作品タイトル不明
421話 自由都市ネラス
残る北西部のマッピングを日中に進めながら、人のいない夜間は眠くなるまで 《忘却のファルマン聖堂》で経験値稼ぎと骨集め。
こんな毎日を繰り返して6日目、ようやく5ヵ国目となるジュロイ全域の地図が、約1ヵ月ほどの期間で完成した。
あまり時間を掛け過ぎると、先に公表されている国から不満が出るとアリシアに指摘されていたからな。
戦争の後処理や大型の狩場に張り付いていた期間も考えれば、だいぶ期間も短く全域を回れたんじゃないかと思う。
そして今、目の前に広がる"特別な区域"に足を踏み入れるべきか。
広く見渡せる丘の上に立ち、【自動書記】のお陰で以前よりも出来が良くなった地図を開きながら暫し考え込む。
「ここが噂の巨大都市ですか」
「みたいだね。厳密にはジュロイの領土じゃないみたいだけど」
今回は俺だけでなくリステと一緒だ。
地図ができる度に開催される各王都の市場調査も、それ以上の都市があるとなれば話は変わる。
川を挟んだ先に存在する巨大な街の名は『自由都市ネラス』。
南東のジュロイと北東のトルメリア、そして西に存在する水の国――ハーティアという三国間がぶつかる地域に存在する緩衝エリアのようで、元々は土地が枯れるほど戦を繰り返していた三国が不毛な争いを控えるため、各国が協議の末に生み出したとされる空白の地帯らしい。
しかし多くの商人が三国の交わるこの地域に目を付け、露店市が宿場町となって、いつしか商人達の集う巨大な商業都市へ。
一定の金を三国へ支払う代わりに独自のルールで動く、特殊な不干渉エリアがかなり前から出来上がっていると、ジュロイ王から話を聞いていた。
表向きは元に戻せばまた争いが生まれるからという話だが、各国にとっても何かと都合が良いから、現状を変える気もないのだろう。
「【地図作成】ですと、一応国境線が手前側で引かれているようですね」
「そそ。だからこの先はいくつかの大きな商人が取り仕切っているっぽいんだけど、噂を聞く限りではかなりヤバそうなんだよねぇ……」
「商人の記憶にはよく登場する街ですが、そこまで危険なことをしているのですか?」
「いや、面白いけど危ない、みたいな? 大陸最大らしいオークション会場に劇場や強さを競って登録する武闘場。それに商業ギルドの本体もここにあるみたいなんだけどさ。一方で様々な賭場とか、貴族や王族まで存在するらしい巨大奴隷市場、それにかなり危ないモノでも手に入る裏オークションもどこかに存在しているって知り合いのハンターが言ってたんだよね」
ちなみに情報元はアウレーゼさんだ。
あの人は『自由都市ネラス』を知る限りで一番楽しい場所だけど、一歩踏み外すとすぐに地獄へ落ちる場所とも称していた。
それにずっと気になっていた『カズラ血毒』も、情報元は数人程度だけど、この都市から流れているという話しか出てこない。
つまり、かつてあった子供の誘拐事件も、たぶんだが運ばれる先はココ、自由都市ネラスだったのだろう。
最大規模の歓楽街であり、同じく最大規模の無法地帯。
今のところはそんな印象があり、ある程度の自衛もできる今の状況であればワクワクが勝ってしまう。
しかし――。
「なぜ悩まれているのですか?」
俺の顔を覗き込み、心配そうな顔で見つめるリステ。
商売の女神が一番興味を示しそうな場所なのだ。
幸せな悩みを抱えているだけだというのに、そんな顔をさせてしまって申し訳ない。
「行きたい場所が多過ぎるんだよね。オルトランに隣接している3カ国はどこも行きたいし、このネラスって所も面白そうだし……」
それにここから西側に広がる水の都ハーティアだって、アウレーゼさんの情報では魔物も生息するかなり巨大な湖があるらしく、そこにはやや距離はあるみたいだが表ボスも存在しているとのこと。
それに北東のトルメリアも聞いていたボス情報だけでなく、新種スキルの匂いがする狩場がありそうなのだ。
有翼種が複数生息しているBランク狩場となれば、1つ2つ新しい魔物専用スキルを拾えてもおかしくない。
はぁ~本当に、悩ませてくれるなぁこの世界は……
「ならばこの自由都市は後回しでよろしいのではありませんか?」
「え? でもリステが一番寄りたいのって、正直ここでしょ? 商人の総本山みたいな場所だし」
「それは確かにそうですが、しかしこの街であれば、何かを終えた後の気分転換や買い物で少しずつ立ち寄ることもできるでしょう?」
「あー、そうだね。大きいは大きいけど狩場もないただの街だから、マッピングが全部済むまで次の国に向かいたくないっていう感情はないかも」
「なら丁度良いではありませんか。ロキ君が少し休憩したくなったら私はいつでもお供しますから、少しずつ、千回くらいに分けてこの町を楽しみましょう」
「千回……??」
なんか乗せられたような気がしなくもないけど、たぶんこの町は皆がそれぞれ違うポイントで楽しめるだろうからなぁ。
それにオーバル領の件で大量の押収物と引き換えに、俺は多くの現金をタナートさんへ放出してしまったのだ。
この手の裏稼業も存在していそうな街は、潤沢な資金があった方がより楽しめそうだし、そうなるとクアドがどんどん在庫品を売ってくれた後の方が俺としても都合は良いか。
「うし、それじゃ予定通り、担当の東を俺は攻めるとして――……今回はとりあえずジュロイの王都『フォブシーク』を調査してみよっか」
「はい、私はロキ君と一緒ならどこでも構いません」
そう言いながらスルスルと、俺の腕に絡めてくるリステ。
戦争の時も大きく心が乱れたけど、今はまた違う種類の乱れに襲われながら必死に平静を装う。
こんなの、いつまで経っても慣れるもんじゃないな。
そんなことを心の中で零しつつ、異常に目立つリステと共に、王都の市場を見て回った。