツはハズレか」
現在いるのは、ヘルデザートの入り口から少しだけ中に入ったDランク帯。
オルトランでお世話になった【透過】持ちのフィッシャーカメレオンや、各地の荒野で見かけるハイドスコーピオンなどに混じり、ここには体表が砂の色をした『ナムレスウルフ』という名の新種魔物も混ざっていた。
資料本には噛まれると身体が『麻痺』してその場から動けなくなるので、中和ポーションを必ず持参しろと"匂わせる情報"が書かれていたのに、結果は空振り。
これがベザート北東のロッカー平原にいた懐かしの『ポイズンマウス』と一緒で、能力はあるけどスキル化されていないという残念パターンの典型である。
すんごくハメられた感があるけど、どこの国に行っても必ず数度は空振りしているので、そういうものだと思って割り切るしかない。
それにハズレもあれば、想定外の当たりもあったりするしね。
ナムレスウルフの死体を収納し、【広域探査】で狩るべき魔物を絞りながら砂漠を低空飛行で突き進んでいくと、先ほど一度倒している目的の魔物を発見。
角のような少し丸みを帯びた先端をこちらに向け、砂の中からお腹が大きく膨らんだ50㎝ほどの魚が飛び出してくるので、素早くその角を捕まえ腹を裂く。
すると中の水袋が割れ、溢れるようにほんのりと甘みを感じさせる水が垂れてくる。
それを顔に浴びながら飲んでいると、視界の端でアナウンスが流れ始めた。
『【砂泳】Lv3を取得しました』
「ぶは~! スキルも水も、うんま~」
このサンドフィッシュというEランク魔物を【心眼】で覗けば
サンドフィッシュ:【砂泳】Lv4 【突進】Lv2 【気配察知】Lv2
このようにそこそこ熱い魔物であることが分かり、思わず「うぇ~い」と角を持ち上げて乾杯しそうになってしまったくらいだ。
【砂泳】は当然のようにグレー文字だったけど、2匹目なのにもうレベル3取得なのでかなり熱いし、こんなのがあるから空振りしようとも魔物チェックは欠かせない。
「とりあえずロッジの土産とクアド商会の売り物用に、各魔物100体くらい。あとはサンドフィッシュ一点狙いでいっかな?」
そのようにDランク帯の方針を決め、初日の砂漠マッピングを黙々と進めていった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
その日の夜。
食後に湖畔で一人、視線を落としながらコーヒーを飲んでいると、背後から低い声で話しかけられた。
「この時間にロキがのんびりしているとは珍しいな」
「ちょっと調べたいことができて、図書館寄ったついでにね」
実は夜の砂漠がビックリするくらい寒くて、鼻水垂らしながら帰ってきたという理由もあったりするが……
読んでいた本を見せると、すぐに理解を示してゼオは軽く頷く。
「エニーはちゃんと勉強していたか?」
「してたしてた。一人だけ魔力放出させながら凄い顔してたけど」
「ふっ、エニーが【魔力纏術】を極めたいと言うのだ。ならば日常的に体外魔力を使用し続け、身の回りのあらゆることに利用しろと伝えたまでよ」
リコさんはどう見ても好きでやっているからいいとして、夜は自分探しのケイラちゃんも、それにエニーも座学ということで、ゼオとリコさんが指定した書物の複製を手伝っていた。
そうなるとリコさんに関連しそうな本を用意してもらったまではいいが、その場ではどうにも読みづらく外に避難してきたわけだ。
読書の秋。
遠くで轟く滝の音を聞き、心地良い夜風に当たりながら、まったりと情報収集に時間を割くのもたまにはいいだろう。
そんな俺の気分に触発されたのか、ゼオは既に読み終わって石机の上に置いていた本に手を掛けた。
「ほう、『世界の三大遺物発掘地』か……他にも古代の武器や装飾が欲しくなったのか?」
「ん~その気持ちもなくはないけど、今はそれより遺跡とかの情報が欲しくてさ。ちなみにゼオは、『オーマ』って言葉を聞いたことある?」
今読んでいた『古代遺跡の魅力』という本。
これも"砂漠"に関連する情報として、リコさんにお勧めされたものだ。
先ほど確認した『世界の三大遺物発掘地』にははっきりとヘルデザートの文字があり、出土しているモノもおおよその傾向くらいは記されていた。
ここら辺は猫顔のお姉さんが言っていた情報より少し詳しい程度だったが……
『古代遺跡の魅力』という本を読んでいて気になったのは、この砂漠地帯から出土されたいくつかの風化しない金属書物、"金板書"に登場するらしい『オーマ』という言葉。
度々主語として扱われていたようで、果たしてこの『オーマ』は何を指すのか。
この本ではかつて栄えた古代王国の名か、もしくは亡びた古代の種族名ではないかと予想するくらいで、答えは分からないまま終わっていた。
出土品が現代より遥かに高度な品であることは分かるも、どれほど昔なのかは記録がないため不明。
でももしゼオが生きた年代と多少でも被るのなら、何か知っていることがあるかもしれない。
そう思っての問いに、意外なほどあっさりとゼオは答えてくれる。
「オーマ大戦のことか?」
「ん? そのオーマ大戦っていうのは、ヘルデザートっていう砂漠が舞台だったりする?」
「確かそうだな。かつて人間共とダークエルフが戦った地だ」
「んんん? ダークエルフ? ごめん、猶更興味が湧いてきたんだけど」
なぜか想定外の単語まで飛び出てきたが、強請ればゼオはその後もポツポツと思い出すように古代の史実を語ってくれ、浮いていた1つ1つの情報が少しずつ繋がっていく。
かつてはヘルデザートに『オーマ』と呼ばれる根城を築き、亜人の中でもとりわけ栄えていたというダークエルフ。
その地に当時から存在していた人間至上主義国家『魔道王国プリムス』が攻め込み、多くのダークエルフ達を死に至らしめ、砂漠の地から追いやった。
だからゼオの生きた古代の時代にはオーマ大戦と呼ばれており、亜人達が住んでいた大陸東部に前例がないほど人間が攻め入ったことで、強い危機感を抱いた数多の亜人種が結託。
のちにゼオが魔王として、プリムスへ反旗を翻す大きな切っ掛けとなった戦でもあるのだと言う。
「西から攻められ交戦したから、東側に多くの武具が出土しているわけか」
「武器を握った直接的な戦いは獣人に、魔法はエルフに劣るとされるが、ダークエルフは人間共の知識や技術を貪欲に取り入れていた。何よりその数も多かったが故に、ダークエルフの総合的な強さは我ら魔人種に次ぐとも言われていたのだ。攻められれば抵抗するのも当然だろう」
「んーそれでも負けちゃうとか、そんなに当時のプリムスって国は強かったの?」
「ふん……人間の戦力だけで言えば大したものではないが、『オーマ』は『水』を奪われたという話だからな」
「え? どうやって?」
「それは分からん。生き延びたダークエルフ含め、誰もその理由を知る者はいなかった。つまり人間共にしかできない 何(・) か(・) をしてきたということだ」
「……」
そういえば以前に奴隷親分のベッグさんが、ヘルデザートでは【水魔法】がろくに発動しないようなことを言っていた。
その時は理由なんて分からなかったけど……まさか、今もなお、何かが作動し続けている?
自分に置き換え、都市クラスの水を空にしろと言われても、その都市を先に壊滅させるくらいしか方法が出てこないのだ。
当時の人間にできて、亜人にできないことと言われれば、ゼオやカルラを隠し続けていたような、怪しい高性能魔道具くらいしか思い浮かばない。
しかし――。
(これは当てが外れたかな?)
思考を続けながらも、そんな思いが大きくなる。
D~Aランクまでの魔物が登場し、表ボスも存在するまではいいとして、最も気掛かりなのはヘルデザートに裏ボスが存在しているのかどうか。
だからこそ「古代遺跡の謎を解き明かせば裏ボスが~」的な、フェルザ様が考えそうな流れを想定し、早いうちから的が絞れるような情報を得られればと、怪しい『砂の下』に意識を向けていたわけだが……
ダークエルフ達が寄り集まった巨大集落だと生き証人ゼオに言われてしまえば、それらの遺跡を仮に発見したところで期待値は大きく下がってしまう。
明らかに人が生まれる前から存在していそうな裏ボスが、人の移住や人の生み出した住処に左右されて定着するなんて考えにくいしなぁ。
まだ結論付けるには早いけど、ヘルデザートは古代の希少な魔道具や装備が手に入る、宝探しの場くらいに思っておいた方が良さそうな気もする。
(ふぅ――……、そろそろ防寒用にサラマンダーレザーでも着て狩場に戻るかな)
そう思いながら立ち上がり、ふと浮かんだ素朴な疑問を口にする。
「ねぇ、ゼオはなんでわざわざ昼は暑くて夜は寒く、砂漠なんだから水も豊かではなかっただろうヘルデザートに、多くのダークエルフが住み着いたか知ってる?」
「当然、そこに有益な狩場があるからだろう。高位の狩場であるほど潤沢な資源や食料を生み出し、それだけ国や住まう種が豊かになる。流れ移る亜人が定住する最も一般的な理屈であり理由だ」
「やっぱり資源だよねぇ~そりゃ人間も奪いにくるわけか」
「あの辺りで"Sランク狩場"など他に無いはずだからな」
「……今、なんて?」